名もなき病
「おい聞いたか?また蛙が鳴いたらしいぞ」
「まじかよ、ついにうちの大学もかー」
教科書類を片付けていると周りからそのような声が聞こえる。教室を出て駐輪場に向かう。駐輪場に向かっていると、めんどくさい奴に遭遇してしまった。
「おいおい、物騒になってきなたなぁ」
「なんだお前か、知らない奴に話しかけられたかと思った」
「つれないね~、昔っからの仲だろ?俺達」
「誠に遺憾ながらね」
(こいつは俺が子供のころ、突然現れた男。神出鬼没で苦手な奴だ)
「そんな顔するなって~、それよりも、世間様は大変だねぇ~」
「他人事だな」
「お前はどうなんだ、科斗?」
「俺も関係ないだろうな、今のところは」
「なんだそりゃ、実はもう巻き込まれてると
「なにぼそぼそ言ってんのよ、科斗」
「小鳥…なんでもない」
「いつものね、その癖早く直さないと周りから怖がられるよ?」
「余計なお世話だ」
「はいはい、それよりも、うちの大学で蛙が鳴いたみたいね」
「いい迷惑だよ、まったく」
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(今、日本では大学生を中心に自殺や暴動が多発している。そのすべての当事者たちは、共通してSNSを通じ、何かしら文章が送られてきてるらしい。その送り主の名が「蛙」であり、その文章を受け取ることを「蛙が鳴く」と呼ぶようになった。連日ニュースで取り上げられている、画面の向こうの話だったものが俺の大学にまで来てしまったらしい)
「大学はどんな対応をすると思う?」
「何もしないだろう。最近被害の出た大学は普通に授業あってるし」
「そうよね、ま、あんたも気をつけなさい」
「言われなくても」
過保護な幼馴染だ。心配性が過ぎる。
「お前のこと心配してくれる奴がいるなんてな~」
「まだいたのか、心配されなくても自分の身くらい守るさ」
「ま、台風みたいなもんだろう、なぁ?」
「すぐに過ぎ去っていくといいけど、お前を連れて」
面倒な奴の話に耳を貸さず、自転車をこぎ帰路についた。
「ひどいなぁ~っておい、帰るのか?ま、せいぜいあがきな、科斗」
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講義終わり。教室を出ようとするところを小鳥につかまってしまった。
「ちょっと、こっちきて」
「なんだよ?ここじゃダメなのか?」
「いいから」
誰もいない部屋に連れられたが、今までこんなことがあっただろうか。変な期待が一瞬よぎるが、絶対にそれはないと思い、いつも通りに振る舞う。勘違いしたと思われるのも癪だからだ。
「どうした?こんなところまで連れてきて」
「蛙が鳴いた」
「は?」
「私に『蛙』からメッセージが届いたの」
「…本当か?」
「これ…」
そこには『蛙』から小鳥の個人情報が書かれたメッセージが。
「私の個人情報が送られてきたの」
「他にメッセージは?」
「来てない…でも」
「これから送られてくる…」
「どうしよう。私、脅されてるのかな」
「今はまだ大丈夫だろうさ。警察には?」
「それが取り合ってくれなくて。模倣犯がたくさんいて私みたいなケースは自演をして訪ねてくる人もいるみたいなの」
「迷惑な奴らだな。…先輩に聞いてみるよ。詳しそうな人がいてね」
「…ありがとう」
「また連絡するから」
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先輩に会うためにゼミ室へ足を運ぶ途中、『蛙』について考えたが一人では何もまとまらない。やはり、先輩に一度話した方がいい。
「千紘さん、今大丈夫ですか?」
「いいけど、どしたん?」
「『蛙』って知ってますか?」
「あー世間を騒がせてるやつね」
「実は、友人に『蛙』からメッセージが届きまして…」
「なるほど、なら無視が一番」
「友人本人の個人情報が送られてきたんですよ」
「マジか、ま、それでも無視がいい。ここまで有名になってんだ。足のつくようなことはしないだろう」
「なるほど…」
ドアが勢いよく開かれ、いつも以上に驚いてしまった。『蛙』の件もあるから少々警戒心が強くなっているのだろうか。
「お取込み中に失礼、話は長くなりそうか?」
「いえ、もうおわりました。千紘さんありがとうございました」
「いいのか?ま、またなんかあったらいいな」
「ありがとうございます。失礼します」
