【03】両親に『旅立ちたい』と伝えたら、思いっきり泣かれました…〜〈竜の渓谷ドラグレスト〉からの旅立ち〜
──雛竜期から幼竜期を迎えてから…長い歳月が流れた。
僕は遂に幼竜期を終え、聖竜の成竜へと成長を遂げていた。
成竜に成ったとはいえ僕自身は、前世でいうところの成人一歩手前─約16〜19歳位の年齢になる。
人型の見た目も大体その辺り位で…心身共に充分成熟した今、そろそろ勇者として故郷を旅立つ時だろう。
──そう思い、両親に「此処を旅立ちたい」と伝えたところ…思いっきり泣かれた。
「シリウス、私達に何か不満でもあるの?」
「それとも、此処での暮らしに嫌気が差しましたか?」
泣きながら、そう尋ねてくる両親。
──いいえ。貴方達に不満なんてありません。
寧ろ、返しきれない程の深い愛情を注いでくれたと思ってます。
それに、此処での暮らしに嫌気が差した訳でもありません。
寧ろ、今すぐにでも旅立ちを決意して出立しないと…あまりに居心地が良すぎて、勇者として旅立つのをズルズルと引き延ばしそうです。
──そんな僕の思いを心の中で考えるだけに留め、両親には“旅立つ理由”を話し始めた。
「父さん母さんには、本当に感謝しています。
今まで、僕がやりたい事を止めたりせずに…寧ろ、応援すらしてくれた事を……
けど、僕には主神様から『〈エルターナガイア〉を邪神の魔の手から救う』という使命を生まれた時から与えられています。
僕が生まれ持つ強い力も、父さんとも母さんとも違う種類の竜に生まれたのも…全てはその為なんです。
だから…旅立ちを止めないで下さい」
僕のその話を聞いた母さんは、涙を流しながらも黙って僕を抱きしめ、父さんは無言で一度自室へと戻り…一振りの片手剣を差し出した。
「決意は固いのですね。なら、旅立つシリウスへの餞別として…せめてもの贈り物です。
昔、父さんが母さんと夫婦となって〈竜の渓谷ドラグレスト〉に腰を落ち着ける前…世界中を旅していた頃に使っていた〈古代級〉の片手剣で、剣自体が明確な意思を持つ〈神剣クラウシス〉です。
今現在は、剣の意識は長い眠りについていますが…シリウスが聖剣に認められれば、剣の意識は目覚め…真の力を発揮してくれる筈です」
そう言って、貴重な〈古代級〉の聖剣を僕へと手渡してくれた。
「えっ?〈古代級〉!?〈原初の魔王〉しか所有が確認されていないという…あの稀少な武器を!?どうして父さんが!?」
思わず驚く僕に、父さんがその訳を丁寧に説明してくれた。
◇
──父さんから聞いた話を纏めると…
──〈古代級〉の武具を“武具”として所持しているのは、〈原初の魔王〉達だけで…それ以外の〈古代級〉の武具は、国が“国宝”として王宮等の宝物庫に保管していたり、神殿や社殿で“儀礼用”や“御神体”として奉られていて…一般の人達には〈古代級〉の武具に関する詳細な情報や所在については完全に秘匿されたまま、厳重に保管されているのだそうだ。
さて、父さんの話の中には生い立ちに関するものもあり…父さんは、〈竜の大陸ファーヴィルム〉の〈竜族の国リヴァイス帝国〉の生まれで、〈リヴァイス帝国〉に存在する六竜王家の一つ、ティアマット家の出身だったそうだ。
この〈リヴァイス帝国〉は、代々〈竜帝〉をこの六竜王家の中から選定するらしい。
当時、先代〈竜帝〉が崩御して次代の〈竜帝〉はどの王家から出るのかと騒がれていた頃に…『次代の〈竜帝〉はティアマット家から出る』という〈先見の竜巫女〉の御告げがあり、それを聞いた貴族達による…父さんか伯父さんのどちらかを擁立しようとする激しい〈竜帝〉の後継者争いが起こったそうだ。
肝心の当事者である父さんと伯父さんは…『〈竜帝〉は、どちらがなってもいいや』的な無欲な考えを持っていたらしい。
けど…当事者をそっちのけで、貴族達が邪魔な相手を抹殺してしまおうかという血みどろの争いすら辞さない雰囲気を醸し出し始めたのを感じ取った父さんは、同族である筈の者を平気で殺そうとまで考える貴族等の権力者達に本気で嫌気が差したらしい。
父さんは、後継者争いを終わらせる為に…自分の〈竜帝〉とティアマット家の継承権を放棄して伯父さんに譲った上に、〈リヴァイス帝国〉を永遠に去る決断をしたそうだ。
無論、たった一人の血を分けた兄弟である父さんに…こんな決断をさせた貴族達に完全に腹を立てた伯父さん(※父さんと伯父さんの兄弟仲は、かなり良好だったそうだ:父さん談)は、〈リヴァイス帝国〉が複数所持する国宝の一つである〈神剣クラウシス〉を国を捨てさせられた父さんへのせめてもの餞別として密かに渡したそうだ。
──ちなみに、〈神剣クラウシス〉譲渡の件は王公貴族達には一切相談してないらしい。
しかも、伯父さんは国一番の幻影魔法の使い手で…それを利用して、約200〜300年は宝物庫から〈神剣クラウシス〉が無くなっている事を悟らせない為の徹底した偽装工作まで行っていたらしいから…どれだけ伯父さんが貴族達に対して御立腹だったのかが、この話で窺い知れる。
