【02】基本知識の確認…という名の現実逃避〜何故か、竜族から『神の御子』と呼ばれています。〜
──僕が転生した世界は、〈エルターナガイア〉と呼ばれているらしい。
そう。僕達が、この〈エルターナガイア〉の基本知識を知っていて当然だ。
──『姫勇者レイナの冒険記』。
僕達の世界では、大ベストセラーになったファンタジー小説の舞台となった世界……
まさか、空想上の世界と思っていたものが実在していた上に、作者である九条玲奈さんが先代勇者で…僕が、次代の勇者の立場になっているなんて…今でも信じられない。
◇
──『姫勇者レイナの冒険記』は、僕達の世界の住人だった主人公の少女─玲奈が…異世界に転生し、オルヴェイン王国の第二王女のレイナ・オルヴェインとして生まれ、様々な人との出会いと別れを繰り返しながら…宿敵である邪神レヴィアタンと魔王レグヴォーグとの激戦、最愛の火竜アルクベイトとの死別、ゴルズガル帝国との大戦を経てオルヴェイン王国の〈聖女王〉となっていく…彼女の生涯を描いた全十五巻にも及ぶ長編小説となっている。
内容としては…笑い有り、涙有り、シリアス有り、恋愛有りの…レイナを中心に、様々な人間ドラマが繰り広げられている作品だった。
──その中で、小説の読者の間で一番騒がれていたのが……人間族であり、一国の王女にして勇者のレイナと…幼き頃のレイナに命を救われ、彼女の前世─異世界からの転生者である事─の秘密を唯一知っていて…旅の最中では、彼女の事を時に一人の親友として、時に一人の異性として、時に頼もしき仲間として…度々支えてきた火竜アルクベイトとの恋の行方だった。
けど、火竜アルクベイトは…魔王レグヴォーグと同化した邪神レヴィアタンの最後の一撃からレイナを守って死んでしまう。
読者全員が思わず涙した…小説内一番の名シーンにして、悲しい死別の場面で…読んでいた僕でも忘れられないワンシーンだった。
このエピソードは、レイナとアルクベイトの出会いや旅の仲間達とのちょっとした失敗談、ゴルズガル帝国との大戦、〈聖女王〉誕生の話と並んで、読者からは様々な反響を呼んだ話となっている。
◇
──さて、話を戻そうと思う。
その小説を何回も読み返していた僕達は、この〈エルターナガイア〉の事をある程度は知っている。
──例えば、この世界には実に多くの魔王が存在している。
その中で、〈原初の魔王〉と呼ばれる世界最古の七人の魔王達は別格の強さを持っている。
しかし〈原初の魔王〉達は基本、人間同士や種族間の争いには関わってこない。
彼ら(彼女ら)が動く時は、世界総てを巻き込む様な存亡の危機的状況になった時のみだ。
実際、邪神と勇者レイナの宿命の戦いに於いて〈原初の魔王〉の一人…〈聖魔剣士〉の称号を持つ堕天使のルシファー・ラインハルトが仲間として同行していた。
──次に、アークさんが語っていた“七人の邪神”は…〈七つの大罪の邪神〉と呼ばれる存在の事を指していた。
〈七つの大罪の邪神〉は、生き物の欲望を増大させる為に甘言や誘惑等で唆し…最終的に自らを降ろす“器”を作り上げ、器に憑依した後に世界を滅亡させる事を目的としている。
──その他にも、アイテム─武器や防具、装飾品、消耗品等を指す─には等級と呼ばれるものがあり、下から順に…〈一般級〉、〈特殊級〉、〈魔法級〉、〈秘宝級〉、〈幻想級〉、〈古代級〉の六つの等級に区分される。
通常…国を防衛する騎士や魔獣退治を請け負う冒険者が持つ武具は、〈一般級〉から最高で〈秘宝級〉がいいところだ。
