邪魔者
本を読んでいた。
日中に読んでいた本を開き、些か曖昧な内容になってしまっているそれを読み返していた。
文字を追う目の動き、頁を指で捲る感覚は何とも心地が良かった。
「なんだ、そんなに紙が好きか」
嗄れた声に釣られ目線を僅かに上げると、大小様々な紙束を抱えた中年の男がよたよたと歩いている。
酒に酔っているかのような、覚束無い足取りだ。
はて、知り合いだろうか。
そもそも、私に声をかけたのだろうか。
そんな疑問が浮かびはしたが、どう見ても見覚えのない風貌に無視を決め込み、目線を再び本に戻した。
しかし、男は私の正面で立ち止まり、本を避け私の顔を覗き込んできた。
心なしか、口が臭いような気がする。
「じゃ、これも頼むよ」
いやらしい笑みを浮かべながら、男は私の手からひょいと本を取り上げ、空いた両手に紙束を押し付けた。
「これは俺が読んでるよ」
私から取り上げた本を振りながら、男はさっさと私に背をむけ、足早に去っていった。
一体何なんだと思いながらも、仕方なく一番上に置かれた紙をつまみ上げ、何が書かれているのかを確認する。
そこには一言。
“無駄”
とだけ書かれていた。
私は無性に、腹が立った。




