足
「左足、無くなっちゃった。」
然も当たり前のように男が、言う。
「そう」と、私も動揺一つ無く、言う。
「じゃあ、義足を履けばいいじゃない。」と私は言う。
「もう履いてるよ」と男が笑う。
何故か、私は安心した。
「ただ…」男は急に、悲しそうな顔をし、両足を見て、呟く。
「このままじゃ、可哀想だよなぁ。」
一体何が、可哀想なのか。
理由は、分からない。
ただ、返事はしなかったが、私も、そうだな、と思った。
「だからさ、右足も、切っちゃおうと思うんだ。」
そう言いながら、男は、左手に持った鉈を、右の膝から下にめがけ、振り下ろした。
血も流れない。
肉や骨も散らない。
まるで、素から取れるようにでもなっている、と言わんばかりに。
ぼとり、と、ただ、右足が落ちた。
それを見て、今までの平静が嘘のように、私は酷く怯えた。
「右足が、右足が」そう言いながら腰を抜かし、男から後ずさる。
男は何事もなかったかのように片足で立ち上がり、右足を拾い上げた。
そして、「持ってて欲しい」と言い、私に差し出す。
逃げようとしていたにも関わらず、私は怖々と、それを受け取った。
どうしよう、どうしよう。
この右足を、どうしよう。
足を抱えながら、私は焦った。
今なら繋がるか。
治るか。
元通りになるか。
そんなことを、考えていた。
そして、ふと、抱えている右足の、断面を、見たくなった。
私が、足の切り口を、自分の顔に向けた瞬間。
視界が、塞がれた。
「そこは見てはいけない。」
男が言う。
「そこは、断面は、気持ちが悪いから。」
その声だけが、暗闇に響いた。




