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OGN-025



 周辺地域でも一番の賑わいを誇る城塞都市クロスロード。敷地内にダンジョンを1つ、管理下にしているという特殊な状況と流通の要となれる立地、それを担うだけの人口が支えていた。


 そんな都市で、オーガに転生した俺がたどり着いたのは偶然か、それともいるかどうかも知らない神様のおかげなのか。出来れば運命なんて言葉で片付けたくはないところだが、最初は1人で始めた何でも屋の赤鬼堂。偶然から出会った獣人姉妹のファリスとラコナちゃん。狐な姉と狸な妹というもふもふのたまらない2人とで今日も仕事をこなしている。


「おとどけものでーす」


「おお、無事に届いたか」


 今日訪ねたのはクロスロードでも防衛を担当している騎士みたいな人の1人。やってきたのは……領主の館というか砦?な一区格である。俺達以外にも物資を運びに来た商人らしき相手もいる。彼らはすぐに戻っていった。彼らには真面目な態度のわりに、着飾りすぎない程度に身なりを整えたラコナちゃんの姿には甘い感じを受ける。


「裏に回ってくれ」


「いきましょ、タロー」


 頷き、馬代わりに引いてきた荷台をここまでそうしてきたように引っ張っていく。ゴムタイヤなんてないから外では揺れるのはしょうがないが、クロスロードの都市内部はほとんど問題ない道ばかりである。大事に使っていればその道沿いの住民にお金が支払われている補修代の余りを使っていいとなっているため、誰もが気を使うのだ。


 ともあれ、裏手へと周り荷台から木箱を運び込む。普人の大人数名でやっとであろうものを俺一人で運ぶ物だから視線が集まってくる。オーガだからな、このぐらいはお手の物だ。


「例のブツはどちらへ」


「うむ。こちらへ頼む。しかし……本当にあるのだろうか? にわかには信じられ……なんと」


 今回運んできた木箱の中身は諸々の物資。ただし、それ自体は普段から買う程度の物で実は囮である。本命は……今取り出した木箱だ。風船が膨らむかのように出現する木箱は先ほどまでは間違いなくなかった。俺の腰にある一見すると古ぼけた袋の中にあったのだ。


「中身も……おお、問題なさそうだ。領主様も喜ぶだろう」


 その後も本命側の物資を倉庫へと運び込み、仕事が終わる。報酬を貰うところだが、今回は別の物を貰って赤鬼堂へと戻るのだった。


 外から見ると、普通に荷台で荷物を運んできて終わっただけの仕事。けれども、その実態はクロスロードが仕掛けようとしている作戦の一環である。何者かが、クロスロードへと魔の手を伸ばそうとしているのだ。物資を着服し、私腹を肥やしていた者もいた。北の土地へとつながる道もあった。色々と見えてくるものがあるのだが……。


「私たちが動くべきかどうかは別の話よね」


「ああ。クロスロードに味方はするが、それだけさ」


 まだ全容は見えてこないし、相手がどういう相手なのかもわからない。こんな世の中だ……攻めて攻められはありえる。全てを治める王、がまだ世界にはいないし、今後も多分出てこないだろう。北に見える山の向こうには、別の国、別の都市があるはずなのだ。そうなれば世の常として……領土を奪う戦争だってあるかもしれない。


「とはいえ、今は自分たちの人生を楽しもう!」


「たのしもー!」


 別に勇者として魔王を倒すべく転生したわけでもない俺にとっては、お世話になってる婆ちゃんにも楽をしてもらいたいし、獣人な姉妹とも仲良く過ごしたい。何より、オーガの野性的な生活にはもう戻りたくないのである!