ちなみに…父さんが、伯父さんが大好きな兄弟の仲を引き裂いた貴族達に対して行った『意趣返しを兼ねた伯父さんの独断によって行われていた〈神剣クラウシス〉譲渡とそれを王公貴族達に悟らせない為の徹底した偽装工作云々の事』を知ったのは…国を出て、世界中を旅し続けて300年以上経過してから、風の噂で『〈リヴァイス帝国〉の宝物庫に納められていた国宝の一つが、ある日忽然と消失した』という事を聞いた時だったそうだ。
◇
──思わぬ父さんの出生にまつわるカミングアウトには驚きつつ…父さんが〈古代級〉の武器を所持していた理由や〈原初の魔王〉達以外に所持が確認されていない訳が話を聞いていて理解出来た。
…とは言え、安全な〈竜の渓谷ドラグレスト〉を出て世界を巡る旅に出る以上、魔物との戦闘は避けては通れない。
必然的に、一番入り用となる武器をなんとか工面しないといけないなと常々思っていた僕にとっては、まさに『渡りに船』だ。
しかも、〈古代級〉の神剣となると…いずれ勇者となる僕の旅路は決して楽ではなく、辛く厳しい旅路になる事は目に見えて明らかで…その旅路で使用する武器は、〈一般級〉や〈特殊級〉や〈魔法級〉の武器では駄目だろうと考えていただけに、父さんがくれた餞別は最高の贈り物になった。
──そう言えば…両親の生い立ちの話を聞いたのは、前世でも今世でもこれが初めてかもしれない。
旅立つ為に必要な装備や道具、旅の必需品がまだ完全に用意出来ていない状況なので…〈竜の渓谷ドラグレスト〉を旅立つ前まで、両親から色々な昔話を聞かせてもらうのも丁度良い機会かもしれない。
──そう思った僕は、旅立つ前日まで…日中は旅の仕度や日課の鍛練を行い、毎日の食事時や寝る前には両親の昔話や他愛もない話をする…という予定を立てた。
◇
──今日の夕食後に昔話を聞いた結果、母さんの生い立ちにも驚かされた。
なんと母さんは、光竜の一族を率いる竜族長の娘なのでした。
そんな母さんが…何故父さんと出会い、何故竜達に〈竜達の理想郷〉と呼ばれている〈竜の渓谷ドラグレスト〉へと住む事となったのか…ここで、簡単にだけど語る事にする。
──母さんは、光竜一族の族長の娘として生を受けた。
母さんには、上に姉と兄が一人ずついて…母さんの母さん─僕にとってはお祖母さん─は、母さん(の入った卵)を出産後に体調を崩してそのまま亡くなってしまったそうだ。
そして、父親─僕にとってはお祖父さん─は族長として多忙の為、母親のいない母さんの母親代わりを年長の光竜であるマルデラさんが引き受けてくれていたそうで…亡き母親の代わりに沢山の愛情を注いで育ててくれたそうだ。
けど、ある日突然…『竜に纏わる昔からある伝承や噂』を信じた人間達が当時の光竜達の住処を襲撃してきた。
無論、襲撃自体は歴戦の戦士である光竜達によって退ける事は出来たけど…住処の住み替えを余儀無くされ、新たな住処を求めて旅立つ事になった。
でも…ここで一つの問題が起きた。
──それは、『飛行速度の遅い年老いた老竜達、怪我を負った竜達、病を患っている竜達をどうするか』である。
幼い雛竜や幼竜は身体がまだ小さい為、成竜達の背に乗せて運ぶ事が出来る。
けど、老竜達は老いたとはいえ…体格は成竜達とあまり変わらない。
しかも、僕達が当たり前の様に習得していた〈人型変化〉のスキルは…〈竜の渓谷ドラグレスト〉と〈リヴァイス帝国〉の二つの場所以外ではあまり重要視されていない為、大半の者が〈人型変化〉のスキルを習得しておらず…“人型を取る”という手段を選択する事は出来ない。
そして、たとえ〈人型変化〉のスキルを習得していたとしても…怪我や病の状態では正しく発動出来ない事もある。
──それらを踏まえた上で、母さんの父親である族長が下した決断は…『移動の足手まといになる竜達は置いていく』という非情なものだった。
それは、多くの仲間を生かす為に敢えて少数の仲間を見捨てていく…一族存続を思うのなら当然の選択なのだろうし、僕の前世の世界にあったVRゲームでも…あるレイドチームが少数の仲間を犠牲にして勝利への活路を切り開いた事もあった。
族長としての祖父の判断は一族を守る為にある意味正しいのだろうし、VRのそのレイドチームの取った方法は確実に勝利を掴む為の戦法の一つとしてはある意味ありなのだろう。
でも…VRの場合は、死んだとしても“死亡後罰則的制約”を支払えば復活出来たし、あくまでゲームだからと割り切る事が出来た。
けど、たとえ多くの命を生かせるのだとしても…少数の命を切り捨てるという行為自体に僕としては頭では理解出来ても、心から納得する事は絶対に出来ない。
──そして、当時の母さんも僕と同じ気持ちだったらしい。
何より、置き去りにされる者の中に母親代わりを務めたマルデラさんがいた事も一因だろう。
族長である父親に反発して、母さんは残される者達を助ける為に共に残る事を選んだ。
それでも族長は、一度下した決定は決して覆さず…母さん達をそのまま残して移住する一族の者達を引き連れて住処を出ていってしまった。
残った母さんは、残された怪我人の治療や病人である竜達の看病を甲斐甲斐しく行い…『皆が元気になってから一緒に移動しましょうね』と残された皆に声を掛けて励ましていたらしい。
