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Episode3.「捕虜」

FFリメイクにちょっと興味がある今日この頃。

FFはあまりよく知らないんですけど、ティファの衣装に変更点があったとか。

スカートの中身がパンツじゃなくて短パン(?)みたいになったとかインナーを着てるとか。

でもそっちの方がえっちだと思うんですけど、皆さんどう思いますか???


僕は最高だと思います。

 気が付くと、目の前いっぱいに白い光が広がっていた。

私は死んだのだろうか。・・・地獄は意外と明るいみたいだ。

 等と考えているうちに、光に目が慣れて視界がはっきり見えて来た。

 ・・・どこかの天井?私は、どこかのベッドに寝かされている?

 感覚もはっきりとしてきた。・・・脚が痛い。


 どうやら、死んだ訳では無さそうだ。


 とりあえず、私は辺りを見回そうと身を捩った。

 が、“カシャン”という音がして、右腕が何かに引っ張られた。

 見ると、私の手首に手錠が掛けられていて、ベッドの手すりに繋がれている。


「気が付いたみたいね」


 女の声が聞こえた。

 声の方を見てみると、青い斑模様の服の上に白い白衣を羽織った茶色い髪の綺麗な女の人が立っていた。


「ここは・・・?」


 私の問いに、女が答える。


「あなたが乗っていた船を沈めた船の医務室」


 という事は・・・


「私は捕虜・・・?」


「まぁ・・・国際法上はそういう扱いになるわね」


 はぁ。なるほど。


「私はどうなるの?」


「尋問を受けてもらうわ。大丈夫、尋問と言っても、艦長からいくつか質問をされるくらいだから。・・・その後は、ごめんなさい。私にもまだ分からないの」


 そう言って、彼女は一旦どこかに行ってしまった。

 かと思うと、直ぐに引き返してきた。

 何故か、手に湯気が立つマグカップを二つ持っている。


「飲む?」


 彼女はそう言って、片方のカップを差し出してきた。

 ・・・毒でも入っているんじゃないか?

 そう思ったのが顔に出ていたようで、彼女はカップの中身を一口飲んで見せて、飲んだ方のカップを改めて差し出した。

 ここまでされて断るのも・・・なんか悪い。

 私は恐る恐る、右手でカップを受け取って一口飲んだ。

 甘い香りがする。


「あったかい・・・」


 なんだか、ほっとした。

 でも妙な気分だ。

 間抜けな呟きを発する私を見ながら微笑みを浮かべているこの白衣の女が言うには、私は今、私の乗っていた船、重巡洋艦ベラムを粉みじんにした船の中にいる。つまり、敵陣のど真ん中に一人で、しかも腕は手錠でベッドに繋げられて囚われている。

 それなのに、“ほっとする”なんて・・・。


 結局、私はカップの中を飲み干した。


「あの」


 カップを返そうと思って、私に背を向けて何か作業をしている白衣の女を呼んだ」


「ん?」


「あ、あの、これ。ありがとうございます。・・・ええと」


 そう言えば、名前も知らない。

 口ごもってしまった私を見て、女は笑いながら自らの名を名乗った。


「メアリーよ。メアリー・ウォルフォード。この船の船医」


 船医?・・・という事は、士官以上である事は確実だ。

 私と同い年か、少し下くらいに見えるのに・・・。すごい。


 等と意味の分からない感心をして、ぼーっとしながら彼女にマグカップを手渡した。


「ありがとうございます。ドクター」


 ちょうどその時、医務室のドアが叩かれて「ハインズだ」と男の声が聞こえて来た。


「どうぞ」


 メアリーがそう応えると、ドアを開けて青い斑模様の服を着た黒い瞳の男と、イルヴィング王国軍の軍服を着た背の高い女性が入ってきた。


「艦長。お疲れ様です」


 メアリーが、黒い瞳の男に対してそう言った。

 ・・・あの男が艦長?

