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OGN-004


 腰をやや落とし、足元から手先までをひねるようにして力を伝えて金属棒を繰り出す。たったそれだけで、街道沿いに出て来た異形、俺の腰ほどの大きさのあるスライムは核を砕かれ、地面へと溶けていく。


「ふう……やはり、音が無いのは面倒だな」


「寝てる間にとか考えると怖いわよね」


 既にスライムだった物になっている相手に、やや怯えた様子のファリス。俺はと言えば、畑が荒らされるから面倒、という認識だが彼女にとっては襲われる相手という認識なようだ。恐らく、そのほうが正しい。


「だから遊んじゃ駄目だぞ」


「お兄ちゃんしってる―? これねー、ポーションの材料になるんだよー」


 スライムの残骸から器用に核のかけらを拾い集めるラコナちゃん。これまで使い道のなかったスライムに、そんな価値があったとは驚きである。だったら見つけたらすぐに倒そうかな。街道沿いには数がいないのが問題なのだが。


「じゃあ今度作ってもらおうかな」


「うんっ。色々必要だからそのうちねっ」


 さすがの赤鬼堂もポーションは作っていない。料理のためにあれこれはあるし、多少薬草を触るぐらいはするが本格的な物は無理だ。上手く行けばいい商品になるかもしれないな。


 と、そうこうしてるうちに依頼の村らしきものが見えて来た。木の柵に囲まれた集落、その周りの畑、と形自体はクロスロードと同じだ。恐らく柵の中にも畑はあるだろうが、緊急用だろうな。


「手が回ってないのかしら。森に近いわね」


「ああ。あれでは畑が荒らされやすい」


 人手が足りないということはこういう場所に出てくるんだなと我ながら妙なところに頷いていると、さっそく森の方に気配を感じた。獣か……魔物か。こちらや村を襲わないならひとまず放っておこうかと思った時だ。畑に人影……村人がいるっ!


「後は頼む」


「ちょっと!?」


 ここはファリスの弓にお願いしてもいいかもしれないが、接近して守ったほうが確実……そう考え姉妹を置いていく形で駆け出した。オーガは肉弾戦の鬼だ。ゆえに走ることも得意で俺の走りはまさに風を切った。


 森から飛び出してきたのは狼のような見た目のれっきとした魔物。まだ獣寄りの相手であるが普通の村人には厄介だろう。それが3頭。畑で作業をしていた村人……普人だ、は若い男女だった。彼らは魔物ではなく、俺に気が付き、そして驚愕の顔を浮かべて立ち上がったまま硬直してしまった。


「動くなっ!」


 それだけを叫び、2人のすぐそばに駆け寄りながら右手を薙ぐようにして振るう。既に相手は飛び上がっており、いつもの棒では倒しにくいと判断しての素手である。ファリス曰く、丸太みたい、と評される腕はそれだけでも凶器だ。


 結果、魔物だったものが地面に産まれることになる。


「怪我は無いか?」


 出来るだけ、そう出来るだけ刺激しないようにしたつもりだったが……失敗だったようだ。男女はこちらを見、青くなった顔のままついには叫び出した。


 そう、オーガが襲って来た!と。





「もう、こうなることわかってたでしょ?」


「悪い。放っておけなくってさ」


 それからは大変だった。悲鳴を聞いた村からは狩人らしき人たちが飛び出て来るわ、彼らには弓で狙われるわで散々だった。合流して来たファリスたちがなんとか声を荒げ、説得してくれたのだった。と言ってもさすがに魔物の返り血で汚れたままの俺は視線を集めるのに十分だったわけだが……。


「あの、ありがとうございました。これ使ってください」


「おお、助かる。すまないな、畑を少し踏んでしまった」


 案内された小屋で休んでいると、水桶を持ってきてくれたのは先ほど助けた二人だった。どうやらこの村に住む夫婦らしい。その後ろには杖をついた老人……まあ、お約束的には村長だろうが、やはりそうだった。


「そうですか、クロスロードで依頼を……あいにく、大した対価は出せない物で半ばあきらめておりました」


「そこにこんなオーガが来たんだ。無理もない。それで、依頼は書いてあった通りでいいのか?」


 返事は頷き。となると仕事は次の通りだ。


 ・村の周囲の魔物の間引き

 ・井戸の増設の手伝い

 ・開墾の手伝い


 といったところである。なんだかどれも力仕事が関係してるような気もするが、別に力仕事が駄目という訳ではないので問題はない。それに、ファリスたちの力を借りられそうな気もする。