ゼミ室を後にする。廊下で面倒な奴に話しかけられてしまった。
「よう科斗、知り合いが巻き込まれてんなぁ」
「お前には関係ないだろ」
「あるぜぇ、お前の友達は俺の友達だ」
「お前は俺の何なんだよ」
「お前お前ってひどいねぇ。俺にもちゃんと名前があるんでぜぇ?蛇喰師っていうな」
「え?」
「悲しいなぁ、昔っからの仲なのによぉ」
「お前…いったい……何者なんだ」
「急にどうしたぁ?科斗。俺は俺だよ。いままでもそうだっただろう?」
「……そうだな」
今はニヤニヤしているこいつを睨みつけることしかできなかった。
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「何を話していたんだ?」
「今噂の『蛙』について」
「ああ、例の」
「繭はどう思う?」
「どうも、あれは流されやすい人間が引っかかっているだけだ」
「へぇ、その根拠は?」
「少人数ならまだしも、ここまで広がっているんだ。たかがメッセージが送られてきたくらいで振り回される人間がここまでいるのに驚きだよ」
「なるほど、自殺報道に影響されて自殺が増えるウェルテル効果みたいなものか」
「そうだ、これは一種の病だ。その感染力はすさまじい」
「病?」
「そう、名もなき病。これは心理的なものなんだよ千紘。メッセージが送られてきてないやつらも暴動を起こす事例が出てきている」
「一度世に出ればその影響力は絶大ってことか」
「ええ、もう『蛙』本人は活動していないかもね」
「目的はもう達成してるってか?とんだサイコ野郎だな」
「法も倫理も度外視できる理由を与えられたんだ。これからもっと被害が出る」
「……治まるまでおとなしく暮らすか」
「他人に流されないように芯を強く生きていくか」
「ま、巻き込まれたりしたらそん時考えるか」
「案外もう巻き込まれてるのかもしれないな」
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「追加でメッセ―ジが来たの」
画面には『蛙』から「大学中のポスターをはがせ」の文字が。
「随分しょぼい命令だな」
「うん、言われた通り無視することにする」
急にドアが開けられ、そこにはナイフを持った学生がいた。まさかこいつも『蛙』の仕業なのか?思考をいくら巡らせようとしても目の前の狂気によって現実に引き戻されてしまう。
「本当にいた、悪いけど死んで!」
「小鳥!下がって!」
机をうまく利用し、時間を稼ぐが、あまり効果は見られない。どうやら相手は小鳥を狙っているらしい。
「ありゃ偽物だよ。刺されても死なねぇ」
「お前何を知って!」
よそ見をした隙に小鳥に刃が迫っていた。こいつの言うことを聞くのはくのは癪だが小鳥が危ないなら話は別だ。どうにかかばい、刺されたが流血することはなかった。
「なんで…」
ぽつりとそれだけつぶやき大慌てで逃げて行った。いったい何だったんだ。
「おもちゃかよ…死んだかと思った」
「…ありがとう」
「怪我は?」
「大丈夫」
「よかった。今日は送っていくよ」
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「襲われた?」
「はい、これも『蛙』の仕業でしょうか」
「その可能性が高いだろうな」
「警察には一応行きました。襲ってきた学生も特定済みです」
「手が早いことで。でもまた襲われるかもしれないな」
「はい………」
「?どした?」
「いえ…」
「歯切れが悪いな。何か気になったところでもあったのか?」
「え、と」
「繭だ。俺と同じゼミの」
「よろしく、君とはこの前あっただろう?」
「よろしくお願いします」
「それで?何がつっかかっているんだ?」
「実は……ナイフがおもちゃだってわかっていた奴がいて……」
「ほう、で、そいつは誰なんだ?」
「そいつは……その…説明しにくいんですけど……」
「受け取る側の問題は無視していい。話せ」
「繭―、後輩怖がらせないでねー」
「……それで?」
「実は、そいつは俺が子供のころから現れるようになった奴で…」
「なるほど、君にしか見えない何か、ということか」
「はい…」
「そうか、それとはもう会話しようとするな。いいな?」
「?はい」
とりあえず今日は帰ることにした。怖い先輩もいたしあまり長居はしたくない。
「あれはどういう意味なんだ?」
「あれ?ああ、あれか」