 随分と若い・・・。

 等と考えながら男を見ていると、目が合った。

 一瞬、息が止まった。

 胸を締め付けられる様な、鋭い視線だった。

 黒い瞳の奥に、無数の瞳があって、それに見つめられているような。奇妙な言い回しだが、そんな迫力・・・いや、静謐に満ちた恐怖があった。

 でも次の瞬間。その恐怖が消えた。

 顔立ちはとても整っているが、それ以外は至って平凡な男。そんな男の顔になった。


「私はこの艦、コギト艦長のベリアル・ハインズ海軍大佐だ。・・・君に幾つか訊きたい事がある。・・・協力して貰えるね?」


ベリアルと名乗った男は、うっすらと笑みを浮かべながらそう言った。







 俺はベッドの上に横になっていた。

 家のベッドだ。シングルサイズ。自分の体の形に少し窪んでいる安物のマットレス。

 電気は点けていない。PCモニターの病的な青白い光が部屋の中を照らしている。

 顔を横に向けて、部屋の中を見る。

テーブルの上には缶チューハイの空き缶と、吸い殻が溜まり過ぎて山みたいになっている灰皿がある。

 いつも見ている光景なのに、見ると得体の知れない不安が湧いてくる・・・。

 薄暗い。俺の部屋だ。


「・・・夢か」


 酷く喉が渇いていた。

 俺はベッドから起き上がって、冷蔵庫の前に歩いて行った。

 確か、麦茶を冷やしていたハズだ。

 冷蔵庫の扉に手を掛けた。

 冷蔵庫の中から、熱帯夜で火照った身体には心地よい冷気が漂ってくる。

 もう少し、その感覚を味わいたかった。が、電気代が勿体ないので、さっさとペットボトルを取り出して閉めた。

「暑いな・・・」

 そう呟きながら、麦茶片手に振り向いた。

 途端に、目の前いっぱいに青空が広がっていた。


「えっ?」


 俺は、コギトの甲板に立っていた。


「そうだ。Cogitoだ」


 背後から、そんな声が聞こえた。

 ビクッと、肩が震えた。

 振り向いてみてみると、そこには黒い制服を着た、黒い瞳の男が立っていた。


ベリアル()・・・?」


 ベリアル。ゲームの中の俺の姿。なんで・・・?

 だって、お前は……


「“俺”は“お前”じゃない」


 突然、ベリアルがそう言った。


「何、言って・・・」


「俺は、お前じゃないと言った」


 何言ってんだよ。お前は俺だろ。


「一緒にするな。お前は只の負け犬だ。お前の居場所はあの薄暗い部屋だ。あれが、お前の人生だ」


 違う・・・。俺は違う。


「そうだ。違う。俺は、お前じゃない。俺はお前と違う。俺は戦った。信念と誇りを胸に戦った。・・・俺は、お前じゃない。俺は、お前を認めない」


 そう言って、ベリアルが右脚のレッグホルスターから拳銃を抜いて、俺に向けた。


 タン――……。

 乾いた銃声が聞こえて、俺は倒れた。


 次の瞬間、俺は艦長室の天井を見上げていた。


「夢・・・?」


 ・・・酷い夢だった。

 腕時計を見る。時刻は朝の五時。

 少し早く起きてしまったようだ。交代まで、あと一時間はある。

 俺は起き上がって、艦長室に備え付けられている洗面所まで歩いて行った。

 とりあえず、顔でも洗って、髭でも剃ろ・・・いや、髭は剃らなくても良いだろう。

 ・・・もし俺の考えが正しければ、髭を剃る必要は無い。

 鏡を見ながら、俺は自分の顎を触った。


 ツルツルだ。思った通りだ。


 BWOのプレイヤーキャラクターには、全身を疑似身体化・・・つまりサイボーグ化しているという設定がある。

 ゲーム開始時、瀕死の重傷を負って軍の医療施設に搬送され、旧文明の技術を実験的に用いて蘇生された兵士。それが、BOWの自機キャラクターなのだ。

 BWOでは、最初のチュートリアルが終わるまで顔がフェイスガードで隠された名の無い兵士としてプレイし、チュートリアルが終わる頃に敵のグレネードで吹き飛ばされ、病院に運ばれる。その際に顔を好きに作ったり出来るのだが・・・まぁそれは置いておいて。

