ダンジョン探索
「まぁゴブリンくらいなら俺らいりゃ基本的に余裕よ」
「あんま調子乗らないでよー?」
「すごいな二人は、、、そう思うよね?愁哉も!」
「ほんとだな。俺達いらないわ」
現在は4回層。ここまで、戦ってきたのはほとんどAクラスの二人である。
拓の顕魂の槍で名は雷操騒、唯の顕魂は弓で名はアッスルト。全体が白く、全長は彼女の身体ほどの大きさだが彼女はそれを軽々と持ち、弓を放っている。そして、その矢は吸い込まれるようにゴブリンの頭に当たり、ゴブリンが絶命していく。
(口喧嘩あんだけしといて、戦いになるとめちゃくちゃ息ぴったりじゃん。)
拓が突っ込み、ゴブリンを雑に攻撃し、拓に攻撃を仕掛けそうなゴブリンや死角のゴブリンを唯が、撃ち落とす。さながら夫婦並みのチームワークを見せる二人。そんな二人を少し遠巻きから観察するかの如くただ眺めていただけだった愁哉と阿久斗。阿久斗は顕魂は握ってはいるが、一度も振っていない。2人は金魚の糞の様についてきただけである。
しかし、実際愁哉には好都合だった。なぜなら握れはしたが、さっきから右手の異常な震えを抑えるので精一杯だからである。
頭では気持ちは切り替えられたが、心の奥の奥はなかなか変わってくれないようだ。
「次の戦いは僕も入れてよ!僕まだ1回も振ってないよ?あと愁哉も」
「あぁ、それもそうだな。次は俺行かないから二人で前衛やんなよ。唯の援護まじやべーから」
「あんたじゃないんなら、2割増しで良くなるわよ」
「おい。なんでだよ!?」
「だってあんた、動き早すぎて合わせんの大変なんだもん」
2人の参戦が決定し、ゴブリンも前方に現れた。敵は2匹。お互い1匹に集中すればいいだけなので、簡単なはずだった。
阿久斗は、ぎこちなくも交戦を続ける。このままなら阿久斗が勝つ。しかし、後ろから愁哉が相手しなければならないゴブリンが攻撃を仕掛けてきた。阿久斗は、唯の「危ない」と言う声に反応し、バックステップをして、攻撃を仕掛けてきたゴブリンに体当たり気味に衝突する。そして、阿久斗と、ゴブリンが仰向けに地面に倒れ、次の瞬間には唯が放った矢が2匹のゴブリンの頭に命中し、2匹は絶命した。
なぜこうなったかといえば、理由は簡単で、愁哉の剣とゴブリンの斧が撃ち合った時、愁哉の剣は弾かれ、地面に突き刺さり、その後ゴブリンは無防備な愁哉は狙わずに交戦中の阿久斗の背後に向かっていったからである。つまり、愁哉の責任だ。
「悪い。阿久斗。お前を死なせかけた」
「きにしないで、しにかけただけで、死んでないからさ!」
彼の謝罪に何時もの優しい笑顔でフォローしてくれた阿久斗。
しかし、すべての人間がお人好しな訳ではない。
「ちょ!!た…」
「てめー。ふざけんなよ?」
10mは離れていた拓が、唯の引き止める言葉が終わる前に愁哉の目の前に現れ、彼の胸ぐらを掴みながら言った。
「お前、甘すぎる。今のでもし死んでたら、洒落になんねえ。笑えねー。なぁ?命軽く見すぎじゃねーか?おい、」
「いや、軽くなんて見てない。だから、反省はしてる。でも、俺だってわざとじゃない。戦いたかった!でも出来なかったんだよ。」
「だから、それが甘いつってんだよ。いいか?お前の責任でこうなったんなら、お前がまず第一に動かなきゃいけない違うか?で、お前は何してた?空っぽの右手見てただけじゃねーか?なぁ?」
「ちょっと、やめてよ拓。僕ぴんぴんしてるか…」
「いや、無理だ。やめない。」
2人の言い合いに阿久斗が割って入ろうとするが、全部言い終わる前に拓が、制してしまった。
「反省はしてる?違う。お前があのとき第一にやらなければならなかったのは、反省じゃない。行動だ。お前のトラウマ脱却には協力する。でも、周りを巻き込んで、それでお終いならお前一人でやれ。」
その場で喋るものが居なくなり、ただでさえ暗く、冷たい空気が、重さも加わり、立っているのが精一杯の空気が流れる。
体感的に、かなり長い時間が過ぎた時、実際には約一分ほどだが。口を開けるものが現れる。
「あぁ、ほんとにそのとおりだ。使えねー。右手も動かねー。体も動かねー。頭も回らねー。マジックバックに入らない荷物の俺だ。でも、変わりたいんだ。荷物から今までは荷物に!だから、迷惑を承知で来た。あんた達とだったら変われる気がするから、いや、アンタ達とだから、変われるきがするから。」
彼は覚悟を決めていた。ここに入ると決めたときに。もう戻らないんだと。やるか、それとも死か。
「だから、1つ俺の、、、こんな荷物のわがままを1つだけ聞いてほしい。」
全員が彼をみて、次の言葉を待つ。言葉によってはまた、胸ぐらを掴む準備をする拓。もし、もう一度だけやらして欲しいなんて、彼が言うもんなら、拓は、彼を殺す勢いで、それこそ、ゴブリンに突っ込んで行った様に愁哉に向かっただろう。なぜなら、それは、甘えだからである。彼のトラウマにまた、他の人を巻き込む可能性があるからである。保険をかけた状態で、克服できるわけがない。克服した拓だから拓は、知っている。そんな状態では何度やっても変わらない。変われない。人を巻き込み、またトラウマが増えるだけ。もちろん仲間の人押しは大事だ。必要だ。だが、壁を壊すのは?変わるのは?自分である。だから、突き破るしかない。自分で。
しかし、そんな拓の準備は無用だった。
「俺一人で、ボスに挑ませて欲しい。」
なぜなら、愁哉は、死ぬ覚悟だって出来てるぐらいこの一回に文字通り、命を懸けて挑んでいるのだから。
読んで頂きありがとうございました。
ちなみにアッソルトとはassolto(イタリア語で絶対)って言う意味から絶対命中みたいな感じで名前つけました。