彼の過去を聞いて
「だから、僕は冒険者の道を歩んでるんだ。」
彼の口から語られた過去は、いつものような愛想笑いを貼り付けて事を済ませられるような簡単な話ではなかった。彼も愁哉と同じで辛い過去を持っている事を愁哉は知った。
(な、、、そんな過去が!?それなのにあいつはあんなに笑ってられるのかよ。)
「すげーな。阿久斗はさ。俺はまぁあんたら気付いてるんだろうから言うけど、そう。阿久斗と同じくらい、いや。悪い。
阿久斗の辛さは分かってないから比較するのは駄目だな。
俺の中ではかなり辛い過去がある。だから顕魂出来なくなったし、修行もやめた。もう守るもんがないんだ。」
ドア越しでそう語った愁哉に阿久斗が続ける。
「そうなんだ。でも、ちょっと考えてみようよ。本当に愁哉の手には何もないの?何も残ってないの?」
「ないって!!だから!!!」
何度も言ってきた言葉なだけにかなり強い口調で返す愁哉。
「いや、僕はあると思うよ。」
しかし、その強い口調に負けない、声量自体は話にならないほど違う。しかし、言葉の重さは同じかそれ以上の力で愁哉の心に響き渡る。
「、、、は?何言ってんだよ。」
呆れた笑いを含んだ口調で愁哉は言う。
「もうわかんない。、、、帰ってくれ。」
そして、帰ってほしいと訴えた。
「うん、今日は帰る。でも、いや、いいや。、、、じゃあまた。」
何か言いたそうにした阿久斗だったが、言わず、帰っていく
今日愁哉は誰とも会わなかった。会わなかったが、胸の奥底に小さなわだかまりが残る。それは視覚ではなく、聴覚から伝わり心へと届いた証。本来は、消えきった彼の魂にもう一度火を灯そうとする。小さな小さな火種を生むための
愁哉は、昨日からずっと考え続けていた。昨日阿久斗が言ったまだ残ってるという、ことについてだ。しかし、結局は答えを見つけていない。愁哉は今日も学校に行かなかった。何をしたいのかもわからず、ここに居続けていた愁哉。しかし、変わったことがある。それは彼の心にあるわだかまり。例えるなら何となく分かってる答えが出て来ないど忘れしてしまった様な感覚。
そして、今日の放課後も、、、阿久斗が来た。次の日もそのまた次の日も必ず挨拶しにやって来る。
そして、何回目の訪問か数えなくなったあたりで、
「僕ら、パーティーを作ることにしたよ」
パーティーとは、大体4、5人で構成されるダンジョンへ潜るためのチームである。なぜこのような少数かと言うと、道が狭く多くのものが一気に行けないという理由もあるが、1番はダンジョンの、人数制限と言うものが決まっているのが大きい。一度に入れるのは最大5人。そして、ボス部屋と呼ばれる5階層ごとにある強いモンスターがいる部屋も入れるのは最大5人。その後はまた扉があくまで待たなければならない。また、あるパーティー達が結束して、ダンジョンの中で集まる計画を立て、集まることは集まれた。しかし、そこに出てくるモンスターの強さが桁違いに上がり、ほぼ壊滅した。その事から、ダンジョンが生きていて、判断できる存在だと認識されており、中で違うパーティーに会ったとしても、挨拶するくらいで直ぐに別れるのが一般的だ。
「まだ三人なんだけどさ、僕入れて、、、それで、できたら愁哉にも、入って欲しいなーって思ってさ。勿論断られるのはわかってるけど、一度でいいんだ。僕達と一緒に冒険してみようよ!」
阿久斗は、扉越しで顔の見えない状態だったとしても、笑ってるのが分かるくらい声を弾ませ言った。
「ああ、いいよ。一度だけだ。それで、、、何も変わらなかったら、俺は学校を、辞める。」
愁哉は、何度も何度も来る阿久斗によって、自分が分からなくなっていた。本当にまだ何か空っぽの自分に残っているのか知りたくなっていた。そして、阿久斗達となら知れるのかもとも思っていた。だから行くことを決意し、これでわからなかったら諦める決意をした。
「うん。別に今日ってわけじゃなくて、またおちつ…え!?いいの?」
予想外の返事で阿久斗が驚いてる。
「でも、そっか。これで何も変わらなかったら、愁哉は、、、。わかった。じゃあ明日冒険に出ようよ!ダンジョンに行こう!詳しいことはまた連絡するよ!」
何時もの楽しそうな声で伝える事を伝えた阿久斗は「いろいろ準備しないと!」とまたまた楽しそうな感じで言葉を残し、帰っていった。
(俺も少しは準備するか。)
明日の事を考える愁哉の心臓は、その身を大きく揺らし主張をしてくる。
それは、恐怖からか、
はたまた別のことか。
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