 ともかく、昨日船から落ちそうになったルネを掴んだ時と言い、その他の場面に於いても妙に身体が軽いと感じる時があった。

 そこから、BWOのその設定も生きているのかと考えていたのだが・・・。


 ・・・少し、試してみよう。


 俺は艦長室のドアの出っ張りに人差し指を引っ掛けた。


 ゲームの中のイベントシーンで、疑似身体化を終えたばかりのプレイヤーが、指一本で懸垂をする場面がある。

 もし、今の俺の身体が本当にサイボーグであるのならば、同じことが出来る筈だ。

 俺は、指と腕に少しずつ力を入れた。

 すると、まるで羽根が風で舞うかの様に簡単に身体が持ち上がった。


 次に俺は机に拳銃を分解した状態で置いた。

 BWOでは、歩兵としてプレイする事もできる。

 銃火器を使用した銃撃戦はもとより、場合によってはナイフ等を使った白兵戦をする事になるのだが・・・プレイヤーの殆どは銃の扱い方も格闘戦の基本も知らない。なので、組み立てや一部の戦闘時の動作は、“疑似身体内部に搭載された戦闘支援機能によって半自動的に行われる”という設定になっている。

 ゲーム中でも、実際に多くの動作が“スキル”という形で自動化・パターン化されている。

 それが、この世界でも生きているなら、俺はこの拳銃を簡単に組みなおせる筈だ。

 俺は、“拳銃を組み立てる”と意識しながら、バラバラに置かれた拳銃のパーツに手を伸ばした。

 すると、手が勝手に動き出した。

 俺の手が、まるで熟練の銃職人(ガンスミス)のような手つきで、素早く、正確にパーツを組み合わせていく。

 ものの数秒で、拳銃が組みあがってしまった。


「すげぇ・・・」


 次に、俺はナイフを手に持った。

 そして、指先を少し切った。

 傷口から透明のドロッとした液体が出て来た。


()・・・ッ」


 痛かった・・・。その設定も生きてたか・・・。

 BOWの世界のサイボーグには、痛覚がある設定になっていた。

 脳に疑似身体が“本物の身体である”と錯覚させるためには、ありとあらゆる感覚を再現しなければならない・・・とかそう言う理由で。

 ・・・うーん。これは少し不便だ。

 等と思いつつ、俺はもう一度傷口を見た。

 溢れて来た透明の液体が傷の表面で白くなったかと思うと、傷に吸い込まれていった。

 同時に、痛みも消えた。

 指で白い液体をどかしてみると、傷口はすっかり塞がっていた。

 これも設定の一つで、人工皮膚の損傷くらいなら疑似身体の中を流れるマイクロマシンによって修繕される。

 これが生きていたのは幸いだ。


 しかし、これでハッキリした。

 俺の身体は、生身ではない。


 傷があった場所をぼーっと眺めていると、ドアがノックされた。


「レスターです」


 俺が「入れ」というと、細身で背が高く如何にもな感じの先任兵曹、レスターが入ってきた。


「休憩時間中にすみません」


「どうした」


「例の捕虜の意識が戻りました」


 昨日、ウルオーズ帝国の巡洋艦を撃沈した後、俺は生存者の捜索を行わせた。

 その時に、生存者を一人だけ見つけたのだが、左脚に重度の裂傷を負っていて、出血多量で瀕死の状態だった。

 船に捕虜として収容し、医務室で治療を受けていると報告は上がっていたが・・・忙しいうえに治療中という事もあり、俺はまだ顔すら見ていない。


 とにかく今は情報が欲しい。

 早いところ、その捕虜に話を聴くべきだろう。


「すぐに医務室へ行く。メレーヌ准将も呼んでくれ」


