【04】とりあえず、冒険者になってみようかと思います〜親友(とも)達を捜して①〜
──〈竜の渓谷ドラグレスト〉を旅立ち…まずは、軽く〈オルヴェイン王国〉国内を巡った後、国外…果ては他大陸まで行ってみたいと考えている。
勿論、ただの観光目的って訳じゃない。
転生した親友達のおおよその種族は分かっている(※種族を指定しなかった人達については、彼女らの希望と転生してから得た種族関連の知識から幾つかの候補にまで絞った)。
けど、転生した場所(国等)は分からない。
この広大な世界で彼ら(彼女ら)を捜すのなら、それこそ世界中を旅するつもりでいないと駄目だろう。
そういう訳なので、まずは今現在いる国─〈オルヴェイン王国〉国内から捜す事にしたという訳である。
◇
──〈竜の渓谷ドラグレスト〉から歩いて十五日程という距離にある街─〈オルティーンの街〉へと辿り着いた僕とクラウシスは、街中にある〈虹鳥亭〉という店名の宿の前へとやって来ていた。
本来なら〈高位空間魔法〉の使い手でもあるクラウシスの〈転移魔法〉があれば、わざわざ歩いて街を目指さなくても済んだ。
けど、親友達を捜す為と真に勇者を目指す者として安易に楽する方法は絶対に選ばないと決めている身としては…その選択肢は、最初から除外している。
〈虹鳥亭〉で二人部屋を長期宿泊で取った後、宿泊する部屋へと入ってから…僕とクラウシスで今後の予定を立てる事にした。
「…それで?シリウスには、具体的な予定はあるのか?」
問い掛けてくるクラウシスに、僕は少し考えてから答える。
「うん。まずは、この街にある〈冒険者ギルド〉で冒険者登録をしてから…しばらくは〈オルヴェイン王国〉国内をメインに探索かな?
それで、見つからない様なら…国外へと出て、他の国を目指す。
途中で〈神樹の森共和国ミストラル〉や〈ドヴォルグ王国〉、〈学術魔法都市ウィザルード〉…別大陸では、〈竜の大陸ファーヴィルム〉にある父さんの故郷〈リヴァイス帝国〉や〈極東島国 大和〉にも行ってみたいかな…」
僕の答えに、クラウシスは「成程」と納得していた。
──実は、旅の最中に僕は…クラウシスに僕自身の事を含めた込み入った事情を説明していた。
クラウシスは、始めこそ驚いてはいたけど…おおよその事情を理解すると、色々と協力してくれると快く約束してくれた。
ちなみに…〈冒険者ギルド〉の冒険者登録を勧めてくれたのは、実はクラウシスだったりする。
◇
クラウシスの話では…〈冒険者ギルド〉には、王国や教会等といった組織とは独立し─ギルド独自の情報網が存在しており、その情報網で得られる情報の中には、そこでしか得られない情報も存在する。
その情報網を利用するには、冒険者登録をする必要があるらしいんだ。
ついでに…〈冒険者ギルド〉は、常に中立的な立ち位置を維持し続けていて…国や教会等の権力的な干渉を一切受けずに、独自のルール内で冒険者達の支援活動や組織運営を行ってきたそうだ。
〈冒険者ギルド〉が国家に大きく関わる様な事態になるのは、有事…つまり、魔物や魔獣による大規模な被害報告や大進攻の兆候,〈災害級〉以上魔物や魔獣の文化圏近くでの目撃報告等があった場合、それに対処する為に国家が動く際には〈冒険者ギルド〉側も全面的に協力する体制になっているそうだ。
但し、有事での全面協力には…国家間等の戦争への協力は含まれてはいない。
これは、〈冒険者ギルド〉の創設者にして初代ギルドマスターがギルドを創設した際…そこに所属する冒険者を国家間等の戦争の戦力として絶対に利用させない為に、色々と尽力した事によってもたらされた成果らしいんだ。
