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6 小野匠人はマウンドで震えていた

 試合は何事も無く7回を終了した。本当に何も無い。両チーム通じてノワール4番の高沢が放ったソロホームランの1本だけ。信じ難い程にヒットすら何も無い。

 8回表、マーベラスの攻撃。まだランナーを一人も出していないため、4番の俺から始まる打順だ。開幕戦でパーフェクト。もし達成されたら、いったい史上何度目の大事なのだろうか。



 絶対に出てやる!



 本柳の事故死によって活力を取り戻した筈のマーベラスが、開幕戦でパーフェクト。そんな事を達成されてしまっては、ファンから【やっぱり本柳が居ないマーベラスはザコだ】というレッテルを張られてしまうことにも成り兼ねない。

 せっかく金食い虫から解放されたというのにそれが原因で集客率が落ちたとあっては、本末転倒甚だしい。こんな事態だけは、何があっても阻止しなければならなかった。

 バットを携え、打席へと向かう。

『4番、サード、稲葉』

 うぐいす嬢のコールが場内に響き渡る。スタンドからの声援を背に、俺は、スタンスをつくった。

 そして投じられた匠人の一球目。そのボールは、俺の懸念と匠人の記録達成を同時に打ち砕く。まるで吸い込まれるように、俺の頭へとすっ飛んで来たのだ。

 後方に身を引いて避けようとするも、140km/hを越えていたそのボールは、俺の動きに合わせるかのようにスライドしてきたのだ。いわゆる高速スライダーと呼ばれる変化球だ。

 結局避けきれず、ボールは俺の頭頂部を急襲、高く跳ね上がってバックネットにぶつかった。


 デッドボール。


 テイクワンベースのコールを受け、俺は一塁へと向かう。ボールがぶつかる瞬間本柳の惨劇が脳裏をよぎったが、今回は、不幸中の幸と言うべきなのか、倒れることも無く意識もはっきりしている。

 ぶつけた匠人は、マウンドの上でしゃがみ込んで震えている。明らかに【とうとうやっちまった】という感じの行動だった。

 今まで何の怪しいそぶりも無くいつも通り淡々と仕事をこなしていた匠人。あの様子からはとてもこの行動は想像できない。いったいどういうことなのか、あとでメールでも打ってみるとしよう。



 ここまで快調に飛ばしていたノワール先発の匠人は、俺へのデッドボールが危険投球と見なされ一発退場となった。後を受けた投手は、匠人がパーフェクトピッチングをしていたこともあって、例によってまた肩を作っておらず、結局マーベラス打線に捕まってしまった。その結果、4対1でマーベラスの勝ち。マーベラス戦に限ってノワールは、あらゆる意味で運の無いチームのようだ。



 ゲームが終わり、バスが俺達を乗せてホテルへと引き返していく。そのバスの中、俺は一人の男へとメールを飛ばしていた。試合の途中で俺の頭にデッドボールを喰らわせて一発退場となった小野匠人だ。

 この返信、このメールに対する匠人からの返信が、これからの俺の運命を大きく左右する。




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