「准将閣下は、副長の御指示で既にお呼びしています。医務室の前でお待ちになってます」


 俺はレスターの言葉に頷いて、医務室に向けて歩き始めた。

 しかし、流石シャノン。・・・BOWプレイ中も優秀なNPCだったが、現実でも優秀だ。


 彼女はBWO内に存在する隠しミッションで仲間にすることが出来るバディNPCだ。

バディNPCとは、プレイヤーを補佐する特殊なNPCで、それぞれ特殊な技能と高い戦闘力を持っているNPCの事だ。プレイヤー一人に対して、メインバディとサブバディの二人まで設定できる。

シャノンはそのバディNPCの中でも一段と特殊なNPCだ。

“テロ組織に拉致された科学者が、旧文明の技術で造った人口生命体”という特殊な設定。BOWのワールドの中にたった一人しか存在しない超レアなNPC。

特殊なのは設定だけではない。性能が他とは段違いだった。


BWOではプレイヤーとNPCがそれぞれ元から持つスキル“オリジナルスキル”とは別にある、“兵科技能”を習得させることによってNPCの役割や能力が変わってくる。       

歩兵技能を習得させれば、銃撃戦や格闘戦に長けたキャラクターになる。他にもレベルを上げていくと、歩兵の派生である“BSFベーシックスペシャルフォース”、“PJパラレスキュージャンパー”や、ヴィオラやヨナバルのような軍艦の運用に関わる“砲雷長”や“船務長”などがある。


 シャノンは、この技能を習得するスピードが通常の5倍になる“瞬間記憶カメラアイ”と、自分と周囲のNPCとバディを組むプレイヤーの経験値の獲得量が2倍になる“高度思考力スーパーインテリジェンス”という二つの育成系オリジナルスキルによって、この兵科技能を圧倒的に早く、且つ多く習得する事が出来る。

 現時点で、彼女は歩兵系最上級技能の“グリーンベレー”と工兵系の派生技能“TIU”、そして水兵系で上から二番目の序列である“副長”技能、そしてされらに至るまでのレベルで習得できる技能を全て習得している。

 それだけじゃない。オリジナルスキルは育成に関わる“育成系オリジナルスキル”と、戦闘で効果を発揮する“戦闘系オリジナルスキル”があるのだが、彼女は2つ育成系スキルとは別に、一つ戦闘系オリジナルスキルを持っている。


 そのスキルの名は“禁忌(フォビドン)”。


 効果は、自己再生。

 致命傷を負ったとしても、数分で完治する。脳や内臓の損傷が無ければ数秒だ。

 彼女を倒すには首を切り落とすか、爆発物で跡形も無く吹き飛ばす以外に方法が無い。(という設定になっている。)

 ゲーム的に言うと、HPを削っても、キルしない限りHPが回復し続ける。

 

 チート級の能力だ。

 彼女がワールドの中に一人というのも頷ける。


 ・・・よくよく考えると、一人だけにしたって実装した運営はちょっとおかしいかもしれない。


 BWOを始めたばかりのころ、偶然シャノンの隠しミッションを発見して、2週間かけてクリアし、苦心の末に仲間にしたのだが・・・。

 懐かしいな・・・。仲間にしたての頃は、付きっ切りで訓練・・・レベル上げしてたっけかな。成長していく彼女を見るのは、中々に楽しかった。

 まだゲーム内でフレンドがいなかった頃は、前任のメインバディだったメアリーと一緒に、フィールドを駆け回ってたっけ・・・。


 そういえば、この状況になってからメアリーと会っていないな。・・・医務室に行く用事が出来たのは、ちょうど良かったかもしれない。

 

