九話 飛来する者
九話 飛来する者
空に異変が起こる少し前にヴィタ達の跡を付ける何者かがいた。
「にぃちゃん今回盗む魔指ってそんなに高価なものなの?」
「お前そんな事も知らなかったのか?」
「うん」
「いいか?魔指って言うのはな...」
「えっ!そんなにすごいものなの?!」
「ああ、実は俺も持ってるんだ。」
声の主は自慢げに人差し指を差し出す。
「えーすごーい!!」
「じゃあさ、じゃあさ、あれを売ったらお母さんを助けられる?」
「、、、」
「にぃちゃん?」
「ねぇ!にいちゃんったらっ!!」
「見ろ...空が...」
「え?」
次の瞬間、曇りがかった空が真っ赤に染まっていた。
それはどうやら雲の上から降る無限の数にも見える赤い炎によって、空一面が赤く染まっていた。
「どうしようっ!にいちゃん!!」
「どうするって...」
「言ったって...」
こんなの一体どうやったら生き残れるんだ...
「衝撃に備えなさい」
ふとその言葉が耳に入る。
その者たちは生存本能なのか反射的に地面へと伏せる。
すると声の主は空へと広がる赤い光を吹き飛ばした。
「何だよこれ...」
少年は呆然と空を見上げている。
それはキャットの均衡の能力「衝撃」によるものだ。
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「均衡名[衝撃]」
この能力は打撃(物理攻撃)にて放たれる均衡。
それはキャットの指定した場所に使用者自身の身体能力を媒介とした同等未満の威力の衝波を発生させる能力。
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驚いているのは少年らだけではない、ヴィタもその一人だ。そうして空をも埋め尽くす赤い炎を防いだキャットだったがそんな事は序章に過ぎなかった。
弾け飛んだ赤い炎と共にそれは次第に街へと聞こえてくる。
それは空の上からの飛来者の声。
その声が一声鳴ると街の住民は緊張と混乱が走った。
キャットは部下の三人へと命令を下す。
キャットの一言に彼らは迅速に命令を遂行する。
そんな中、一人の部下は立ち止まりキャットにある
言葉を投げかける。
「団長っ!ご武運をっ!」
そう投げかけたのはさっき程の彼...
彼は今俺たちハーメイルのファンを辞め、今はキャットの愛好家になったようだ。
キャットもそんな彼に応え、軽く頷く。
「何だか嬉しそうだな。」
「当たり前なことを言うな、仲間に信頼されるのは何よりも嬉しい事だろ?」
「そうだな...」
ヴィタはキャットのそこ言葉を噛み締めように答える。
「それで聞いたたでしょ?」
「やるよ?二人で」
「それはそれは絶望的だな...」
そんなヴィタの言葉にキャットは肯定も否定もしない。
「でも...昔を思い出すよ。」
「じゃあヴィタ昔の借りを返しなよ。」
「そうだな十年越しだが、全力で返させて頂くよ。」
そう言うとヴィタは口にある髭を触ると右手の人差し指に懐にしまってあった魔指をつける。
そんな魔指は小さくだが青く光を帯び、ヴィタのその身に力を宿す。
(ああ、力が湧いてくる。)
魔指とは冒険者として登録する際に配布される装飾品で冒険者なら誰もが持っているものだ。
そんな魔指には二つ能力がある。
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一つ目「蓄積」
それは魔物の生命消失時に発生する残留因子と呼ばれる物を蓄積するといった効果だ。
その残留因子とは魔物の[経験]を因子化された物であり、その蓄積された[経験]によって装備者の身体能力を向上させる。
二つ目「顕現」
