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OGN-024


「腕輪にベルト、指輪が複数と……見事にサブ装備だな」


「武器だと奪われたりした時に一気に戦力が下がってしまうもの、ちょうどいいんじゃないかしら?」


 そろそろ帰還した方が良い時間まで、と決めて俺たちはダンジョン探索を続けた。食料は赤鬼印な団子を持ちこんでいるし、水はファリスの魔法でなんとかなる。一人で潜っていた頃を考えれば、見張りもある程度分担できるだけで随分と楽だ。


「ぴっかぴか、ぴっかぴか。はい、綺麗になったよお兄ちゃん」


「ありがとう。うん、思った通り良い物だな」


 ラコナちゃんには見つかった物を清掃してもらっている。ただ拭いてもらったのではない。俺の角を利用したちょっと特別な水を使い、薬でも調合するかのように作業してもらったのである。結果としては、上々。やや劣化していたように見える道具たちの元の……いや、わずかに元より質の良くなったように感じる輝きを誇っていた。


「じゃあこれはラコナちゃんで、こっちはファリスだな」


「タローはいいの?」


 返事代わりに、力こぶを見せつける。俺の武器は、この肉体だと。若干呆れた視線がやってくるが、ちゃんとした理由もあるのだ。例えば腕輪1つでも俺の体では装備できない。精々指輪代わりになるかどうかだろうか? ベルトをアクセサリー代わりに腕に巻き付けるぐらいはできるかもしれないな。


「他の人あまりいないねー?」


「そういえばそうね……」


「このあたりは実入りはいいらしいが、魔物も多いからな。大体はもっと上か、下に賭けにいくらしい」


 クロスロードのダンジョンは何階層あるかはまだはっきりしていない。15ぐらいまではあるらしいのだが、戻って来た数が少ないのではっきりしない。その上、構造が変化するとなれば情報も限られる。その問題は、今もすぐ近くで生じている。


 地面が、揺れた。ダンジョン全体というよりはこの階層だけだと思う。ほぼ同時に、今まで気配を感じなかった距離に気配。これまでの状況をあわせると、1つのことがわかる。


 ダンジョンが、今も成長している……と。幸い、壁に閉じ込められるみたいなことはないようだが、それは閉じ込められた奴が戻ってこれないからという可能性もある。最悪、そうなったときには壁を力任せに粉砕することも考えねば。


「よくわからないけど、タローが無茶を考えてる気がするわ」


「気のせいだろ?」


 魔法使いとしての力か、それとも女の子としてのカンか。あるいは両方かもしれない。じーっとこちらを見ながら、揺れ動く狐な耳と尻尾が感情をわかりやすく伝えてくる。思わず手を伸ばしそうになって……避けられた。


「あー、だめだよー、お兄ちゃん。獣人の尻尾とお耳はね、家族が触るんだよ」


「ラコナっ」


 なんでもないようなラコナちゃんのつっこみに、妙に慌てるファリス。俺はと言えば、今までにない避けられ方をしたのでちょっと驚きつつ、彼女の言葉の意味を考えていた。家族……ということは……。


「あっ、でもラコナ……お兄ちゃんだったらいいかなー本当のお兄ちゃんみたいだし。それともお父さんが良い?」


 さらなる一言がしばらくの騒動を産むのだけど、それは騒ぎを聞きつけて寄って来た魔物によって中断されることになる。


 それらを撃退していると、再び小部屋が見つかった。来た覚えがないから、新しく成長したダンジョンの生み出した場所だ。だというのに、前からありましたよと言わんばかりにゴーレムが守っているところがなんだか興味深い。


「あれで終わりにしよう」


「ええ、いいわよ」


「帰ったらおやつ作ろうねー」


 俺にとっても、2人にとってもそれは今日やってきた稼ぎの1つに過ぎない……はずだった。ファリスの魔法が牽制となり、踏み込んだ俺の拳がゴーレムを粉砕し、ラコナちゃんが使えそうなものは回収する。たったそれだけ。


 最後の箱の中身は、袋だった。あれ?という顔の2人を他所に、俺は1人で内心の興奮を何とか抑えていた。


(このパターン、間違いないだろうこれは!)


 一見するとラコナちゃん1人ぐらいが入りそうなごく普通の麻袋っていうとなんだか生々しいな。それはともかく、振り返ってゴーレムの残骸を適当につかみ、放り込む。普通なら、ごろりと袋の中で転がるはずだ。普通なら。


「貴重な石だったの?」


「いや、違うさ。使えなくもないけど……それよりこの袋。大当たりだ。役に立つぞ……どれだけ入るかは調べないといけないけどな」


「何よ、袋の入る量なんて……まさか?」


 わかってなさそうなラコナちゃんを置き去りに、ファリスも興奮を抑える側に回った。そそくさと帰り支度を始めるのがその証拠だ。


「むー、ラコナわかんない」


「ああ、ごめんよ。これ、魔法の袋だ。たくさん入るんだよ」


 個人的に魔法よりも何よりもチートの中のチートだと思っている思い描いた物。色んなものが入る魔法の袋が手の中にある。興奮の1つや2つするというものだ。


(中の時間はどうだ? 冷めたり腐ったりするのか? 上手くいけば、赤鬼堂の仕事も変わるな)


 ラコナちゃんのすごーいなんて声を聞きながら、行きよりも早いペースで上層へと戻り始めることにした。道中の魔物はファリスと2人で即殺である。魔力の温存もあまり考えなくていいからか、ファリスの調子はいい感じである。尻尾もゆらゆら揺れている。


「帰ったらお風呂、作るか」


「別に今の湯あみでも十分よ? 毎日やれるだけ贅沢だわ」


 その返事に、ファリスたちがそこそこいい家系の出だと思っていた俺は少し意外に思った。もっと喜んでくれるかと思ったのだが、そうでもない。お風呂という存在は知っていても当たり前ではない立場……やはりちょこっとややこしそうだけど、今は聞かない方が良いだろう。


「えっとねー、お兄ちゃんがゆっくり湯あみできる桶とかならラコナたちだとお風呂じゃないかな」


「おお、それもそうだ! そうしよう」


 そんなラコナちゃんの提案に頷きつつ、立ち止まることなく上層へ。正確には、必要そうな物はどんどん回収しつつ、であった。行きだと放棄していったものも容量確認がてらに入れていくのだ。今のところ、混ざってしまう様子もなく、見えない棚に入っていくような感じである。


「赤鬼印の鬼袋……とかどうかしら」


「ばれた時の言い訳にはよさそうだな」


 オーガに深くつっこんでくる人もあまりいないだろうことを考えると、察してもそれ以上は何も言わなそうである。


 そして帰還後、あっさりと婆ちゃんには鬼袋の件もばれてしまうのだがそれは別の話だ。婆ちゃんの観察眼、恐るべしである。




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