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OGN-026


 目の前に鋭い一撃が迫る。前もって予想していた俺は数歩下がり、しっかりと回避し……敵である巨大なミミズ型の魔物に魔鉄槍を突き出した。頭周辺以外は意外と柔らかい相手にはそれは致命傷。体液をまき散らしながら息絶える姿を見る。


「今日はコイツが多いな……そういう区画か?」


 松明の揺れる炎に照らされた姿はややグロテスク。食べられる個所も、使える部分もほとんどないので特に回収はしない。前に進んでいくと、どこに隠れていたのか暗がりから小さな人影のようなものが沸き立ち、俺が倒した魔物に群がっているのがわかる。きっと自分たちの食事にするのだろう。湧き出てきたのは、外ではゴブリンと呼ばれているタイプの魔物の少し小型の物。


(相変わらず何をしゃべってるのかわからないな。そもそも話してるんだろうか?)


 外で交流のある亜人たちと比べて、その違いに一人考えを巡らせる。魔物と亜人たちの大きな違い、それは理性があるかないか、話し合いが出来るか、そういったところにあるとされている。


 なら……理性を失い、ただ暴れるだけになった亜人は魔物と扱えばいいのだろうか? それとも亜人のままだろうか? 何かの方法で交流できるようになった魔物は、接し方を変えるべきなのだろうか?


「っと、独り言が増えるな。前はこんなことは無かったのにな……」


 正直、赤鬼堂を始める前、あるいは始めてしばらくは黙々と潜っていたように思う。と言っても持って帰られる量には限りがあるし、販売する伝手もなく……どちらかというとストレス解消のためだったように思う。オーガの力を使った戦いばかりの仕事が嫌になっていたというのに、結局はそうしていないと落ち着かない自分。


 ふとした拍子に、料理だとかを思い出すようにやってみたのも最初は逃避だった。でも今は……そうではない。今日は赤鬼堂で留守番と、ポーション作りなどをやってもらっている獣人姉妹のおかげで俺の人生、じゃないやオーガ生も彩に満ちている。


 誰かと笑いながら食事をして、誰かと一緒に何かを頑張る。なんでもないようなことが、やっぱり大事なんだなと思ったりもするのだ。


「お、あった……あれか」


 そんなことを考えているうちに目標のブツを見つける。浅い階層でラコナちゃんが喜ぶようななぜか日の当たる泉のある場所。それに似たような、ぽっかりと天井に穴の開いた行き止まり。そこにあるのは、1本の木だった。熟練の木こりならばたいした時間をかけずに伐採できそうな物。


 最近見つかった不思議な木で、通称はジュエルツリー。とはいえ、宝石が取れるわけではない。カラフルな実をつけており、それらは皆別の味であるというのだ。甘かったりしょっぱかったりするらしい。まだ採取したことは無いが、上手くいけば塩とかを抽出できるのでは?と考えたのだ。


 ダンジョンの中に塩?と思うところだが、なぜか武具が箱に入ってる世の中だ。不思議な植物の1つや2つ、あってもいいんじゃなかろうか? それに面白いのは、前はこの木の話は無かったのだ。このクロスロードに限らず、途中で一度ダンジョン内で見つかると構造は変わってもその要素は見つかるということ。最初はあの宝箱な奴らもなかったそうである。ダンジョンの成長ということだろうか? 研究者ではないのでよくわからないが、便利なら良しと思うことにしている。


「商売にするには量がないからな、自分達で楽しむようにっと」


 別に取りすぎ禁止とかは決まっていないので思うままに取っていく。便利な赤鬼袋に放り込んでいけば新鮮なままのはずである。しょっぱいのに甘いのに……辛いのもあるな。にがっ!? これはこれで……。


 一通り採取し終わったら地上に戻ることにする。俺一人でも探索自体は問題ないが、別に探索のために来ているのではないし、あくまで赤鬼堂をやっていく上での要素の1つしかないのである。


 さすがに手ぶらでは色々と怪しまれるので、適当にカウドンの小さいのを狩り、抱えて持って帰ることにする。帰り際、珍しく冒険者の残していった荷物を見つける。血痕だとかは見当たらないので、奇襲を受けて置いていったというところか……荒らされてるのかぼろぼろだな。これも適当に持ち帰る。


 問題なく地上へと出た俺は、持ち帰ってきた冒険者の荷物からもう食べられない状態の食料をゴミとして処分すべく外壁近くのスライム堀に向かう。ここはいわゆる下水、トイレなどの代わりなのだ。スライムは基本的に色んなものを食べるように取り込んでしまう。とはいえ、石とかは食べられないし、一部の種類を除けば崖を昇るような真似は出来ない。というわけで堀で飼うような形が可能なのだ。


 見た目はアレだが、池でコイに餌でも上げているかのように投げ込んだゴミに群がるスライムたち。まだ明るいからいいが、これで夕方とか暗くなってきた時だと……まあ、考えるのは良そう。


「ん? 騒がしいな」


 ふと、門のそばで騒がしい気配がした。人並みに好奇心のある俺は思わず顔を出してしまう。大体ここに来るのは他の都市との交易をおこなう商人か、外に討伐なんかにいく連中か、外壁近くにある畑にいくやつぐらいなもんだ。一体何が……あれは!?


