11話 開幕
11話 開幕
「なんだよヴィタ食べないのか?」
口いっぱいにご飯を頬張るエルナードが僕にそう問いかける。
「エル、お前そんなに食って動けんのかよ」
「まかせろ!いける筈だ...」
(大丈夫かよコイツ)
そんな呆れ顔のヴィタを他所にエルナードはモサモサと口にご飯を運んでいる。
今ヴィタたちがいるのはとある会場の控え室。
それは祭りに向けて設置された仮設の闘技場、その控え室だった。闘技場の外では大きな盛り上がりを見せ、控え室にいるヴィタ達にも大勢のひとが見物のが分かった。
いよいよ始まる大舞台に緊張し始めるヴィタだったが、周りにいる同世代らしき子らはどこの子も血気盛って今にも飛びかがってきそうなほどだ。
(なんかお腹がキリキリしてきた...)
ヴィタは緊張からかお腹を下し始めていた。
「ヴィタ、始まるみたい。」
「ちょっと待ってくれお腹の調子が...」
「ほら早く立って」
「分かったよ、、」
そうしてヴィタは重い腰を上げ、仲間と共に大歓声の鳴る舞台の扉を叩くのだった。
一方その時、盛り上がりを見せる闘技場の上では正装で身を包む細身の男が立っていた。
「皆さんようこそお集まり下さいました!」
「これより六方祭りの名物、フィアレントを開催いたします!!」
男は被っていた帽子を放り投げ、観客を昂らせる。
「フィアレントは今王都でも注目され、伝統ある文化として国中で定着しつつあります!」
「今日はそのフィアレント発祥の地として皆様に大きな盛り上がりを見せることを保証いたします!!」
細身の男は口が回る。
本当のことを言っているのかは定かでは無いが、その時の闘技場では大きな歓声がなっている
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発動 均衡名 [増長]
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その男の均衡は全てのものを増幅、延長させる。
(ふふッ)
その観客の盛り上がりを見て男は口元を隠し、笑みをこぼしす。
「ではこの際、フィアレントについてご存じでない方もいらっしゃいますと思いますので簡単にルール説明をさせていただきます!」
「フィアレントとは対人訓練をより実践的なものにするために考案された競技です。参加者は最大五名までのチームを組み、実戦に近い状況下で自身の能力を生かし、その対応力を競っていただきます。」
「その最大五人のチームの中では一人一人に役職が与えられ...」
「一人目はタンカー」
「それは防衛に優れた均衡を持つ方に与えられる役職となっています。」
「二人目はハスラー」
「この役職は遠距離からの攻撃に秀でた方が与えられる役職となっています。」
「三人目はキーマン」
「戦場を覆すことの出来る均衡をもつ方に与えられる役職です。」
「四人目はノーマン」
「この役職はこれといった役目の無い器用貧乏な均衡をもつ人に与えられる事が多い役職となっています。この役職は主にサポートがメインの役職です。」
「五人目はメレオン」
「この役職はチームによって変化するオールラウンダーな役職となっています。防衛、サポート、遠距離戦まで全ての役職に対応できる均衡もつ方に選出される役職です。」
「勝敗はこれら役職を巧みに扱う事で相手よりも先に五人の役職持ちを倒したチームの勝利となります。」
「そして今回用意していただいた闘技場は縦150m×横150mの舞台で戦場は[平地]をイメージした作りとなっています。」
「遮蔽のない作り為、相手の攻撃をどう凌ぐかが今回の大会の鍵となっています。」
「ルール説明はコレで以上となります。」
「次に、始まるのは若年層の部からとなっております。」
「では皆様!お待たせしました!」
「六方祭りのフィアレント...ご賞味くださいっっ!!!」
「選手にご入場いただきます!」
「一回戦第一試合!」
「ハーメイルvs武人道」
「両者のチームっっご入場下さい!!!」
その男の掛け声と共に楽団の合唱が始まった。
(いよいよだねヴィタ!)
(あーお腹が痛い...)
