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OGN-005



「そうかぁ! 兄ちゃんも苦労してんだなあ」


「いやいや、こういった場所の方が大変だろう?」


 井戸掘りの後、俺たちは村人と急速に打ち解けていた。一緒に作業をしたからというのもあるかもしれないが、やはり獣人の姉妹、特にファリスの力が大きかった。事ある度に俺に声をかけ、答えさせるというのを繰り返した。


 言葉にするとたったそれだけだが、そうすることで村人たちの中にある、オーガに話が通じないといった誤解や、いきなり暴れ出すという思い込みを少しずつだが無くすことに成功したのだ。もっとも、あくまで俺がレアというか、特殊な奴だということになるのだが……実際、里の連中は日々のために生きてるし、深く考えないからな……。


「そうだなあ。だが、飯は美味い。働いた後だからな! 豆スープでも極上さあ!」


 酔った勢いなのか、本心なのか。それとも……そう言ってないとやってられないのか。どれも正解のような気がする。それだけ城塞都市から出ての生活はハイリスクハイリターンだ。一番の利点は、自分の土地が持てることだろう。どうしても限られる城塞都市での生活と比べ、管理やらなんやらは別にして開拓出来た分だけ自分の物なのだ。もちろん、後々近くの領主に土地ごと寄付し、自分たちは住む権利を貰うという形もあるようだが……。


 まずは食、そして住居。それが維持されるためには安全もいる。全部をやらないといけないのが辛いところだが、それでも普人は自由と未来を求めて外に出る。それが俺のような存在や他の亜人たちとは少し違うところだな。


「ねえ、タロー。あれ、売ってもいいんじゃないかしら」


「うん? ああ、そうだな。ここでも作れそうだ」


 不思議そうな顔をする村人に、自分が良く作る赤鬼印な団子の話を告げると、話の種にと作らせてもらうことになった。材料自体はどこにでもあるのだ、この村でも大丈夫だろうと思った。


 結果は……微妙だった。というのも、材料はあったが肝心の味が俺でないといけないことがわかったのだ。村人が作った物は……。


「普通、よね」


「美味しいけどお兄ちゃんのと違うなー」


 姉妹の言うように、まずいわけではなく普通に団子なのだが、なぜか村人が同じレシピで作っても味が違うのだ。そうなると、俺に原因があるのだろうか? よくわからない話だ。


 最初の予定とは違ったが、団子自体は乾燥させて後々食べるそうで無駄にならずに済んだ。




 大き目の納屋のような場所に泊めさせてもらい、翌日。今日は畑の様子を見るついでに間引きである。開拓村は森や林を切り開く。となれば元の獣や魔物とテリトリーがぶつかるのだ。それらを退治し、追い出す形で場所を得るわけだが当然反撃もある。繰り返していくうちに、すみわけが出来るようになるのだが途中、増え方に問題が出ることもある。間引きの理由はそんなものだ。


「取り返しに来たか、子供が増えて狭くなったか……どちらにしても、無駄にはしないさ」


「ねえタロー、本当にいいの?」


 まだ心配そうなファリスには手を振ることで返事とし、気配のする森の方へと歩き出す。ラコナちゃんは塀の上の見張り台でお留守番だ。別に一緒でも大丈夫なのだが、ああやって見守ってもらっていた方がやる気が出る気がする。うん。


 散歩にでも行くかのような気軽さで、森に近づく俺は既にその気配を捕えていた。10に届こうかという気配……ちらりと見えた影は狼のような姿。ここに来た時に畑に現れたのと同じタイプだろう。あのタイプは数が集まるとかなり厄介だ。街道を行く馬車でも護衛がしっかりついていないとやられてもおかしくない。


 普通の相手なら、な。


「我慢できなかったか……まあ、そうだろうな」


 相手も馬鹿ではない。俺というオーガの存在を感じられないわけじゃない。けれども、彼らもこの土地で生きている。ならば命同士のぶつかり合いだ。飛び出してきた相手を、今度は余裕を持って相手にすることにする。正確には、無駄にしないようにするために、だ。


 先頭で走ってくる3頭をぬいぐるみを掴むようにしてまずは仕留め、転がす。今度は破裂させような攻撃ではなく、毛皮も使えるようにという手加減した一撃だ。何回も聞く物ではない音と手ごたえ。


「ファリス!」


「いいわよ!」


 続けての相手を今度は掴んで放り投げるようにする。そして地面に落ちるまでに突き刺さる矢。声の通り、ファリスの放った物でしっかりと刺さり、その命を刈り取る。一気に半数が倒されたことにひるむことなく襲い掛かる相手を正面から受け止め、村のためになってもらった。


 村の有志と共に、森へと分け入っていく。このあたりの相手なら、村の人たちでもなんとかなるらしい。まあ、さっきみたいな数でなければ、だそうだが。


「オーガはもっとただ殴るだけだと思ってたよ」


「間違いじゃないな。俺はたまたま、そう……たまたま殴る以外の戦いも覚えたかったんだ」


 少し記憶も薄れてきた前世の記憶通りに、どこかで見たような姿勢を取って格闘の真似事。恵まれた体はそれだけでもなんだかよさそうな音を立てて手足が動くのだから面白い。そして、この体は力仕事だけではないのだ。


「タロー、上を見て」


「ん? おお、良い色だな」


 彼女に言われ見上げた先には、高い場所になっている木の実。かなり高い位置にあるのは、鳥に食べてもらうためじゃないかななんて思っているが、人にとっても美味である。手早く荷物から鍵縄を取り出し、太い枝に向けて投げ……上手く引っかけた。


 後はファリスに昇って行ってもらうだけだ。こういう時は重い俺よりも彼女の方が適任だ。結構この固定にはコツがいるのである、力だけじゃあ、駄目だ。オーガが力だけでなく、器用さも持ち合わせている証明でもある。ただ、発揮する機会に恵まれることはほとんどなかった。


「さて、間引きは多くて30ぐらいでいいんだったかな?」


「ああ」


 森は奴らの住処だ。だからこそ、歩いていれば勝手に向こうからやってくる。畑の安全確保に森を切り開くためにも、外に追い出す必要があった。


 その後も、俺の攻撃とファリスの弓により、怪我1つ無く間引きは予定数を確保することが出来た。


 そろそろ村に戻ろうかという時のことだ。離れた場所から咆哮。


「ファリス、村の人たちと一緒にゆっくり下がれ」


「わかったわ。タローは?」


 俺? そんなものは決まっている。迎え撃つのだ、咆哮の主……恐らくは熊を。


「なあに、赤鬼が熊に負ける理由はないさ」


 そんな声が伝わったわけでもないだろうが、下がり始めた村人と俺たちの前に、体躯だけなら俺に匹敵しようかという巨漢が姿を現したのだった。





 



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