「いきなり現れた奴の正体の見当はついてるって感じだな」
「ああ、子供のころだ、親にかまってもらえなくて寂しかったりすると『そういうもの』を作り出してしまうらしい」
「ってことはあいつまだ寂しがってんのか?」
「無意識にその存在を作っているのかもな」
「あいつも大変だな」
「それか…いや、もともとそっちは専門じゃない。まったく見当違いことを言ったかもしれんな」
「ま、そうと考えるのが一番ポイからそうなんじゃね?」
「そうだな」
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「いるんだろ?」
「お前から俺に用があるとはなぁ、初めてじゃないか?」
「なんでおもちゃだと知っていた?」
「いきなりだな、まぁなんだ、カンだよ」
「お前…」
「それよりもあの嬢ちゃんはどうした?」
「一時家にこもるそうだ」
「そっか~、外にいるよりはいいもんなぁ、っておいおいそっち呼んどいてそれはないだろう?もう行っちまいやがったか」
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「『蛙』が鳴いた」
「唐突だな。それは本当か?」
繭から『蛙』から送られてきたメッセージを見せられる。そこには「生か死か」の文字が。
「どういう意味だ?」
「さぁ、私も襲われるかもしれんな」
「繭一人で行動するのはやめた方がいいか。俺がそばにいるよ」
「……そうか」
「んでよ、科斗も狙われるかもしれんし、落ち着くまで三人とも俺ん家で…」
「馬鹿かお前は」
「ですよねー」
「科斗か…親はよっぽどそいつのことがかわいかったんだろうな」
「なでだよ?」
「科斗っていうのはオタマジャクシの古い言い方だ。ずっとそのかわいいままでいてほしかったんだろうな」
「オタマジャクシ…ねぇ」
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「久しぶり」
「もう大丈夫なのか?」
「うん、あれ以降なんも来てないし」
「ならいいけど」
「そういえば、科斗の先輩に聞きたいことがあるんだけど……」
「ん?なら一緒にゼミ室行く?」
小鳥が頷き、ゼミ室へ向かう。
「失礼します」
「どした?また『蛙』が鳴いたのか?」
「いえ、『蛙』からは何も来てないです」
「ん?ああ、この子が」
「はい、小鳥って言います」
「小鳥が先輩に聞きたいことがあるらしくて……」
「先輩、蛇喰師って人、知っていますか?」
「え?」
「んー俺は知らないなー、繭は?」
「知らない」
「だ、そうで。ごめんね。力になれなくて」
「小鳥、どこでその名前を聞いた?」
「どこって……それは…」
「『蛙』か」
「…………」
「ビンゴって感じ?」
(俺しかあいつの名前は知らないはず……なんで)
「科斗、なんか知ってんの?」
「……いや、何も…」
「ありがとうございました」
まさかあいつが『蛙』なのか?いや、ありえない。他の誰かには見えていない存在が認知されるわけがない。不穏な空気を感じつつ、ゼミ室を後にした。
「なんか引っかかるか?」
「ああ、珍しい名前だなと思ってな」
「どんな漢字を書くんだろうな」
「……千紘はもうこの件に関わるな」
「なんでだよ?」
「正直私はお前の後輩なんてどうでもいい」
「そうだろうな」
「だが、お前となれば話は別だ。死ぬ可能性もある」
「心配してくれるなんて嬉しいねぇ。でも、大丈夫さ」
「……根拠がない言い分は受け付けんぞ」
「根拠ならあるさ、俺は不死身だ」
「……馬鹿が」
そういって繭は千紘に思いっきり蹴りを入れた。
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「おい」
「はいは~い」
「小鳥がお前の名前を知っていた」
「ありゃ、何でだろうなぁ」
「お前…本当に何者なんだ?」
「あーならヒントをやろう。お前は俺だ」
「は?」
「んーそういうことだから」
「待て!まだ聞きたいことは!」
「あ、そうそう。繭って先輩には気をつけろよ」
「おい!」
陽が沈み、教室を照らす光さえも消えていく教室に一人、残されてしまった。
「あいつと俺は……」
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「急に呼び出してごめん」
「大丈夫、それで?何の用?」
