9 稲葉晴信は匠人の自宅謹慎を知る
匠人に対し『お祓いに行こう』メールを送信する。いつもなら直ぐさま『送信完了』のメッセージウィンドーが出てくるのだが、今日のメールはなかなか届かなかった。特に電波状況が悪いわけでも無く、送信が難行する理由もよく解らない。
とうとう『メールは送信できませんでした』というメッセージウィンドーが出てしまった。
《ヤベえなぁ……》
明らかにいつもとは違う何かの力が働いている。
今日の匠人の登板はまず無いだろうが、カードとしてはノワール対マーベラスはまだ、あと二日ある。彼と接触できる機会は残されているのだ。今日か明日、直に会って話してみよう。
……、このタイミングで来てしまった。まるで計ったかのように、このタイミングで来てしまったのだ。【雨 廿】からのメールが。勿論着信拒否にはしてあるのだが、そんなことはお構い無しにサーバーに入ってくる。どうしても普通とは思えない。
『差出人:雨 廿
0:58
内容
お晩です。
デッドボールの影響は無いですか?
今日もノワール戦ですね。稲葉さんは終盤に危険球を投げられることが多いから、とても心配です。
強打者に対する内各攻めは基本だし、あまり気にせず頑張ってください。
それでは益々のご活躍、期待してます』
何の変哲も無い励ましのお便りだ。これの受信先がマーベラスやオフィシャルファンクラブのホームページなら全く問題無いのだが……、問題なのは、アドレスを教えていない何者かから、直に俺の携帯に来ているということなのである。
何か手掛かりになりそうなこと……、アンノウンの正体に迫り得る取っ掛かり……。探さなくては。
今日のゲームは対ノワール開幕三連戦の中日だ。退場を喰らった匠人はなぜかベンチにすらその姿は無い。どこに居るのかその所在をノワールの選手に聞いてみることにしよう。
ストレッチを終え、守備練習をしながら匠人の姿を探す。やはり居ないようだ。
守備練習から打撃練習に切り替わった今も、匠人はどこにも居ない。こうなるともう、ベンチから外されているとしか思いようがなかった。
自宅謹慎、出場停止。どちらであったとしても、開幕投手が開幕二日目でこれを喰らってしまうということは、余程目に余るほどの危険投球常習犯なのだということなのだろう。
匠人について聞くチャンスは、早くも初回からやって来る。ノワール、ノーアウト満塁。先発の田中が立ち上がり乱れるのはいつものことだが、今日は幾分酷すぎる。先頭打者から12球連続ボール球だ。
サードランナーの爪蕗に早速聞いてみる。
「なあ、今日匠人ってどうしたんだ?」
果たして結果は、予想通りの答えが返ってきた。
「ん? あいつなら、一週間謹慎だよ」
一週間。もう、このカード中には匠人に会えない……。
駄目だ。どうしても最近ゲームに身が入らない。結果は3タコ、スコアのほうも、14対3とボロ負けしてしまった。
全てが噛み合わない。運が悪い時はこんなものなのだろうか。出来ればセットでお祓いを受けたいところだったのだが、取り敢えずは俺だけで行ってみることにしておこう。