ステージを取り囲む大勢の観客は盛大な拍手で僕らを招く。
(でも頑張らなきゃ、ここが僕たちの原点だ。)
生まれて初めての上がる大きな舞台、緊張もあるが自分たちの実力を知る良い機会だ。
「緊張しちゃうねぇ〜ヴィタ〜」
テネはそう言って僕の腕を取る。
「何とか大丈夫...」
「ホント〜?」
緊張でお腹を痛めるヴィタを他所にエンナは自分の頬を叩き、喝を入れる。
「ヴィタっ!皆んな!勝つわよ!」
エンナの一言に皆が声を合わせる。
「おうよ!!!!」
入場を終え、闘技場の定位置に着いた僕らの前に立つのは対戦相手の武人道の出場者達、どうやら初戦の相手は少年ら五名で構成されるチームのようだ。
(なんだコイツら)
ヴィタと目が合った少年らのその顔はどこか僕らを小馬鹿にしたような表情で笑っていた。
ニタニタと笑う対戦相手に嫌悪感を抱くヴィタだったが少年らは口を開き、更なる油をを注いでくる。
「おいっwコイツらもかよw」」
「ハハッだなw」
(コイツらなにがおかしいんだ?)
「また女なんか連れてるぜ?」
彼らの発言を聞いたヴィタはますます意味が分からなかった。
「さっき控え室であった奴らも女なんか連れてどうするつもりだw」
「ハハっどうでも良いだろw」
「そうだね!どうせ僕らの勝ちだしね!」
ニタニタと笑う少年らに苛立ちを隠せず、ヴィタは一人の少年の胸ぐらを掴む。
「おい、お前らどういう言うだよ。」
「やばっ聞こえてたw」
胸ぐらを掴まれた彼は緊張感なく笑い、ヴィタの手を振り払う。
「別にいいだろ」
「なぁちび、聞いとけよ...」
「俺たちはここから東にある武道院で育ったんだ。そこはまぁキツくてな、そこには男女問わず赤子の頃から育てられんだよ。」
「でもな物心着く頃には女なんて皆すぐバテて院を追い出されてた。」
「それでお前らはお前は何が言いたいんだ?」
「そんな脆弱な生き物なんか居るチームに負けるわけがないって話だ!」
「お前、」
ヴィタは均衡を発動する。
ヴィタは地面を結晶化させていき、少年らの足元を固めていく。
「な、何だよコレ!!!」
目の前に起きる不思議な現象に武人道の少年らは驚きを隠せずにいる。
そんな時、細身の男が僕の顔を覗き込んだ。
「あの〜その意気は大切ですが...是非試合で見せてください。」
そう言い放ったのは細身の男、飛びかかろうとするヴィタを静止させる。近くで見る男の顔は色白で糸目の胡散臭そうな人に見えた。
そんな彼に静止させられ、僕は冷静さを取り戻した。そして続けて彼はポツリと何かを言い放った。
「いいですね...その歳で随分と育ってらっしゃるようで...」
「???」
ヴィタは首を傾げる。
「良いんですよ。」
「こっちの話です。」
男は不気味な笑みを僕へと向ける。
(ゲッ!!!コイツ笑い方気持ち悪!)
