第一話
ゴンッ
鈍くいやな音が聞こえた。
「邪魔」
何かが呟いた。膝に違和感がある。触ると頭の中が赤で染まる気がした。
痛い。と思う。
血は出てないか。と思う隙もなく何かの嫌いな笑顔が目に入る。なぜだか私はその何かに笑顔を返すことはできない。日頃からやられすぎている。なぜ登校しているときでさえ笑顔を振り撒く。私はその笑顔のせいで今こうなっているのに。と自分の手を見ながら心の中で呟く。手からは昨日切ってできた傷から黒い血が固まっていた。
夜、就寝前は必ず母親が部屋に入ってくる。今日の勉強の成果を聞きにくる。一通り聞いておやすみも言わず出ていく。まるで私のことより勉強の方が重要だと思っているみたいに。
まるでじゃない。本当にそうなんだ。家族もそう。友達はいない。おまけに先生からも嫌われているらしい。ひとり孤独な人生も悪くないか。と最近やっとそう思い出した。
ただ昨日だけは違った。普段私の方なんて見向きもしない母親が私の“手”を見て言った。
「何した」
と。もちろん心配の言葉はない、そもそも期待なんてしていないが。私が紙で切っただけといってもすぐに嘘だと見抜き自分で切ったことを吐かさせられた。
母は激怒し私を罵った。
「なぜ切る、切ることによって私が迷惑するとは考えなかったのか!もし学校であんたが虐待でもされていると思われたら誰が責任取るんだ!」
「別に何も思われないと思うよ?私友達なんていないし。いらないし。先生だっていちいち見てないよ。」
つい悪い癖が出てしまう。笑って返してしまう。母の怒りに油を注ぐ行為だとわかっているのに。
「あんたのそういうとこが嫌い。目の前から消え失せて欲しい。」
そう言って部屋から出て行った。
私はどうすればいいの?と半ば笑いながら考えたが目には涙しか残らなかった。
とりあえず明日学校に行く時は絆創膏で隠して行こう。そう思った。