けど…それは、あくまでも“〈冒険者ギルド〉という組織”の立ち位置であり、〈冒険者〉個人が国家間等の戦争に参加・協力する事を選択した場合は止めないそうだ。
但し、戦争への参加や協力した事で何等かの不利益が生じても、それは選んだ〈冒険者〉自身の自己責任であって…ギルドは一切の補償の類いは行ってくれないらしい。
だから、現在でも国家間戦争へ自ら進んで介入しようと考える酔狂な〈冒険者〉は全くいないそうだ。
まあ、生じる可能性のある不利益に対してギルドからの補償が一切無い…となると、誰も戦争に介入しようなんて考えないよね。
それに…〈冒険者〉になる人間は大抵、裕福な家の出生では無く…貧しい農村や故郷を何等かの理由で失ってしまった流民である事が多い。
財産をあまり持たない身としては、何等かの不利益が生じる様な事態だけは避けたいところだろう。
──ちなみに…僕の様な人間以外の種族が〈冒険者ギルド〉で冒険者登録するのは、自分の住んでいた国や大陸以外の場所に関する様々な情報を得る為や…〈冒険者ギルドカード〉が身分証代わりになって、入国や入港等で面倒な手続きを省ける事…自分達の身を守る─自衛─の意味で、冒険者の身分は権力等とはある一定の距離を置けるので丁度良い…等といった諸々の理由から、割りと利用されているそうだ。
◇
──宿屋の部屋での今後の予定の一通りの確認が終了し…僕達は早速、〈冒険者ギルド・オルティーン支部〉を訪れる事にした。
今回、冒険者登録を行うのは僕だけだ。
──と言うのも…クラウシスには昔、父さん達と一緒にパーティーを組んでいた頃の〈冒険者ギルドカード〉をそのまま持っていて…しかも、クラウシスは引退した訳では無いので、そのまま使用が可能らしい。
…なので、クラウシスは僕を置いて〈ギルドランク表〉の貼られている掲示板へとあっさりと歩いて行ってしまう。
その後ろ姿を複雑な気持ちで見送りながらも…僕は気持ちを切り替えて、冒険者登録用の受付へと一人で向かう事にする。
受付には、親切なギルド職員が居たので…その人に登録用の書類への記入方法を教わりながら冒険者登録の手続きを済ませた。
一通りの登録手続きが済み、最後に〈冒険者ギルドカード〉作成用に一滴分の血液を提出する。
後は、カードが発行されるのを待つだけなのだが…
カード発行には、少し時間が必要らしい…ギルド職員から「カード発行の待ち時間を有効に使って、ギルドにどんな依頼があるのかを確認してみるのも良いですよ?」と勧められ、僕は依頼票が貼られている掲示板を見に行く事にした。
依頼票が貼り出されている掲示板は、冒険者ランクに合わせてきちんと依頼の難易度を選り分けられている様だ。
しかも、依頼票の依頼を受ける際には必ず〈ギルドカード〉の提示が求められる様になっているから…自分の身の丈に合わない依頼は絶対に受けられない仕組みになっているみたいだ。
──さて、早速どんな依頼があるのか…依頼票を見てみようかな?
ふーん。依頼票の内容は、割りと読みやすい様に書かれているみたいだね。
具体的には……
◆
①依頼内容(採取系や護衛系等の場合は、目的地も書いてある)
②達成必要数(又は、達成目標)
③依頼成功報酬
④達成期限(無い場合は、《無制限》と書いてある)
⑤必須ランク(※受けられるのは、自分のワンランク上まで)
⑥参加可能人数
◆
(依頼票の内容が簡潔に書いてあるのは…『読み書きに不慣れな人にも分かりやすい様に』っていう配慮かな?)
