表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/31

OGN-023



「お兄ちゃん、上っ!」


 返事の代わりに、横にいたファリスもつかむようにしてバックステップ。オーガの体は思った通りに動き、2メートル近い距離を後退する。蹴り出しと、着地の時にわずかに砂煙があがるがそれを吹き飛ばすように何から天井から落ちてくる。ぶよぶよとしたバランスボールのような物体……スライムだ。


 上層ならともかく、このあたりまで来るとスライムもそこそこ厄介……と聞いている。いつも出会い次第核を吹き飛ばしてるから余り気にしたことは無いのである。


「燃えてなさいっ!」


 やや暗い通路を染め上げる炎は横にいるファリスの生み出した物。脂分でも含んでいるのか、一気にスライムに火が付き……瞬く間に燃え尽きた。漂う香りは……意外にも悪くない。普通にしっかりと燃焼した香りで、不完全燃焼の様子はないのだ。それだけファリスの放った魔法の火力が高いということかもしれない。


「あ、ごめんラコナ。核まで燃やしちゃったみたい」


「だいじょうぶ。今日はそれがもくてきじゃないんだよね?」


 可愛らしい声は背中というか後頭部から聞こえてくる。そう、ラコナちゃんにはいつぞやのように背負子に乗ってもらい、俺が背負っているのだ。ちなみに今回は前を向けるように色々と改良済みだ。言うなれば椅子に座ったまま背負ってるような物だ。


「ああ。もう少し先で探索しよう」


 松明代わりの魔法の灯りをともした杖を前に向ける。その灯りが照らす先は……俺の頭がつっかえる心配はないだけの広さ、というと伝わるだろうか。地下にこんな空間が自然に出来るとは考えにくいのだが、何でもありなのがダンジョンであるらしい。


 城塞都市、クロスロード内にあるダンジョンの第7層。それが今、3人がいる場所だ。少し上の層なら運が良ければ普通の奴でも半日で来れる場所になる。それは言い換えれば、気軽に稼ぎに来れる階層は越えている、と言える。色々と理由はあるが、一番大きな理由は、この辺りからはなぜか日によって構造が違うのである。ダンジョンが生きていると言われる所以であり、何でもありの証明の1つである。


 それはつまり、どこで魔物と遭遇するかもわからない緊張した時間をずっと過ごすとも言い換えられる。普通なら、だが。


「3……か」


 気配を感じ、武器を構えなおす。曲がり角から灯りの元に飛び出てきたのは狼型の魔物。正気でないのか、こちらを見るなり飛び掛かってくる。それが死への道だとわかっていても。


 背負っているラコナちゃんに返り血が行くようでは問題だ……というわけでわずかに立ち位置を変えながら魔鉄製の槍を繰り出した。今回は討伐が目的に近づく手段なので、棒ではなく槍だ。と言っても別に棒代わりに使えるから何の問題もない。


 戦いに関して言えば、巨漢も巨漢のオーガの元々のリーチに、槍としてのリーチが加わりかなりの射程だ。弱点である戻しも力にものを言わせて無理やりだが素早くしている。空気を切り裂く音を立てながら、狼へと一撃一撃を叩き込む。


「唱える暇もなかったわね」


「ファリスにはこれから手伝ってもらうことが多いさ、きっとね」


 出番が少なかったことを気にしていそうなファリスを促しつつ先に進む。俺が動けると言っても、ものすごく広いという訳じゃあない。そんな中に魔物が出てくるわけだが、状況的にはただの的である。俺が槍で突くことであっさり終わるだけだが、そうでない相手もいる。拳ほどの大きさの、虫のような奴なんかがそうだった。


「ファリス!」


「任せて! 風よっ!」


 短い詠唱、しかも特定の呪文を唱えていないのに発動する風の刃。俺の知っている魔法使いはもう少し詠唱も長く、特定の魔法を使うには専用の呪文を唱えていることが多い。ファリスはそれが無いということはやはり、思ってる以上に良い腕なのだろう。


(自分が守らなくちゃっていう緊張がドジを産んだのかな?)


