15話 真の力
15話 真の力
男は狂気じみた笑みを浮かべアルセへと飛びかかる。アルセはそんな男にたまらず霧の兵に命令した。「アイツを止めろ」と、するとアルセの一声で5体の霧の兵士が一斉にトゥンカへと襲いかかる。しかしコンマ数秒瞬き一つする間も無くトゥンカによってアルセの霧の兵士が消え去った。
その時初めてアルセの冷たい鉄仮面に焦りが見えた。
アルセの作り出す兵士は通常破壊されることはない。それは兵士はアルセによって体が霧で出来ているからだ。霧ゆえに相手からの物理攻撃を受け付けず破壊されることはまず無いと言える。
しかしそんな霧の兵士が今目の前で消え去った。
アルセを含め会場にいる観客達はトゥンカの均衡を物理攻撃系の均衡だと認識していた。
そこに認識のズレが生まれていた。
トゥンカの均衡は勝利を掴む均衡「勝握」、
能力は拳を型取り具現化する力。
それだけでなく拳は発動者に"勝利"を齎す。
ゆえに目の前を阻むもの全てを破壊していく。
均衡「勝握」は"超"攻撃型の均衡、トゥンカの勝利は発動した瞬間に確定している。
「連打」
そんな最中トゥンカはアルセに向かって猛進する。トゥンカの拳は次々と襲いかかる霧の兵士を殴りつける。霧の兵士はその拳が一度触れると体が霧散し姿を保つことができない。
勢いに満ち満ちているトゥンカは止まることを知らない。
「死合ってのはなぁ勝ち方が重要なんだよ!!!」
「相手を圧倒的に嬲って嬲って首離潰すんだよ!!!」
そんなトゥンカには変な癖がある。
その時の姿はまさに獣、普段の野蛮な見て呉れを自ら体現しているかのように"それ"をしてしまう。トゥンカは目の前の敵を嬲る際に無意識化で涎を垂れ流してしまうのだ。それは獲物に喰らいつく時の獰猛な獣、喰らいつては逃さず敵を嬲る。
そんなトゥンカは勝利を齎らす拳で霧の兵士を一撃もとに破壊する。
アルセはその間息を潜めていた。
アルセ・ユーベンの均衡「群霧」は霧を操る能力。
その力は一帯に霧を発生させるといったものだ。しかしそれだけでは無い、アルセは霧の中に身を包むその状況下で均衡「群霧」は真価を発揮する。
それは霧を自由自在に操ることができるというものだ。アルセによって操られる霧は形と性質を変化させ、文字どうりアルセは霧を自由自在に操ることが可能になる。
そして発動した霧は時間経過共に"際限"なく拡大していく。
アルセの均衡は長期戦になればなるほど力が増していくのだ。
(多分無駄だろうが...)
「操霧」
「冷静」
アルセは自身の体を霧状化させる。
霧状化とは体を霧へと状態変化させ、霧状化したアルセには物理攻撃が無効となる。
「何だ出てきたのか」
トゥンカの目の前へと姿を現したアルセ、その左手には霧が渦巻いている。
「お前は俺に勝てる自信でもあるのか?」
「そこ俺の間合いだぞ?」
我心流「身体強化」
それは純粋な身体強化、これは我心流ならでは己を知ることで初めて能力を発揮する。
トゥンカはここでアルセを仕留めにかかる。
アルセもまたトゥンカを見て発動する。
無心流「先目」
先目は目の前で起きる少し先の現象を見る事ができる。これは無心流ならではの相手を知ることで初めて先の未来を見ることができる。
これはお互いの流派のぶつかり合い。
無心流の先を見る能力が上をいくか、それさえも我心流の身体能力が上回るか、それは決着がつくまで分からない。
その開幕は火蓋は野蛮な男がきる。
「闘気拳」トゥンカは二つの大きな拳を形造りアルセに接近する。
それを見たアルセも呼応し、「群霧」を発動する。
「白霧の針剣」
持ち手にバラの刻印が刻まれている透き通る様な美しい細剣を作り出した。
その時アルセの剣を見てトゥンカはニヤリと笑みをこぼした。
(笑うか...トゥンカ)
アルセのこの一手は逃げである。
それは人体の構造上、人間は断ち切るより刺突の方が容易であるからしてその選択は誰が可能な力無き者が選択する逃げの一手。
少年は力で劣り、場数で劣り、技術で劣る。
アルセ"自身"にはトゥンカに勝つ術は残されていない。確かに均衡の差とも言えるだろう、霧を散らしトゥンカに勝利を齎す均衡[勝握]。その敗北が目とその先にあるアルセの意識の中、"意図せず"ある男の言葉が頭をよぎった。
それは目の前の敵に勝つ為にアルセが力を欲したからだ。
ユーベン家、それは高貴な一族・歴史ある一族。
その家に生まれれば相応の覚悟と力が与えられる。そしてそんなユーベン家は過去に王族からある物を授かった。
当時のユーベン家の当主は王族に「手から何物も離れぬようその為の力が欲しい」と言った。すると王族は褒美として光あるものをユーベン家に授けた。
その名は力の宝珠。
その効果は[人"足り"得ぬ力を齎さん]
その宝珠は今も存在している。親から子へそのまた子へ受け継がれる。
