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OGN-019


 体格が良いのも良し悪しである。特に室内等の狭い場所で過ごす際には強く感じる。そう、ダンジョンは大体の場合、まず俺自身が活動できるかどうかが問題だった。


「深い? いや、半分埋まりかけているのか?」


「どうかしら。埋まっていたのが出て来たって感じにも思えるけど」


 周囲は兵士達に警戒してもらい、まずはとばかりに俺とファリスの2人でダンジョンらしき場所の入り口を覗き込む。近づくまでは普通の家の入口ぐらいに感じた部分が、実は半地下の状態で意外とでかいことがわかった。ちょうど建物が半分沈んだような状態だ。ファリスの言うように、上に出て来たところ、といわれても納得できそうだ。


 魔鉄棒の先にはファリスによる魔法の灯り。それを入り口に挿し込み……石材らしい物で出来ていることを確認する。となると自然に出来た物ではない。かつての何かが朽ちていないだけ……だろうか。そのことを告げると、ファリスは首を振る。


「私も信じがたいのだけど、自然と建物っぽい内装のダンジョンが出来上がることもあるそうよ」


「世の中不思議過ぎるな。よし、俺が先頭で行こう。オーガは丈夫だ、何かあっても普人よりはマシだろう」


 最初から、獣人姉妹である2人は選択肢から除外していることに気が付いたのか、少しだがファリスの顔がゆがむ。俺だって何も悪意があってとかではない。こういう時に、危険な目にあって欲しくないだけなのだ。この感情がなんなのかは、俺にもよくわからない。


「お兄ちゃん、気を付けて」


「ああ。さてと……」


 魔鉄棒の先に松明を1つ括り付ける。可燃ガスや酸素濃度がなんて場合にはすぐに問題になるし、火というものは牽制になる。たいていの相手は俺が何とかできるだろうが、戦わないに越したことはないのだ。一歩、また一歩と中に進み、周囲を照らす。


(俺が手を伸ばしても余裕がある……随分と高いな)


 外で出会ったゴーレムがここに生息しているのか、それともどこからかたまたま連れてこられたのか。あるいはまったく無関係かもしれない。まずは入り口付近の安全を確認し、後続を呼ぶ。さすがにここまで来たらラコナちゃんも置いていく方が危ないし、不安だろう。


「少し様子を見て、まずそうなら戻る。成果があれば戻る。しばらく何もなくても戻る。それでいいよな」


「勿論。こんな場所があるというだけでも十分だ」


 世の中、それが出来ない依頼主というのが意外といるんだよなあと前世の記憶も思い出しながら一人心でため息をつく。天井や物陰からの奇襲に備えつつ、左側の通路へ。理由は単純、そっちから少し風が来るので松明の火も揺れるのだ。


「お兄ちゃん、ちょっと寒い」


「そうね。こういう場所は冷えると言われるけど、それにしても……」


 オーガの体はそのあたりにやや鈍い。そう思いつつ普人たちを見ると、こちらも同じ意見の様で首元もしっかりと閉めている。状況的には、秋口の寒さというところだろうか。というか、中に入ってから問題のある相手に遭遇していない。


「ゴーレムはたまたまか……?」


 しばらく進んだ後、向かう先に明るさがあった。自然と、手の力も増していく。そっとファリスの視界を塞ぐように前に出直し、わずかな気配も逃すまいと集中した。結果としては、そこまで警戒するほどのことではなかったのが分かったのはそれからしばらくしてからだった。


 明るさは光だった。一番近いのはその部屋にだけ明かりがともっている部屋に向かった時のような感じだ。ダンジョンであろう通路内には灯りが無かっただけにその明るさが目立つ。ゆっくりとそちらに近づき、覗きこむと……空が広がっていた。


「……え?」


「外……?」


 明らかに外に見える。だけど、あり得ない。まだ歩いた距離からして、ここに入る前の景色を考えるとこんな場所があるはずがない。1時間も歩いていないのだ……これは一体……。


 視線を青空から正面に戻すと、そこには自然が広がっていた。クロスロードのダンジョン内にある薬草の生えた泉にも似た光景だ。こちらのほうが随分と広く、大きい。そして、俺でも感じるほどの冷気が正面からやってきていた。


「もしや、別の場所につながっていたのか?」


「別の場所に……なるほど」


 兵士の1人が呟く推測に、俺も頷く。ドアや洞窟をくぐったら別の土地でした、ということは実は時折ある。これが俺がこの世界で転移、ワープの類があると信じている証拠の1つなのだ。どこから転移しているのかはわからないが、そう考えるとしっくりくる。もしも地図が自動で見られるのならば、高い山の方や北の土地に近いのかもしれない。


(ただ、ここから外に出ていくのは無理そうだ)


 見上げた先にあるのは青空、そして切り立った崖だ。大きな大きな筒の底、それが目の前の光景だった。ゴーレムはこの筒というか崖から出てきたのかもしれない。現に、それらしい塊が隅っこにいくつも転がっている。


「ラコナ、あの辺がそうじゃないかしら」


「え? あ、そうだね! お外で見たお花だよ!」


 指差す先に咲き乱れているのは、なるほど……外で出会ったゴーレムの背中に生えていたであろう草花。この寒さなら、確かにここだけで生きられる草花もあるだろう。それにしてもこの寒さはどこから来るのか……。ラコナちゃんを見ると、何もない頭の部分を指さされた。俺の角……か?


 ふと意識を集中すると、確かに角が何かを感じ取っていた。魔力の流れとでもいうのだろうか? 警戒は続けつつ、そちらへと歩いていくと……崖の裂け目から湧水が出ていた。とてもきれいで、恐らくは冷たいだろう物だ。冷たさが普通なら、ここで生活も出来そうである。


 そして、その隣に無造作に転がる石たち。石、といってもただの石ではないことは明白だ。まるで宝石のように輝き、透き通る青い塊。大きさは大小あるが、大きい物は普人が持つのは無理だろうぐらい、手ごろな物でも俺の拳ぐらいはある。


「聞いたことがあるわ。世の中には、属性の力を帯びた自然の力が結晶化したものがあると。強風を産み出す物や、火山で溶岩に浮かぶ物、海の底で水を産み出す物とかもあるらしいわよ」


「それの1つだろうか……お土産というか探索の証拠に少し持ち帰ろう」


 むき出しで持って帰るのは厄介そうなので、荷物から適当に毛布の類を取り出して包む。まあ、適当に選んでいこう。


 その間もゴーレムに襲われることは無かった。もしかしなくてもゴーレムとなるには多くの時間が必要なのかもしれない。しばらくは要監視だろうが、上手く行けば石材もここで採れるかもな。城塞都市を大きくするのに、石材はいくらあっても足りない。この距離なら採算はあうだろう。


「反対側の探索は我々で後日行おう」


「了解した。必要なら呼んでくれ」


 結局ほとんど襲われず、拍子抜けの気分ではあったが平和なのはありがたい。そのままクロスロードへと戻り、一緒に報告となる。



 青い石……魔結晶の一部を報酬にもらえたことが一番の収穫だった。そして、着服していたあの犯人の狙いは、反対側から行ける場所……北の城塞都市であることがこっそりと、伝えられたのであった。







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