世界を6週した男
How many roads must a man walk down
(どれだけの道を行かねばならないんだ)
Before you call him a man?
(大人になるまでに)
How many seas must a white dove sail
(どれだけの海を越えねばならないんだ)
Before she sleeps in the sand?
(ビーチで休めるまでに)
Yes, and how many times must the cannonballs fly
(どれだけの砲弾を飛ばさねばならないんだ)
Before they’re forever banned?
(平和になるまでに)
「Blowin’ in the Wind:Bob Dylan」
店の外には、地球を6周した自転車が立てかけられていた。
いつも通りジャンカレーのジャンに誘われ、店のイベントに顔を出す。ジャンとジュンさんは新婚旅行から帰ってきたばかり、久しぶりの再会だった。
今日の主役のケンヂさんは、世界を6週した旅人。もう常連の誰かと話をしている。飄々としているけれど、話し方はとてつもなくエネルギッシュだ。
呑み仲間の角田さんと目が合った。
「久しぶりです!」
「あぁ、久しぶり」
話題はやはりコロナになる。
「松井さん、ワクチン打った?」
「いえいえ、母ですらまだ一回目ですよ」
「こうなるとフィクサー製薬もなんやらって製薬会社も、凄い儲けでしょうね」
「あぁ、コロナは風邪の一種で変異するから、変異するたびに打たなきゃならん」
「永遠にってことか!!!」
「これ以上儲ける必要ってあるんでしょうかね、、、」
「まったくもって・・・・・その通りだよなぁ・・・」
そうこうしているとケンヂさんのイベントが始まる。最初から最後まで全力疾走のトーク。これが3年もの長きに続く聖戦ののろしになろうとは、この時には誰も分かっていなかった。
「みなさま、ワクチンは打たれましたか?」
「あのワクチンはこれまで禁忌にされていたRNAを使った遺伝子組み換えワクチンです」
「しかも変異に合わせて打ち続けなければいけない」
「これが何を意味しているか、お分かりになりますか!!」
「どこかの誰かの好きなように、私たちの遺伝子を勝手に書き換えられるということです」
「しかもいくらでも永遠に書き換えを続けられる」
「そんなことができてしまう時代が来てしまった」
「そ、そんな馬鹿な!!!」
会場は一瞬プチパニックに陥ったが、すぐに正気を取り戻して皆真剣にケンヂさんの話に耳を傾けることを選んだ。
2020年、ドイツ首相官邸。
ドイツのマルクス首相の下に、フィクサー製薬の代表団が到着した。
「お久しぶりです、首相」
「あら、随分と顔色がいいわね」
「ありがとうございます。ですが、、、」
「単刀直入に申し上げます」
「ええ、その方が助かるわ」
「首相はこれまですべてのトップの模範のような政策をなされてこられました」
「ありがとう。もちろん国民のためです」
「ですが、良心的な政策というもので本当に世界を良い方向に進められるとお考えでしょうか?」
「どういうこと?」
「我々であれば、世界を完全に平和へと導くことができると申し上げたいのです」
「続けてみて」
「コロナのワクチンに遺伝子組み換えワクチンを使用します」
「禁忌を破って世界平和ですか?」
「もちろんコロナにも効くわけですが」
「人間の攻撃性や従順度もまた、遺伝子レベルで変えることができることをお伝えしたいのです」
「そんなこと許されるわけがないでしょう」
「この危機を利用すれば世界平和を実現させられる、と述べさせていただいております」
「どんなに良い政策でも世界は平和にはなりません。ですが、人そのものを従順になるようにしてしまえば、歴史の悲願が達成されるのです」
「人を人たらしめるための、人による人の最終的進化なのです」
「ごくごく自然な話です」
「断ると言ったら?」
「・・・そんなことはお出来にはなれないはずですが」
「それではワクチンをしっかり摂取するよう、国民の皆様によろしくお願いします」
「一つ聞かせてください」
「あなたたちは、世界をどうするつもりなのですか」
「もうお伝えしたではありませんか」
「戦争のない、秩序だった、理想の世界をつくりあげるのです」
「完全な世界を作り上げるのです」
2021年7月14日 世界のワクチン接種率 12.1%。
・・・つづく