それは魔物の残留因子を蓄積した際にごく稀にだが、因子が形を成す事があり、その因子が形作られた事により、魔物の能力を形成する事がある。その形成された魔物の能力を魔指の装備者が扱うことが出来る。
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「来るぞヴィタ!」
次の瞬間、空から数百を越える飛龍が姿を現した。
その飛龍の姿は血色に染まった赤い翼を広げ、全身を覆うその緑色の鱗は生半可の鉄では命を立てないでだろう。
[飛来龍]またの名は[ワイバーン]彼らは魔物でありながら高い知能を有し、数百を越える群れで狩りをする。飛来龍の狩りの様はまるで地表を塵と変える竜巻のようと言われている。
魔物の研究家[コーバス・ロンブス]氏。
彼の一説によると、ワイバーンは狩りをする際に弄ぶと言う。彼らはただ奪うだけでなく、弱者を屠り残酷な限りを尽くす。
今回の件もそうだろう。
一度の襲撃でこの街を燃やし尽くさなかったのは弱者を屠り、人々の悲痛な叫び声を聞くためだ。
それは魔物だけじゃない、高い知能を持つ生き物によく見られる現象だ。
「全く...賢い生き物ってやつは陰湿だな。」
「ん?なんか言った?」
「いいや何でもない。」
「魔指[顕現][風兎]」
ヴィタは地面を割れんばかりに蹴り上げ、空高く飛び上がった。そんなヴィタは腰に携えられた[ガラクタ]に手をかける。
「結造剣」
ヴィタはそれを抜き去る。
するとそこには[ある筈がない剣先]、虹色に光る剣をヴィタが握っていた。
虹色に光る剣は辺りの色を吸収し、姿は変える。
それはヴィタに向けて放たれる無数の火球の様に、燃え上がる赤い炎のような場合、
「赤剣」
虹色の剣は炎の燃える赤色を吸収し、刀身は赤く染め上げられる。
次の瞬間、ヴィタはその剣を無数の火球、数十匹の飛龍を巻き込み、横薙ぎに振るった。
ヴィタによって生成された結晶は変幻自在、刀身は自在に伸び、目の前の敵を全て手中に収める。
「彼は一体...何者なんだ...」
男は空を見上げていた。その男の目に映し出されるのは空を飛ぶ男が数十匹の飛龍を一撃の元に切り裂きた瞬間だった。
しかしその光景を見たのは一人だけではない。
地上から見たヴィタの様は街の住民の目には輝かしく、身に降りかかる飛龍の臓物と共に一方には希望の記憶として、もう一方には絶望の記憶として脳裏に刻み込んだ。
空から血の雨が降る街にはけたたましい叫び声と共に数百を超える飛龍がヴィタ達目掛けて下降してゆく。
彼らはもうヴィタ達を捕食対象とは見ていない。
駆逐対象だ。
「衝波」
キャットはそんな飛龍らに均衡を発動する。
「衝波」それは衝撃の波、キャットの作り出したその衝撃の波は次々と舞い降りる飛龍の強固な鱗を貫通し、飛龍の体を打ち砕く。
「硬いな、仕留め切れない奴が出てきた。」
キャットの攻撃を受け、体の一部を破壊された飛龍が断末魔を上げながら地面へと落下して行く。
「それは俺の仕事だ。」
ヴィタはそんな飛龍を見て落下地点に結晶を生成する。
「地晶生成」
落下地点の一帯に針状の結晶を生成し、空から落下する飛龍を受け止める。
次々と飛龍の体を串刺しなっていくが、空には未だ何百を言える飛龍が空からヴィタの動きを伺っている。
「ずいぶんと戦い方が変わったなキャット」
「そりゃあ若くないからね、」
体力が消耗したのかキャットは膝に手をつき、腰を折っている。キャットは肩で息をしながらもそう答え、一息つくと再度空へと攻撃を仕掛ける。
「もう疲れたのかキャットちゃん」
ヴィタは煽り口調でキャットに問う。
「あぁ?」
「まだ俺は余裕だけどな」
そういうとヴィタは飛び上がり、炎を放とうとばかりにいる飛龍を切り刻んだ。
「無理すんなジジイ!」