ちなみに、勇者レイナの所持していた〈聖剣レインツェル〉は〈幻想級〉に相当する武器で…彼女はある意味、破格の装備だったと言える。
ちなみに…最高位の〈古代級〉の武具の所有者は、現在確認されているだけで七つ。〈原初の魔王〉達が所有している事が確認されている位である。
──魔法に関しては、効果範囲や継続時間によって…〈対人級〉、〈戦術級〉、〈軍団級〉、〈城塞級〉、〈国防級〉〈大陸級〉、〈世界級〉の七つの等級に区分される。
〈対人級〉は、よくある単体に対する攻撃、補助、阻害、回復魔法の事で…初期魔法は総て此処に分類されている。
〈戦術級〉は、大体10〜20人単位を対象とした魔法。
〈軍団級〉は、軍団(大体50〜100人単位)クラスを対象とした魔法。
〈城塞級〉は、一つの城塞規模を対象とする広域魔法。
〈国防級〉は、国一つを巻き込む規模の広域魔法。
〈大陸級〉は、大陸一つを巻き込む規模の広域魔法。
〈世界級〉は、世界全体に影響を及ぼす規模の広域魔法となる。
その内の…〈大陸級〉と〈世界級〉については、神クラスと〈原初の魔王〉達以外に使い手はいない。
では何故、神様ならいざ知らず…〈原初の魔王〉達も〈大陸級〉と〈世界級〉規模の魔法が使えるのか。
それは、〈原初の魔王〉達が“世界の理”により世界に直接干渉出来ない神様達に代わって、世界全体のパワーバランスや文明を一定に保つ〈調停者〉としての役割を担っているからだ。
〈原初の魔王〉の一人、〈炎の巨人〉にして〈灼熱の暴君〉の称号を持つカーディナル・スカーレットは、ある国の国王が驕り高ぶり…世界を破滅しかねない魔法や道具、軍団を作り上げ、それらを使って世界全土を自らの手中に収めようと企んだ事を何らかの方法で掴んだ。
そして世界全土に宣戦布告を行ったのを知り、その国をたった一夜にして滅ぼしてしまった…という逸話が残っている。
とは言え…〈原初の魔王〉達がその力を軽々しく行使する事は無いので、その事を心配する必要は全く無い。
──次に種族について。
種族の中で一番数が多くて繁栄しているのが人間族。
次に数が多いのが、獣型と人型の二つの姿を持つ獣人族。
その次に多いのが…竜族、龍族、ドワーフ族、精霊族、妖精族、魔族。
この辺りは、種としての全体数にあまり差がないらしい。
種族で一番数が少ないのが、エルフ族。
その中でも、ハイ・エルフという稀少な上位種が一番少ないと聞いている。
種族については、他に〈上位種〉と〈古代種〉と呼ばれるものがある。
〈上位種〉は、稀に生まれ…〈通常種〉よりも能力等が段違いに優れている突然変異の様なもの。
確認されているだけで…〈上位種エルフ〉、〈上位種人間〉、〈上位種妖精〉、〈上位種精霊〉が存在している。
〈古代種〉は、ある種の先祖返りに近い…遥か昔の祖先に近しい能力等に覚醒したもの。
確認されているだけで…〈古代種ドワーフ〉、〈古代種獣人〉、竜と龍の場合は〈古代種〉とは呼ばず…〈古代○○種(エンシェント・○○)〉と呼ぶ。例えば…〈古代火竜種〉や〈古代光竜種〉と言った感じだ。
後、魔族は…一纏めにされているけど、その種類は多種多様で…ファンタジーではお約束の様にモンスター扱いされている〈ゴブリン〉、〈コボルド〉、〈オーク〉等の亜人達は、この世界では魔族の中に含まれている。
これは、本能のままに暴れ回る凶暴な“魔物”と…亜人ではあるものの、知能を備えている上に文化を築ける能力を有している“魔族”とを振り分けた結果らしい。
