表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晒し人   作者: 仲村ケイ
1/1

キッカケ

日本の刑罰はぬるく、刑法もザルだなんてことはこの日本にいて誰もが思ったことがあると思う。

私も今テレビのニュースで流れている事件の一連を知り、どこに向ければわからない怒りがこみ上げてきた。

報道だと都内の中学校で担任の先生に挑発した中学生が先生に殴られてその様子をSNSにアップし、大炎上したということであった。

私も小学校の教師をしているためか、この生徒を殴った先生にひどく同情した。

少しでも手をあげれば、マスコミがワラワラとあつまり、晒し者とされ、小学生でもスマホをもつのが当たり前の時代だと証拠も簡単に抑えることができるため、私も含めて周りの先生たちも深く生徒に干渉せずに無難に業務を務めている。

のにも関わらず、生徒の方から挑発してきて馬鹿にされれば例え先生といえど1人の人間だ、それは手を出したくもある。

私でも何度生徒をぶっ叩いてやろうと思ったことがあることか。

それを止めるのは、やはりこういった世間の風潮だと思う。

だからか、この生徒を殴った先生の気持ちはものすごく共感できるが、それは世間様が許さないのだ。

テレビの中のコメンテーターたちも、気持ちはわかるが殴るのは良くないよね。とか今の教育の世界はうんぬんかんぬん言っている。

嘘だ。

正直こんなクソガキ殴って教えこまないと、いや教えたところで、社会にでれば迷惑かけるだけの奴になると誰もが思っているはずだ。

そんか思いが頭から離れられないまま、私は教室のドアを開けるのだった。


業務終了のチャイムがなり、用のない先生たちは思い思いに教員室を出て行く。

私はテストの採点作業が少しだけ残っていたので、終わらせてから帰ることにした。

思いのほか早く片付き、身の回りの整理をして帰ろうとしたところに

「厚木先生。」

と私に声をかけてきたのは、一年生の担任をしている森先生で私のデスクの斜め向かい側に座っている。

学校からも好評で、生徒たちからも人気の先生だ。

森先生は、生徒の前でもいつも笑顔な温厚な人であるが、声をかけられ森先生の方に顔を向けた時の表情に私は困惑した。

怒りと悲しみに満ちた表情であった。

森先生は、私に声をかけといて私の顔を見ないままに遠くを見つめたままに続けた。

「今朝の都内の中学校でのニュース見ましたか。」

「えぇ。先生が生徒を殴って動画をネットに載せたってやつですよね。」

「はい。あの殴られた生徒ってのが実は私の甥っ子なんです。」

「え!?」

私は次の言葉を探したが、見つからず反射的に泳いでいた眼を森先生のとこに戻せたところで、森先生が言う。

「可哀想ですよね。」

誰のことを言っているのか、殴った先生のこと?まさか、同じ先生のくせに身内だからと言って先生を挑発して殴られて当然なクソガキを可哀想というのか!教育者としてそれはありえない。もし、クソガキを庇っているのなら私はこの人を軽蔑しかねない。

ただどっちのことを言っているのか確定できないところで、そう思うのは良くない。

私は思い切って森先生に聞いてみた。

「それはどっちのことを言ってるんですか?」

すると、彼は左手に持っていたスマホをスクロールしながら

「どっちもです。」

その言葉と同時に私はこの先生を軽蔑した。

いや、それは絶対にありえない。同じ先生ならあの状況は痛いほどわかるはず、同じ先生に味方できないのか。

少し強張ってしまっていた私の顔に森先生が持っていたスマホを私の顔に突き出した。

そこに映されていた内容が私の目に入り、驚いた後森先生の言葉の意味を知った。

氏名『神田 空』かんだ すかい

平成17年5月6日生まれ

東京都足立区A-5-6 エンゼルあだち503

都立足立第三中学校 2年3組

という個人情報に加え、その人物と思われる顔写真が掲載されており、この人物こそ殴られた生徒なのだろう。

「あのこれは?」

「さっき姉から連絡あって、今大変なことになっていると泣きながらもこのことを教えてもらい、調べてみるとこの有様でした。今朝報道があったばかりなのに、学校が始まる時間には拡散され始めていたようで、学校に抗議の電話が来るわ、甥のSNSには心無い言葉が送られ続けるわで姉もどうしたらいいのか戸惑っているようです。」

「なるほど。それは、、」

可哀想ですねと続けて言いそうになったが、私はハッとして気付いた。

元々悪いのは、あのクソガキのせいで何らかの制裁があってもいいはずだ。

しかし、これはあまりに酷いのではないか。

いくらなんでも、実名はもとより住所やらまでも晒されるなんて・・

これでは、ここの家庭に平穏な生活は望めなくなる。

そう思うと少し気の毒にもなった。


それから、森先生と数回の会話をやり取りしたが、内容についてはよく覚えていない。

自宅までの帰路で思っていたのは、晒されてどういう生活をあの子は送るのか、その周辺の者達はどう影響されるのかといったことだ。

ニュースを見て、制裁を望んでいた自分としたら凄く清々しい思いだろうが聖人ぶった自分では、そこまでやるのは間違ってると思う。

そして、そんな二面性が自分の中にあるのだともう1人の自分が2つの自分を静観していたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