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OGN-008


 生活というものは、意外と些細なことから変わる、そう実感している。開拓村から戻ってきて数日、ファリスとラコナちゃんの活躍により、いくつかの依頼を受けることが出来た。


 俺はと言えば、ファリスに手を引かれていくか、ラコナちゃんを上にのせて現場に行くだけだ。特にラコナちゃんを乗せていった時は効果はてきめんだった。


「今日もお仕事出来たね、お兄ちゃん」


「ああ、よかったよかった」


 これまでなら、都市の外で重い物を運んだりするぐらいだったが、今回は城壁内の仕事だった。新しく立て直す穀物庫の手伝いだ。大工が怪我をしたそうで、急遽その代役が募集されていたのだ。細かい装飾は本職に任せ、俺は角材を加工したり、職人と一緒にレンガを積んだりと……力仕事そのものは多いが、中身が随分と違う。


(ラコナちゃんに作ってあげた木彫りのオーガ人形が役に立つとはなあ)


 最初はオーガという俺に難色を示していた依頼人も、ラコナちゃんが宣伝だけさせてくださいって差し出した物を見て、ひとまずやらせてみるかとなってくれたのだ。あるいは、ラコナちゃんの魅力かもしれない……なんてな。


 今日はファリスは自宅兼事務所の掃除や片づけをお願いしている。料理は微妙らしいが、人並みに片付けるぐらいは出来るわ!なんて言い切っていたっけ。ここで任せないというのもなんなので、お願いをして現場にきているわけだ。


 体が大きいということは、それだけで役に立つことは意外と多い。建物を建てるうえでも、手が届く、支えられるというのは役目が多くなるのだ。他の普人や亜人と比べてでかいオーガはやはり目立ち、作業中も見学者が絶えなかった。その度に、オーガである俺の頭の上にいるラコナちゃんを見て驚いているのが印象的だった。


 重い物を持っての手伝いが出来るような力がないラコナちゃんではあるが、色々とみる目はあるらしい。簡単な魔法なら使えるようで、俺の頭の上で少しの間角材を固定したり、小さい物やロープを地上から浮かせるといったことは出来るので細かな部分の作業をこなしてくれた。


「おやつ、帰ったら食べような」


「うんっ」


 結局、休憩の時に食べる予定だったらしいお菓子を分けてもらい、満足そうである。赤鬼堂への帰還の最中、表通りから1本裏の……まあ、冒険者の類が良く通る道を歩く。さすがに表通りは騒ぎになりやすいからな、ラコナちゃんやファリスに説明させるのもまだ手間だろうと思ったのだ。


 と、途中で角が握られる感触がある。一応オーガにとっては重要な部分で、頭を下げるのは首と共に角を差し出す行為ということでオーガにとっては最敬礼に等しい。そんな角を手すり代わりに掴ませているというのも、オーガを知る人にとっては驚きなのかもしれない。


「? どうした?」


「えっとね……」


 上を向き、彼女の視線が向いた方を確認すると……数名のけが人。大怪我ではないが、苦戦したか逃げて来たか……そんな感じだ。恐らくは討伐に出かけていった冒険者の類だろう。そんな中には、ラコナちゃんよりは少し上、それでも子供のように見える普人もいた。


 角を掴む小さな手が、少し震えていた。自分を重ねているのかもしれない。ファリスと2人だけでは、遠からず同じように怪我をして、そして……そんな未来が待っていたことに頭の良い彼女のことだ、気が付いたんだと思う。でも、そんな不安だけが理由ではなさそうだ。


「……城塞都市の仕事は、限られるからな」


「そうだよ……ね」


 様子見の一言に小さく返事が返ってくる。そのままゆっくり歩きだしながら、この土地のことを考えていた。街道沿いは色々と対策が立てられ、獣や魔物の類はあまり出てこない、危険だと学習しているからだ。だからこそ都市同士の行き来や国が成り立つのだが、それでも無制限に人が暮らせる土地が広がっているわけじゃあない。この前開拓村で過ごしたように、そうでない場所の方が多く、危険は多いのだ。


 安全が保障された城塞都市。その敷地は広いがこちらもまた、無限に都市内部で人が養えるわけでもない。農業をするにも壁の外であることが多いし、どうしてもあぶれる人が出てくるのだ。そうなれば、人は外に出るしかない。誰でもなろうと決めたらなれる、討伐者、狩人とも評される冒険者に。


(一攫千金で郊外のダンジョンに向かう奴も結構いるが……クロスロードは例外だな)


 そう、外に出るしかないのは一般的な話で、クロスロードはまさに数少ない例外の都市だ。なにせ、都市内部にダンジョンを抱えているのだ。食料も、物資さえもやろうと思えばダンジョンから得られる。それが立地も合わさり、クロスロードが発展した理由だ。


「怪我が減れば儲けも増えるんだがな。そうなるには強くなるしかない」


「そっかー……あ、お兄ちゃん。治すお薬は高いの?」


「しっかりしたのは高いな。もっとも、効果の怪しい奴を使って戻ってこれなかった奴も結構いると思うが」


 実際、ポーションの類は意外とある。が、効果はピンキリである。材料自体はちゃんとしていれば効果自体はあるのだが、即効性なのか後からじわじわ効いてくるのか。試すまでわからないのが難しいところだ。効果によってはそのまま回復前に死ぬわけだからな。


「……よしっ!」


「ラコナちゃん?」


 上を向いた俺に、逆に下を向いてきた彼女との瞳が交差する。小さく、可愛らしい瞳。でも今日はその瞳に強い意思が宿っているように感じた。


「お薬作ろう、お兄ちゃん」


「……なるほど」


 そういえばポーションが作れるとか言ってたな。上手く行けば赤鬼堂の商品として売り出してもいい。3人とも出払ってる場合には婆ちゃんにお願いしたら店番ぐらいしてくれるだろう。なんとなく、婆ちゃんが売ってるほうが信ぴょう性が増す気がするのは不思議なところだけど。


 ともあれ、話が決まればやることは決まってくる。まずは機材! そして材料だ。機材はファリスとも相談だが……。材料の方はなんだか本末転倒だけどダンジョンに行くのが手っ取り早い。


「明日、さっそく採りに行こうか」


「やったー! お兄ちゃん大好き!」


 頭の上ではしゃぐラコナちゃんに、俺の胸にもどこか温かい気持ちが産まれるのだった。






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