現当主アルフレッド・ユーベン、その厳格な男の風格には実子であるアルセもその前に立つと足がすくんでしまう。
そんな男が".ある時"アルセの頭に手を置き、こう述べた。
「アルセ...お前に[人"足り"得ぬ力を齎さん]」
それが力の宝珠が親から子へ受け継がれた瞬間だった。
「はははッ!!!化け物んがッッ!!!」トゥンカはアルセのその姿を見て額に汗が伝う。
トゥンカの目に映るアルセは人の形をしていないかった。それは異形の姿、人の体を手放し更なる力を欲する化け物である。
それは唸り声を上げトゥンカへと襲いかかる。次の瞬間には断末魔のような声が会場に響き渡った。
「おい!何が起こっているんだ!」
「審判!!!試合を止めろ!!!」
霧の外では視界の悪い観客達が不満の声を漏らしている。そんな時トゥンカが霧の中から飛び出し、観客席へと叩きつけられた。そのトゥンカの胸部には惨たらしい三本の爪痕が刻まれている。
「はははッ!!!」
笑みを浮かべるトゥンカだったがすぐさま憤怒の顔へと切り替わる。
「ブッ殺してやる!!!」
トゥンカは血管をはち切れん盛りに浮かび上がらせ、観客席を蹴り上げると再び霧の中へと再び戻っていった。
「お待ち下さい!!!」
「トゥンカ様を場外とみなし、アルセ・ユーベンの勝利となります!!!」
ルール上はアルセの勝利、しかしの二人は細身の男の声に耳を傾けることはなかった。
それどころかアルセの霧が晴れる気配がなく、霧の中からは微かに人ならざる者の声が聞こえてくる。
「お、おい!!!みたか?あの傷!!!」
「ああ、魔物にやられたような傷跡だったぞ。」
「一体霧の中で何が起こっているんだ。」
「アルセのやつ何なやってんだ。」
見知らぬ観客だけでは無い、ヴィタもまた混乱していた。
「霧で何も見てないわね。」
「で、でで、でもアルセの勝ちだよね?」
「ルール上はね。」
「ん?!何か見えるわよ」
そんな時霧の中から黒い影が浮かび上がった。白い霧の中に見える一人の黒い影、それは何かを引きずるようにこちらへと向かってくる。
霧を抜け、姿を現したのは野蛮な男トゥンカだった。トゥンカは全身に傷を負い、満身創痍なその様は指で一度小突いたら倒れそうなほどだ。
「おい!!!早く医療班を呼んでこい!!!」
「二人共々死ぬぞ!!!」
それを見た細身の男が初めて強い口調で声を上げた。そのあとは医療班が簡易的な処置を行うとアルセとトゥンカは舞台裏へと下がっていった。
一方で会場はヴィタを含め混乱が渦巻いていた。まさか若年の部のフィアレントでこのような事が起こりうるとは誰もが予想しなかった事だ。
こうして会場では更なる波乱になるであろう決勝へと駒が進んだ。
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登場人物
ヴィタ・エネディクト...小柄な黒髪の少年。
均衡名[結晶化]
エンナ・イーファ...赤髪の少女。
均衡名[点呼]
テネ・ウィザード...子紫色の髪の少女。
均衡名[寝ン無]
エルナード・グランド...大柄な少年で青柳色の髪の少年。
均衡名[光盾]
リエナ・バック...翡翠色の髪の少女。
均衡名[八岐大蛇]
アルセ・ユーベン...白髪の少年。
均衡名[群霧]
ウェアリナ・ラダー ...茶髪のボブショートで小柄な女の子。
「均衡名[衝撃]」
ユイ・ジンジャー 「均衡名[ラック]」
リン・ジンジャー 「均衡名[東速]」
ベティ・シャンク 「均衡名[ビッツ]
イーナ・イェナ 「均衡名[断続]」
loyal catのメンバーでキャットも含め仲の良い四人組。彼女らは同じ孤児院出身の少女で、
ユイ・ジンジャーは頭が賢く。
リン・ジンジャーは病弱だが身体能力はloyal catの誰よりも高い。しかし一度本気を出すと吐血する。
ベティ・シャンクはloyal cat家事担当。
イーナ・イェナは仲良しだから着いてきた。
冒険者
灰色の髪色をした中年男性。
鋼鉄の鎧で身を纏い、剣を巧みに操る。コロシアムの元王者。
均衡名[強器]
ギルナ・コバルナ
桃色の髪の毛の若い女性。
聖職者で作中に出てくる神を信仰している。
均衡名[緑化]
謎の少女
ヴィタの夢に出てきた少女。
[ ]
ケイツ・エネディクト
均衡名[水壁]
ヴィタの父親で村の地主ユーベン家と深く関わりのある人物。
アルフレッド・ユーベン
均衡名[ ]
アルセの父親で村の地主、厳格な人柄で知られているが彼には変な収集癖があり、ユーベン家で働く人間のほとんどは何処かしらからヘッドハンティングされた人で構成されている。
トゥンカ・バレット...琥珀色の目が特徴。
肌色は小麦色の肌をし、髪色は黄褐色で百獣の王のように凛々しい。
均衡名[勝握]