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OGN-020


 日々はあわただしく過ぎていく。そう、忙しいのだ。毎日決まった時間は赤鬼印な団子を作り、ダンジョンや外への旅の弁当代わりに買っていく人たちを見送る。ラコナちゃんも、出来る範囲でという感じでポーションの調合を続けてくれている。最近ではいっぺんにたくさん作るコツが見つかったんだよとか言っていた。


 どちらかというと供給側の俺とラコナちゃんに対し、ファリスはというと接客に集中してくれていた。元々着飾ればいいところのお嬢さんにも感じられる見た目の彼女が対応するとなると逆に人が集まるのではないか?と思ったのだが……。


「お一人5つまででお願いしますね」


「は、はい……」


 特別なスキル、魔法といった類ではない。だというのに、なぜか言われた相手は頷いていくのだ。なんだろうか……持って生まれた才能? いや、磨かれた感じがする。ラコナちゃんと二人で旅に出てきていると最初に言っていたが、何か理由がありそうだ。とはいえ、そこを問い詰めるつもりは全くない。今ここで、一緒に働いている……それでいいのだ。


(それに、何かあったら出来るだけのことはする、それでいいじゃないか)


 朝の内は赤鬼堂で物を売り、午後はそこで飛び込んできた依頼をこなしたり、街に出て話を探したり……順調といえば順調この上なかった。問題があるとしたら、なかなか休めなさそうなところだろうか?


「タロー、今日の分が終わったわよ」


「了解した。しかし、また売れ行きがいいな。外やダンジョンが騒がしいとは聞かないよな?」


 外に、売り切れの札を出しておけば少なくとも団子とポーションの客は帰っていく。後来るとしたら仕事を頼みに来る人と、こちらのやれることを知っている魔族な人達からの来客ぐらいなものだ。そういえば、獣人とは余り話せていないな……。どちらかというと避けられているような?


(まさかファリスたちが……いや、わからんな)


 たまたまかもしれないし、そうでないかもしれないがここで考えていても仕方なさそうだ。部屋の隅で温めたままのやかんからお湯を注ぎ、お茶を飲む。いつの間にか横に来ていたラコナちゃんも一緒に3人でだ。ほう……と思わず息が漏れる。


「そう……ね。例の場所はもう確保したみたいだし……あ、このお茶美味しい」

 

「情報収集ついでに少し良い物をって買って来た。まあ、お茶の時間が楽しみなほどには忙しくなれたな」


「おやつたのしみー」


 記憶を頼りに作ったクッキーがお気に入りなのか、何枚も食べるラコナちゃんの口元にはそんなお菓子のカスが良くついている。それを取るのも俺の役目みたいになってきたけれど、迷惑には感じない。むしろ、小さな妹が出来たようでとてもほんわかする。少し忙しいけれど、楽しい日常。これを守るためにも、頑張らねば。


「何でも屋ではあるけれど、ただ仕事を待ってるだけってのもどうかと思うんだ」


「……そうね。例えば、こういうことを決まった料金で受けますよ、というのはどうかしら。多少冒険者の受ける話と重なるから、あちらに話は通しておく方が良いでしょうけれども……」


 目的の1つには、何でも屋だからと本当に何でも持ってこられても困るというものがある。非合法な物は受けたくないと俺は考えていても、実際のところそこまで細かく法が無いのが実情なのだ。今のところは実績と、()()()()()()()()()()()、というところから頼む側が考えているだけなのだ。


「はいっ! ラコナ、いいかんがえがありますっ!」


「よろしい、ラコナくん。どんなものがいいかね」


「……どこの劇よ。まあいいけど……」


 若干呆れた様子のファリスの視線を感じながら、元気よく手を挙げたラコナちゃんからアイデアを聞き出していく。それは確かに需要がありそうで、それにつきっきりでなくてもよさそうな話だった。途中からはファリスも頷いているし、いけそうだ。さっそくというところだが、実績がまだ乏しい。そこでだ……。




「それでウチに仕掛けたいって? なるほどね。清潔にはしていても、出るもんは出るからねえ……いいよ、やりな。面白そうだ……直接は殺さないんだろう?」


「うんっ!」


 単語的には少々物騒な気もするが、話を聞いてみると納得だった。婆ちゃんの許可をもらったラコナちゃんはさっそくその小さな手の平に乗っかる数個の丸い物を持って宿の一室に入る。今日はまだ客が入っていないその部屋の……家具の隙間に放り込んだ。


 しばらくしてわずかな気配が動いたと思うと……小さな何かが隙間から出て来た。


「ほいよっと」


「おやおや、あっさり出てきたねえ」


「効き目は抜群みたいね。ラコナ、偉いわよ」


 褒められ、えへへーと鼻をこする姿はもうそれだけでなんというかぐりぐりしたくなるのは俺だけではないと思いたい。その後も、数匹の……ネズミがゆらゆらと揺れて出て来た。まるで、そう酔っ払いだ。実際、今回ラコナちゃんが考えて実行に移したのはネズミ駆除の餌づくりだった。


(後で死ぬような奴だと隙間で死んだりすると問題だもんな)


 匂いだとかの問題がある。罠で捕えてもいいが、ゲーム感覚でやれるこっちのほうがなんだか楽しそうである。どうして暗がりから出てくるのかは教えてくれなかった。たぶん、明るい方に行きたくなるような何かなんだろうけど調合の奥も深い物だ。


 先日俺が作った黒いあいつ向けとは違う、対小動物用といったところか。知らない素材と作り方だおんなあ、すごいぞ。


「えっとね、効き目は調整できるから弱くも出来るよ。おしごと以外はそっちを売っちゃおー」


「こりゃ驚いた。タロー、この子の方が商売が上手いよ」


 俺も婆ちゃんの指摘に頷くしかない。ファリスはというと、こういうことを知っているのか満足そうにうなずいている。何かというと、市販薬のような形でどこかで売ってもらいつつ、駆除の依頼の時には効き目が強い方を使えば良いということだ。取り扱いに注意が必要だからとでも言っておけばいい。


「ほら、アンタがいつも使う店にでも行って調整してきな」


「ああ、そうするよ」


 さっそく作り溜めをしたいと言い出したラコナちゃんと、手伝うというファリスを置いて一人で街へ繰り出すことにした。最近では一人でも前ほどには嫌な視線を集めなくなっていた。


(それでも来るものは来るが……驚き、というぐらいだろうか)


 最初は視線が来るが、それもまたどこかに逸れていく。俺という存在を認識してくれているということはどこか嬉しかった。暴れやしないかとずっと見られているのはやはり、疲れるのだ。


 そんなことを考えていると、いつもの雑貨屋が見えてくる。先客がいるな……随分と物々しい格好だ。騎士、いや……戦士、と呼ぶ方が良いか。


 こちらを見て驚いた表情になるが、声を上げることはない。荒事に慣れているのか、それとも……。


「待つオーガとは、珍しい相手に出会えた」


 去り際、それだけを言われた。こちらも特に言葉を口にすることなく、会釈だけでやり過ごす。なんとなく、付き合うと面倒な予感がしたのだ。相手のことを気にしつつも雑貨屋の前に立つ。


「景気がいいみたいじゃないか」


「おかげさんでな。少し、商売の話があるんだが……」


 軽口には軽口で……こう答えることが出来るようになったことに心の中で微笑みつつ、話を進めていく。




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