「バラッシュ、大丈夫か!」


「タローか……見ての通りさ。死人がいないのだけは救いだな」


 そう、思わず駆け寄った先にいたのは、魔族の青年バラッシュとその仲間たち。以前、魔族の少年の成人パーティーに料理を作った際に見たことがある連中ばかりだ。領主にも認められ、この都市で働いているはずだ。何人かは腕っぷしを活かして外での仕事をやると聞いていたが……どうも普通に失敗したのとは違うようだ。


「危なそうなやつには使ってくれ。何があった?」


 隠し持っていた風を装い、ラコナちゃんお手製のポーションをいくつか掴んで渡す。直接治すタイプじゃないから気休めにしかならないかもしれないが、怪我だけじゃないなら意味があるだろう。


 さっそくとばかりに飲む彼らを見ると、先ほどまで痛みにかゆがんでいた顔も多少よくなったような物になっている。気のせいかもしれないが、元々浅黒かった肌がどす黒い、と言えるものだったように見えたがそれも戻ってきている。毒を使う相手に出会った……ということか。


 門番たちも何が起きたかと興味津々、助けも呼んでくれたようだ。


「何が、か。正直よくわからない。依頼を受け、北の森で開拓村のためにと周囲の魔物や危険な獣の討伐を行っていたんだ。倒した後は好きにしていいってことだったからちょうどいいと思ってな」


 確かに討伐依頼のほとんどは倒した後は素材として、あるいは食料や毛皮などに使うのは自由なことが多い。生活のためと、そういった依頼を好んで受ける奴もいるからな。とはいえ、逆にそういう仕事は危険と隣り合わせ、命の危機がある。そして、その場合はこうして帰ってこれないこともよくある話だ。


「仕事自体は無事に終わって、村への報告を済ませた後だった……どこからか鎧を着こんだ普人たちが来た。随分と高圧的な態度で村長たちに何かを言っていたが、そのうちに俺たちを見てこういうんだ。この土地は普人の物だ、ってな」


 そうして切りかかられたという。慌てて逃げ出すも、追い打ちをかけるように矢を放たれ、何本かは刺さり今にいたるという。矢じりに毒でも塗られていたのか、調子が悪そうなわけだ。


「……この土地は普人の物だ、そう言ったんだな?」


「ああ……間違いない。亜人に頼るとはどういうことだと村長に詰め寄っていた」


 ぎりりと、自分の歯ぎしりの音が聞こえた。まだ確証は持てないが、その話の通りなら……危険は近い。顔をあげて門番たちを見ると、相手も同じ考えに至ったようだ。この都市の門番は領主の考えに全面的に同意できる奴だけがなるという。となれば今の話の危うさもわかるわけだ。クロスロード領主、ラジエルは亜人を差別しない。むしろその力をうまく取り入れて発展できればいいとさえ思っている。


 つまり、開拓村にやってきてバラッシュたちを襲った連中は別の都市のやつということだ。


「赤鬼堂で手当てを受けてくれ。ついでに二人と婆ちゃんにそのことを!」


「お、おう」


 門番の1人と共に駆け出す。向かう先は……領主の館。遠慮なしに大通りを走る。一番早いのがこのルートだからだが、人々が驚き道を開けてくれる。少しばかり揺れるかもしれないがごめんな!


 そうしてしばらく走ればすぐに見えてくる領主の館。ここの門番も新兵という訳じゃあない、音を立てて走ってくる俺に驚き、最初は槍を構え……俺と後ろに走ってくる兵士に気が付く槍を降ろしてくれた。


「領主へ取次ぎを! 都市の危機だ!」


「その必要はない。ここにいるぞ」


 門番が迷っているところへ、ラジエル自身の声が飛び込んできた。そちらを向けば、護衛を従えた状態で歩いてくる領主ラジエル。


「上からな、たまたま見えた。大地が揺れたかと思うほどだったな。それほどのことか」


「ああ。実は……」


 門で聞いた話と、それから考えられることを告げると、ラジエルはあっさりとそれを信じて各所へと指示を出し始めた。都市同士の戦争……その可能性と防衛の指示を。


「赤鬼堂に依頼をしたい」


「前線に行けと?」


 予想される、一番あり得ることを口にすると……彼は首を横に振った。これまで、オーガの力を利用して戦争もどきをする連中は多くいた。けれども、彼はそうではないという。


「わかり切った札は切り札にはならない。使わない切り札、というものもあるのだよ」


 ラジエルからの説明を受けた俺は、返事の代わりに彼と力強く握手を交わすのだった。


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