ちなみに…魔物の最上位種にも、言葉を使う位の知能を持つ個体もいるらしいけど…魔物の例に漏れず、暴れたくなったら全てを破壊する程に暴れ回る為…共存はまず無理だろう。
魔族の話に戻すけど、種類としては…ダークエルフ、吸血鬼、巨人、悪魔、人妖花、女面妖鳥、ラミア、鷲獅子、竜人または龍人等々…普通なら魔物の仲間に挙げられそうなものも含まれているが…魔物と違って魔族は、その大半が魔王の治める領地に住んでいる。
人間族等の他の種族の領地にいる魔族は極少数だ。
魔族の中で素養を持ち、長く生きていると上位種や最上位種へと進化する個体もいるそうだ。
魔族の上位種や最上位種は、より人間に近い容姿や完全な人型を取れる様になるらしい。
逆に、魔物は人型も取れない(※種固有のスキルで“変幻自在”を持つものはいるが…それも、本能で生き物を襲う為のみにしか使わない)そうだ。
──最後に…魔物、魔獣、神獣についてだ。
魔物は、先に挙げた通り『本能のままに暴れ回る凶暴な存在』で…知性や理性と呼べるものが存在せず、野生動物とあまり変わらない…いや、野生動物よりも獰猛で凶悪だ。
野生動物に近い(※脅威はこちらが段違いに上)性質上、魔物各々ごとに独自の縄張りを持っている為、そこに迷いこまない限りは問題無い(※一部の魔物は縄張りを持たずに常時移動しながら狩りを行うものもいて、それらが冒険者ギルドでは優先的に討伐対象として挙がっているらしい)。
魔獣は、邪神によってその存在を歪められてしまい…変わり果てた動物、魔物、多種族達の成れの果て。
存在を歪められ、生物としての本質は失われている為、邪神の望むままに世界に厄災をもたらす存在とも言える。
──魔物と魔獣には共通して、その脅威度に合わせたランク分けがされている。
一番脅威度が低いFから順に…F、E、D、C、B、A、特A、最高脅威度のSの八段階に区分けされているらしい。
その中でも…一つの街を滅亡させる程の脅威を持つAランク相当のものを〈災害級〉
一つの国を滅亡させる程の脅威を持つ特Aランク相当のものを〈災厄級〉
一つの大陸を滅亡させる程の脅威を持つSランク相当のものを〈天災級〉と呼んでいる。
〈天災級〉になると、対処できるのは〈原初の魔王〉や歴代の勇者達、竜族及び龍族の中の〈古代種〉と神獣位になるそうだ。
その神獣は、〈エルターナガイア〉全土に存在している遥か古から大陸や国、種族達を守護し続ける守護神的な存在らしい。
狼や虎、不死鳥や一角獣等の…僕達の世界でも馴染みある聖獣や神獣と呼ばれた存在が、こちらの世界でも神獣と呼ばれているらしい。これには、竜神と龍神も含まれていて…これらは名に竜もしくは龍と付いているが、竜族と龍族とは全く別の存在として扱われている。
また、神獣と呼ばれる存在を使役する事はほぼ不可能と言われている。
尚、これらを害する事は禁忌とされ…この禁忌を犯した者は国もしくは大陸全土を挙げて指名手配され、捕まると重罪人として死刑になるそうだ。
他にも、まだ色々とあるけれど…〈エルターナガイア〉の大事な基本的知識は大体この位だろう。
◇
──さて、『何故、突然〈エルターナガイア〉の基本的知識の確認作業を行っているの?』…と思われた人もいる筈。
それは何故なのかと言うと…今の自分が置かれている状況から現実逃避したいから。
──それを聞いて、どんな状況なのか…?と考えた人もいる筈。
──それは……
──現在進行形で、成体(※人間で言うところの“大人”という事)の竜達が僕に平伏してます。
ウワァ〜ン!!本当に勘弁してよ〜〜〜!!!
