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白昼悪夢  作者: 薄暮
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金縛り

金縛りに遭った時に思ったこと

 瞼を上げて、眼前に見ず知らずの足の無い誰かが立っていれば、どれ程良いだろう。

 もし、白いワンピースに顔が長い髪の女が立って居れば、テレビから出てくる前にダビングした映像を誰かに見せないといけないし、赤黒ストライプのセーターを着て、手製の鉤爪を右手に爛れて歪んだ顔でにやつく男が居れば、背を向ければいい。それらは多分映画を見過ぎ、と言うものであり、唯の夢だと諦めが付く。

 そうでなくても、誰か、もしくは何かのせいに出来る、と言うのは大変楽なものだ。

 一番の苦しみは、目を開けても誰も居らず、私を恨むような声も聞こえない。にも拘わらず、身体が動かない。すなわち、それが単なる脳と体の不具合によって齎されたものだと知る瞬間である。

 動くのは半端に開いた眼だけであり、幾ら頭中で強く念じようと、指一本も動かせない。

 "縫い付けられた様に"とは言い足りず、一切の身じろぎも叶わない。

 起きろ起きろ、足を動かせ手を動かせ首を動かせ。

 時間が経てば経つほどに、意識は混乱し、命令に反して動かぬ体に苛立ってか、頭痛が激しくなる。

 遮光カーテンから漏れ入る仄暗い光が天井と照明器具を薄く照らし、混乱で定まらない目線で視界がぐらぐら歪む。

 その癖、寝息は波立たず穏やかなのが又、腹立たしい。

 そして、己の身体すら従えることが出来ない薄弱な意志に絶望し、これが"植物状態"というものか、と考える。そして、此の侭死んでしまうのかしら、という考えが過る。いや、この様な状態で生きてしまうかもしれないという方が恐ろしい、とも考える。

 結局何も為せぬ儘、動かぬ体を動かすことに諦めがつくと、そう言えば自分は眠って居たのだ、等と一見どうでもよい様な事を思い出し、ふ、と瞼を閉じる。

 次に目が覚めれば、全てが悪い夢でしかなかったと潔く忘れ、朝食の支度をする。もしくは、今の私の様に、"金縛り"に遭っていた時を思い出し、がくがく身体を震わせながら、この恐怖忘れまい、忘れて同じ目に遭えば2度と目を覚まさないとでも言わんばかりに慌ててペンを取り、恐怖を書き留める。

 意識が曖昧であれば、夢のせいにでも出来ただろう。

 しかし、私は明瞭に覚えている。

 ぴくりとも動かぬ四肢。

 虚ろで歪んだ天井、姿見、窓。

 薄く開いた口から洩れる、整った寝息。

 脳の叫び声、激しい混乱と頭痛。

 叫び終わった脳がちりちりと疼き、万策尽きたと悟った時の重く暗い絶望感。

 そして、眠り。

 厭で恐ろしい思いをするのは、夢と現で腹一杯である。しかし、夢とも現ともつかぬ微睡にまで、悪夢は容赦なく差し込んでくるのだ。

 甚だ安心できない心持で、今日も半端に目覚めぬように祈るばかりである。


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