OGN-011
─わたしがつくりました。
ラコナちゃんお手製のポーションの脇に、そんなメッセージカードと似顔絵を添えて売っている。それが良い売れ行きの原因らしかった。
そんなもので?と3人で思った物だが、客の1人に、どうせなら女の子のほうがいいじゃないか!等と断言されてしまっては認めざるを得ない。個人的にはいかにもな婆ちゃんぐらいの相手が作った奴の方が効きそうな気がするけども……売れるのならいいのかな?
ちなみに似顔絵は婆ちゃんが描いてくれた。俺も教わっているけれど、こううまくは描けない。特徴をとらえた可愛らしい感じで、これで食べていけそうな気もする。
(若い頃にはこれで稼いでたんじゃなかろうか?)
見た目は老婆だけど、中身は未だにやり手のサキュバスっていうのは本当かもしれない。恐るべし相手である。もちろん、頼もしくもあるのだけれども。
「ラコナ、いいの? 変な人はいないと思うけど」
「だいじょーぶだよ。いつもありがとうって言いたいの!」
何かというと、今日は直接販売してみたいということをラコナちゃんが言い出したのだ。確かに、いつも調合のために裏にいるか、ダンジョンとかに出かけていて最初以来は婆ちゃん任せだもんな。気持ちはわかる。
エプロンを身に着け、きりっとした表情でカウンターに立っている。夜中に押しかけられても困るので、売る時間は決めているのだ。それでも最近は朝一でお客さんがいるらしいからな……。
ポーション以外にも、俺の赤鬼印なタロー団子も非常食として売っている。他にも色々とついでにと売っているのでちょっとした雑貨屋状態である。迷惑で無いかと考えたのだけど、婆ちゃんには笑われた。
なんでも、宿の客が便利になるから問題ない、だってさ。頭が上がらないとはこのことだ。
「おはようござ……ああっ、ポーションの子だ! 本物だ!」
「いらっしゃいませー」
最初の1人を皮切りに、次々とお客がやって来てはラコナちゃんを見て、本物だ等と騒ぎながら買っていく。会計もやりたいと言い出したラコナちゃん直々の手渡しに、男ども……そう、ほとんどが男だ、はなんだかほんわかした表情で帰っていく。
(これは、ロリコンか、ロリコンなのか!? それともただ癒されてるだけか!? わからん、わからんぞ!)
内心ひどく悩みながらも、人のことは言えないような気がして来る俺だった。もちろんラコナちゃんだけでなく、ファリスとも一緒にいることで俺はこれまでに心に少しずつ溜まっていた色々が無くなっていくのを感じていた。
それはたぶん、とてもいい事なのだと思う。
「お兄ちゃん、持ち込みもいいかって」
「持ち込み? 材料をってことか……一度預からせてもらおうかな」
そういうのもあるのか、と感心する話だった。確かに採取自体は本人が作れなくても出来るし、採取したからとどこかに売らないといけないと決まってるわけでもない。となればこうして好きな場所で作ってもらうのも道理と言えば道理だ。
名前と希望などを書き留め、袋に入った素材を預かった。素材は生ものだからな……あんまり大量には受け付けにくい。手間賃を貰って作成代理とするのか、こちらで素材を買い取るだけにするのか、よく考えよう
「選択肢があるのは、何でも屋っぽいわよね」
結局のところ、ファリスのその言葉が全てだった。なんだか1つ1つが楽しくて、希望が持てるような気がして来る。それもこれも、みんな彼女たちのおかげだ。最初は自分1人でも稼げてないのにどうかと思ったけれど、都市に出て依頼を探すことも出来るようになってきた。
「ねね、やくにたった?」
「勿論、大活躍さ」
妹がいたらこんな感じなんだろうか?と最近思う。周囲を忙しそうにうろついては、時折こちらを見上げてにへらっと笑う。なんというかこう、こう……。
「ファリス、ラコナちゃんは可愛いな」
「……10年は待ちなさいよ?」
「そういう訳じゃってダメとは言わないのか」
こんなバカ話を出来るのもある意味不思議だった。まだ彼女たちと出会ってから少ししかたっていないというのに、何年も一緒にいるかのようだった。出来ることなら、この関係は大事にしたい、そう思う。
「なあに、いざとなれば女は強いもんさ。歳なんか関係ないね。私も最初はこう、見た目は毛も生えてなかっ」
「この話はやめやめ! 仕事しよう、稼ごう!」
さすがに経験豊富な婆ちゃんの話とは言え、出来れば聞きたくない話に持って行かれそうな気がしたので無理やり割り込んだ。本気で話すつもりはなかったのは婆ちゃんの顔が証明している。ラコナちゃんはわかってない顔だし、ファリスはファリスで……うん、この辺にしておこう。
と、新たなお客さんだ。ノックも軽やかに入ってきたのは……随分と顔色の悪そうな1人の男だった。
「すまないが、マントは売っているだろうか?」
「さすがにマントは今のところ、無いな。魔族だからって店で断られたか?」
そう、顔色が悪く見えるのは地肌の問題だ。浅黒く、時には緑や青の人もいるという。その点では赤鬼な俺も人のことを言えやしない。普段いない肌の色というのは目立つんだよな。
「修理代が高くて。だったらいっそのこと買い替えようかと」
「でも、旅に使うマントとなれば高いのではないのかしら」
横合いからのファリスの問いかけに深々と頷く魔族の男。なるほど、苦労していそうだ。まあ、俺ほどではないだろう。なにせ俺の場合、時々討伐隊も組まれるというオーガだからな!って言ってて悲しくなってきたな。
「どれ、見せて見ろ」
「え、ええ……」
手渡してくる魔族は俺が鑑定でもするのかと思ってるに違いない。そちらも可能だが、本命はそうではない。痛んでいる箇所を確認し……すぐそばの赤鬼堂へと向かい、最近使うこともなかったあれこれを手にして店部分に戻る。
「お兄ちゃん、お裁縫できるの!?」
「一応な。誰もやってくれないからなあ。ここにきて婆ちゃんが初めてだよ」
理由自体は簡単で悲しい物だ。オーガの服なんて作りたがる奴はいないってことだ。だから自分も記憶を頼りに色々と再現したのだ。黙々と特訓を重ね、それなりにはなったと思う。婆ちゃんに教わり、さらにその腕は磨きがかかった。
「その針、普通ではないな。随分な気配を感じるぞ」
「お、よくわかったな。魔鉄製さ」
手にして陽光にさらしてやると、ギラリと輝く太めの針。これだけでも暗器のように使えそうだけどちゃんと縫物に使うのだ。というのも……。
「どうしてそんな……ああ、折れるの?」
「そういうことだ。力があるのも良し悪しだな」
そう、ただの針ではぽきぽきと折れてしまうのである。随分悩んだ末、どこだったかの街でこれを手に入れたのだ。あの時の職人は元気だろうか?
「見上げるような巨漢が細かく縫物、不思議な光景ね」
「自分が一番わかってるよ」
笑いながらも縫う手は止めない。ほつれを直し、痛みの予兆がある場所は伸ばし、多少色合いによく見ると違いはあるように見えるが十分ではないだろうか?
「これでどうだ?って代金を言ってなかったな」
「私の知るオーガとは何もかもが違うな……いや、ありがとう。これで足りるだろうか」
そうして差し出された代金は自分の思った以上の金額であり、必要な分だけを貰って残りを返す。そうしたら、笑顔が2つ産まれる。またよかったらと快く送り出すのだった。