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OGN-003


 赤鬼堂、俺が前世……でいいのかな?な記憶から名付けた何でも屋の名前だ。なんとなくだけど、この方がしっくり来たのである。仕事は基本的に合法ならなんでもやる、を信条にしている。細かい仕事や、家事手伝いなんかも頼まれればやるつもりである。つもり……である。


「なるほど、力仕事ばかりね」


「丸太を100本……ふぇぇ……街道の穴埋めとか大変そうだよぉ」


「結局俺1人だとそうもなるかなって感じではあるんだが……うん」


 律儀にこれまでの仕事の記録を取っていた俺。それを見る獣人姉妹からの視線が妙に優しい物になったのは……気のせいだと思いたい。2人を赤鬼堂の従業員として雇うことが決まってすぐ、ひとまずはと職場となっている部屋に案内した。


 ずっと一人だったから散らかっているのを見、自然と片付けも始まったのだ。一通り人3人が動けるスペースを確保した後は、どんな仕事をしてきたのかという話となり、自主的につけていた仕事の記録を姉妹が読んでいるわけだ。と、2人の視線が動きっぱなしの俺の手元に集まるのがわかった。


 記憶から出来るだけ再現したキッチン。と言ってもコンロとかはないから薪による竈とかなのだが……そこには今、大鍋でお湯を沸かせている。そのそばで俺が目的の物を練っているという状態である。これを鍋に入れて湯がいてっと……。


「それは? なんだかいい匂いだけど」


「あ、ラコナわかるよ。お姉ちゃんがいくつも食べてたあれだよ!」


 いくつもはやめなさいよねっなどと顔を真っ赤にして叫ぶファリスと、そんな姉を見て笑うラコナを見ていると出てくる前も仲が良かったんだろうなと思わせる。そんな2人の前に、出来立てのそれ、団子を見せる。材料は色々だ。さすがにこの世界に稲作は無かった。野生のものは湿地帯にあるんだけどな……。


「食べてみていいぞ」


「そう? じゃあ……うん、ダンジョンでも思ったけど、美味しいわね」


「ほんとだー。ちょっと甘くてもっちりしてるー」


 2人の好評価に俺の頬も緩むのを感じる。赤鬼堂を始めて、唯一成功したと自慢できるのはこの団子だ。材料自体は安いのだが、なぜか美味いのである。転生前も手料理には自信があったからあれこれといい影響が出てるのかもしれない。


(赤鬼印のタロー団子ってシャレが効いてるよな。退治される方じゃないんだが)


 この世界に俺以外に日本の記憶を持つ奴がいたらどう思うだろうかと、自分の姿がおとぎ話の赤鬼に近いことを思い出し、顔には出さずに一人そんなことを考えた。


「で? 仕事をとってきたらいいのかしら」


「まあ、そうなんだがそう簡単にはいかない……でも今のファリスなら行けるかもな」


 恐らくだが一部の方面にはクリティカルだと思う。しっかりと着飾った姿はどこかの令嬢ですと言われても俺は信じてしまいそうだった。


 その視線に気が付いたのか、顔を赤くしてもじもじしだす姿もいいんじゃないだろうかって怒られそうだ。


「変かしら?」


「そんなことないぞ。婆ちゃんも物持ちが良いなって思ってな」


 そう、今彼女が着ているのは婆ちゃんが出してくれた物だ。なんでも若い頃に着ていたそうで、デザインは少し古いかもしれないけど……なんて言ってたな。俺にはよくわからないが、女性目線で言うとそこそこ高いのか、少しファリスと婆ちゃんとがもめそうになっていた。最終的には稼いで返してくれれば、ということになった。


(胸が少し余るとか言ってたな……さすが元サキュバスといったところか。婆ちゃんおそるべし)


 と、視界にくるくる回る物が。視線を向けると何か言いたそうにこちらを見ながら踊るように回るラコナちゃんだ。そんな彼女の服もダンジョンで出会った時とは変わっている。こちらも婆ちゃんの……って本当に物持ちが良いな、うん。そんなことを思いながら、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。小柄な彼女の頭は俺が撫でるとすっぽり隠れるぐらいで……いや、うん。ファリスが驚いてみるのもわかる気がする。


