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白昼悪夢  作者: 薄暮
14/30

赤目

 かまぼこの様な、半楕円の目の中心に留まっていた黒目が、前触れもなく、ぐいと、上を向いた。その後を追うように、油絵具のの様な、濃く、ベッタリとした赤い筋が、黒目があった中心から真上まで伸びている。

 目は暫く上で静止した後、先程の急激な上昇に比べ、随分とのろのろとした動きで中心に戻った。しかし、先ほど引かれた赤い線は、白目の中心から真上に向けて残った侭である。

 はてこれは何だろうかと思っていると、黒目はまたもや不意に、今度は右に真っ直ぐ動いた。当然、その後には赤い線が続いている。

 黒目は目尻一杯まで寄せられた後、上瞼の曲線に沿うように、ぐりんと左端まで緩やかなアーチを描いた。そして、左端に到達した途端、今までの緩急のあった動きから、まるで白目全体を赤く塗りつぶすことが急務であるかのように、忙しなく黒目を左右に動かした。

 黒目が動くに合わせ、荒々しく筆を叩きつけるような赤い線が、しゃっ、しゃっ、と引かれていく。

 次第に黒目の動きは左右のみの単純な動きだけではなく、縦横無尽に白い塗り残した部分を駆け巡った。赤い線を伴って。

 愈々下まぶたの辺りの僅かな白を、一直線に黒目が走り、白地に黒い点だけであった瞳は、真っ赤に染まった。そして、それに満足したのか、出鱈目な動きをしていた黒目は最後の一筆を入れた後、ゆっくりと目の中心に戻った。

 筆の役割をしていた黒目すらも、お役御免と言わんばかりに、赤の中心に留まった瞬間、周りの赤と見分けが付かない程に赤くなってしまった。

 そして、それは私を見た。何処をどの角度から覗き込もうと、光沢のある赤い眼が、私の顔に向けられる。

 そこで、ようやく思ったのだ。

 これは一体、誰の目なのだろうか、と。

 そんな赤い目で、一体何を見ようとしているのだろうか、と。


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