「科斗…蛇喰師って人知ってるんでしょう?」
「…知らない。なんでそんなに蛇喰師に会いたいんだ?」
「私の問いに答えて!知っているんでしょう!」
「どうした小鳥…」
小鳥はナイフをとりだし、こちらに向ける。何が起こっているのか理解ができない。幼馴染がマイ不を持って?そんなはずはない、ないはずだ。
「小鳥!」
「言いなさい!」
「言ってもいいんじゃねぇの?」
「お前!」
とっさに師に反応してしまった。タイミングが良すぎる。嫌な予感がする。
「そこにいるの?ねぇ蛇喰師はそこにいるの?」
「ナイフを下ろせ小鳥!」
「科斗…何であなただけ見えるの?私は会いたくて会いたくて仕方がないのに…」
「何言ってんだよ」
「やっぱり、『蛙』は正しかったんだ…科斗を殺せば会えるって……」
「そんなこと!」
「ごめんね科斗。私のために死んで」
「やめろ小鳥!」
小鳥の手からナイフが叩き落される。いつの間にか先輩がそこに立っていた。
「わめくな、耳に響く」
「あなたは……」
「邪魔をするな!」
「落ち着け、蛇喰師に会いたいのだろう?」
「…知ってるの?」
「まぁ、だいたいの場所は」
繭が科斗を指さす。
「そこにいるじゃないか」
「……」
「おっと」
「何言ってんのよ!」
「まぁ聞け。蛇喰師は科斗のもう一つの人格だ」
「人…格……?」
「そうだ。心当たりはあるか?」
「全く…」
「ほう、『蛙』の正体も蛇喰師、お前だと思ったのにな」
「俺が……『蛙』?」
「なるほど、お前は全く知らないみたいだな。質が悪い」
小鳥が急に笑い出し、しこうが停止する。もう何も分からない。
「すごい!全部あってる!『蛙』のメッセージ通りね!」
「何?」
「この人たちを殺せば会える!」
「生か死か…か。私がここに来るところまで織り込み済みだったわけだ」
「どうするよ、科斗」
誰がなんていってるんだ。ほんとに何も分からない。
「死になさい!」
小鳥がナイフを拾い上げ、襲い掛かかってくるが、それを受け入れることしかできなかった。腹部に熱い衝撃がはしる。
「ぐ、ぁあ」
「ふふふ、次はあなたね」
「困った。死ぬかもしれんな、これは」
「そうよ、死ぬのよあなたは、ふふふふふ」
「お取込み中失礼しまーす」
「どうした?危ないから下がっていろ」
「助けに来たんだよ、それで?科斗はもう手遅れか」
「助けなかったこと、怒っているか」
「全然」
「そうか」
小声でぶつぶつと何か小鳥が言っている。
「どうしてどうしてどうしてどうしてこの人は来ないはずなんで!」
『それはお前がもう様済みだから』
小鳥は胸を貫かれ、無気力にその場に倒れ伏した。
「お出ましか」
「お前も知っていたのか?」
「ま、繭をつけてたらね」
「ストーカーが」
「ごめんって」
『やっとでてこれたぜぇ、手間かけさせやがる。…腹いってぇ』
「蛇喰師さんでいいのかな?」
『そう!おれが蛇喰師!科斗の意識が邪魔で出てこれなかったんだよなぁ』
「それで、科斗を殺すように命令したと?」
『ん~正解!』
「てことはあんたが『蛙』か」
『それはどうかなぁ、『蛙』はもう世界中にいる』
「それの元はお前なのか?」
『どうだろうなぁ、今から死ぬ人間に教えてもなぁ』
「だってさ、逃げろ繭」
「逃げるのはお前だ千紘。こいつは私が殺す」
『おお!殺意高いねぇ~そういうの嫌いじゃないよ』
「繭、お前」
「私も名もなき病の感染者だったみたいだ」
『なんだぁそりゃ?面白い病気だな』
「感染源は私が絶つ」
「なら協力するよ。一人じゃ荷が重いだろう」
『あー申し訳ないがもうお前たちの負けは決まっててよぉ』
「何?」
『これ、な~んだ』
そういって銃を取り出し、ニヤニヤと笑ってみせる。
「繭、早く逃げろ」
繭をかばうように前に立ち科斗だったモノを睨みつける。
「千紘…」
「早くしろ!」
『残念でした!』
銃声が響き千紘が倒れる。繭にも被弾しており、膝をついてしまう。
「馬鹿…」
『あらあら、まだ生きてたの~、可哀想~』
「その銃…どこから…」
『ん~警察?あいつらも使えるからよぉ~』
「『蛙』は楽しかった?」
『そうだなぁ、この体手に入れるために初めたのにここまで広がるのはびっくりしたけよぉ、人を掌で踊らせるのは楽しかったぜぇ』
「私も…踊らされたわけだ…」
「そういうこと、じゃ、ばいば~い」
銃声が響き、すぐに静寂が生まれる。
「師!」
『あれ、もう起きちゃったの?』
「返せ!俺の体!」