 等と昔の記憶を振り返っていると、医務室の前に着いた。

 扉の横では、メレーヌが煙草を咥えながら待っていた。


「すみません。お待たせしましたか」


 俺がそう言うと、メレーヌは煙草を携帯灰皿に押し付けながら首を振った。


「ああ、いや大佐。気にしないでくれ。ここに来る前、ちょうど一服していてな。火を点けたばかりで勿体なかったから、行儀が悪いと思いつつも咥えたまま来てしまったのだ」


「あぁ・・・そうでしたか。気持ちは分かります」


「大佐も嗜む(・・)のか?」


「えぇ、まぁ・・・。ですがあまり高級なものは吸いません。昔の味が身体に染みついているといいますか。部下の手前、カッコつけて象牙のシガレットケースなどを使っていますが、中に入っているのは今も昔も、酒保(PX)の安タバコです」


「・・・貴殿とは美味い酒が飲めそうだ。それはそうと、先任から事情は聴いている。早いところ済ませてしまおう」


「ええ、そうしましょう」


 俺は医務室のドアを叩いた。


「ハインズだ」


 俺がそう言うと、中から女性の声が返ってきた。


「どうぞ」


 メアリーは医官系の技能“軍医”と歩兵系技能の衛生兵派生技能、“PJパラレスキュージャンパー”を持つNPCで、俺のサブバディだ。


そして、現在はコギトの船医をしている。


 つまり、今の声は間違いなく彼女の声であり、この扉の先には間違いなく彼女がいる。


 少し、緊張してきた。

 何故か?

 彼女は、俺が初めて作成したNPCなのだが・・・なんというか・・・。

 彼女は、『ぼくがかんがえたさいきょうにえっちなきゃらくたー』みたいなコンセプトで作っている。平たく言えば、俺の中にある女性の理想像を形にした。みたいな感じ。


 ・・・分かるだろう。紳士諸君。


 なんだか変な動悸が。

 この感じ・・・。職場の先輩に誘われて、初めて無料案内所に入った時みたいだ。


 ・・・落ち着け。落ち着け、俺。


 俺はメレーヌに悟られないように、出来るだけ肩を上下させないように努めつつ深呼吸をした。


 意を決して、ドアを開け、中に踏み入る。


「艦長、お疲れ様です」


 そう言って、見目麗しい白衣の美女が出迎えてくれた。


 ・・・が。思ったよりも衝撃を感じない。

 俺は至って平常に、彼女に対して軽く会釈した。


「調子はどうだ」


「私は絶好調です。ですが大佐、貴方は少し顔色が優れないように見えます。ちゃんと寝れてます?」


「・・・少し寝つきが悪かったが、まぁ大丈夫だ。ありがとう。しかし、良く分かったな。俺に顔色も何もないだろうに」


「まぁ、それなりに長く一緒にいますからね。目を見たら分かります。・・・必要でしたら薬を渡しますね」


 彼女の顔を見て、俺の胸中に過ったのは、緊張や色欲ではなく、安心感だった。

 ゲームの存在が現実になった影響だろうか?

 ともかく、俺は初めてホテルに彼女を連れ込む男子学生みたいに震えずに済んだ。


 でも、なんだろう。この感じ。

 メアリーの事が解るというか、感じるというか・・・。

 少し前に、シャノンと話していた時とは違う。・・・何かが変だ。


 等と考えながら、なんとなしに部屋の奥に視線を移動させた。

 すると奥のベッドに、ウチの戦闘服を着せられた赤毛の女の子が見えた。左腕を手錠で繋げられている。

 ・・・少し怯えてる?