◇
──約二時間の押し問答の末…なんとか竜達の平伏を止めさせる事に成功し、僕はこの竜達を纏める長らしき人(一応人型をとっているけど、果たして人と呼んで良いものか…?)から事情を聞く事が出来た。
何でも、僕の様に『生まれながらにして優れた能力やスキルを持っている者』の事は“神の御子”と呼ばれているらしい。
但し、これは“長命種”─エルフ族、竜族及び龍族、妖精族、精霊族、魔族の事─の間でそう呼ばれていて…一族に生まれた時には、『神より授かりし尊き御子』として大切に育てるのが通例らしい。
──けど、『決して驕らず、過ちを犯さず…常に自らを律して、勇者として相応しい者になろう』と転生前に決意した僕としては…こんな風に敬われたりしていると、将来変に思い上がらないかが心配になってくる。
まあ、そこの辺りは要交渉だろうけどね。
──とりあえず、まずは敬語と敬う態度を止めさせよう。うん。
◇
──あれから二週間が経ち…懸命の交渉(という名の説得)の末に、敬語を使わない事と同時期に生まれた雛竜達と同じ様に扱う事(※特別扱いをしない事)という二つの確約を得る事に成功した。
これで、話す際に年上である筈の竜達に敬語を使われたり、すれ違う度に平伏されたりという…なんとも奇妙な光景を見ないで済む。
──さて、落ち着いたところで…この二週間の間に長から聞いた話─玲奈さんの小説内には書かれていなかった竜族に関する事─を纏めてみよう。
まず僕が今居る場所は、〈始まりの大陸レゾファーナンス〉にある…聖女王レイナがかつて治めた〈オルヴェイン王国〉の首都〈王都オルフェイス〉から、遠く離れた山岳地帯の奥深くにある〈竜の渓谷ドラグレスト〉と呼ばれている深い渓谷にある竜族の住処らしい。
〈エルターナガイア〉各地には竜族達の住処と呼べる場所があり、此処〈竜の渓谷ドラグレスト〉もそんな竜族達の住処の一つだ。
──ただ…基本、竜族は同種─火竜なら同じ火竜といった具合に─で一つのコミュニティーを形成しているらしいけど…〈竜の渓谷ドラグレスト〉に住む竜族達は様々な種類の竜が混在してコミュニティーを形成している。
〈竜の渓谷ドラグレスト〉に住む竜達の大半は、同種の竜達からコミュニティーより追い出された者、人間や魔物や魔獣によって群れの仲間を失った者、新たな住処への住み替えや群れの大移動で群れからはぐれたり、置き去りにされた者達が此処を頼って集まったものだ。
その為、他の竜族のコミュニティーより異種竜族に対する差別意識がかなり低く、異種同種という垣根を一切作らずに仲良くやっている珍しいコミュニティー─というよりも…運命共同体と言っても良いかもしれない─だろう。
ちなみに…レイナが愛した火竜アルクベイトは、実はこの〈竜の渓谷ドラグレスト〉出身だったそうだ。
竜族長のとても長い昔話を聞いて、そうだった事を初めて知った。
──そうそう。〈始まりの大陸レゾファーナンス〉の遥か西南にある大きな大陸…〈竜の大陸ファーヴィルム〉があり、そこには多種多様の竜族達が集まって一つの国家を築いているらしい。
『らしい』と言うのは…〈竜の渓谷ドラグレスト〉に住む成竜達の中には、実際にそこを訪れた者は一人も居なくて…風の噂で聞いただけなのだそうだ。
ちなみに…極東には〈極東島国 大和〉と呼ばれる小国があり、龍族の多くはこの国に住んでいるらしい。
しかも、龍族だけの国もあるらしいし…聞く話によると、どうも建物や文化は平安時代や江戸時代位に近い感じの様だ。
──竜族同士で子供を作る場合、生まれた子供は必ず片親の種を受け継ぐのも分かった。
例えば、火竜と風竜なら火竜か風竜のどちらか…といった具合なんだって。
他種族の場合は、大抵は竜族よりも他種族の親の特性を引き継ぎやすいらしい。