依頼票を軽く眺め終えた僕は、そんな率直な感想を抱く。
──この世界での中流階級以下の人達の識字率はかなり低く…全体の10%止まり。
その為、農民や狩人等の文字にふれ合う機会が無い立場の人達は、文字を読む事も書く事も出来ない人が圧倒的に多いんだ。
ちなみに僕は、〈竜の渓谷ドラグレスト〉で過ごしている頃に〈魔術師〉のローランさんから魔法の勉強と並行して文字の読み書きや一通りの計算式を学んでいたので、文字の読み書きについては何の問題は無い。
けど…中流階級以下で、僕みたいに文字の読み書き出来る人はほぼ少数なので…大多数の文字の読み書きを身に付けていない人達の為に、ギルドでは無料で代筆や計算を引き受けたり、少額で文字の読み書きや計算式等の必要最低限の学問を学べる様にサポートの一環として行っているらしい(※という事を、この街を目指す道中でクラウシスから〈冒険者ギルド〉の説明の中で聞いていた)。
ちなみに、Cランクになるまでに必要最低限の学問の習得は義務らしく…習得していないと、ランク昇格試験が受けられない(というより、ランク昇格試験に筆記試験があって…これを合格するには最低限の学問を習得していないと無理)んだって。
──さてと、話を戻すけど…そういう問題を抱えている大半の冒険者の為に、細かい説明文だと内容の読解に時間が掛かる上に依頼票の依頼を引き受けるのにも時間が掛かってしまう。
問題無く依頼をスムーズに受けられる様にする為にも、内容を簡潔に纏めてある依頼票の方がいいだろう…というギルド側の配慮で、内容を簡潔で分かりやすい感じに書き記した書き方になったんだろうな…と思った。
◇
──一通り依頼票を見終わり…『そろそろ〈ギルドカード〉の発行が終わっただろうか?』と思い、受付へと向かおうとしていた時…首に提げていた〈魂鳴石〉からリィーンリィーン…という澄んだ鈴の音が鳴り始める。
それに気付いた僕は、慌ててギルド内を見渡してみる。
すると、出入口から─背中までの長さがある朱色の癖のある髪に、真紅色の瞳、身に付ける防具─鎧─は黒鉄色の頑丈そうな造りであり、長い間使いふるされていたのだろうか…鎧の表面には幾つもの傷が入っている─青年が建物内へと入ってくる。
青年は入ってくると同時に、突然見渡す様にキョロキョロと視線をさ迷わせている。
しかし…その視線がある一点─僕の居る方に合うと…目を大きく見開き、驚愕の表情に変化する。
──未だにリィーン、リィーンと澄んだ鈴の音を鳴り響かせている〈魂鳴石〉。
そして…頭の中で、まるでパズルのピースがカチリと見事に填まったかの様な不思議な感覚を感じながら…僕の中で唐突に、とても懐かしいという感情が溢れてくる。
言われなくても…確認しなくても、目の前の人物が一体誰なのか…僕には直ぐに理解出来た。
「……とう…や?」
「……賢太、久しぶり。やっと逢えた……」
茫然とする青年─賢太に近づきながら…僕は涙を滲ませながらつつも、ニコリと喜びを表す様に笑顔を見せた。
──僕は、〈エルターナガイア〉に転生して300年ぶりに…一番最初の親友である賢太と無事に再会を果たす事が出来た。
◇
──僕達の唐突な行動を目撃した人達からの好奇の目に晒され、落ち着いて話を出来そうになかった事もあり…僕は素早く〈ギルドカード〉の受け取りを済ませ、クラウシスと合流すると賢太を連れて〈虹鳥亭〉へと戻る事にした。
〈虹鳥亭〉へと戻ってくると…すぐに僕達が借りている部屋に入り、賢太は部屋に設置されているテーブルに備え付けられている椅子に腰掛け、僕とクラウシスはベッドへと腰掛けた。
まず、僕の方が口を開く。
「賢太、まずは今世の名前を教えてくれないかな?ちなみに、僕の名前はシリウス・ティアマット。種族は聖竜だよ」
「我は、クラウシス。シリウスの装備する〈古代級〉の武器〈神剣クラウシス〉の〈思念体〉だ」
