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OGN-007


 開拓村での生活も三日目になった。今日は開墾の手伝いである。と言っても細かい作業は俺たちじゃ無くても大丈夫で、単純に人手が必要な部分と、そうでない部分に別れた作業となる。


「このぐらいでどうかしら」


「そうだな、ちょうどいいだろう」


 まずは木々を倒すのだが、そのために使う刃物は今回はちょっと特殊だ。ファリスにお願いして、魔法の刃を作ってもらったのだ。魔法自体は初歩的な物で、いつなくなるかわからないからあまり使われていない補助的な物。だけどこうして森を切り開く分にはかけ直せばいいだけなので刃物が痛まずに済みそうである。


「お兄ちゃん、がんばれー!」


「おう!」


 今日は魔物や獣の襲撃も少ないだろうということでラコナちゃんも見学に来ている。森には使えそうな薬草があるかもということで一石二鳥という奴だ。同じように木々を斬りにきた村人と相談し、木を選んでいく。相手が決まれば……俺の出番だ。


「悪いな」


 オーガは奪うことが多い存在であるが、森からは多くの物を貰っている。そのこと自体は感謝の気持ちを抱くことがある種族である。俺自身も、かつての記憶から来るあれこれも混ざって思わず、今から斬られる形の木に一声をかけてしまう。


 独特の輝きの刃を手に、斧を使うように叩きつけるとしっかりとえぐるように木にめり込んだ。単純に切り付けるのではなく、しっかり切り倒せるようにと角度も考えての一撃だ。そうして数撃繰り返せば、めきりと音を立てて木は倒れていく。


 後は枝葉を落とし、木材として利用するために村へと運ぶのだ。村の周囲の畑を広げ、安全を確保するために周囲にある森の木々をその対象として行く。ファリスはその傍ら、畑の周囲に溝堀をするために手伝いに参加している。故郷は田舎だったのか、作業は手慣れた物だった。


 気が付けばどんどん倒せるのが妙に楽しくなり、村人に請われるままに次々となぎ倒していった。何回もファリスに魔法をかけ直してもらうことになったが……役に立てるのが嬉しそうだった。土中の細かな石や根っこの片付け等は時間のかかることだから今回はいいとのこと。


 どの木も同じように枝葉を落とし、どんどんと回収していく。気が付けば日も傾き夕闇が近づいてきた。俺にとっては大した脅威にはならないとはいえ、村人たちはそうではない。きりのいいところで柵の中に戻ることにした。


「「大きな仲間に、乾杯!」」


 開拓村と言えば貧しく、余裕がない。俺の認識はそうだったし、恐らくそれはそう外れてはいない。けれども今日もまた、村は宴のように皆で食事を用意してくれた。作業の途中、俺たちが狩った獣などもあるせいだろうけど、それにしても……。


「なあ」


「ん? ははーん、オーガなのにこんなに歓迎されていいのかって思ってるだろう」


 そのものずばり、を言い当てられ思わず目を白黒させる。普人に見えるけど、心を読む魔法でも身に着けているのだろうか? そんなことを思い浮かべてる間に、背中を叩かれた。きつい環境にあるからか、普人としては鍛えられている体だけど俺にしてみれば撫でられたような物だ。けれど、不思議と……何か響いた気がした。


「確かに余裕はあんまりないし、これで明日からまたしばらくは貧しい生活さ」


 ならどうして、という言葉は目の前に出された酒の匂いが止めた。開拓村には許されている酒造。と言ってもろくな施設もないのでとても簡単な物だが、娯楽の少ない開拓村では限られた贅沢だろう。


 そんな貴重な物も、振る舞われている。


「俺たちだけじゃ、きつかった。でもなんとかなった、それが嬉しいのさ。オーガが来たのはそりゃ驚いたけど、あの嬢ちゃんたちが言うように、悪い奴じゃ無かった。確かに依頼金は安いが、だからと言って適当にこなすそぶりもなく、きっちり自分達に出来ることをしてくれた、そこにみんな感激してるのさ」


「そうか……」


 話を聞いていくと、ファリスやラコナちゃんは俺の知らない場所で、脅されていないか、とか騙されてないか、とか聞かれていたらしい。そうなるのもわかるので、苦笑に収まるがそれでよくもまあ、納得してくれた物だ。


 感謝を込めて視線を2人に向けると、ファリスは手を振ってくるし、ラコナちゃんはにっこりと笑顔だ。


「また、依頼するよ」


「……ああ」


 きっと村人たちはそうは言ってもオーガ自体は怖いんだと思う。それ自体はしょうがないことだし、むしろすぐに打ち解けて仲良く握手なんていうほうが彼らにとっては危ない。開拓村は警戒心が強くなくては生き延びられないのだから。


 話しかけて来た若者は勇気がある1人だな、と思いながら騒ぎの中に移動していく彼を見送る。と、続く宴の騒ぎの中、隣にファリスがやってきた。結構飲んだのか、白めの肌もどこか赤い。あるいは大きな焚火の灯りなのかもしれないが……。


「来てよかったわね」


「まったくだ。2人が説得してくれなかったらどうしようかとは思っていたけれど」


 実際、俺1人だったら最初の騒動の時点で逃げ出すしかなかったような気がする。よくて追われて……だな。ちゃんと依頼をこなせたのは特にファリスの説得のおかげだ。そのことを告げると、きょとんとした顔をされた。


「ふふっ、あんなに自信満々で戦い以外もやれるって言ってたのに」


「そ、それはだな」


 確かに力仕事は得意で、戦いもその例に漏れない。ただそれだけなのが嫌で、色々と特訓はした。道具さえあれば裁縫だって出来る。料理も、それなりに自信があるのだ。ただ、見た目だけはどうにもならなかった、それだけのことなのだ、うん。


 触り心地のよさそうな耳と尻尾を揺らしながら、ファリスがこちらを見上げてくる。やはり、こうしていると美人だなと思う。これはオーガ的感覚じゃなく、元日本人らしい感覚だと思う。コスプレと思うような違和感の全くない、1つの生き物としての綺麗さだ。


「でも、良いなって思ったわ。普人だから、獣人だから……オーガだからこうあるべき……そんなの、勝手に決められたことよね」


「ああ、そうだ」


 まさに、俺が里を飛び出した理由の1つがそれだ。野生児な生活に耐えきれなかったのもあるが、俺がオーガらしくない生活をしたいと告げた時の里の仲間たちの反応は今思い出しても少し悲しい。オーガには相応しくない、オーガはこう生きるべきだ……言葉には出てこなかったが、そもそも俺は何を言ってるんだ?という反応だった。


 ファリスもラコナちゃんも、もしかしなくても同じような何かを抱えているのかもしれない。少しだけ、横顔にそんな気持ちを感じた。


「戻ったら、ばりばり稼いで、お婆さんにお返しをしましょう。旅行とか」


「それいいな。婆ちゃん、温泉好きらしいし」


 意外なところから、また1つ目標が出来た。その後も語らっている俺たちのところへ、ラコナちゃんが突撃して来てまた騒がしくなり、村人も数名やってきて賑やかになる。


 こうして、俺と獣人姉妹、3人での赤鬼堂の初仕事は大成功に終わったのだった。


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