五話 ブレスレット
五話 ブレスレット
ここはいったい何処だろう。
黒い煙が漂うその空間にポツリと僕は立っていた。
この場所には何処か身に覚えがある。
(少し探索してみるか...)
ヴィタは立ち上がり辺りを見渡す。
(えらく静かだ...何なんだ此処は...)
その場所では音がなく沈黙時が永遠と流れる。
(皆んなはどうなった。)
(今思えば僕の一連の行動は最善の選択とは思えない。)
結果的には僕は皆を取り残す形で死んでしまった。
(いや違うな...)
(欲をかいたから僕は死んだのか...)
僕が死ぬ少し前、遠くの茂みの向こうで何かが素早く駆け寄る音がした。おそらく凄腕の冒険者か王都の援軍かの二択だろう。
僕はソイツらに見せつけてやりたかったんだ。
次の時代は僕らの時代だと、、
(クソッ!こんな早く死ぬなんて...)
(じゃあここは地獄か何か?)
ヴィタその空間をそう意味付けた。
ヴィタはそんな未練がましい想いにふけながら何処かも分からぬ行き先へ足を動かす。
チャリッ
そんな静寂の流れる空間でなにか小さな音が聞こえた。
(ん?何だこれ?)
どうやらそれはヴィタの手の中から聞こえた様だ。
僕はなにかを手に握りしめている。
ヴィタは握りしめられた手を一本ずつ広げていく。
すると手の中から姿を現したのは青黒いブレスレット
それはどこか不気味で気持ちが悪い青黒いブレスレット。だがその手にあるブレスレットは僕の目を惹きつける。
(なんだよコレ...)
ヴィタは身に覚えのないブレスレットに深い嫌悪感を抱く。
そんな時ヴィタは青黒いブレスレットにきめ細かな傷が入っているのに気づく。
どうやらブレスレットには文字が彫り込まれているようだ。
「ワ...ザ...ガミ...」
適切に読めているのか分からないが確かにそう書いてある。
(まぁいいか)
ヴィタはその手にある青黒いブレスレットを首に掛け、再び歩みを始める。
(はあぁ...もう何でもいいからさ...蘇らせてくれよ...)
(奇跡でもなんでもさ〜)
ヴィタはそんな淡い期待を胸に抱きながら黒い煙の中へ消えていった。
「ふふふ...奇跡ね...でも何か起こりそうよ?」
ヴィタの背後で何かが囁いた。
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背後の声に驚きヴィタは声を荒げた。
「うぁぁぁぁぁ」
「きゃぁぁぁぉ」
ガキッ!!
小さな拳が僕の頬を殴りつける。
「びっっっくりするわね!急に声を荒げないでよ!!」
「いってぇぇぇぇ」
飛び起きたヴィタは痛みを和らげるために周囲を駆け回る。
痛覚は人の目覚めには一番いいと思う。
ヴィタは徐々に覚醒する意識の中、見慣れた家の自室で僕は立っていた。
「ん?夢か?」
寝ぼけていただけかと僕は再び寝具へつく。
「で、エンナは何でここにいるんだよ。」
そこにはエンナが泣きっ面を見せながら僕を見つめている。
「エンナだけじゃ無いぞヴィタ。」
「僕たちをもいるぞ!!!」
するとゾロゾロと僕の部屋にみんなが入ってきた。
「何があったの?」
ヴィタがとぼけ顔でそう呟くと皆んなは僕に駆け寄る。
それは泣きっ面のエンナに、一昔前に戻ったような気弱そうなアルセ、それに頼りなさそうな大柄なエルナード、怒った顔のリエナ、眠い目を擦るテネ、そして大きな剣を背負う灰色の髪の中年の男。
「ごめん!今回はミスった!!」
「流石に欲をかきすぎたよ...でもこれはこれでいい体験だった!いい経験だった!」
無神経にもいい放つヴィタのそんな一言に皆んなは怒りの顔を僕に向ける。
次の瞬間、皆は口を合わせて叫んだ。
「ふざけんな!!!」
それは村中に響いたであろう大きな叫び声だった。
その後は母さんに耳から血が出るほど怒られ、父さんには涙でぐちゃぐちゃに顔をしながら心配された。
皆にはたくさん心配をかけてしまったようだ。
反省しなければ...