 まぁ、仕方ないが・・・。少し気の毒だな。


 笑ったりはせず、しかし適度に威厳を醸し出しつつ、それでいて温和な感じを意識しつつ、俺は彼女に語り掛けた。


「私はこの艦の艦長のベリアル・ハインズ大佐だ。・・・君に幾つか訊きたい事がある。・・・協力して貰えるね?」


 俺がそう言うと、彼女は頷いた。


「まず、君の官姓名を教えてほしい」


「・・・ウルオーズ帝国、国家指導部武装行動隊、第28名誉市民連隊所属。リーゼル・ハインミュラー特技兵です」


 俺の問いに対して、彼女、リーゼルはそう答えた。


「武装行動隊・・・?海軍じゃないのか?」


「ベラム・・・あの巡洋艦には、行動隊からの出向という形で乗船していました。私、能力持ちなので」


 能力・・・?魔法の事だろうか?


「どんな能力を持っているんだ?」


「自分を中心とした半径数千メートルの範囲にある動体を感知出来ます」


 なるほど。レーダーのようなものだろうか?・・・この世界の技術水準の下では凄い能力だ。

 等と考えていると、背後に控えていたメレーヌが俺の肩を叩き、「ちょっと」と言って、部屋の端に来るようにジェスチャーをした。

 何か分かった事があるのだろう。

 俺は彼女の意思に従って、彼女と共に部屋の端に歩いて行った。

 メレーヌは、リーゼルに背を向け、ヒソヒソと小さな声でこう言った。


「大佐。彼女からは、恐らく大した情報は入手できないと思う。・・・ウルオーズ帝国の政治思想、覚えているか」


「ええ。異界人と異界人系の人々を排除しようとする限定主義者・・・ですよね」


「その通りだ。そして彼女は、異界人の血を引く一族だ」


「なぜ分かるのです?」


「国家指導部武装行動隊・・・。こいつは帝国に元からあった正規軍とは別に、帝国で実権を握る政党が設立した新たな情報・軍事組織で、帝国による異界系民族の弾圧の中心にある組織だ。そして、名誉市民連隊の兵士は、過酷な兵役を課す代わりに家族と本人を帝国の“名誉市民”にするという条件で半強制的に徴兵されている帝国領内の能力を持つ異界系民族だ。・・・彼女の首を見てみろ」


 メレーヌにそう言われ、俺はリーゼルの首を見た。

 肩まで伸びた赤毛の間から、入れ墨のようなものが見えた。

 丸の中に、バツ印が入っている。妙な柄だ。


「・・・あれは、名誉市民連隊で兵役に就く者に彫られるものだ。現界魔術によって、呪詛が掛けられている。命令に違反したら上官によって効果が発動させられる。発動すれば・・・彼女は死ぬ」


 メレーヌは、そう言って唇を噛んだ。

 そういえば、彼女たちイルヴィング王国の人々も、元は異世界人にルーツがあるんだっけか。

 ・・・なるほど。

 しかし、情報を得られないとはどういう事なのだろう。

 そんな疑問を脳裏に浮かべていると、メレーヌが説明の続きを始めた。


「・・・名誉市民と言えば聴こえはいいが、彼らは兵役を拒めば虐殺の対象になる。帝国は異界人と異界人の系譜を継ぐ人々を許さない。・・・帝国の連中は異界人を信用しない。だから、名誉市民連隊の人員には“これをしろ”と命令を下すが、目的などは一切知らされない。・・・奴らは、彼らを兵器として扱っているのだ」


 酷い話だ。しかし、ありがち(・・・・)な話だ。元居た世界でも、似たような話を聴いた事がある。

まぁ、『あいつが悪かった』『いいや、お前が悪かった』みたいな過去の遺恨を掘り返すだけの生産性に乏しい論争には個人的に興味は無いから、ここでは何処の誰の話であるかは伏せておく。