──それから、この〈エルターナガイア〉では属性は全部で七つ。
火、水、地、風、光、闇、空間だけど…竜族と龍族が属性竜(または属性龍)として振り分けられるのは…火竜《火龍》、水竜《水龍》、地竜《地龍》、風竜《風龍》、光竜《光龍》、闇竜《闇龍》の六種類のみ。
ちなみに…それ以外の種類の竜(または龍)は、魔竜《魔龍》か 聖竜《聖龍》のどちらかの種類に振り分けられ…魔獣へ変貌したり、邪神に魅入られたり、邪神の加護を自ら受け入れた竜族または龍族は邪竜《邪龍》と呼ばれるそうだ。
竜または龍には種類別に体色(または鱗)や鬣に決まった色があり(※瞳の色は共通して黄金色。邪竜と邪龍は深紅色)、火竜と火龍は…赤系統色の赤色、紅色、韓紅色、朱色、紅赤色、紅緋色、薔薇色、臙脂色、茜色、赤橙色、鉛丹色、黄丹色、柘榴色、深紅色、柿色、橙色、蜜柑色、シグナルレッド色、カーマイン色、ポピーレッド色、バーミリオン色、スカーレット色、トマトレッド色、チャイニーズレッド色、ワインレッド色、ルビー色、ガーネット色。
水竜と水龍は…青系統色(※水色系統色は除く)の青色、杜若色、桔梗色、群青色、紺藍色、露草色、縹色、瑠璃色、瑠璃紺色、コバルトブルー色、ウルトラマリンブルー色、サファイアブルー色。
地竜と地龍は…茶系統色の赤錆色、赤茶色、小豆色、海老茶色、褐色、樺色、黄赤色、黄茶色、金赤色、朽葉色、栗色、黒茶色、焦茶色、琥珀色、錆色、蘇芳色、代赭色、茶色、土色、鳶色、肉桂色、檜皮色、紅海老茶色、弁柄色、駱駝色、煉瓦色、チョコレート色、ココアブラウン色、バーントアンバー色、ローアンバー色。
風竜と風龍は…緑系統色の青竹色、青緑色、浅葱色、黄緑色、草色、苔色、千歳緑色、常磐色、納戸色、白緑色、深緑色、緑色、萌黄色、緑青色、若草色、若竹色、青磁色、若葉色、シャトルーズグリーン色、ミントグリーン色、コバルトグリーン色、エメラルドグリーン色、マラカイトグリーン色、フォレストグリーン色、ビリジアン色。
光竜と光龍は…黄色と水色系統色の鬱金色、苅安色、黄色、蒲公英色、中黄色、向日葵色、山吹色、ジョンブリアン色、カナリーイエロー色、レモンイエロー色、甕覗き色、新橋色、空色、白群色、水色、勿忘草色、ターコイズブルー色、ホリゾンブルー色、シアン色、ベビーブルー色、ヒヤシンス色、アクアマリン色。
闇竜と闇龍は…黒系統色の藍色、勝色、黒色、濃藍色、紺色、紫紺色、墨色、鉄色、鉄黒色、鉄紺色、茄子紺色、黒曜石色、ミッドナイトブルー色、ランプブラック色。
魔竜と魔龍は…紫系統色の青紫色、赤紫色、アヤメ色、江戸紫色、古代紫色、菖蒲色、菫色、藤色、藤納戸色、藤紫色、紫色、ヘリオトロープ色、ヴァイオレット色、ラベンダー色、モーブ色、ライラック色、オーキッド色、アメジスト色。
聖竜と聖龍は…白系統色の生成り色、胡粉色、桜色、桃色、白色、砂色、象牙色、鴇色、白銀色、白金色、ベビーピンク色、シェルピンク色、ネールピンク色、エクルベージュ色、クリームイエロー色、アップルグリーン色、スノーホワイト色、アイボリー色、パールホワイト色。
邪竜と邪龍は…灰色系統色の藍鼠色、銀鼠色、茶鼠色、鉛色、鼠色、灰色、利休鼠色、スカイグレー色、シルバーグレー色、アッシュグレー色、ローズグレー色、スチールグレー色、スレートグレー色、チャコールグレー色となっている。
──ちなみに…僕の聖竜としての鬣と体色は白銀色。
人型に変化すると、白銀色の産毛の髪に蒼色の瞳の幼児姿になっていた。
竜族長の話によると…竜族と龍族が人型に変化した時の髪色はそのまま鬣の色で、瞳の色は属性に関係する色に変化するらしい(※邪竜と邪龍の中では、自ら邪神の加護を受け入れて理性を保っている者のみが人型に変化出来る。その場合の髪色は鬣色だが、瞳の色は深紅色のまま)。
