拝む
いつの間にか、拝んでいた。
畳に正座し、額を畳に付けるかのように、頭を下げていた。
幼い私は、何を拝んでいるのか。そもそも『拝む』という、この行為の意味も分からなかった。
私は頭を上げ、『拝む』相手を見た。
それは私よりも一段高い壇上に置かれた、大きな黒い観音開きの仏壇の中に、居た。
土気色をした、肥えた蟇を頭から軽く潰したようなものが、法衣を纏って私を見下ろしていた。
そいつは私を見て、目を細め、いやらしく口の端を大きくつり上がらせ、僅かに口を開き、にやついている。
「これ!■■■■さまを、そんな風に見ちゃ行かん!」
突然、上げていた頭を無理やり畳に向けて押さえつけられた。
ちらと目線を横に走らせると、白く、蓬髪の老女が畳に額を擦りつけ、拝んでいる。
「あぁ有難い有難い」
老女はぼそぼそと口元で小さく、繰り返し呟いている。
違う。
あんなものが有難いはずがない。
有難いものが、自分を拝んでいる者を見て、にやつくものか。
あんなふうに、見下ろすものか。
私はもう一度、頭を上げて前を見た。
肥えた蟇は、やっぱりにやついていた。
そして、私に一言。
「哀れよのぅ」
喉を膨らまし、嘲笑するかのように嗄れた声は言った。




