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OGN-016


 どんな場所、どんな時でも祝い事は楽しさに溢れているのが一番、そう思う。例え異世界だろうと、だ。


(特に主役が若いとそういう感じがするな……)


 こういうのは何だっけ、眩しいって言うのかな? って、そんな年でもないと思うがオーガの姿だとよくわからないな。


「鬼さんおっきいい!!」


 と、そんな俺のぼんやりした気持ちを揺らす元気な声。腰ほどもない、魔族の子供だ。見た目は人間のソレと大差ない。肌の色がやや紫がかってることを除けば、だが。輝いた目で見てくる姿に、俺も調子に乗ってポージングをしたりして体のでかさをアピールしてみる。今は給仕っぽく白い服を着ているから似合ってるんだか似合ってないんだか。


「家の子がすいません」


「なに、子供は元気な方がいいさ。それより、口にあってるかどうか……」


 母親であろう相手に言いながらも、賑わってる宴を見る限りは大丈夫そうだなと思う。今出てる奴以外にもサラダ的な物や、副菜、さらにはデザートまで出す予定だ。


 人間、体格やらが多少違っても肉体構造が似ていれば諸々も似てくるのだろうか、なんてことが頭をよぎる。こうして言葉を交わし、交流している限りはただ単にコスプレしてる同士の会話の様ですらある。


「普段は……いえ、とても楽しんでいます」


「あちらの獣人姉妹のほうには軽めの味付けの物もありますから、どうぞ」


 飛びついてくる魔族の子供を抱き留めながら、そんな風にして女性には勧めてみる。彼らは元々この城塞都市にいた人間ではない。となれば生活もそんなに余裕はないんだろう。今回も、本当に予算内なのか?なんて何度もバラッシュに確認されたな。


「よーし、お父さんたちより高い場所から挨拶だ!」


「わーい!」


 後々、ファリスにはそれ反則よなんて言われたが、子供にとってはそんなことは関係ない。はしゃぐ男の子を肩に乗せ、大人を見下ろすという初めての経験を味わってもらう。当然のように初めての光景に声が響き、自然と子供たちの視線が集まり……さらに数名が集まってくる。


 自分のしたことがこんなに笑顔を産むんだ、とどこか感動しながらも子供たちのおもちゃに甘んじる。その間にも大人たちは会話を楽しんでいるようだし、事前に準備をしておいた料理も追加されてくる。さすがのファリスも出来上がった料理が変化するということは無かった。であればあの魔法は温め直すとか、保温には便利なのだ。婆ちゃんの冷蔵庫な魔法といい、攻撃以外にも使える便利な力なのだが……何故、傷つけることばかりに人は使うのか……っと今はそんな時じゃないな。


「大きいのを持ってくるぞ。降りてくれ」


「おおきいの? なんだろう!」


 わくわくが顔に張り付いている子供たちを後ろに連れて、会場わきの部屋に向かう。そこには大きなメインの料理が用意してある。後は運び出して、ちょっとしたことをやってもらうだけだ。


 扉を開いたときの子供たちの声はなかなかのものだ。それはそうだろう、カウドンが形を残した状態で丸焼きになっているのだ。石像ならぬ焼肉像、かな。追加で仕留めて来たのだがやはりインパクトがあるな。


「タロー、これは……」


「ファリスに聞いたんだ。本当はああいうのがいるんだろう?」


 そんな会話の最中、今回の主役である魔族の青年へとファリスから1本の短剣が渡される。横にいたやや年配の魔族から意味を教わったのだろう。戸惑いから真剣な顔つきに変わった青年は短剣を受け取り、恭しくそれを抜きはなつ。


「相手は俺でいいだろうか?」


「ああ、頼む」


 体格差を考えると少々どうかとは思うが、青年の横に立って一緒に短剣を握る。俺の場合は指先でつまむってレベルだがまあ、こういうのは雰囲気が大事だ。そのまま青年と一緒にカウドンの額にそっと短剣を沈める。


 ファリスに聞いた詳しい話の通りなら、これで成人の儀式が完了する。なんでも、協力してお互いに前を向いて生きていきましょうって感じの話らしい。昔の名残で、本来は色んな亜人同士でもやっていた儀式らしい。……普人に迫害を受けていた時のことらしいから段々とすたれたのかもな。


「亜人でも最強と名高いオーガと行えるなんて、感激です」


 青年はそうやって笑っていたが、話を聞くほどにオーガの特殊性が際立つなと思う。確かに一時期は狙い撃ちにされ、数を減らしたこともあるようだけどそれ以外ではオーガの力は圧倒的だ。装備が無くても優秀な戦士として戦えるのだから……ま、今は何でも屋として力を発揮できればいい。


 宴が続き、どこかゆったりとした時間が過ぎていく。


「今日はありがとう」


「こちらこそ。いい経験になった。なにせ、オーガだからな……なかなかない話さ」


 自虐的につぶやくと、バラッシュも苦笑を浮かべてグラスを傾けてくる。彼と彼の種族も魔族だ。普人ではない……だからこそ、わかる部分もあるのだろう。元々がただの人間だった記憶のある俺にしてみると、残念ながらこの世界の歴史もよくわかってしまう。


 今でこそ最強と言われるオーガの身だけど……きっと、自分よりそもそも強いという存在が怖いんだよな。難しいところだ。


「この都市はいい。少なくとも表向きは差別が無い。仕事も探せばある。生きて、前を向ける」


 そんなバラッシュのつぶやきが全てだった。俺は応えず、つまみ代わりのジャーキーもどきを取り出して一緒に食べる。適度な歯ごたえがちょうどいいのだが、バラッシュは苦い顔だ。


「硬いな」


「そうか? 俺には……まあ、そのぐらい誰しも違うんだ。気にしすぎてもしょうがないさ」


 それもそうだ、なんて返事を聞いて宴へと視線を戻す。ファリスとラコナちゃんはそのぐらいはするんだと元気に会場を動いている。その姿はとても微笑ましく、お客の立場になる魔族のみんなも自分で出来ることは自分でするようになってるあたり、ある意味大成功だな。


「これで肩の荷が下りた。他の都市に行くのは少し、な」


「詳しく聞かせてもらおうか。何か噂でも?」


 聞いた話は出来るだけ姉妹には隠しておきたい内容だった。魔物の数が不安定で多い時と少ない時のばらつきが出てきている、これはいい。自然のことだ……そういうこともあるだろう。問題はそれ以外の話。城塞都市の一部で、亜人排斥を掲げる都市が誕生しているらしい、そんな話だった。


 1人抱えるにはやや重く、そのうち噂が出回りそうな話に内心悩みつつ、俺は赤鬼堂と、姉妹を守ろうと心に決めるのだった。


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