表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画参加作品(ホラー抜き)

密室

作者: keikato

 その部屋には白衣を着た初老の男がいた。

 ノックの音がする。

「どうぞ!」

 顔色の悪い中年男が入ってきて、白衣の男の前にある丸椅子に座った。

 白衣の男が中年男にたずねる。

「いかがですか、麻生さん。近ごろ調子は?」

「少しは眠れるように……」

「それはよかった。ちょっと脈を診せていただけますかな」

 それから短いやり取りのあと、麻生と呼ばれた中年男は丸椅子から腰を上げた。


 部屋の前の廊下では、若い女が麻生を待つようにして立っていた。

 麻生が部屋から出てくる。

「お待たせ」

「わざわざすみません。それで二階堂さんのこと、どう思われました?」

「あなたのおっしゃるとおりだよ。あれは完璧に、自分のことを医者だと思い込んでるな」

「やっぱり……」

「では私はこれで」

 麻生は女に小さく頭を下げ、二階堂の部屋の前から離れていった。


 麻生の姿が廊下の角を曲がって消えた。

 それを見はからったように、部屋から先ほどの白衣の男、二階堂が出てきて女にたずねた。

「小池さんはどう思います? 麻生さんの病状」

「確実に進んでいるように。二階堂先生のこと、自分を医者だと思い込んでるって……そんなことを言ってましたので」

「そうですか。私には最近は落ち着いていると話していましたが、やはりおもわしくないようですね」

 二階堂は少し笑って見せ、それから白衣をひるがえし、部屋の中に戻った。


 二階堂が部屋の中に消えるのを待って、別の白衣姿の男が小池に近づいてきて声をかけた。

「どうです、今日の二階堂さんは?」

「あら、安部先生。二階堂さんならいつものとおりですわ」

「実は昨日、私にしつこく白衣を貸してくれと。それでしかたなく貸したんですが、二階堂さん、さっそく着ていましたな」

「はい。麻生さんとお医者さんごっこのようなことをしているみたいです」

「お医者さんごっこですか、そいつはおもしろい」

 安部先生と呼ばれた男は声を押し殺すように笑ってから、「では失礼します。ほかの患者が待っていますので」と言って、その場から足早に去っていった。


 安部の後ろ姿を見送りながら、小池は肩でひとつ大きなため息をついた。

――頭のおかしな人たちに付き合うのって、ほんと疲れるんだから。

 安部が廊下を進み、自分の部屋に入るのを見届けてから、小池も自分の部屋に戻った。

 小さな窓から陽の光がさし込んでいる。

――あら、いい天気だこと。

 小池は窓辺に立ち、鉄格子で仕切られた青い空を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読しました。 面白かったです。まさかの展開。。。(o^^o) ストーリーももちろん題名でもくすりとしました。 ショートショート、お上手で羨ましい限りです。 読ませていただき、ありがとう…
[一言] 拝読しました。 意外な展開、オチにびっくり、クスリでした。 ネーミングが笑えます。安部、小池、二階堂……( ;∀;)
[良い点] まさかの全員^^ きっと密室でだんだんとおかしくなっていったのですね……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