それから…人型時の容姿は変化する本人のイメージに完全に依存するらしく、親子だからといって必ずしも人型の容姿が似ている…なんて事はないそうだ。
──その証拠に…僕の今世の母親は淡いアクママリン色の美しい光竜、父親は紫紺色の凛々しい闇竜で、変化した人型は絶世の美男美女だけど…僕の人型の容姿は前世のそれなりに整っていた容姿(の幼児姿)であり、両親の要素は少しも混じっていなかったしね。
◇
──この〈エルターナガイア〉に転生してから約半年の時間が経った。
僕を含めた雛竜達は、ようやく住処の渓谷内ならある程度は自由に動き回る許可が出た。
今までは、“竜の巣”と呼べる渓谷内にある洞窟内のみしか動き回ってはいけなかった。
──これは、『竜族の生態』が大きく関係している。
というのも…竜族は、卵から孵ってから半年近くまでは成竜と比べると皮膚がとても柔らかく…一般の冒険者が持つ武器でも簡単に傷付けられる程に柔らかいらしい(※龍族の場合は、鱗があるが…雛龍の鱗も雛竜の皮膚と同様に成龍と比べると柔らかいそうだ)。
半年程経つと皮膚がある程度(※成竜と比べると、まだまだ柔らかい)硬くなり、一般の冒険者が持つ武器では傷付けられなくなる位に硬くなるそうだ(※雛龍の鱗も同様)。
そこまでになってからでないと、巣である洞窟の外に出られないらしい。
──けど、これは仕方がない事だ。
玲奈さんの小説内にも書かれていたが…一般的な人間達にとって竜は魔物と並ぶ脅威だと考えられている。
また、古い伝承や噂では『竜の血や肉を食べると不老不死になる』『竜の血肉や卵には能力を底上げする事が出来る』といった根拠も無いものがあり…残念ながら大抵の人間は、これが真実だと信じている。
そして…それらを真実だと信じて疑わない者達が、竜族の巣に危険を犯してまで侵入し、生まれたばかりの卵や弱い竜を殺すなんて事態が過去に幾度も繰り返し起こったそうだ。
その為、〈オルヴェイン王国〉の国外の竜族達が度々住処を住み替えるのはそういった悲しい過去が原因と言えた。
──幸い、僕の住む〈竜の渓谷ドラグレスト〉は〈聖女王〉レイナさんのおかげで竜族達と人間族達とが友好な関係を築いている為、住処の住み替えなんてせずに済んでいる。
しかも、この〈竜の渓谷ドラグレスト〉は最初はレイナさんが直々に管理していたらしい(※管理といっても、竜族に害意を為す人間等の侵入を阻む護衛の兵の配置や竜族との物々交換等)けど…今は、竜族長のお眼鏡に叶った王公貴族にしか渓谷の管理は任せていないらしい(※この〈竜の渓谷ドラグレスト〉の竜族長には代々、〈人物鑑定〉もしくは〈読心術〉のスキル持ちがなるらしい)。
…で、今この〈竜の渓谷ドラグレスト〉を管理しているのは〈聖女王〉レイナさんの子孫で公爵家のアルベルト・オルヴェンさん。
彼も、彼に従う直属の騎士達も気さくな人達で…〈竜の渓谷ドラグレスト〉でのみ採取可能な〈魔法級〉の〈回復薬〉の材料の一つとなる〈月光草〉と竜族達の求める生活必需品とを直接物々交換にやって来たり、他愛もない話を竜族達としたりしている姿を渓谷内でよく見掛ける。
ちなみに…渓谷内を元気に走り回る不完全な人型に変化した雛竜達には「はしゃぎ過ぎて怪我するなよ」とか「悪い人間には近付くなよ」とか優しく声を掛けている。
──そうそう。この〈オルヴェイン王国〉では国法で『竜族に危害を加える者には死罪か鉱山等での重労働刑に処される』そうだ。
…とはいえ、やはりこの国でも密猟者の類いは存在するのでオルヴェン公爵家で一番に警戒しているのは、この“密猟者達”だろう。