──だけど…怪我人や病人が完治する前に、人間達が再び住処に襲撃を仕掛けてきた。
勿論、残された者の中で若くて健康体であり、唯一戦える力を持っていた母さんが仲間を守る為に人間達と対峙する事になった。
──けど…二つだけ問題があった。
それは、母さんが本当の意味で“命を奪った事が無い”という事。そして…何よりも“心根が優しすぎた”という事だ。
戦えない仲間の為に戦おうとした母さんだけど…“誰かを守る為に相手を殺す覚悟”を持てない母さんは、攻撃する際にも相手を殺さない様に手加減をしながら攻撃を行っていた。
──けど…それでは、殺す気で向かってきている相手に対しては分が悪すぎた。
徐々に劣勢に追い込まれた母さんの身体の所々は傷付き…戦う気力も体力も、徐々に失われていった。
そんな危機的状況に追い込まれた母さんを助ける為、襲撃者達と母さんの戦闘に介入したのが…旅の途中で通りすがった父さんだった。
◆
──全身を傷だらけになりながら、一体の光竜が洞窟の奥に居る仲間の光竜達を守る様に襲撃者である人間達の前─洞窟の入り口に立ち塞がっていた。
(皆を…守らないと…)
傷だらけで思う様に動かなくなりつつある満身創痍の身体を無理矢理叱咤しながら…光竜─シルフィードは、人間達から決して目を逸らさなかった。
今、自分が此処で倒れれば…怪我を負った者達や病を患った者達、年老いた者達では彼らには決して敵わず、全員殺されてしまうのは目に見えている。
(だから…私が、皆を守らないと…)
懸命に心を奮い立たせ、崩れそうになる足に必死に力を込めて大地をしっかりと踏み締めようとする。
しかし…シルフィードの置かれている状況は、決して楽観視出来る様な状況では無かった。
──長くは持たない。
今まで命の取り合いをした事が無かったシルフィードでも、自分の命が“風前の灯火”の状態である事位は嫌でも解っていた。
背後からは、『シルフィード様!私達など見捨てて逃げて下さい!!』という仲間の光竜達の悲痛な声が聞こえてくる。
──無論、『仲間を見捨てて自分だけ逃げる』という選択肢は初めから除外しているし、それを選ぶなんてこの命を失う事になろうとも絶対に有り得ない。
だからこそ、仲間を守る為に最後の最後まで…この生命を文字通り“燃やし尽くす”覚悟で、命懸けで人間達と対峙する。
「目の前の竜は、もうすぐ討伐可能だ!」
「ヒヒヒッ。竜素材…もうすぐ手に入るぜ!」
「一攫千金!俺らも大金持ちの仲間入りだな!!」
「永遠の命が手に入る秘薬…楽しみだな!」
人間達が一斉に武器を構え、魔術師が呪文の詠唱を始める…
(もう…此処までなの…?)
──シルフィードの心に、少しずつ絶望の闇が忍び寄ろうとしていた時…突如、シルフィードと人間達を覆い尽くす程の巨大な影が現れた。
「何だ!?」
「何事!?」
「どうしたんだ!?」
(えっ…何…?)
突然の巨大な影の出現に、人間達もシルフィードも戸惑いを隠せずにいた。
──すると、シルフィードと人間達の…対峙する両者の丁度中間地点の辺りに、漆黒のロングマントを身に纏い、同じく漆黒の軽装備に身を包み、鮮やかな装飾を施された片手剣を左側の腰に差して、黒縁丸眼鏡をかけた紫紺色のショートヘアーの青年が舞い降りてきた。
唐突に現れた第三者の存在に、人間達もシルフィードも…警戒感を露にした表情で青年を見ている。
「アンタ…何者だ?」
左手の人差し指で軽く眼鏡を押し上げながら、ゆっくりと立ち上がる青年に…沈黙を続ける人間達の内の一人─リーダー格らしき男が口を開く。
「……そうですね。“ただの通りすがり”…なんて言っても、そちらは『ハイ、そうですか』と納得は出来ないでしょうし……。
きちんと自己紹介をしておきましょうか」
そう言うと青年は姿勢を正し、悠然とした態度で自己紹介を始めた。
「僕の名はセルヴィア・ティアマット。
君達が〈冒険者〉ならば…『漆黒の竜使い』か『常闇の魔導剣士』と名乗った方が分かりやすいですか?」
青年─セルヴィアの自己紹介に…明らかに人間達の顔色が変わった。
「なっ!?」
「“漆黒の竜使い”…だと!?」
「多くの王国や帝国が、その驚異的な実力を高く買い…なんとか自国に抱え込もうと様々な稀少アイテムや高報酬や厚待遇等の数々を条件として提示するも、それら全てを蹴ったという…あのS級冒険者の!?」
驚愕する人間達─この反応で、かなりの高レベル〈冒険者〉と判明─を脇に置いて、いつの間にかセルヴィアの傍に現れた…足元までの長いストレートな金髪に豪奢な装飾の10〜12歳位の魔術師風の少年?(少女?)が、シルフィードに近寄りながら声を掛けた。
「我はクラウシスと言う。そなた、見た限りでは傷だらけの様だが…大事はないか?」
『そうですね……。最早、今の私には戦えるだけの力は残っていません……』
少年?(少女?)─クラウシスの問い掛けに、シルフィードは警戒心は解かないものの…正直に自分の状態を伝えた。
「ふむ。あまり芳しくない状態の様だな……
『慈悲深き癒しと正義の陽光神レイ
目の前の傷付きし者に、その深き慈愛の癒しを!
