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十話 早朝

十話 早朝


朝方に目が覚める。

外に見える山の間から朝日が照らし始める頃、

そこは広がるのはいつも通りの世界、目が覚めて最初に視界に入るのは部屋の壁を覆い尽くすほどの本棚。そこに立てかけられている本は難しい本ばかりで僕が手に取るには早い分厚い本ばかりだった。

僕はこれを見るたびに目が回りそうになる。何故なら僕は本が嫌いだからだ。

まだ物心もついていない頃、本に触れていた気もするがそれはもう曇りがかった蜃気楼の様な記憶だ。

(この本の山、どうにかならかなぁ...)

そもそもこの部屋は物置だったのか部屋には僕のものでは無い見知らぬ物がちらほらとある。

「この部屋のスペースを取るだけのベットでさえ要らないのに...」

ヴィタの部屋には子供部屋には不釣り合いな大きなダブルベッドが置かれており、ただでさえ本棚によって狭まれている部屋がより窮屈に感じる。

(それにこの毛布...)

それは何処か懐かしさの孕むその掛け布団は女性物なのか花柄の刺繍で節々には青色の花の装飾がされている。

(でも何だか捨てられないんだよなぁ、コレ)

ヴィタはその掛け布団からする匂いが好きだった。


僕は知らず知らずのうちに気に入っていたのか、はたまた、ただその掛け布団からする自分の香りがして落ち着くだけなのか、


「ん?」

ヴィタはふとあることに気づく。


それは早朝にもかかわらず外からは大勢の人の気配がするのだ。ヴィタは不思議に思い、部屋の窓から村の様子を見下ろす。


「なるほどね、」

ヴィタはそれを見て納得する。


ヴィタの目に映ったのは今回開催される六方祭りの目当てのお客人が次々と門を叩いている所だった。

それは遠方から来たであろう行商人の姿や王都からの韓国客などが村に訪れていた所だった。


(すぐ前に地龍の一件があったのにも関わらず...こんなにも大勢...よく来るもんだな...)

地龍の一件から、この村に近づくのは憚られるものだと思っていたが自体を重くみ過ぎただけだったのかも知れない。


(今日ぐらい朝の訓練でもしとくか...)

ヴィタは身支度を済ますと外にある訓練場へと移動した。

「お前もいたのかヴィタ。」

訓練上に着くとそこには白髪の少年が立っていた。

「何だアルセか...」

「そうがっかりしなくでくれよ。」

アルセはヴィタの肩をポンッと叩く。

「それよりヴィタ見たか?」

少し興奮気味なのか食い気味でアルセが問いかけてくる。

「何を?」

「行商人や観光客思ったより来てただろ?」

「ああ、確かにいたな、」

「どうやら父様が根回しをしてくれたらしい。」

(どうりで...なるほどな)

ヴィタは盛り上がりを見せる街の活気の理由に納得がいった。


アルセの父親であるアルフレッド・ユーベン、その彼には妙な癖があった。その癖とは人を欲すると言う妙な収集癖の持ち主だったのだ。それは優秀な人材を自らの手に収めるといった彼の強欲、知識欲からくる彼の欲求を満たすために集められる集団。彼のその有能な人材を駆使し、彼らを国の至る所に自分の配下を配備する。それによって人脈や金の流れを利用する事で問題を解決する。