──後、洞窟から出てきてから知った事だけど…〈竜の渓谷ドラグレスト〉の渓谷内には、竜族達が管理している人間族達の手を借りて小さい規模だけど町が作られていた。
実は、巣穴から出てきた雛竜達(僕は除外)が最初に始めるのは、この町で生活する為に〈人型変化〉のスキル習得の練習である(僕は、〈完全人型変化〉のスキル持ちだったから覚える必要が無かった)。
先程言った通り、雛竜達の人型は“不完全”なので…角が生えたままの者、背中や尻に羽や尻尾が生えたままの者、瞳が竜の時のままの者、皮膚が中途半端に竜の時のままの者等がいる(※〈竜の渓谷ドラグレスト〉に住む成竜達は皆、〈完全人型変化〉を習得済み)。
──ちなみに…〈オルヴェイン王国〉の国外に住む竜族で〈人型変化〉もしくは〈完全人型変化〉を習得している者は稀らしい。
逆に、龍族達は〈極東島国 大和〉の少ない国土に住む為に〈完全人型変化〉スキル習得は必須なんだって。
◇
〈完全人型変化〉のスキル持ちである僕は、普段どうしているのかというと……基本的には町中で成竜達の簡単な手伝いと、町中に駐屯しているオルヴェン公爵家直属の騎士団の人達から旅をする上での必要な物や知識を聞いたり、剣や魔法の手解きを受けたりしている。
──これは、僕が今世の竜としての肉体の性能を把握する為や将来勇者として旅立つ場合に必要な事を覚える為である。
僕は、いつか賢太達─今世の僕の名が“シリウス”である様に、賢太達も今世は別の名があるだろうけど─と再会する為に此処を出ていくつもりだ。
そうなった時、旅をする上では知識や必需品を知っておく事は勿論…魔物等との戦闘も想定するなら、人型でも充分戦えるだけの戦術や技量は必須になる。
それらを考えてみたら…学べる環境があるのなら、それを利用しないのは愚策だと思う。
もし努力を出来る時に全く努力せず、いざその時が訪れて何も出来ず賢太達を失う…なんて事態になったら、僕はきっと一生後悔するだろう。
──そうならない為にも、『転ばぬ先の杖』『備え有れば憂い無し』である。
そうそう。勿論、たまには子供らしく同世代の雛竜達と仲良く遊ぶ事もある。
実を言うと、竜型時の能力把握は雛竜達と遊ぶ事が一番最適だという事を…同世代の雛竜であるカイルの我儘に付き合って、まあ一回だけなら…と思い一緒に遊んでいた時に気が付いた。
…というのも、〈人型変化〉が不完全である雛竜は途中から竜姿に戻ってしまい、そのまま全力で遊び始める。
そうなったら、勢い余って思わず体当たりしてしまったり、尻尾で引っ叩いてしまったり、生え始めた牙や爪や角で傷付けてしまったりして、相手に怪我を負わせる事態になり…まだ幼い雛竜達でも徐々に自分達の力を自覚し、如何にして相手を傷付けない様にすれば良いのかを少しずつ学んでいく。
──実際、一緒に遊ぶ回数を重ねる毎に…雛竜同士で遊んでいて、相手をうっかり傷付ける回数が徐々に減ってきている。
雛竜なので、飛行の方はまだ無理だけど…僕も竜形態の身体能力をしっかりと把握する事が出来たのは、かなり大きな収穫だ。
──とはいえ、成長すれば必然的に身体能力は上昇するだろうから、その都度竜形態の身体能力の確認作業は行わないと駄目だろう。
勿論、“生き物が全く居ない場所“で…になるだろうけどね。
◇
──さて、公爵家直属の騎士団の人達から剣術と魔法の手解きを受けている訳だけど…実は、習い始める最初に指南役の騎士団長さんから『一度、一通り武器を扱ってみてくれ』と言われ…言われた通り、一通り武器(と言っても、騎士団の人達が訓練で使う模擬剣等の類い)を手にしてVRMMO時代の知識を参考に軽く振るってみたところ…どうやら団長さんは、僕の武器適性を確認していたらしい。