そしてしばらく経ち、ひと段落ついてヴィタは口を開いた。
「で、このおじさんは誰?」
僕に駆け寄ってきた灰色の髪の中年男性を指差す。
すると灰色の髪の男はニコニコと僕の近くにより、自分を指す指を握りしめる。
「許せねぇな...」
「な、何だよ。」
「誰が救ってやったとおもんってんだぁぁぁぁ」
「くそガキ〜〜〜」
男は僕の指を人体の関節上曲がるはずのない方へと捻り折った。
「ァァァァァァァァァァ」
言葉にならない叫び声を聞き、見知らぬ女が部屋に入ってくる。
「僕の指がぁぁぁぁぁぁ」
ヴィタは中年のおじさんを睨みつける。
そのおじさんはどこか目頭に涙が溜まっているような気がした。
「団長、彼...10歳にも満たない子供ですよ?」
部屋に入ってきた女は手に光る桃色の光を僕の折れた指へあてがう。
「そんな事知るか!それより俺の愛剣を返せクソガキ!!」
「なんだこのクソジジイは!!」
僕は目に涙を浮かべ声を荒げる。
「ヴィタ落ち着いて!この人が僕らを助けてくれたんだよ!」
エルナードは飛びかかろうとするヴィタを制止させる。
「エル!何が助けてたって?この指見ろよ!完全に折れてるだろうが!!」
ヴィタはおじさんに折られた指をエルに突き出す。
「落ち着いてって!もう折れてないよ、」
「はぁ?何言って、、」
「あ、本当だ。」
そこにはついさっきまでボコボコに折られた筈の指が完全に治癒されていた。
「すごい能力だ、、」
アルセはそんな傷を治した女に関心を抱いている。
そんなアルセに「関心なんて抱いてる場合じゃないわ!」と思う反面、「確かにすごい治癒能力だ」と感心する僕もいてと、僕の心身はぐちゃぐちゃになっていた。
そんな僕を見ておじさんは口角をピクピクと振るわせる。
「良かったなぁ!お前は治して貰って...」
男は嫌味ったらしく僕にそう言い放つ。
「何言って...!!!」
「もう一度折ってやるよ!クソガキ!!」
「こっちくんなジジイ!!」
「団長...良くないです。」
女がそう言うと家の木の床が大きく変形し、それは一本の大きな根なった。
そしてその大きな根は僕に近づこうとする男を縛り上げる。
「もう帰りますよ。」
「やめろ!放せ!お前はどっちの味方だ!」
「おじさんじゃない方です。」
「誰がジジイだ!!」
「そこまで言ってません。」
女は暴れる男に冷静にものを言い放つ。
「放せギルナ!あのクソガキ絶対許すまじ!!」
男は鬼の形相で僕を睨みつける。
「はいはい団長〜頭冷やしましょうね〜」
そう言って灰色の男と女は立ち去っていった。
「もう何がどうなってんだよ...」
ヴィタはまだ痛みの覚える指を摩り、涙を拭く。
「あれ〜ヴィタ〜?」
テネは眠い目を擦りながら僕の首元を指す
「そんなブレスレット持ってたっけ〜?」
「あれ?本当だ。」
確かに身に覚えのあるブレスレット、これはあの黒い空間で僕が身につけていたものだ。
いったいそれがどうして現実の世界にあるんだ?
「何でこれがここに...?」
「ここって何のことよ。」
エンナは不思議そうに僕を見つめる。
「いや...何でもないよ。」
エンナは何か感じ取ったのか僕に疑いの目を向ける。
「何よ!何か隠してるでしょ!吐きないさいよ!」
エンナは僕の頬をつねり上げる。
「なにゃんでもなにゃいって」
「嘘を言いなさい!」
「次死にそうになってからじゃ、」
「もう遅いんだからね!」
エンナは目に涙を浮かべ僕に詰めよる。
「本当に何でもないんだ。」
「本当に?」
「うん。」
「分かったわ信じる。」
そう言うとエンナは涙を拭い僕から離れる。
「あ、忘れてたけどリエナがアンタに対してものすごく怒ってたわよ?」
「はえ?」
「ヴィ〜タぁ!」
リエナはベットに寝る僕の足元から這いずるように近づいてくる。
「は、はい!」
リエナはキスしそうな距離まで近づくと僕に恨みつらみを話し始める。
「ヴィタあなた私が仲間に入るとき私のこと守るって約束したわよね?!」
「はい!」
「アンタが先に死んでどうするのよ!」
「はい!」
「な、なな、何が援護しろっ!よ!」
「あ、ああ、あの後本当に大変だったんだからね!」
「はい!」
「つ、つつ、次もあんな目にあったら今度こそ...」
そう言うとリエナは肩にかけるポーチから包丁を取り出す。
「はい!わかりました!!」
そんなリエナに対してだけ食い下がるヴィタの姿
を見てエルナードとアルセは微笑ましく笑った。
「リエナ、いつになったら俺らにもあんな事言うようになるんだろうな。」
「リエナがああいう風に本音をぶつけられる相手はそうそう居ないけどね。」
「そうだな、」
「アルセ〜そんな見てるだけじゃなくて助けてくれよ〜」
その泣き言を聞いて2人は再び笑った。
「ヴィタ!あんた!「何が助けてくれよ〜」よ!!私がどんだけ怖かったか!助けてもらいたかったか!教えてあげましょうか?」
リエナは包丁の先を僕の目に触れるギリギリに突き立てる。
「ひぃぃぃぃぃもう辞めてくれ〜〜〜」
この時僕は思い出した。
地龍なんかよりも半狂乱になったリエナの方が数倍怖い事を...
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登場人物
ヴィタ・エネディクト...小柄な黒髪の少年。
均衡名[結晶化]
エンナ・イーファ...赤髪の少女。
均衡名[点呼]
テネ・ウィザード...子紫色の髪の少女。
均衡名[寝ン無]
エルナード・グランド...大柄な少年で青柳色の髪の少年。
均衡名[光盾]
リエナ・バック...翡翠色の髪の少女。
均衡名[八岐大蛇]
アルセ・ユーベン...白髪の少年。
均衡名[ ]
冒険者
灰色の髪色をした中年男性。
鋼鉄の鎧で身を纏い、剣を巧みに操る。コロシアムの元王者。
均衡名[強器]
ギルナ・コバルナ
桃色の髪の毛の若い女性。
聖職者で作中に出てくる神を信仰している。
均衡名[緑化]
謎の少女
ヴィタの夢に出てきた少女。
[ ]
ケイツ・エネディクト
ヴィタの父親で村の地主ユーベン家と深く関わりのある人物。