今回もその人脈(集団)を使ったのだろう。


「お前のとーちゃん優秀だもんな。」

ヴィタは訓練でかく汗を服で拭いながら話を続ける。

「ああ」

そんなアルセはヴィタの一言に誇らしげにしている。

そんなどこか誇らしげなアルセを見てヴィタはこう思った。

「お前相変わらずとーちゃん好きだよな」

「えっ?」

アルセは少し驚いた顔をする。

「お前そんななりして家では甘えたりしてるのか?」

「違う!ぼ、僕は尊敬してるだけだ!」

そう言い放つアルセはいつもの冷静をものを言う鉄仮面は剥がれ、その顔は赤面を隠しきれずにいる。

「声を荒げるなんて珍しいな、」

「もしかして図星か?」

「違うって!!」

「はいはい、」

「お前信じてないなっ!!」

「アルセ、お前そんな事より、」

「どっか行けよ。」

一瞬、アルセはキョトンとした顔をするが再びヴィタに躙り寄る。

「どうしてだよ!!」

「今日は僕達お前の敵だからだよ。」

ヴィタの言葉を意味を理解したのかアルセは安堵した表情を浮かべた。

「ああ、そうだったな」

「なんだよお前、気が抜けてるんじゃないか?」

「そうじゃないよ!」

「今、ふと思ったんだ。」

「何をだよ。」

「俺一人に負けるようなら皆んな要らないなぁって、、、」

アルセは意地悪を言うとニヤリと笑った。

「言ってくれるなアルセくんよー」

ヴィタはアルセに飛びつき頬をぐりぐりとする。

「背ばっか伸びやがってそれじゃあ僕が一番小さいみたいじゃ無いかぁ!!」

「いやそれは本当」

アルセは急に真顔になると冷酷な現実を僕叩きつける。

「なっ!!!」

「それは事実だよ。」

「殺すっ!!」

ヴィタがアルセに飛びかかろうとしたその時、訓練場に見慣れた奴らが入ってくる。

「あっ皆んな居たよ〜ヴィタの奴!」

「おーいヴィタぁーー」

「ヴィタ〜〜」

「ここに居たのねっヴィタっ!!」

(おいおい、厄介なのがゾロゾロと...それに)

「お前ら朝からうっせぇぞ!!!」

「あっ!アルセも居たのね。」

しかしアルセの姿が目に入ると皆はヴィタを素通りし、アルセに話しかけた。

「アルセ!朝からヴィタと訓練してたの?」

アルセはたちまちいつもの鉄仮面へと戻る。

「いいや、今ちょうど来たところだ。」

「そうなんだ!!!」

「でもごめんね、今から皆んなで最後の訓練したいをからヴィタの奴を借りたいの...大丈夫?」

エンナはアルセに女全開の萌え声で話しかける。

「ああ、俺もちょうど家に帰らないといけないんだ。祭りの準備とかあるしな。」

「そっかじゃあ頑張ってね!!」

「ああ」

そう言い残すとアルセは家へと帰っていった。

「相変わらずアルセはクールでかっこいいなぁ〜」

「エンナ、アルセは別にクールなんかじゃないぞ?」

「えっそうなの?」

「ああアイツは...」

「ヴィタっ!!!!!!!!!!!!」

エンナとの会話を割り込む様に何者かが僕の前に立った。

「はいっ!」

ヴィタは急な叫び声に背筋を伸ばし、情けない声を上げてしまった。

そして僕の前に立ちはだかるのは鬼の形相をしたリエナだった。

「なんだよ、リエナかよ。」

(焦った〜朝早く何も言わずに出たからかあちゃんが怒ってきたのかと思った..)

「リエナいい加減にびっくりするから声を荒げんなよ。」

しかしその言葉は寝耳に水、日に油、リエナは表情は鬼の形相から悪魔の形相へと変貌した。

「アンタっ!抜け駆けなんかして訓練してんじゃ無いわよ!」

「ちけぇよ。」

リエナは僕へと躙り寄る。

「アンタまさか!自分だけ強くなろうって魂胆じゃないでしょうね?」

「いやっほんとちけぇよ!!」

リエナは更に僕へと躙り寄る。

「ヴィタ、アンタっ轢き殺すわよ!!」

「リエナさん、近いです...」

ヴィタはリエナの剣幕に押され、涙目を浮かべる。

その時のリエナは僕の目の前に顔があると言うか、リエナはお互いの眼球が触れ合う寸前まで僕へと躙り寄って来ていた。

「何か言う事があるじゃ無い?」

「すみません。」

僕が一言謝るとリエナは次第に目に涙を浮かべ、こう叫んだ。

「ヴィタ、まさか!アンタだけ強くなって私を置いてくつもりねっ!?」

「そんなことしてみなさいっ!アンタのその首根っこ!死んでも離さないから!!」

「えぇ...」

(何で泣いてるんだよ、僕の方が泣きたいよ...)

ヴィタはリエナの一言に言葉にもならない困惑の声 が溢れる。


しかしそんなヴィタの心情は梅雨知らず、追い討ちのように後に三人が続いた。

「そうだぞ!ヴィタ!抜け駆けするな!」

「そうよ!」

「するな〜するな〜」

「もういい加減お前らもリエナを諌めるぐらいしろよ!」

「えっ?何?あんた私に文句でもあるわけ?!」

ヴィタの言葉に反応してリエナは再び鬼の形相へと戻る。

「いいえ無いです。」

リエナは上級貴族の女がひれ伏す召使いに対して言い放つ様に僕へとこう言った。

「じゃあ黙ってなさい。」


(コイツ怖過ぎだろ。)

ヴィタは心の中でそう悪態をついた。

するとリエナはグルリと首を捻り、こちらへ顔を向ける。おそらく均衡の力をを使ったのだろう。リエナは僕の心のうちを読み、ギラギラと充血した目で僕を睨みつける。

「あ?何か言った?」

リエナのその言葉を最後に僕は考えるのを辞めた。



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