〈聖なる慈愛の涙雨〉!!』」
クラウシスは、シルフィードの満身創痍な状態を回復する為に回復魔法を使用した。
──クラウシスがシルフィードに対して行使した回復魔法は、回復に特化した職業〈治癒術師〉の中でも…〈司祭〉の最高位である〈大司教〉、〈森司祭〉の最高位である〈森大司教〉、〈聖神官〉の最高位である〈神聖大神官〉のみにしか行使出来ないと言われている最高位の回復魔法の一つだった。
クラウシスの行使した最高位の回復魔法にすら…〈冒険者〉達とシルフィードは大きな戸惑いを隠せない。
──当然だ。
これだけの回復魔法を行使出来る程の魔法力保持者ならば、何処かの王国の様な大きな国々や何処かの神を奉った大神殿の様な大きな神殿で厚待遇での御抱えになっている事が常識であり、クラウシスの様に〈冒険者〉を生業にしている者で居続ける事はまず無い。
セルヴィアとクラウシスを除いた一同が、驚愕し過ぎて完全に放心状態に陥っていて…誰かが「『叡智の大賢者』のクラウシスなのか…?」という呟きが微かに聞こえてくる。
クラウシスはその誰かが呟いた微かな呟きをしっかりと聞き取り、その呟きに対してわざわざ答えていた。
「うむ。そういえば、周りの者達からは“叡智の大賢者のクラウシス(その様に)”呼ばれておったな」
しみじみと頷きながらつつのクラウシスからのその返答に…完全放心状態の一同は、更なる精神的衝撃を受けた。
──沈黙が完全に支配するその場に突如、突風が発生する。
すると、徐々に一同を覆う様にあった巨大な影がより大きく…影の濃さがより濃くなって、周囲に降り注ぐ太陽の光を完全に遮り、辺り一帯が一時的に暗闇に覆われる。
そんな中…上空からゆっくりと深紅色の火竜、瑠璃色の水竜、ミントグリーン色の風竜の三体が地表へと降りてきた。
現れた三体の竜の特徴に、冒険者達のリーダー格は覚えがあった。
──〈漆黒の竜使い〉の従える三体の竜。
灼熱の火炎を操る〈爆炎の紅炎竜〉
凍てつく水氷を操る〈水冷の瑠璃水竜〉
唸る疾風を操る〈疾風の碧風竜〉
三体全てが上位の竜であり…それら全てを支配下に置いて従えているが故に、〈冒険者ギルド〉に所属する多くの冒険者達には崇敬の念を抱かせ、権力者達にはその絶大な力を自らの勢力に引き込みたいという欲を抱かせる…
──それは…今現在でも、たった20人弱程度しかいない最高ランクSランクの冒険者である上に…未だにセルヴィア(かれ)以外には誰もなし得ていない“竜使い”という称号を持つ事が、権力者達がこぞってセルヴィアの力を求める理由でもあるのだ。
そんな風にセルヴィアに対して恐れを抱くリーダー格の気持ちを余所に…地表へと降り立つ直前、三体の竜が唐突に各々の体の色彩と同じ光に包まれた。
しばらくして、光が収まると、先程三体の竜達が降り立とうとしていた場所には…背中には純白に緋色のラインが描かれた大盾とバスターソード位の大きさはありそうな剣を背負い、緋色の鎧を身に付けたクセのある深紅色の背中にかかる位の長さがある髪の30代後半位の騎士風の男性と…漆黒色に純白色のエプロンを装着したメイド服を身に纏い、背中にかかる程の長さがあるストレートな瑠璃色の髪の20代前半位のメイド風の女性と…紺色の動きやすさを重視した軽装で、腰までの長さがあるクセっ毛のミントグリーン色の髪の10代半ば位の少女の三人が立っていた。
突如現れた謎の三人組が誰であるのかを認識した冒険者達は、更なる驚愕の嵐に見舞われていた。
「『緋炎の守護神』のディラン、『微笑みの戦侍女』のミリティア、『疾風の狩人』のクリスティだと…!?」
茫然としたまま…冒険者達の内の誰かが、現れた三人組の有名な二つ名を呟くと…男性─ディランはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、女性─ミリティアは微笑みながらメイド服のスカートを軽く摘まんで優雅に会釈をし、少女─クリスティは「エヘヘ〜」と無邪気そうな笑顔を見せていた。
──この三人組は、セルヴィアとクラウシスの二人を含めた五人で共に活動する超一流の冒険者パーティーであり…今この場所にいる冒険者達から見れば、まさに“雲の上の様な人物達”である。
「さて、僕の仲間が勢揃いしましたが…僕達と事を構えますか?」
冒険者達のリーダー格は、時勢の流れを読めない程馬鹿では無い。
ましてや、“超一流”の冒険者であるセルヴィアのパーティーと…あくまで“一流”の自分達のパーティーの実力を天秤に掛けて、どちらに傾くのか…考えずとも明らかだろう。
だからこそリーダーは、『降参だ』と言わんばかりに両手を挙げながらこう宣言した。
「分かった。此処の竜達には、もう手出しは一切しない。
アンタ達、超一流パーティーを敵に回して勝てるなんて思い上がる程、俺は自惚れちゃいない。
そして…アンタ達が此処の竜達をどうするつもりなのかは敢えて聞かないし、それについてで揉めるつもりも一切無い」
それを聞いた冒険者達から不満を訴える抗議の声が次々と挙がる。
「馬鹿野郎!!相手は、正真正銘の“超一流”の冒険者だ!!
俺らみたいな“ただの一流”ごときが敵う相手じゃねぇ!
しかも、あのパーティーにちょっかいを掛けた俺らと同格か少し上の実力者達の…その悉くを返り討ちに遭わせる程の実力者揃いだ!!
……そこまで聞いて、おめぇらはまだ相手したいと思うか?」
リーダー格の言葉に…自分達の目の前にいる相手がどんな存在であるのかを改めて理解した冒険者達は、上げていた不満の声を止め、ただ黙り込むしか無かった。
「…この通りだ。コイツらも分かってくれたみたいだから、俺らは此処等辺で失礼するぜ」
「ええ。そうしていただけると助かります」
ニコリと穏やかに笑い掛けるセルヴィアの笑顔に…得体の知れない恐怖を抱きながらも、リーダー格の冒険者は仲間の冒険者達を引き連れながら急ぎ足で光竜の住み処を後にした。
──それを黙って見送っていたセルヴィアに対して、シルフィードはきつい口調で問い掛けてきた。
『貴方、何者!?あの人間達は貴方を恐れている様だし、そこの彼らは契約している訳では無いのに従っているし…本当に何者なの!?』
一つの危機が去り、新たな危機が訪れたと思い…恐怖するシルフィードに、ミリティアが優しく語り掛けた。
「ご安心下さい、光竜のお嬢様。セルヴィア様は、貴女方光竜族を決して傷付けたり致しません」
『……何処に、その保証があるのですか。
先程の人間達は、その人を同じ“冒険者”だと言っていました。
“彼らと同じ様な事はしない”と言われても、信用出来ません』
「待って下さい!セルヴィア様は──」
疑心暗鬼で警戒心を露にするシルフィードの態度と言葉に…ミリティアは更に言葉を続けようとしたが、それをセルヴィアが制止した。
「私が、貴女を決して傷付けない証拠を見せて差し上げます」
そう言ってから静かに目を閉じたセルヴィアの身体が、唐突に淡い紫紺色の閃光に包まれた。
──しばらくして、光が収まると…そこには、一体の紫紺色の闇竜が佇んでいた。
セルヴィアが自分達の同族─竜族─であるという事実を知って…驚きの余りに言葉を失ったシルフィードに、セルヴィアは優しく語り掛ける。
『これで、安心していただけましたか?
