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OGN-028


 獣の襲撃は続く。まるでクロスロードの中、あるいは反対側に何かがあるかのように一心不乱という様子で突っ込んでくる状況は普通ではない。段々と城壁の外側に獣の死骸が増えていく。


「食べる様子もない、か」


 誰かのつぶやきが耳に届き、俺も壁の上でその不思議な光景を見つめていた。あちこちにある獣の死体、普段ならば肉食の獣たちがそれに食らいつくのが当たり前だ。だというのに、見向きもしないのだ。


 開拓村に来たという兵士の姿はまだ見えない。間違いなく他の都市、あるいは他国の兵士なのだが……ちょっかいを出しただけで帰った? この世の中、城塞都市とその傘下の開拓村に手を出すということは、どう考えても宣戦布告に等しい。半端にやることはないはずなのだ。


 太陽が少し傾いたころ、ようやくというべきか獣たちの襲撃は緩んだ。射かけられた矢、飛んできた石におびえるように獣たちが帰っていく。残るのは色んな種類の獣だった死体たち。集めて利用するにも……どうだろうな。


「タロー、燃やしてあげた方が良いかしら」


「回収してるときに何かあっても困る気はするな。それでいいだろうか?」


 念のため、周囲の兵士や冒険者達に確認を取ると、ほとんどの人は賛成だった。中には門に近いのぐらいは回収していいか?と聞いてくる人がいたので、サンプルついでにそれだけを回収する。残りはどこかに集めないといけないかなと思っていると、壁の上にファリスが立っていた。クロスロードにいた魔法使いたちも横に一緒だ。みんな、同じように外を向いている。


 と、風が吹いた気がした。


(これは……魔力の流れ?)


 風と思ったのは、ファリスたちに集まる魔力の流れだったのだ。実際の風とも違う不思議な感覚を味わいながら、彼女たちの行動を見つめる。


 ポウと、最初に1か所。続けて小気味よい音を立てて炎が獣たちの元に現れる。吹き飛ばすようなものではなく、ただ燃えるだけの炎。後で聞いたところによると、決まった場所に炎を出すのはそう難しくなく、それなりに簡単だそうである。まあ、戦闘に使える魔法となると難易度が上がるのは容易に想像できる。


「けが人はいるけど、死亡者は無し、か」


「みんな元気になるといいねー」


 一度赤鬼堂に戻り、炊き出しもどきとして団子他を提供しつつ城壁の近くに待機していた。ファリスたちの炎がまだ燃えているからだ。まるで鎮魂の送り火だな、なんて感想を抱きながら念のために外を見張っていた時のことだ。


 もう夕暮れだというのに、動く影がある。


「ファリス! 見えるか!」


「っ! 人よっ!」


 人、と来たもんだ。まだ普人なのか亜人なのか、はたまた人の姿をしたナニカなのかはわからない。俺たちの叫びをきっかけに、城壁に数名の兵士達が駆け寄り同じ方向を見る。時間が過ぎる度に見えてくるのは、確かに人だった。


 弱くなってきた太陽の光は大地や森を赤く染め、歩いてくる何かをも平等に照らす。見えてきた姿は、なんとも言い難い物だった。普人かはともかく、ひどくぼろぼろに見えた。かろうじて引っ張っている荷台にはなけなしの物資と子供なのだろうか? 小さい影もいる。


「開拓村の連中か? おい、領主様に連絡を!」


 兵士の1人が叫んだ時、街の中央からざわめきがやってくる。振り返れば見えるのは、ある意味予想通りのラジエル、つまりは領主本人だ。護衛の兵士を引き連れて、である。


 駆け寄る兵士からの報告を受けたラジエルは、開門を命じた。そのことに少々驚く。確かにここでさらに何かが襲い掛かって来ても対応は出来るだろうが、安全よりもやってくる人々の確認を優先するらしい。


「報告にあった開拓村の人間であれば、話を聞いておきたい」


 そういうことらしかった。であればと、俺はファリスに相談し、彼女にはしっかりと耳と尻尾を隠してもらう。そうしてラジエルの近くにいてもらうことにした。男だけでなく、戦えない(ように見える)少女がいたほうが緊張はほぐれると思ったからだ。


 俺は少し離れた場所でラコナちゃんを背負ったまま待機していた。まあ、俺はどうしていようと目立つ。ならばあまり近くにいるとプレッシャーかもしれないもんな。


 そして門にたどり着いた人々は、怪我もしているようでぎりぎりといったところだ。兵士達に事情を告げているのか、涙交じりの声がここまで聞こえてくる。ラジエルはそんなやり取りに頷き、まずは女子供からという感じで荷台から降ろされ、兵士に連れられて行く。


 後に残った男連中との話し合いが始まったようだ。俺も刺激しないようにしつつ、徐々に近づいていく。


 男たちは兵士から逃げていたのか獣から逃げていたのかはわからないがあちこちぼろぼろだ。よくもまあ生き残ったと思う。恐らく、犠牲者は出ているんじゃないだろうか?


「……あれ?」


 話し合いがどう転がるのかと見守っていた時のことだ。ラコナちゃんが声を上げた。顔を少し後ろに向けて、確認すると小さな顔にシワが寄っていた。


「お腹空いたか?」


「ううん。お兄ちゃん……変だよ。一人だけ、引っ越してきたばかりだったのかな?」


 最初は何を言ってるのだろうかと思った。が、彼女の指さす先にいる避難して来た人々。彼らをじっくりと観察していき……。


 瞬間、俺はラコナちゃんを置いて一気に移動していた。ラコナちゃんにしてみればいきなり俺が転移でもしたかのように感じたんじゃないだろうか? そのぐらい全力で、地面をけった。


 わずかに遅れて轟音が響き、同じくして軽い金属音が耳に届いた。


「なっ」


「……補修代は出ないぞ?」


 驚いているのは避難して来たうちの一人の男。呆れた様子で答えるのは領主ラジエル。そして俺は、手元で防いだ妙に造りの良いショートソードを見る。男が持ちだした荷物を入れている風に装った袋からつかんだ刃物は俺が突き出した魔鉄槍に防がれたのだ。


「後で直しますよ。この綺麗好きな開拓民もどきを捕まえたらね。おおっと逃がすかよ!」


「風よ!」


 襲撃が失敗したと見るや、無理やりに逃げ出そうとする男。その手には畑仕事のマメも痛みもなく、よく見れば顔も服も汚れは染料だ。それが意味することはただ1つ!


 動きはそこそこいいようだが、ファリスの援護射撃である突風に足を取られ、転げる。そうなれば事態を理解した兵士達が即座に捕縛、である。さて、尋問の時間か。




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