「わふっ、えへへ、似合う?」


「うんうん。その服のためにも稼がないとな」


 そうなのである。俺一人ならまあ、色々やりようがあるが3人となればまた話が変わる。しっかり稼いで、自分の目標でもある赤鬼堂の繁盛を目指さねば。オーガだからって肉体仕事ばかり、使い捨てのように使われるのはちょっとな……うん。


「結局、オーガというのが問題なんだよな。歳も少しとってるしな。町中でいきなり受けるのは……正直厳しいかな」


「なるほど、それで仕事があってもああいうのばかりなのね」


「お兄ちゃんかわいそう……何もしないのにねー? それに、おじさんじゃないよー、あぶらがのってるっていうんだよね」


 お手製のでかい椅子に座る俺をラコナは背伸びして撫でてくれる。うう、いい子だ。それに、ファリスも真面目に考えてくれている。二人ともいい子である。二人のためにも赤字だけは勘弁したい。


「ねえ、ここに来る時に見かけたけれど、開拓村とか、城壁の拡張案はあるのよね」


「恐らく、いつでもな。……ふむ。そういうことか」


「ええ。一度きりじゃなく、継続的なお話ができない物かしら? 皆の中のオーガ全体への意識を変えるのは難しいけれど、タロー1人なら……」


 同じ力仕事でも、次につながりそうな、ただ力を使うだけじゃない仕事はどうかということか。俺も目の前の仕事を得るのに必死でそこまで考えにくかったな……これに気が付けただけでももう、ファリスが一緒にいる価値がある。


「色んな意味で顔なじみの衛兵がいる。付き合ってくれるか」


「ラコナもいくー!」


「話は早い方がいいわね」


 そうと決まればと、3人で街に出て……ざわめきが襲い掛かってきた。いくらかは好意的な物もあるが、多くは疑惑のざわつきだ。俺は慣れた物だが……二人はどうだろうか。


「お兄ちゃん、いこ?」


「そうね。長居はしたくないわ」


 表情を硬くする2人に引っ張られるように、城壁へと向かう俺に向けられる視線は今日は良くない物が少し少ないように感じた。もしかしたら、2人が一緒ということで効果が出てるのかもしれないな。


 いつも少し暗い気持ちだった道も、今日はどこか明るく感じた。



「なんだタロー、何か壊したのか?」


「いや、そうじゃない。実は……」


 彼はクロスロードに最初にたどり着いたとき、ある意味不幸にも最初に出会った衛兵だ。それ以後、何か俺のせいで騒動が起きる度に呼ばれている。力加減を間違えて壁に穴をあけたときとかには随分とお世話になったものだ。


「あー、なくはないぞ。つっても、あんま儲かるとは思えんが」


「それは俺もわかってるさ。開拓村の実情は?」


「あまり良くはない。魔物がいないわけじゃないからな」


 そういって建物に引っ込んだかと思うと、すぐに紙束を手に取って出てくる。どうやら話自体はそこそこあるようだ。でもこれだけ残ってるということは……理由がある。


「私、相場は知らないけれどかなり安いんじゃないかしら?」


「お兄ちゃんのお団子買ったらすぐ無くなっちゃう……」


 遠慮のない獣人姉妹の言うように、依頼という形にもなっているか怪しい陳情書のようなそれらは費用のかけられない中身があふれそうだった。だが、そこが狙い目だ。


「やれるものは受ける。二人とも、手伝ってくれるか」


「ええ、いいわよ」


「えっとね、えっとね。ラコナも頑張るよ!」


 どこでこんなかわいい子達を捕まえて来たんだよ、なんていう衛兵のつっこみを受け流しつつ、近くにある開拓村からの依頼をいくつか手にする。と言っても魔物が怖い、物資が不足気味、等と緊急性があるかは怪しい物ばかりだ。1つ1つが積み重なり、あまり良くない状況になっているわけだが……。


 ただのカンでしかないが、どうにかなるような気がその時はしたのだった。



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