その男のひきつった笑顔は僕を驚愕とさせる。
しかし次の瞬間、気持ちの悪い不気味な笑みはなくなり、男は会場にいる観客に語り始める。
「皆さんご注目ください!彼らは最年少チームのハーメイルてす。彼らはわずか八歳にも関わらず、前回起こった騒動では地龍の討伐に加わった将来有望なチームです。」
「一方、武人道はかの有名な武人グイガンに幼少期から育てられた精鋭集団!武道を心得た彼らの戦い方にもご注目ください!!」
「ではっ!始めましょう!」
「ハーメイル対武人道!!!」
「開始っっっっ」
始まりの合図と共に男は舞台の袖へと下がって行った。
なんやかんやで始まったフィアレントの試合、ヴィタの後ろでメラメラと闘志を燃え上がらせていた奴に開幕の火蓋を切らせる。
「言いたい放題言われたんだ動いて良いぞ!!エンナ!!」
「うん!!」
エンナはヴィタの指示に従い均衡を発動する。
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発動 エンナ・イーファ 均衡名[点呼]
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「あんた達っ!!全部が全部ムカつくのよ!」
「それに...」
「揃いも揃ってブサイク過ぎるわ!!」
開幕早々言い放たれたエンナの一言に少年らは怒りをあらわにする。
「うるせぇくそ女!」
「良い加減!頭冷やしなさい!」
[点灯]
エンナの均衡は少年らの頭上から落ちていく。その様子はどう見ても頭を冷やすものでは無い。空に見える小さな火の玉は少年らの頭へと降りかかる。
その時の様は蝋燭に火を灯すように一瞬で少年らの頭を炎上させる。
「「「「あっっっつうぅぅぅぅ」」」」
エンナの均衡をまともに受けた少年らはみっともなく声を荒げた。
「な、なな、舐めんじゃ無いわよ!!」
エンナに続き、女の子のリエナも少年らへと駆け寄った。そしてリエナなんと少年らの股間を次々と蹴り上げたのだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
会場にはけたたましい声が鳴り響く、会場にいる男の観客でさえ、同情の目を向けている。その間少年らは蹴り上げられた大切なものを押さえ、しゃがみ込んでしまっていた。
「ヴィタ!やった!私やったわよ!」
「うんうんそうだね、やったね。」
僕も自分の股間を触り、少年らの痛みを共感する。
「こ、姑息な手を使いやがって!!!」
「均衡![投土]」
一人の少年は抑えながらも立ち上がり、均衡によって地面の土を球体へと固めて投げつけてきた。
「任せろ!!」
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発動 エルナード・グラント 均衡名[光盾]
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エルナードは光り輝く盾を生成し、少年の攻撃を受け止める。
「おいお前、」
ヴィタは土を投げる少年を指を指す。
「その均衡、お前がハスラーか?」
「だっ!だったら何だ!」
「お前微妙だな。」
「やっておしまいっ!エンナさん!」
「うん!!」
[炎団]
エンナは空へと無数の炎を打ち上げる。
「へ?」
少年は間抜けな顔で僕らを見た。
[火種]
その打ち上げた炎が弾け、幾千もの小さなの火種となる。
「う、嘘だよな?!」
少年らは次第に目に涙を浮かべた。
[点灯]
打ち上がった幾千もの小さな火が少年ら目掛けて落下する。
「やめてくれぇ〜〜〜〜〜」
少年らは最後、許しをこうよう地面に這いつくばり、泣きべそをかいていた。
試合終了後の闘技場の控え室ではヴィタがテネに詰め寄っていた。
「テネお前寝てたろ?」
「え〜寝てないよ〜」
まだ寝足りないのか目を擦るそぶりを見せるテネ。
「起きてたよ〜?入場するまでは〜」
「うん、それは寝てるね。」
「お前寝てたら誰も起こせないからやめてくれよ〜」
「えへへ〜」
「ねぇヴィタ、結局アイツらの武道ってなんだったの?」
「う〜ん...しらね」
一回戦第一試合 武人道を破りハーメイルの勝利
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登場人物
ヴィタ・エネディクト...小柄な黒髪の少年。
均衡名[結晶化]
エンナ・イーファ...赤髪の少女。
均衡名[点呼]
テネ・ウィザード...子紫色の髪の少女。
均衡名[寝ン無]
エルナード・グランド...大柄な少年で青柳色の髪の少年。
均衡名[光盾]
リエナ・バック...翡翠色の髪の少女。
均衡名[八岐大蛇]
アルセ・ユーベン...白髪の少年。
均衡名[ ]
冒険者
灰色の髪色をした中年男性。
鋼鉄の鎧で身を纏い、剣を巧みに操る。コロシアムの元王者。
均衡名[強器]
ギルナ・コバルナ
桃色の髪の毛の若い女性。
聖職者で作中に出てくる神を信仰している。
均衡名[緑化]
謎の少女
ヴィタの夢に出てきた少女。
[ ]
ケイツ・エネディクト
均衡名[水壁]
ヴィタの父親で村の地主ユーベン家と深く関わりのある人物。
アルフレッド・ユーベン
均衡名[ ]
アルセの父親で村の地主、厳格な人柄で知られているが彼には変な収集癖があり、ユーベン家で働く人間のほとんどは何処かしらからヘッドハンティングされた人で構成されている。