そう言うとキャットは衝撃を地面へと放ち、体を浮かせ、飛龍の顔面を蹴り上げる。
キャットに蹴られた飛龍の頭部はあらぬ方向へと曲がり、命が途絶えている。
「お前もだろババアァ!」
ヴィタもキャットに負けじと肉弾戦を仕掛け、飛龍を殴りつける。
「「ああ??」」
二人は般若の顔でお互いを睨み合うとお互いが倒した飛龍の数で競い始めた。
その様を見て街の住民もそうだがキャットの部下である三人の冒険者を唖然とする。
一時間後、空には明るい光が立ち込め、空には飛龍の姿が空には飛龍の姿が消えていた。
「俺は547匹」
「...546匹」
「じゃあ俺の勝ちだな。」
「別に?私競ってなんか無いけど?」
キャットは悔しかったのかすまし顔でヴィタをみる。
「は?」
「ヴィタ、あんたその歳にもなって飛龍を倒した数如きで競ってるわけ?」
「私たちもう35だよ?」
「恥ずかしくないのかなぁ?」
「キャット...お前歳とっても変わんねぇな」
「何よ。」
「何でもないです...」
次の瞬間、街に黒い影が入り込んだ。
「アイツだっ!アイツが街を壊しやがったんだ!」
空の影を見て途端に街の住民が騒ぎ出した。
「何だよアレ、」
ヴィタ達が目にしたのは、特別な魔物にだけ与えられる識別子[ネームド]
[ネームド]のその一角[金龍クレオ]だった。
その特徴は飛来龍には珍しい希少種。
その姿は黄金色の鱗をした飛来龍であり、通常の飛来龍とは異なり風を操ることで竜巻を引き起こす事ができる。前に姿が発見されたのは数100年も前の事だ。
「まだ生きてたのか...」
ヴィタの頬に冷や汗が伝う。
「...」
キャットが何かを言っている。
「こんな時に何だってんだよ、」
「これで547」
「へ?」
そう言うとキャットは空へと高く飛び、[クレオ]へと飛びかかった。
実はキャットは肉弾戦が大好きなバトルジャンキー。最初キャットの戦闘を見て驚いたのはこれだった。昔の彼女なら目についた獲物に飛びかかり、首を掻っ切ろうとする戦闘狂だった。しかし久しぶりに見た彼女の戦い方は遠距離で敵を倒す、そんな行動で彼女らしく無いと思った。
年齢を重ねると人も変わる物だと、考えを改めていたところだった。
まぁ、今はもう違うけれど...
何故なら今彼女は空へと飛んでいる。
「はぁぁぁぁぁ」
キャットは衝撃で身を包み、空へと浮かび、高速で移動する。
そして彼女は[クレオ]の顔面を殴りつけた。
「何やってんだか、」
呆れ顔なのはヴィタだけじゃない、同様に部下の三人も呆れ顔を浮かべている。
「全く、怪我すんなよぉ〜」
空にいるキャットにヴィタがそう投げかけた瞬間、亜音速で何かが地面へと叩きつけられる。
「団長〜!!」
地面に突き刺さるキャットを見て部下の三人は駆け寄る。
「おい、」
ヴィタは地面に突き刺さるキャットに話しかける。
「借りもあるし、手を貸してやるから今回の勝負ノーカンでいいな?」
「うん」
キャットは地面に刺さりながら答える。
次にヴィタは歯切れ悪く話を続ける?
「後、しばらくお前に手も貸してやる。」
「本当か?!」
キャットは地面の中で問い直す。
「ああ、だから出てこい。」
部下の三人に引っ張られ地面から這い出たキャットはニコリと笑った。
「しばらくだぞ?ずっとじゃないからな?」
「ああ!それでいい!」
ここに来て久しぶりにキャットの笑顔を見た気がする。
「ぎゃぁぁぁぁぉぁぉおおおおおおお」
空では金龍クレオが怒りの声を上げている。
「じゃあ!行こうか相棒!」
「はいはい、ナイス相棒」
「キャットお前、鈍ってないだろうな?」
「当然!!」
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