窓の外
窓を3度叩く音で、目が覚めた。
どん
どん
どん
拳で今にも窓を割ろうとでもするかのような勢いだ。
余りにも煩いので、寝呆けた頭を抱え、体を起こした。
窓は私の右側、真横にある。
勿論カーテンを閉めている為、外の様子は勿論、部屋の中も真っ暗だ。
今、何時だろうか。
恐らく、深夜なんだろう。
遮光カーテンは夜の都会の明りを完全に遮断している。
呆けた頭も手伝い、そもそも、時計が何処にあるのかさえ良く分からなくなっていた。
どん
どん
どん
また3度、窓が叩かれた。
五月蝿い。
私は心地よい眠りを阻害されたことに、苛立っていた。
これ以上喧しくされては堪らない。
私は苛立ちに任せ、思い切りカーテンを開けた。
カーテンの向こう。
窓一面に。
老人が張り付いていた。
骨と皮しかない、枯れ枝のような裸体。
禿頭で皺だらけの顔。
その老人が、まるで蛙の如く窓にへばりついているのだ。
ぎょろりと見開かれ、暗闇の中で唯一不気味な光を放つ目が、私の顔を捉える。
そして、歯のない口を、ぱくぱくと、動かした。
あぁ煩わしい。
一分一秒でも眠りたいという思いで一杯の私は、老人に向かって一言。
「邪魔だよ」
そう言い放ち、私は眠った。
カーテンを閉めることすらしなかった。
その時の私には、眠ること以外は、何事も面倒で仕方が無かった。
朝になり、開けっ放しのカーテンから差す朝日が、覚め切らない頭と目に突き刺さる。
毎朝の習慣で、換気のため、私は真横の窓を開けた。
そして、ふと気付いた。
ここは10階だ。
窓の外には、ベランダどころか、足をかけられるような部分は、何一つない。
ならば、あの老人はどうやって10階の、足場のない窓に、へばりつくことが出来たのだろう。
だが、窓を眺めても、昨晩の出来事の名残は、何もなかった。
手垢の一つも、見つからなかった。
ならば、あれは夢だったのだろう。
今思い返しても、あの老人を見たことで起こるはずの恐怖や警戒心は一向湧いてこない。
やはり、夢だったからだろう。
そう思い、私はいつもの様に、リビングに向かった。
中学校2年生、夏の出来事であるある。




