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OGN-014



「タロー、また頼む!」


「それは構わないが、痛むのが早いな」


 その日、朝早くからの来客は装備の修復を依頼に来た魔族な彼であった。装備と言っても衣服がほとんどだ。俺にはさすがに鍛冶職人の技術は無い。やろうと思えば……わからないが。


 婆ちゃんの手伝いに行っている姉妹が戻るまでに出来るかな?と思いつつも裁縫を開始する。糸はクロウラーのでいいか。丈夫だし、安いしな。材料を入れた棚からラコナちゃんの拳ほどの糸の塊を取り出し、するすると伸ばしていく。


 破れた衣服を手慣れた様子で修復していく巨体なオーガ、というのは我ながら言葉に困る気はするがこれも特訓の成果である。でかい体だから細かい仕事ができない、なんてのは嫌だったからな。その分、針が高くついているが。


「ダンジョンか」


「わかるのか?」


 魔族な彼は驚いているが、土地の限られる城塞都市では結果として仕事も限られる。クロスロードは絶賛発展中で、今も城壁の拡張計画は続いているがそれでも土地は有限だ。となると仕事だって有限なのだ。本来は、と頭に付くが。


 例外となるのが、ダンジョンに潜って資源を確保してくる冒険者、探索者としての仕事だ。毛皮や木材、石材だって持って帰られる。まあ、調理には少々コツがいるが、狙いを変えれば食料だって手に入る。


「外からの住人だとそうなるだろうさ。よし、これでまたしばらく大丈夫だろう。今度は糸がかなり丈夫だろうからな」


「ありがたい。稼がないと暮らせないが、装備無しではな……」


 大事そうに手にする姿を見ると危険な真似は、とはなかなか言えない。実際、生きていくのは大変なのだ。いざとなれば肉体的な仕事で過ごせるであろう俺はなんと贅沢なことか、そう感じる。オーガの恵まれた体とこの力は、その筋であれば引っ張りだこなのだから。


「そうだ、朝飯は食べたのか? よかったら一緒にどうだ」


「料理もするのか、多才だな」


 内心を誤魔化すような提案に意外そうな顔が返ってくる。あれこれ頑張ってきた結果なだけだが、頑張った分だけリターンがあるというのはやはり、やる気が出る。オーガの体が持つポテンシャルが大きいのか、わかって努力したからなのかはわからないが、オーガらしくないという点では共通しているはずだった。


 補修も終わり、代金を受け取りながら部屋へと案内した。まだ戻ってきていない姉妹のことを考えつつ、今日の朝食を準備する。


 弱いままの火に薪を増やし火力を上げ、婆ちゃんが宿の裏で飼育している鶏みたいな鳥の卵を溶き卵にしてフライパンで焼いていく。具材は何もないが、適当に先日ダンジョンで狩って来た相手の肉片を入れていけば味もつく。


 買い置きのパンも軽くあぶって……というところで姉妹も戻って来たようだ。馴染みのある気配が近づき、勢いよく扉が開かれる。


「タロー、今日は……あら、いらっしゃい」


「あー、この前のおにーちゃんだー」


 人数が倍になり、騒がしくなる部屋に卵の焼けるいい匂いが満ちてくる。狩りの時もそうだが、こうして匂いを感じるとこの世界で生きているな、と感じるのだ。頃合いを見て、ファリスやラコナちゃんでは大きすぎると言われたフライパンから取り出し、等分にする。


「大体なんでもやれるわよね、タローって」


「まあな。色々頑張ったんだよ。この顔だけはなんともならなかったが」


 これでも前世ではなんちゃってって感じでネットにレシピ投稿するぐらいには自炊していたのだ。プロの料理人には勝てないだろうが、ちょっとしたホームパーティーを開くぐらいは可能だろう。この世界だと調味料とかも感じが違うから色々困るのだけど……。


(醤油は無かった。魚醤は……あるらしいな。といっても都市内部で作ると大変だから少し離れた村だったけど)


 クロスロードからは少し離れた村でそれらしいものを作っていると聞いたことがあるが、この見た目ではいきなり訪ねるわけには行かない。将来的には特産品の流通とかやってみたいなあと思ったりもする。普人の集団ならともかく、オーガを襲う奴は限られるからな、意外と安全面では押せるかもしれない。


「お兄ちゃん、今日は卵だけ?」


「いいや、これもあるぞ」


 朝早く、都市を抜けて川にいって捕まえて来たばかりの川魚である。ちなみに大きさはペットボトルぐらいはあるなかなかのサイズだ。漁業権みたいなものは乱獲しない限り関係ないらしいからありがたい。塩は貴重なので味が薄いがそれでも魚自体の風味が強い物になる。


 捕まえ方? 適当に槍みたいにしたものに返しを付けて突くだけさ。気配を抑えて風景になり切り、一体化してからの一撃なら余裕余裕。


「いい香りだ」


「土地というか川によってこの辺は違うらしいな。よし、食べよう」


 俺たちにとってはもう日常となった光景。現に姉妹も気にせずどんどん食べている。その代わりという訳ではないが、魔族な彼は神妙な顔つきで一口一口、食べ進めていた。


「口に合わなかったか?」


「いや、美味い……タロー……仕事を、頼めるだろうか」


 冷めるから食べてからな、と告げて食事後。姉妹が洗い物を担当している間に彼と向き合った。見た限りでは、深刻な悩みとかそういうのじゃあなさそうだが。


「今度子供の1人が成人でな、よかったら祝いの席を設けたい。そこで料理を用意してくれないか」


「俺はオーガだぞ? 俺で良いのか?」


 申し出は嬉しいし、ぜひやってみたいところだが実際問題、俺で良いのだろうかと思う。魔族は普人と背丈なんかは変わらない。肌の色や体質は多少違うがそれぐらいだ。その中にオーガな俺が入り込むのはトラブルになりそうだ。


 どうやら頑張って稼いでるのはこの事もこみのようだが……。


「高ければいいわけでもないし、豪華だからいいというわけでもない。それに、オーガが作る料理っていうだけでも受けがいい」


「なるほど、特別感がいいんだな」


 その意味では、俺だからこそ、ということなのだろう。となれば断る理由もない。赤鬼堂は何でも屋である。パーティーの手伝いだってお手の物、ってことにしておこう。


 魔族の青年、バラッシュが立ち去った後、早速どうしたものかと考えている俺。ふと、気が付いた。


「ファリス、どうする?」


「……手伝いだけというのも、あれよね。特訓、お願いしていいかしら」


「ラコナもやるー!」


 かくして、不安の少し残る特訓が始まる。


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