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OGN-012


 我らが赤鬼堂は何でも屋である。であるからには、討伐は元より、採取の依頼も行うし、都市内部のあれこれも頼まれればやる予定だ。引越しの手伝いだって俺でよければいくらでも、というところだろう。


 そう、都市内部の仕事でもなんでも、やるのだ。


「ねえ、本当にやるの?」


「勿論。ただ、下手にやると壁が傷むからなあ……やっぱり苦手か?」


 前世からの勝手なイメージだったけれども、ファリスもその例に漏れずこれが苦手なようだ。まあ、俺も大好きなんていうことは無いわけである。何がって? うん、黒いアレだ。


 城塞都市内部にある倉庫の1つからの依頼。時期的には外れのはずだが、奴らを見かけるということだった。放っておけばネズミだって増えてくるかもしれないとなれば駆除の依頼が舞い込んでくるわけだ。都市を旅したりするような冒険者の類では安すぎるんだと思う。


 その点、基本城塞都市内部で生活できればいいと思っている俺たちはあまり気にしない。ファリスに応対を任せ、ラコナちゃんが緊張をほぐし、実務となればオーガな俺がどっしりと答えてこなす。既に役割分担が出来ている気がするな。


「絶対だめってわけじゃないんだけど、タローはこのあたりの奴を見たことはある?」


「あるぞ? それが……」


 すっとファリスが顔の前で示した人差し指の幅に言葉が止まる。大よそ手のひらほどの幅にした指。となると……ええ? そんなのがいるわけ?


「里だとね、大きいのだとこのぐらいのがいるの。もちろん森に入ったら、だけど。集落には簡単な結界がはってあって入ってこれないのよ」


「ここで使うと他に行くだけだな」


 便利なことではあるが、この倉庫だけ守ってもあまり意味はない。出来ればそんな大きさの奴には出会いたくないなと思いながら駆除の準備を始める俺。その間、ずっとラコナちゃんが静かだったのが気になりそちらを見る。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん。見て」


「なあに、ラコナ。……あら?」


 彼女が指し示す先には、重い物を引きずったように続く綺麗になった床の跡。他の部分は多少埃があったりするのに、ちょうど1袋持っていったように跡があるのだ。しゃがんでみないとわかりにくい感じだった。背の低いラコナちゃんならではだろう。


 その跡は外ではなく、倉庫の奥の方に続いている。ひどく怪しい、怪しいが危険は少ないように思う。もしそうであっても俺が2人を守ればいいだけだ。


 入り口からは死角になる位置まで来た俺は、2人に荷物を開けるように指示し、簡単な作業台を設置する。と言ってもキャンプで使えそうな簡易テーブルってやつだ。ここで何をするかと言えば、団子づくりである。


「おやつ?」


「いいや、これを食べさせるのさ」


 取り出して見せるのは少し青みがかった草の束。ファリスはピンとこないようだが、ラコナちゃんは扱ったことがあるのか目をぴかーって感じて輝かせてきた。だったら使い方もわかるだろうと少し手渡し、作業を一部やってもらう。


 出来上がった物から順番にファリスに適当に物陰に投げ込んでもらう。後は奴らがこれを食べるのを狙うのだ。単純に毒団子である。と言っても作ってから半日もすると無毒化してしまう弱い物だ。自然素材で環境にも優しい!って誰に向かって言ってるんだ俺は……。


「でもこれだと退治できたかははっきりしないわよね?」


「ああ。それに退治だけじゃ終わらないと思う。どこから来たのか、そしてどこに行くのかを確かめないと」


 そのためには黒い奴らを追わないといけないのだが、今回は秘策がある。ラコナちゃんに言われ、俺の作る団子が他と違うことはわかっている。試しに色々確認した結果、魔力的な物が中に混ざっているためなのだ。というわけで……。


「お姉ちゃん、頑張って」


「うう、わかってるわよ。これを追えばいいわけね?」


 そう、ファリスに魔法を使う要領で団子に含まれる俺の魔力を追ってもらうことにした。幸いと言えば幸いなことに、最初に仕掛けた団子は既に移動を始めてる様子だった。その食欲旺盛なことに内心驚くが、話が早くて助かる。


 脅かさないように気を付けながら3人で倉庫の中をそろりそろりと歩き出すと……そのうちに壁が見えて来た。倉庫の物だ……ん? この感じは……。


「お兄ちゃん、ここにも跡があるよ」


「本当ね。あいつはこの先に……タロー」


「ああ……」


 視線の先にあるのは乱雑に積まれたあれこれや木箱たち。ぱっと見は倉庫の物置部分、と見えなくもないけれどよく考えるとおかしい。備蓄食料が主にあるこの場所で、こんな風に放っておかれるものだろうか?


 城塞都市のあれやこれやを考えた時に、そもそも黒い奴らがここに出てくるのもあまり考えにくいのだ。ここに運び込まれるものは基本的に封がされているし、こぼしでもしないかぎりは食べる物がない。例えばそう、運び出す時にこぼれたりしない限り、な。


 ご丁寧にも、三人で木箱をどかしていった先には隠し扉があった。誰かが開けた穴に木板を取り付けただけのもので、小さい奴なら入り込む隙間があるようなものだ。ここを放っておけばネズミたちも増えてくるだろう。いくら都市全体はスライムを使ったある意味高度な浄化システムが構築されていると言っても奴らはしぶといからな、どこにでもいる。


「どろぼうさん?」


「だろうな。備蓄をちょろまかしてるやつがいるようだ。ひとまず塞いで戻るか」


「いいの? 突き止めなくて」


 やろうと思えば中に入ったり、木箱たちをしっかり積み上げて蓋をすることもできる。でもそれだと真相はわからずじまいかもしれないし、問題が起きるかもしれない。何より……仕事としては黒い奴らをどうにかする、までなのだ。


「というわけで、追加の仕事を貰いにいこう」


 どこへ?という質問に、俺はにやりと笑みを浮かべて倉庫の壁の向こうを指さした。その先にあるのは領主の館。城塞都市クロスロードの主、ラジエルがいる建物だ。


 いったん赤鬼堂に戻り、婆ちゃんに事情を説明して一張羅を出してもらう。うっかり破いてももったいないと思って普段着ない礼服に近い物だ。婆ちゃんと俺、2人して自作した一品である。オーガサイズの服なんて滅多にないからこうなってしまうのである。


 さあ、都市の闇っぽいものにいくらの値段をつけてくれるだろうか?


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