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OGN-018


 オーガは嫌われ者だ。それはかつての歴史が、襲い襲われという過去が証明している。そして今の時代でも、いきなり襲われるということはほとんどなくなったようだけれど、怯えられるのはよくあることだ。今となればその気持ちもわからなくもない。なにせ、そもそもの能力、体からして違いすぎるのだから。


 でも、今はその体と能力がありがたい。守りたいものを、守ることが出来る。


「下がれっ!」


 兵士の1人に振るわれる拳の前に躍り出ると、重い一撃が体に叩きつけられる。なるほど、良い一撃だ……中層ぐらいの威力はあるかな!


「抑える。今のうちにっ」


「応っ」


 謎のゴーレムの4本ある腕の2本を砕き、曲げ、残り2本を掴んで動きを封じる。その隙に兵士が足元の関節に一撃を加え、倒れ込ませた。残りは……というところで視界を魔法の光が染める。ファリスの放った魔法と、兵士の1人が使う物が混ざったようだった。


(へぇ、魔法使いがいるのか)


 攻撃魔法を使える普人は意外と少ない。全体的に見ればの話で、戦う兵士や冒険者の中での割合はそこまで低くはないがそのぐらいだ。


「お兄ちゃん、他にはいないみたいだよ」


「ああ、そのようだ」


 俺の角もピリリとした独特の気配が消えていくのを感じている。オーガの力の源とも言われる1本角。どこの妖怪だよと言わんばかりだが便利ではある。取り扱いには注意だが、削って何かの材料にもなるらしいんだよな。ポーション作りの時に角に触ると魔力が移っていい感じらしいが、粉末を入れたら……まあ、やっても内緒にだな。大量には作りたくない。


「タロー、都市の人たちは無事みたいよ」


「それはよかった……一度戻るか? それとも探索を優先するか?」


 依頼主に関係する兵士に聞いてみると、兵士の内2人を付き添いにして残りと俺たちはゴーレムの出現元を探ることになった。追加料金も約束してもらったしな、問題ない。


 一応ゴーレムの残骸でも使えそうなものが無いかを確認して……ん、なんだこれ。


「ラコナちゃん、これ何の草かわかる?」


「どれー? うーん……しおれちゃってるけど……さむーいところに生える奴だよ。夏に山に登った時に採ったことがあるもん」


 その言葉に俺も、ファリスも、そして兵士たちも周囲を見渡す。城塞都市の近くで、川辺……どう考えても寒いような場所はない。これが冬だったらわかるが、今はそんな季節ではない。それに彼女の言う通りなら、いわゆる雪山や高山に生える奴ということになる。


「どこからか連れて来たか、それとも……」


 転送されてきたか……とは口にしなかった。俺はこの世界に転生か何かでやってきたと思うが、それ以外にもいわゆるワープ的な出来事が起きたのではないかとも考えている。何の証拠もないのだが、お約束だしな。


 それに、例の横領していた奴の話も気になる。奴が逃げようとしていた先は……遥か北の都市なのだ。徒歩で行くにはなかなかの長旅だ。そんな場所に逃げるだろうか? まあ、そりゃあ近くにいたら復讐ぐらいされると思うかもしれないが。


「クロスロードに近すぎる……私の懐から代金を出す。付き合ってくれるだろうか?」


「代金ならさっき貰ったさ。このぐらいはおまけでいいぞ」


 安全を考えるとラコナちゃんは戻っていた方が良いような気もするし、逆にそばにいたほうが守れるからいいような……難しいな。本人はついてくる満々だし、仕事となれば一緒にいる理由にもなるかな。


 陣形を組みなおし、ゴーレムの足跡を痕跡として追う。どうも上流の方から来ているようだ……水気のある砂地に大きな足跡がしっかり残っている。森の中、よりはいいかもしれないが……と、おでましか。


「お兄ちゃん、降りるね」


「ああ。ちょっと追い返してくる」


 器用に飛び降りたラコナちゃんに微笑みつつ、荷物の中にある棒……裁縫針にも使っている魔鉄素材の一品を掴み飛び出した。何も全員で当たる必要はない。森から飛び出してきた狼たちの前に躍り出ると、無造作に見える一撃で大人よりも結果的に長いそれを振り抜いた。


 あっさりと悲鳴を上げて飛んでいく数匹を前に、残りの足が止まる。普段はそんなことはしないのだが、今日は面倒ごとは出来るだけ回避したいと思い、敢えてオーガらしいどう猛さの気配を表に出して威嚇を試す。


 ファリスやラコナちゃん曰く、ぐわーってなんだかよくわからないのが噴き出て来てるらしいから魔法の一種になってるのかもしれない。そんなものが直接襲い掛かってくるとなると……よし、逃げていった。


「……衛兵になるつもりはないか?」


「気ままに暮らしたいんでね。それに、戦う以外のこともしてみたいんだ」


 兵士達のリーダー格は話の分かる男の様だった。嫌悪するでもなく、恐怖するでもなく、単純に領主の役に立ちそうだというつもりでの勧誘だった。体を動かすのは嫌いではないけれど、今はそれ以外のことも楽しいし、何でも屋としてやっていきたいのだ。


「どこまで続くのかしら……思ったより遠くから歩いてきてるわね」


「なんだかむずむずするー」


 何らかの手段ですぐ近くに召喚でもされたか、何かあるかと思っていたがまさか外れ?なんて考えた時にラコナちゃんがくしゃみでもするかのように顔をしかめ始めた。実際にはくしゃみというわけじゃなく、何か匂いのような物を感じるらしい。


「えっとねえ。お兄ちゃんの角を触ってるときみたいだけど、違うの。遠くでたき火してるみたいな……わかんない」


「何かあるのかもしれんな。各員、警戒を密に……行こうか」


「さて、鬼が出るか蛇が出るかってな」


 オーガの格言?なんて聞かれたけれどよくよく考えたらオーガが言うには不思議な台詞だったな。仲間か敵か、なんて意味になりそうだった。と、それはともかくとしてだ。


 ラコナちゃんが何かを感じるという方に向かうと、森が少し薄くなっている。その先には全体を緑で覆われたこんもりとした小山のような何かがある。周囲の木々よりは低いが、建物のように大きい……っていうか……古墳?


 一瞬、そう思う見た目だった。その証拠に、ぽっかりと黒い穴が開いている。そう……まるでダンジョンのように。


「ここにダンジョンがあるって聞いた覚えはないな」


「奇遇だな。私もさ……さて、どうしたものか」


 謎のゴーレムが出てきたであろう場所、そこは謎が謎を呼ぶ未発見のダンジョンだった。


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