が、それは過去の話であるからだ。・・・この問題は、この世界で今、まさに進行している問題だ。


「・・・メレーヌ准将。彼女がここに居て大丈夫なのか?その呪詛で殺されるような事は」


「それは・・・多分心配ない。呪詛を管理する者は、先の戦闘で死んでいるだろうからな。・・・現時点で、彼女の入れ墨からは魔素の気配を感じない」


 俺の懸念に対して、メレーヌはそう答えた。

 しかし、“気配を感じない”か。そういえば、彼女もエルフだ。

 ファンタジーの世界では、エルフはかなりの確率で魔法を

仕えるもんだが・・・どうなんだろう。


「なるほど・・・。ところで、メレーヌ准将も魔法を使用出来たりするのですか」


 気になったので、俺はそう訊いてみた。


「ん?私か?・・・まぁ、一応な。そこまで高度なモノではないが、氷結の魔法を使える。酒に使う氷に困らないからな。便利なものだぞ」


 と、准将は答えてくれた。

 なんか、凄いのか凄くないのか・・・よく分からないが。

 とりあえず、俺は「そりゃいいですね」と、愛想笑いを浮かべておいた。


 と、その時だった。


「・・・!すみません!!ちょっと良いですか!!」


 ほったらかしにしていた捕虜、リーゼルが叫んだ。

 なにやら慌てている様子だ。


「どうした?」


「何かが凄い速さでこの船に近づいてます!!たぶん魚雷!!!北西からです!距離1300!!」


 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。が、さっき彼女が自分の能力について説明していた時“動体を感知できる”と言っていたのを思い出して、ようやく理解できた。


 だが、彼女が強制的に徴兵された身であったとしても“敵”だ。しかし、ここで嘘を吐くとも――……


 そう考えていた時、艦内に警報が鳴り響いて、船が大きく左に傾いた。


「・・・メレーヌ准将は、この部屋で待機していてください」


「了解した」


「メアリー、閣下と捕虜を頼む」


「ええ、任せて」


 俺は医務室を飛び出て、CICに向かって走って行った。


お読み頂きありがとうございます。次回も完成次第上げます。



以下、用語解説コーナー



グリーンベレー → 兵科技能の名前の一部は、実在する特殊部隊が由来になってたりします。これもその一つです。では、現実のグリーンベレーは一体どんな部隊なのか。実は「グリーンベレー」というのは通称で、正式な名称は「アメリカ陸軍特殊部隊」(英: U.S.Army Special Forces)です。はい、米軍の特殊部隊なんですね。某州知事が主演の映画とか、映画関連のネタ動画が好きな方は聴いた事があるかもしれません。「お前なんか怖かねぇ、俺だって元グリーンベレーだ」のあれです。・・・まぁ、そう言った彼は映画の中ではあっさりやられてしまうのですが。しかし、実は凄い部隊なんです。偵察・斥候、対ゲリラ戦、空挺部隊の効果地点への選定誘導、爆撃誘導等、戦闘面に於いては、敵が支配する地域に潜入して、道を開くような任務にあたる部隊です。が、彼らはもう一つ別に、友好国の軍や親米軍事組織に特殊作戦や対ゲリラ戦の訓練を施す訓練部隊としての役割も担っております。なので、隊員には高い語学力や人の心を掴む能力、適切な指導を行うための知能等、様々な技能を要求されます。


パラレスキュージャンパー(PJ) → パラジャンパーとも。こちらも実在の部隊から取っています。PJは、アメリカ空軍特殊作戦軍(AFSOC)に所属する地上戦闘任務兵の一種です。墜落した戦闘機のパイロット等の救出を行う部隊で、どんな状況(敵地や戦闘地域)であっても救出に行けるように、空挺降下や潜水の技能、工兵としての技能に加え、『医師の指示を受けながら手術が出来る』と言われるほどの医療技術を身に着け、他の特殊部隊と並ぶほどの戦闘能力を持っています。ラノベじみたスペックを誇る超エリート集団です。一応、衛生兵という扱いなのですが、ウルトラハイレベルな特殊部隊と認識する方が多いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本能的に好きになれる小説です(語彙力) [気になる点] 距離700より魚雷というのは 魚雷の射程などから恐らく700海里ということかと思いますが、 大抵の読者方はメートル法で考えてしまうと…
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