 出会いの時を思い出し、そんなことを考える。だとすると、俺が彼女の安心材料の1つになっているということになり、なんだか嬉しい。


「終わったわよ……って何ニヤついてるのよ」


「なんでもない」


 3人で過ごすようになってそんなに日にちはたっていないわけだけど、なんだか落ち着くなと思うのだ。体格的には妹が2人出来たかのような物だけど、こうやって……対等に話せるって良いなと思うのだ。


「お兄ちゃん、毛皮はもふもふ?」


「さっきの狼か? ああ、帰ったら処理しような」


 もちろん、小さなラコナちゃんも今では欠かせない従業員だ。それに、癒しである。オーガの子供って、小さい時はほとんどなくて一気に育つんだよな。それに、せっかく料理しても丸かじりが良いと来たもんだ。料理のし甲斐が無さすぎるって今は関係ないか。


 そう、今の目的は……。


「タロー、あれでいいの?」


「ああ、幸先が良いな」


「おおー……お人形さんだあ」


 ダンジョン……神様の箱庭……気まぐれの遊技場。全部のダンジョンがそうという訳ではないが、多くのダンジョンは大体こう言いかえることも出来る。欲望を飲み込み、一握りの相手にその滴を絞り、垂らす。その甘みと報酬が、人を普人亜人問わずに呼び込むのだ。


 その最たるものが、今3人の視線の先にある。


 簡単に言えば、小部屋を守るゴーレム2体。岩を固めたような武骨なゴーレムだが、内包する力は周囲の魔物より一回りは違う。2体が守る小部屋の扉は無い。見えている奥には……箱だ。ここからでもそうとわかる装飾のある箱。材質は……石材かな? 近づかないとわからない。


「宝箱、か。里でも噂では聞いていたんだけど、謎よね」


「俺もそう思う。これで3度目かな」


 そう、なぜか宝箱があるのだ。結構配置はランダムで、出現も毎回でもなく、中身も良い物とは限らない。階層が深まるほど出現率は高まるというが定かではない。が、一攫千金が可能な時もあるので挑む者は後を絶たない仕組みだ。道中の魔物からの素材で満足していればそれでも儲かるはずだが、欲望は果てしないのだ。


(まあ、俺もそれ目当てなのだから人のことは言えないな)


 最初から儲けるのであれば赤鬼堂をやらずに潜ってればいいのだが、それだけだとなんだか面白くないし、変な連中を集めることになってしまうだろうなという考えからあまり箱目当てには潜ってこなかった。ただ、今はこの中身で装備を整えようと思い立った次第である。


「よし、俺が行く。ラコナちゃん、降りててね。ファリスは後ろの警戒を」


「うんっ、頑張ってお兄ちゃん!」


「何かあればすぐ援護するわ」


 元気100倍な掛け声を背中に感じながら、ゴーレムたちの前に無造作に歩み出る。近づくことで反応するタイプなのだろう。直立不動だったゴーレムがこちらに向き直る。


 なるほど、強そうだ。普通の相手ならば……な!


「ふんっ!!」


 敢えて真っ向勝負、武器無しの殴り合いで挑んだ。一応、場合によっては槍がひっかかったりしても行けないなと思ってのこと。一番の理由は、たまにはちゃんと戦ってみたいと思ったのだ。


 服を破かない程度に体に力を入れ、足場をしっかりと踏みしめ、体をひねり力を拳に伝える。正面からやってきたゴーレムの一体の胸元へ、馬鹿正直なストレートを叩き込んだ。


 轟音。それは削岩機でもうちこんだかのようにゴーレムの胸元に沈み込んだ俺の拳がたてた音だった。そこらの岩や木では味わえない手ごたえに思わずにやける。そのままもう一体へと拳を続けて叩き込み、あっさりと片付いた。


「終わったぞー」


「まったく、ゴーレムと肉弾戦するやつ他にいないわよ」


 怪我がないことをアピールしつつ2人を呼び込む。他に動く様子はないし、気配もない。駆け寄ってきたファリスの呆れた声を聞きつつ、しゃがみこんだラコナちゃんを見た。小さな手でごそごそと瓦礫をあさり……取り出したのはコケのついた部分。


「何かにつかえそう!」


「それはよかった」


 ラコナちゃんの作るポーションの類はなかなか優秀である。何でもないような草からその効能を引き出し、適切な薬を作り出すのだ。駆除のためのものだって、普通の職人だとなかなかああはいかないらしい。


「さてっと、まずは1箱目」


 罠があってもいいようにと魔鉄槍でつつきながら箱を開封し、中身を回収する。もうしばらく、探索は続けるつもりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