 2人に視線を向けると、あちらもやれることを考えていたのか何度か頷きが返って来た。間引きは詳しい話を聞いてみないといけないし、開墾の手伝いといっても短期の依頼ではやれることは限られる。恐らくは畑の具合を一緒に見るなどになるだろう。となると俺は井戸、2人には開墾の手伝いで出来る物をやってもらいながら間引きの作戦を建てるのがよさそうだった。


「昼には一度戻ってくるということで」


「ええ、そうしましょう」


「ラコナはねー、お兄ちゃんと一緒かな。だって、みんなお兄ちゃんの事怖いでしょ?」


 最初は俺1人、姉妹で別れるつもりだったが……彼女の言う通りでもあった。となるとだ……いっそのこと3人で1つ1つ片づけた方が良いか?


 改めて考えなおし、3人で井戸の手伝いからやることにした。


 作業現場は村の一角。既に掘り始めているようだがなかなか水が出ないようである。やり方は俺の知っている物と変わりがないようだが……と、急にファリスがきょろきょろとしだした。


「タロー、ここは駄目よ。魔力の通りが悪いわ。水もよどみやすい。匂うのよ」


「そうなのか? 言われてみれば……」


 乱暴者のイメージがあるオーガだが、ただ肉体で暴れるだけの存在ではない。炎を出すとかはできないが、大きな魔力は持っており、それを肉体強化に使うことも出来る。そして獣人や普人の中には魔法を使える存在が結構いる。ファリスのそんな一人だ。この前の時は、疲労から使えない状態だったらしい。


 ふわりと、ファリスの足元から魔力が立ち上り……煙が風に負けて飛んでいくようにゆらりと消えてしまう。これが彼女の言う、通りが悪いということか。実際、俺も周囲を観察してみるがどこか、すっきりしない。


「掘るならこっちね」


 彼女が指し示すのはちょうど畑1枚分ぐらい違う場所だった。それで何が違うのかと思うところだが、意外と違いが出るのが井戸の怖いところである。村人は半信半疑といったところで、もろ手を挙げて協力してくれる様子はない。まあ、それはそうだろうな。


「お兄ちゃん、どかーんって掘れる?」


「ん? まあ、やってみるか。駄目なら埋めればいいしな」


 一応、掘ってもいいかを確認してからファリスの言う場所にやってくる。うん、確かに何か違う。上手く言えないが、何かある感じがするのだ。


 足先で確認し、しゃがんで地面を撫で……状況を確認する。角に力を巡らせ、それは体中に……うん、今日も調子がいい。まずは一発……そりゃ!


「ふんっ!」


「きゃっ」


 横にいたファリスが驚く声を上げ、こけてしまう。原因は俺が力一杯拳を地面に叩きつけたからだ。それだけで、地面には大穴とヒビ。村人も驚きの表情を向けてくる。だがここで終わりではない。何度も何度も繰り返し、最初の穴をあけていく。


 ある程度のところで掘りだしだ。里じゃ、こうして穴を掘る場所を柔らかくして、一気に掘ってかきだしたのだ。適当に板切れを借りると昔を思い出しながら作業を始める。姉妹も土をどけてくれるようだった。


 自然とそれは村人の目に留まり、せっかくやるなら自分達もと思ってくれたようで参加者が増えていく。多少硬いところは金属棒を突き入れ、同じように砕いては掘っていく。元々壁として使う予定だった板などを差し込み、底には俺以外にも数名の村人。そして俺が4人入りそうな深さになった時、足元がぬかるんだ。思ったより早い……!


「水が出るぞー!」


 すぐそばにいた村人もそれに気が付き、慌てて上に上がっていく。水源の具合によっては地下水脈に当たれば一気に噴き出してくることもあるのだ。俺も腰に縄をくくり、上で村人が持ってくれるのを確認してから最後のトドメとばかりに地面に棒を突き入れ……見事に水が出て来た。


「あはっ、ずぶぬれね」


「井戸の最初の利用者が俺で光栄ってなもんさ」


 地上で笑いあう俺たちを、一緒に作業していた村人たちも笑顔で迎えてくれた。まずは1つ……。





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