僕が、貴女と同族であるのなら…貴女方を助けるのは当然ですよね?』
そう言って、セルヴィアは再び人型へと変化する。
シルフィードは、未だに衝撃から立ち直れていない様だった。
◆
──当時を思い出して、彼─セルヴィアは思わず笑みを浮かべた。
あれが、妻─シルフィードとの初めて出会いだった。
──その後、クラウシスの《転移魔法》を使って光竜達を〈竜の渓谷ドラグレスト〉へと送り届けた後、〈完全人型変化〉を覚えていたシルフィードを新たに仲間に加えて、六人パーティーで〈エルターナガイア〉の世界各地を旅し…時に強敵と戦い、時に秘境の絶景を眺め、時に困っている人達を手助けし…いつの間にか世界中の人々からは“英雄”と呼ばれる様になった。
旅の中でシルフィードと愛を育み、将来結婚しようと誓いを立て…クラウシスの勧めもあって、〈竜の渓谷ドラグレスト〉で結婚式を挙げた。
〈竜の渓谷ドラグレスト〉に本格的に腰を落ち着ける事を決めた後は、冒険者を引退する事を決意した。
多くの人達に惜しまれつつ冒険者を引退してから、随分と歳月が流れ…今では、シリウスという自慢の息子にも恵まれた。
(あれから随分と時が経ちましたが…まさか我が子が、主神様より“勇者”に選ばれるとは思いませんでした)
──父親としては、可愛い我が子が自分達の元を旅立つのは今でも少し寂しいと思う。
しかし、一人の男としては…たとえ可愛い息子とはいえ、一人の男として旅立ちを決意したのならば応援してあげたい。
──実は、意外と父親心は複雑なのだ。
(シリウスが、旅の中で何を学ぶのでしょうか…
きっと、旅先では良い人にも悪い人にも出会うでしょう。
旅先では良い事ばかりでは無く…辛い事、苦しい事、悲しい事、嫌な事…きっと色々な経験をする事でしょう。
…かつての私がそうであった様に。
それらを経験して…シリウスが身も心も、一回りも二回りも成長してくれる事を祈りましょうか)
そう思い…セルヴィアは、いずれ旅立つ息子の旅路に幸いがある事を〈エルターナガイア〉の神々に密かに祈るのだった。
◇
──さてと。いよいよ、旅立ちを明日に控えたし…荷物の最終点検をしておこう。
まずは、携帯食料と飲料水。
これは、〈竜の渓谷ドラグレスト〉から一番遠い町や村の距離(※この世界の単位は、元の世界と全く同じだった(驚)!!)を計算して…最低でも一ヶ月は持つ位は用意してある。
実は、便利な事に…この世界には〈異次元の鞄〉や〈無限の背嚢〉等の大容量の物品を詰め込める〈魔法道具〉が存在している。
僕が旅立つのに際し、その餞別として母さんが〈無限の背嚢〉という〈魔法道具〉をくれたので、今は最終点検を行いながら同時進行でそれらを〈無限の背嚢〉へと詰め込む作業も並行して行っている。
おっと、思考がずれた。
次は、回復系消耗品。
〈回復薬〉や〈魔法薬〉…〈毒消し薬〉等の状態異常回復薬も忘れてない。
その次は、旅の必需品。
ロープや枝、肉等の食べ物を切る用のナイフ。
夜や暗闇で明かりを確保する為の〈精霊石の燭台〉。
応急措置用の手当て道具。簡単な調理を行う為の調理器具と調味料一式。
〈エルターナガイア〉の世界地図と〈精霊王の羅針盤〉。
簡単な武器の手入れ道具一式。
服が破れた時に繕う為の裁縫道具一式(※現在の防具装備が〈特殊級〉の為。〈魔法級〉からは、専用の職人に頼んで修復してもらわないといけない)。
──…よし!不足も無く、用意忘れも無し。
あ、そうだ。長い間、使われていなかった〈神剣クラウシス〉の状態を確認しておこう。
もし、本格的な手入れが必要なら…明日の朝一番に、鍛冶師のクロッカスさんに手入れ依頼を頼まないと。
そう考えながら〈神剣クラウシス〉を鞘からゆっくりと抜いた瞬間、突然〈神剣クラウシス〉の刀身が眩い白銀の輝きを発した。
「な、何!?」
突然の出来事に思考が追い付けない僕の目の前で、刀身から仄かに発光する球状の光の塊が現れ…それが刀身から離れると同時に、刀身の輝き自体は収まる。
刀身から離れた光の塊は徐々に人の形へと変化し、仄かな発光が収まると…そこには、足元までの長い鮮やかな金髪で黒鉄色と白銀色と金色の三つの金属で造られたサークレット、鮮やかな青色の宝石らしき物が下がったピアス、白地に鮮やかな赤色のラインと十字架の様な模様が描かれた神官が着ていそうな感じの長いローブに同じく白地に鮮やかな青色で襟口や袖口等が統一された羽織る様な感じの魔術師風のロングローブ、長いマントは鮮やかな赤色一色…という装いの8〜10歳位の少年?少女?…が現れ、瞼を閉じた状態で空中からゆっくりと床へと降りてきた。
唖然としたままの僕は、その光景をただ見つめている事しか出来ず…言葉を失った状態でいると、降り立った…少年か少女かわからない人物は閉じられていた瞼をゆっくりと開き、瞼の下からは宝石のサファイアの様に深く鮮やかな蒼色の瞳が現れた。
僕が未だに唖然としたままでいると…目の前の人物は、数回程瞼を開閉させた後は両手を軽く閉じたり開いたりを繰り返し、「ふむ」と一言呟くと…僕の方へと目を向けてきた。
「我が持ち主は、いずれは変わるであろうとは思っていたが……
ふむ。お主、名はなんという?」
唐突な問い掛けに、僕は若干戸惑いながらつつも答える。
「えっと…、シリウス・ティアマットと言います」
僕が名を名乗ると、相手は一瞬驚いた表情を見せた。
「『ティアマット』…?お主、身内に『セルヴィア・ティアマット』という名の者は居らぬか?」
「……えっ?セルヴィア・ティアマットは、僕の父さんだけど……」
再び尋ねられた問い掛けに、僕は未だに戸惑いを隠せないまま答える。
僕の返答聞いた相手は、突然ニヤリと笑みを浮かべた。
「成程、セルの息子か。……まさか、親子二代に渡って我の持ち主になるとはな」
そうしみじみと呟く目の前の人物に、僕はこう話し掛けてみる。
「はぁ…、そうですか……。ところで…、君は何者なの?」
「うむ?セルからは何も聞いておらぬのか?