「……人間族のクロード・オストン。〈オルヴェイン王国〉の地方貧乏貴族の三男坊…ってところだな」
お互いの自己紹介を終えたところで、賢太─クロードが驚愕の声を上げる。
「……って!今、サラッと流したけど…神剣の〈思念体〉って、何だよ!?明らかに色々とおかしいだろ!!?」
──驚愕するクロードの為に僕は、クラウシスと〈古代級〉の武器に纏わる事柄を約一時間程の時間を掛けて懇切丁寧に説明する事になった。
「……成程な。つまり、シリウスの武器であるクラウシスは…生きている特別な武器って事なのか」
「うん。そういう事だから、クラウシスの事はあまり言いふらさないでね」
「分かった分かった。そんな重要そうな情報を軽々しく話す様な無用心な奴は、冒険者としてやっていけねぇーよ」
クロードの返答に、僕はホッ…と安心して胸を撫で下ろす。
クラウシスの件で、逸れていた話を戻す事にする。
「クロードも、〈冒険者ギルド〉に登録してたんだね。ランクは、どの位?」
「この間、Cに昇格したばかりだぜ。シリウスは?」
「ついさっき登録したばかりだよ」
「…って事は、最初のGランクってことか。クラウシスは?」
「最高ランクのSだ」
「……マジかよ。色々と規格外過ぎだろう……」
クラウシスの冒険者ランクを聞いて、クロードが引きつった笑みを見せている。
ちなみに僕は、苦笑いを浮かべている状況だ。
少しして…気を取り直した僕は、クロードに“ある事”を確認する。
「クロードって、冒険者になってどの位?」
「大体、3年…ってところだな」
「じゃあ……その間に、士郎達とは?」
少ない僕のこの言葉から、クロードは質問の意図をきちんと理解してくれた様だ。少しの間、考える様な素振りを見せてから答えた。
「……まだ、会えていない。〈魂鳴石〉が反応したのは、シリウスと再会出来た今回が初めてなんだ」
クロードの返答に、僕はガックリと肩を落とす。
まあ、皆が簡単に見つかるとは思ってはいなかったけど…この広大な世界で士郎達を見つける事の困難さを、改めて自覚する事になったんだけどね。
「シリウスの方は?」
クロードの問い掛けに、僕は首を軽く左右に振ってから答える。
「僕の方も全然。というか、僕は最近まで生まれ故郷の町にいたから…出会い様が無かったんだけどね」
「そっか…」
僕の答えを聞いて、クロードも残念そうな表情を見せる。
「分かってたけど…広いこの世界の中から、あいつらを探し出すのは結構難しいって事なんだなー」
「うん。こうしてクロードに会えたのは、本当に偶然だったけど…広い世界の中から実際に皆を見つけるのは、なかなか難しいって事を僕も自覚したよ」
僕がそう言って言葉を締めると、クロードとほぼ同時に「ハァー…」という深いため息を吐く。
そんな僕達に、クラウシスが呆れ混じりに言葉を掛けてくる。
「早々、簡単に見つかる訳が無かろう。
広大な世界を旅しながら仲間を探す…それ自体が勇者としての試練の様なもの。容易く見つからぬのも道理というものだ」
クラウシスのその言葉に、僕とクロードは揃ってガックリと肩を落とす。
けど、クラウシスの言葉にはまだ続きがあったんだ。
「……だが、シリウスとクロードがこうして無事に巡り会えた様に…シリウスと他の者達との間には、前世からの深き縁がある。
その縁が途絶えておらぬ限り、いずれは深き縁がお互いを巡り会わせる様に運命の流れを導いてくれる筈だ」
続けて語られたクラウシスのその言葉は…僕達の前世からの繋がりがある限り、必ず皆とも巡り会える…という大きな希望の光になった。
「そっか。なら冒険者として、これからも旅を続ければ何時かは士郎達と会える訳だな!」
「そうだね。旅は始まったばかりだし、必ず皆と会えるって前向きに頑張るよ」
「うむ、そうするが良い」
──この日、決意を新たにして…僕は、必ず皆と再会する事を強く胸に抱きながら…再会した賢太ことクロードと共に、〈エルターナガイア〉を旅する事となった。