『無理、ていうかお前、あれだけヒント出したのに最後まで気づかなかったの?』
「ヒント?」
『俺の名前だよ。蛇喰師って読み方変えるとジャクシっていうだろ?あの二人はそれで気づいたみたいでけどなぁ』
「ジャクシ?それがどうした!」
『お前自分の名前の意味も知らんのか。科斗ていうのはオタマジャクシの古い言い方だぜ?だから『蛙』って名前で活動してたんだけどなぁ』
「どうやって!どうやってやったんだ!」
『お前が寝てるとき少しだけ体つかえんだよ。そん時に少しずつな』
「そんなはず…」
『お前にバレたらおしまいだからな、そんな証拠なんて残すかよ』
「でも!」
『あーはいはい、終わり終わり。俺も忙しいのよ。やることがたまっててねぇ。ははは!お前はずっとそこで見てろよ!』
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「はぁ~死ぬかと思った」
「…そうだな」
「いやぁ、助かったぜ。繭ももう大丈夫なのか?」
「お前より軽傷だ馬鹿」
「ならよかった。でも、科斗どうするよ」
「生きてるってわかったらまた殺しに来るだろうな」
「そうだな。なら、二人で海外にでも行く?」
「…馬鹿が」
「ですよねー」
「私は科斗を殺す。あいつが名もなき病の感染源だ」
「随分名もなき病にこだわるな」
「言っただろう私も感染者だと。『蛙』が生きているくらいなら私がすべて殺す」
「なら、俺も手伝うよ」
「なぜだ?私は殺人を犯そうとしているんだぞ?」
「俺も感染者だから?」
「冗談はやめろ、今はかまってる余裕はない」
「俺は真面目だけど?」
「お前はそういう奴だったな」
「で、どうする?」
「こちらから接触する。そして殺す」
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『あれあれあれ~なんで生きてるんですかねぇあなた達』
「素人の銃撃だ。運もあるだろうがな」
「てことでね」
「お前を殺しに来た」
『俺が対策してないとでも?』
「してるのか?」
『どうだろうなぁ』
ナイフを取り出し構える。
「悪いけど、死んでくんね」
『嫌だ☆』
そういって銃を取り出そうとするが、その前に千紘によって投擲されたナイフが胸に突き刺さる。
『は?』
「ずるいなんて言うなよ?」
『なんだよ…これ……』
再び師の体にナイフが突き刺さる。
「私もことも忘れるなよ?」
『まだ…俺は!』
そういって胸に刺さっているナイフを持って襲い掛かってくる。千紘の腕に刺さるが、師を殴りつけることで距離をとる。
「いってー」
「大丈夫か?あっけない終わりだったな」
「止血したら大丈夫だろ。これで終わるといいけどね」
「科斗の意識に戻ったんじゃないか?」
「おーい科斗起きろー」
「致命傷か、無理もない」
「千紘……さん」
「科斗!戻ったか!」
「!さがれ千紘!」
気づけば、赤い血だまりができていた。刺さっていたはずのナイフは科斗の手に。
「ごめんなさい千紘さん……でも、この肉を引き裂く感覚がたまらなくて」
「か……と…………?」
「どういうことだ!お前は師か!」
「違いますよ、正真正銘の科斗です」
「何……?」
「いやぁ、やっぱり人を切り裂くのはいい……千紘さんの腕を刺した時も快感だった」
「なぜだ!お前は師に裏切られて!」
「あいつは元々消える人格だったんですよ。だから俺に託した。この狂気を」
「どういうことだ?」
「あなたは確か『蛙』のことを名もなき病と形容していたはずだ。その形は様々で、暴動や自殺がよく例に挙げられる」
「それが何だっていうんだ!」
「簡単な話、俺もその感染者になったわけですよ。この殺人衝動は病的なものだ。あはは!あいつは最初からこれが目的だったんだ!だから台風か!言い得て妙だな!」
「何を言っているんだ?」
「俺はずっと中心にいたんですよ。中心で、周りに被害が出るのを見ているだけ。俺は台風の目だったんだ!はは!繭さん、あなたに『蛙』からのメッセージです。ここで死んでください」
「拒否権はなさそうだな」
「潔いですね、助かりますよ」
「千紘……すまない」
「お世話になりました」
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ニュースで『蛙』による被害の報道がされており、それを見て楽しそうに人を殺す科
斗の姿が。笑い声が響き渡っていた。