既に知っておったから、我との『主従の誓約』を行ったとばかり思ったのだが?」
目の前の人物─多分、前に父さんが言っていた『〈神剣クラウシス〉の意識』─が不思議そうな表情をしながら、何やら重要そうな話をしているみたい…
「……って!ちょっと待ってよ!!父さんからは、『今現在は、剣の意識は長い眠りについていますが…シリウスが聖剣に認められれば、剣の意識は目覚め…真の力を発揮してくれる筈です』としか聞いていないよ!」
僕の訴えを聞いた人物は、ハァ〜…と溜め息を洩らした。
「何も知らずに『主従の誓約』を行ったのか…信じられん。
…とは言え、何も知らぬままは良くないな。
我は〈神剣クラウシス〉の〈思念体〉と言える存在。
『主従の誓約』を行い、我と我の本体と言える〈神剣クラウシス〉の持ち主との間に〈魔術的繋がり〉が形成されて初めて、我の〈思念体〉が具現化されるのだ」
目の前の人物─〈神剣クラウシス〉の思念体─は、そう説明してくれたけど…僕は『主従の誓約』をした覚えも無いし、そもそも…父さんからはそれに関する説明が一切無かった。
「ちょっと待って。僕は、そもそも『主従の誓約』って何なのかすらも知らないんだけど!えっと…」
「『クラウシス』で良い。セルもそう呼んでおったし、『〈神剣クラウシス〉の〈思念体〉』などと呼んでいるのは長かろう。
それと、知らず知らずとは言え…我の主となったのだ。質問には答えよう」
クラウシス(そう呼んでいいとの事なので、以後そう呼ぶ)の提案で、僕は気になった事を質問する事にした。
「えっと…まず、『主従の誓約』って何?」
「ふむ。『主従の誓約』とは、我の本体─〈神剣クラウシス〉─をどの様な目的を持って振るうのかを誓い立てる〈魔術的儀式〉だ。
これを行う事で、我は持ち主を自らの“主”に相応しいかを見定め、その上で我と持ち主の間に〈魔術的繋がり〉を構築する事が出来る様になる。
本来は、我の意識が覚醒している上に…ある程度、持ち主と意志疎通してから行うものなのだが……
今にして思えば、我は無意識にお主の心の中にある…とても尊い“強き誓い”を感じ取って“主”と見定めたのやもしれぬな」
クラウシスの説明を聞きながら…僕には、“強き誓い”に思い当たる節があった。
──決して力に溺れず、力に驕らず…苦しむ誰かに救いの手を差し伸べられる人物─勇者に相応しい者になる。
それが、今世を生きると決めた時に自分自身の心の中で強く誓った事だ。
それが、結果としてクラウシスに“主”と認められる一因になったのだから…世の中、何がきっかけになるのか分からないものである。
「とりあえず、『主従の誓約』が何であるのかと…何故、クラウシスが具現化されたのかも解ったよ。
じゃあ次は…。その姿は、〈思念体〉と呼ばれるものなのは解ったけど…クラウシスって、男の子なの?女の子なの?」
「我には、正確に性別と呼べるものは存在しない。
この姿は両性体とも呼べるし、無性体とも言える。
どちらかと言うと、無性体の方であるな」
──クラウシスの性別は無いに等しいって事なんだ。
でも、喋りや態度を見たり聞いたりしている限りでは女子というより男子って感じな気がするんだよね。
うん。僕の感じた通り、男子への接し方で良いかな?
接し方について尋ねてみると、「好きな接し方をするがよい」と言う返事が返ってきたので…以後、クラウシスには男子に接する接し方をしよう。
後、多分クラウシスは年上(製作年代を考える限りは…)だと思うので、少なくともあまり気安い態度で接するのは駄目だろうね(※ちなみに、名前については「別に呼び捨てで構わない」と本人が言ったので呼び捨てにしている)。
あっ、そうだ。クラウシスみたいに武器自体に意識があり、〈思念体〉っていうのを具現化させられる武器ってどの位存在しているんだろう?
その事を尋ねてみると…
「武器が意識を持つ“生きた武器”と呼ばれるものは、〈秘宝級〉で一,二つ位。
〈幻想級〉で数十位だな。
但し、これらには我の様な〈思念体〉を作り出す事は出来ぬ。
〈古代級〉は数こそ少ないが、その全てが“生きた武器”だ。
そして…更に、上位の一握りの武器のみが〈思念体〉を作り出せるのだ」
──と、話してくれた。
後、防具や装飾品の方も似た様な状況で…〈古代級〉の上位の一握りのみが〈思念体〉を出せるらしい。
ちなみに…この時、クラウシスは“生きた武器”や“生きた防具”等という言い方をしていたけど…正式には、『知性ある聖武具』と呼ぶのだと…後に“とある方”から教えてもらうまで知らなかった。
◇
──翌日…つまり旅立ちの日、当日。
僕はかなり早起きをした。
…というのも、クラウシスの分の朝食も準備してもらう為。
──本当は食べる必要は全く無いそうなんだけど…クラウシスはあえて『食べたい』と言ってきた。
その為…母さんにもう一人分の朝食を頼む為にわざわざ早起きをしたんだ。
「母さん、おはよう」
キッチンで朝食を作り始めていた母さんに、まずは挨拶をする。
「あら、シリウス。おはよう。今日は早起きね」
ニコリと優しい笑顔で、母さんが挨拶を返してくれる。
「うん、ちょっとね」
さて、どう切り出そうかと考えていたら…クラウシスが、今まで此処に住んでいたかの様に普通にリビングへとやって来る。
……クラウシス、何をやっているの?