「それで報酬はコレにしたの?」


「そうだ。やはり高い物だからな」


 今回の物資輸送の報酬に、俺はその物資から分けてもらうことで交渉した。それは、砂糖。お金で買ってもいいのだが、そうなるとやはり高い。大量に買い付ける中から分けてもらう方が安いと思ったのである。結果、自分で買うよりも多く貰うことが出来た。白身が少ないが、立派に砂糖だ。


「あまーい!」


「ちゃんと保管しないといけないわね……って何してるの?」


 返事の代わりに、本来の用途は別であるお玉に砂糖を乗せて……そう、飴作りである。本当は重曹でもあればいいんだけどこのあたりでは見ないんだよな。作るにも方法がよくわからない。それらしい温泉でも見つかると良いのだが。


 最初が疑問を口にしていたファリスも、お玉の上で変化する砂糖に目を奪われているようだ。ラコナちゃんは……なにができるのー?といつもの笑顔。そんな彼女たちの前にさっそくとばかりに茶色がかった飴を差し出した。


「器用よね、オーガの癖に」


「はっはっは。誉め言葉だな」


 実際には前世な知識から適当に再現してるに過ぎない。厳密な分量なんかはやってみないとわからないから立派なお菓子は作れないが、真似事ぐらいなら出来る。その後も小麦粉なんかはあるので思いつく限りのお菓子類を再現して見せる。


「くっ、タロー! 私のお腹にどれだけの攻撃をしたら気が済むの!?」


「そうだな……恥ずかしくて外に出られないぐらいかなあ?」


「ラコナ、後で食べる……」


 少々やりすぎたようである。なまじ火の方はファリスに頼めるものだから調子に乗って簡単なクッキーだとかも作っていったら思いのほか好評だった。赤鬼袋、まあゲームで言うイベントリな袋が身に着けて魔力を吸わせてる限り中の時間も止まるらしいことも幸いである。卵なんかを放り込んであるのでいつでも新鮮なままなのだ。


 いつの間にか、晩御飯がいらないぐらいの量を作り、食べてしまっていた。それでも砂糖自体は十分在庫があるので輸送の仕事がそれだけ重要視されていたと言えるのだ。まあ、中には貴金属の類も多かったからな。


こんな仕事を任せてくれるとは、何でも屋としてはとんでもないことだと思うのだ。クロスロードの領主、ラジエル……予想以上に俺たちを信頼してくれてるみたいだけど、どうしてだろうか? 何回か出会うことはあっても、そこまで親睦を深めた覚えはない。持ち逃げを考えないということは無いと思うのだが……。


「甘ったるい匂いがすると思えば……そろそろ片付けな。夜も近いよ」


「あ、婆ちゃん」


 俺が赤鬼堂を始めるのを手助けしてくれた人であり、ずっと亜人や変わり者が泊る宿屋を経営している婆ちゃんである。一見普人に見えるけど、元サキュバスだという。どこまで本当か……まあ、それはいいのだけど。


「タロー、今度は甘くないお茶うけでも作っておくれ」


「わかった。せんべいでも作るよ」


 そんなやり取りの後、軽く食事をして夜。明日からの仕事の準備をしながら時間を過ごしていた。


 月明かりと、ファリスの用意してくれた魔法の灯りを使いあれこれと簡単にだが確認と準備だ。少しばかり面倒だけど大事なことである。ふと手を止め、窓から空を見る。今日は随分と月明かりが強い。


「月が大きいな……」


「嫌な大きさだよ」


 独り言に、返事があった。驚いて振り返れば、部屋の入口に立っていたのは婆ちゃんだ。もう寝る前なのか、飾り気の全くないゆったりした服だ。ゆっくりした動きで部屋に入った婆ちゃんは俺の横に立って空を見る。なんとなく、その顔には皺以外があるように見える。


「時々……本当に時々だけどね。こうやって月が大きい時には世の中が騒がしくなる。魔物が大量にあふれたり、戦争が起きたり。タロー、心に従って生きるんだよ」


「……わかった」


 預言者のようなつぶやきを茶化すことも、否定することも出来ずに、その時の俺はただ頷くだけだった。



大体30話ほどで区切りの完結となります。

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