慌てて母さんの方を振り向くと…あれ?母さんが驚いた表情になっている?
「まさか…クラウシス?」
「うむ。久しぶりだな、シルフィ。
しばらく見ない間に、面白い事になっているな。
それと、我の分の食事も用意してもらいたい」
言いたい事を言い終えたクラウシスは、リビングにあるフカフカのソファーに座り込んだ。
クラウシス、やりたい放題だね。
後、母さんを見て『面白い事になっている』って…どういう意味?
その事をクラウシスに尋ねようとしたら、父さんがリビングにやって来て…クラウシスの姿を見て驚いていた。
「えっ?もう『主従の誓約』まで済ませたのですか?」
「うむ。済んでいる。……セルも『面白い事になっている』な。
シルフィといい、セルといい…お主らは、本当にお人好し過ぎであろう」
──あ、父さんとしては…いずれ、僕とクラウシスは『主従の誓約』にまで至れるだろうって考えていたんだ。
でも、予想よりも早くて驚いている訳だね。
後、クラウシス!君だけにしか解らない事を言わないでよ!!
凄く気になるだろう!!
◇
──先程まで驚いていた母さんと父さんは、今は落ち着いて…母さんはクラウシスの分を増やした朝食作りを再開して調理中、父さんはリビングのマイソファー(一人用ソファー)に腰掛けている。
僕は、先程のクラウシスの発言が気になったので…その事を質問している。
「ねぇ、クラウシス。母さんと父さんを見た時、『面白い事になっている』って言っていたけど…どういう意味なの?」
「うむ。二人の称号がな…〈神竜に成り得る者〉になっておった」
「「…えっ?」」
「…は?」
クラウシスの言葉を聞いて、(内心)慌てて僕は両親の称号欄を確認してみる。
──確認した結果……
本当だ。両親の称号に〈神竜に成り得る者〉って称号がある。
気になったので更に質問をしてみると、クラウシスは『神竜/神龍へ至る(が誕生する)過程』を説明してくれた。
以後、クラウシスに聞いた話を簡単に纏めたものだ。
◆
【神竜/神龍へ至る過程】
①称号または祝福で〈神の因子〉を持つ
※祝福の〈神の因子〉を授かる条件は、元神竜(神龍)の末裔である場合か親族に〈神の因子〉を持った者がいた場合のみ
②善行を積む
※逆に悪行(無益な殺戮,快楽目的の殺戮,大量虐殺等の悪意ある殺戮)を行うと行った者は〈神の因子〉を永遠に失う。失うのは当代のみ
③称号〈神の種子〉を得る
④善行を積む
⑤称号〈神竜/神龍に成り得る者〉を得る
⑥善行を積む
⑦称号〈神竜/神龍の継承者〉を得る※と同時に、種族が古老○竜(エンシェント・○ドラゴン)/古老○龍に変化する
⑧自分と同じ属性の神竜(神龍)の元へと訪れる
⑨《継承の儀式》を受ける
⑩種族が神竜(神龍)へと変化する
⑪次代の神竜(神龍)候補者が現れるまで永久不滅の生を得る
◆
──で、更に続いたクラウシスの話によると…昔、父さん達と旅をしていた頃の二人の称号には〈神の因子〉という称号があったらしく…今現在の両親が〈神竜に成り得る者〉の称号を得る為には、かなりの数の善行(それこそ、英雄クラスの善行を大量に)を行わないと無理らしく…だからこそ、そこまでの善行を行っていた両親の事をクラウシスは『お人好し過ぎであろう』と言ったのだ。
──ちなみに…僕のステータスの称号欄と祝福欄を確認してみたけど、〈神の因子〉は無かった(※称号欄には〈勇者の卵〉〈神の御子〉、祝福欄には〈主神の加護〉があった)。
クラウシスが言うには…
「神竜は世界の守護神、世界を守護し支える者。
定められた場所で長い時の間、世界を守護し続けなければならん。
勇者となる者に、その様な役目まで負わせられんだろう」
との事だ。
◇
──朝食は、それなりに賑やかなものになった。
クラウシスは、自分が眠り(休眠)に入った後の両親達のその後を尋ね…両親は、僕を授かるまでの歩みを話した。
驚いた事に父さんや母さんは…〈オルヴェイン王国〉国内で極たまに発生する魔物の大量発生への対応をしたり、魔物に襲われた村や町等の復興支援に協力したりしていたそうだ(※無論、戦争とか内戦があったとしても参加しないと話していた。けど今のところ、〈オルヴェイン王国〉が他国へ侵略戦争を仕掛けたり、逆に他国から侵略戦争を仕掛けられたり、内戦が起こった事は一度も無い)。
クラウシスは、「それが(〈神竜に成り得る者〉を得た)原因だ。馬鹿者」と若干呆れた表情をしてぼやいていた。
──そんな風に賑やかだった朝食を終え、僕は部屋に戻ると普段着から旅装束として選んだ〈月光狼のロングコート〉や〈白風狼のブーツ〉等に着替え、最後の旅支度を済ませる。
今までは、両親や他の成竜の皆に守られながら安全な場所で過ごしてきたが…〈オルヴェイン王国〉国内は他国と比べて、比較的安全とはいえ…領主の精鋭兵団と成竜達に守られている〈竜の渓谷ドラグレスト〉と比べると魔物や盗賊がいる分、旅先で生じる危険度は大きい。
そう思うなら、充分な備えが必要だろう。
「……うん。これで良し。装備品に不備は無し。
前日に確認した携帯品にも不足は無し。
さて、クラウシス。これから〈竜の渓谷ドラグレスト〉を出立するけど…君の方は大丈夫?」
「我の方は問題無い。いつでも、出立は可能だ」
僕の問い掛けに答えながら、クラウシスは空中に出現させた〈空間収納〉に母さんから貰ったパンやハム,ドライフルーツ等の食糧や保存食を収納していた。
◇
──この〈空間収納〉は、かなり高い空間属性の適応者であり…高度な魔法を行使出来る程の魔法適応者で無いと行使する事さえ不可能な〈空間上位魔法〉の一つらしい。
覚えられれば、かなり便利な魔法なんだけど…行使するには高度な魔法知識と技術を要求される為、使い手はかなり稀少であり…大抵の人達は、僕の様に収納系の〈魔法道具〉を利用するしかない。
この〈空間収納〉の魔法だけど…実は、利点と欠点がある。
まず利点は、収納系の〈魔法道具〉には収納量に限界があるが…〈空間収納〉には、その限界が無い。
その上、収納する物の大きさも気にせずに収納出来る。
しかも、収納した物には劣化が発生しない為、一度収納すれば取り出さない限りは保温,保存期限,腐敗防止を気にせずに収納した状態のままで状態維持が永遠に可能なのだ。
つまり、温かい物は温かいまま…冷たい物は冷たいままで状態維持されるという事。
これは、〈空間収納〉内は時間の流れが全く存在せず…次元や時空から切り離されている為、収納と同時に仕舞われた物は次元や時空から切り離され、収納した瞬間の状態に状態固定がされる為だそうだ(と、クラウシスが説明してくれた)。
逆に欠点は、生物…つまり生きた生き物を〈空間収納〉内には収納出来ない。
これは、過去に試そうとした者がいたそうだが…収納指定して魔法を行使しても、魔法自体に拒否されるらしい。
ちなみに、生き物の死体の方は収納出来たらしい。
形の無い水等の液体や気体も収納出来たらしい(と言うか、わざわざそれを試した人がいた事に驚いた)。
つまり、生き物だけは収納不可能…という事である。
◇
空中に開いた〈空間収納〉の入り口を閉じて…クラウシスの準備も終わったのを確認した僕は、クラウシスの本体…〈神剣クラウシス〉を左側の腰の辺りに剣帯で鞘を固定して、僕の支度も終了した。
僕は今まで過ごした家を出て、〈竜の渓谷ドラグレスト〉を旅立つ為に渓谷の出口へと向かって歩き出した。
その僕の後ろをクラウシスが続いて歩き出す。
──渓谷内を歩きながら、僕は今まで過ごしてきた思い出の数々を思い出し…それを噛み締めながら、今世の故郷への未練を断ち切る様に自分に言い聞かせる。
そうやってしばらく歩き、渓谷の出口へとやって来て…僕は思わず驚き、足を止めた。
──そこには、両親を始め…竜族長や大半の成竜達,同時期に生まれ育った同年代の友人達等の大勢の竜達や騎士団の人達が見送りに来てくれていたからだ。
「シリウス。お主には、生まれた時から驚かされっぱなしじゃったわい」
そう言いながらも、竜族長は好好爺とした表情を崩さなかった。
「〈竜の渓谷ドラグレスト〉の外は、色々と危険らしいよ」
「気を付けてな」
「シリウスちゃん。良かったら、これを旅先で食べな。
おばちゃん特製のパウンドケーキだよ」
「無理するなよ」
「いつか、此処に帰って来いよ!」
「元気でね…」
次々に見送りに来てくれた皆から、餞別の品や見送りの言葉を掛けられる。
最後に、父さんと母さんに軽く抱きしめられた。
「シリウス、行ってらっしゃい。…無理はせず、体調には気を付けてね」
右肩を軽く掴まれ、微かに涙を流しながら母さんがそう言葉を掛ける。
「シリウス。もし、とても辛かったり、無性に帰りたくなったりしたら…いつでも、此処に帰ってきなさい。私達は、いつでもシリウスを温かく出迎えるよ。
…だって、シリウスは私達の大切な息子で…此処は、お前の故郷であり家なのですから」
父さんから掛けられた言葉に、僕は感極まって両親に抱き付いた。
「うん。父さんと母さんに会いたくなったら、必ず帰ってくるね。
だから…父さんと母さんも、必ず元気でいてね。
いつか、勇者の使命を終えて…二人に沢山親孝行する為に……」
そう言い終える頃には、僕は遂に堪えきれず…思わず泣き出していた。
父さんと母さんも、僕の言葉に涙を流し…僕の事を再び抱きしめていた。
──しばらく泣き続け、別れを惜しみつつも…お互いにゆっくりと離れると、僕は再び歩き出した。
「父さん!母さん!皆!…行ってきます!!」
僕の言葉を皮切りに、皆が一斉に手を振り出す。
僕は、皆に笑顔で数回手を振り返すと…前を向き、渓谷の外へ向けて駆け出し始める。
それを追う様に、クラウシスも駆け出し始める。
──こうして僕は、両親や竜族の皆,領主直属の騎士団の人達に見送られて〈竜の渓谷ドラグレスト〉を旅立ち……勇者としての使命を果たす為、〈エルターナガイア〉の何処かにいるであろう親友達を捜す為…僕は、最初の第一歩を踏み出した。
《ステータス情報》
シリウス・ティアマット
Lv.1
種族:竜族《聖竜種》
性別:男 年齢:300歳
職業:魔導剣士
HP:200
MP:200
AP:150
ATK:100
DEF:100
INT:100
RES:100
SPD:100
HIT:100
EXP:0/NEXT:10
称号:勇者の卵/神の御子
祝福:主神の加護
スキル:《共通》自動翻訳/能力補正/共闘補正/パーティーチャット/ステータス表示
《固有》完全人型変化/森羅万象(全属性適性)