一通りの武器の扱いを見て、僕は片手剣系と双剣系の二つに武器適性がある事を見抜いた。
──実は、VRMMORPG『ハイランド・クロニクル』で僕はかつて…“神速の片手剣士”や“漆黒の魔双剣士”の二つ名で呼ばれていた。
これは、賢太達と友達になる前に使っていたアカウントで作成したキャラで…レイドでは上位ランカーの一人に数えられる程の実力者だった。
けど、賢太達と出会って友達になり…一緒にプレイする事になった事を機に、このアカウントは完全に封印する事にした。
その事を僕は一切後悔してはいない。
だって、誰が一位になるかの熾烈なレイドランキング争いの毎日よりも…仲の良い友達とのんびりスローライフプレイの方が、よっぽど楽しく充実した毎日を過ごせていたしね。
──さて、話を戻すよ。
武器の適性は、過去の経験もあって片手剣か双剣のどちらかを使うかを決めるだけなんだけど…賢太達とのパーティーでは、琴音が双剣使いとして活躍してた事もあり…今世の僕の武器も片手剣にする事に決まった。
武器が決まれば、その武器に合わせた基礎訓練になるけど…騎士団長さんから、僕の魔法資質を調べて魔法も一緒に習得した方がいいと薦められ、折角なので騎士団所属の〈魔術師〉に調べてもらう事になった。
その際に使用されたのが、〈魔判定の宝玉〉と呼ばれる〈秘宝級〉のアイテムで…これを使えば魔法適性や潜在的に秘めている属性の有無、向き不向きの魔法まで判定出来るという優れたアイテムだ。
使用方法は至って簡単。宝玉にしばらく手を翳すだけでいい。
それで得られた結果としては…僕は全ての属性を持ち、魔法適性は非常に高く…魔法を極めれば、〈大魔導師〉と呼ばれる〈魔術師〉の最高位になれるだけの資質を備えていたそうだ。
──非常に高い魔法適性があった事を踏まえて…僕は剣と魔法の使い手である〈魔導剣士〉を目指そうと思い、現在は剣と魔法を教わる毎日を過ごしている。
まだ、覚えた魔法は初期魔法だし、片手剣を振るうのも一苦労だけど…頑張っていっぱい覚えて、いつか〈竜の渓谷ドラグレスト〉を出て賢太達を捜しに行くんだからね!
◇
──あれから、百年近い歳月が経った。
僕達は、ようやく雛竜期を終えて幼竜期─人間で言う少年期から青年期の間─へと入った。
──〈長命種〉である竜族は、龍族や精霊族、妖精族と同じ様に比較的緩やかに成長するらしい。
同じ〈長命種〉でも、エルフや魔族は一定年齢までは〈短命種〉と同じ様に成長し、早い者では十代後半辺り…遅い者でも二十代後半辺りで成長が完全に止まり、それ以降は寿命が尽きる前─老化が始まる千三百歳前後までは見た目の変化は一切起こらないそうだ。
〈長命種〉の寿命は、種族によって各々違うが…大体の種族は千年以上(※最も長命なのは、創世記から生きている〈原初の魔王〉達)は生きる。
逆に〈短命種〉は…短い者は百歳前後、長い者でも五百歳程度生きられれば充分に長生き…と、言われる程に短いらしい。
ちなみに、竜族と龍族の寿命はおおよそ二千歳〜三千歳だとか。
──かなりの長寿なので…族長から話を聞いた時は心の中で『長すぎだよ!!』と思わずツッコんだのは、ここだけの笑い話だ。
──百年近く経てば、〈短命種〉である人間にも寿命や病気等で亡くなる者も出てくる。
僕の身近の人間では…剣の師となってくれた騎士団長のシグルナさん、魔法の師となってくれた〈魔術師〉のローランさん、そして…アルベルト公爵さんや騎士団の皆さんの多くが亡くなった。
〈短命種〉と〈長命種〉の寿命の違いとはいえ…身近の親しい人達が亡くなるのはやっぱり辛いし、結構堪える。
──それでも僕は、悲しみに溺れる事無く、その悲しみを乗り越えて前へと進まなければならない。
…そう気持ちを切り替え、シグルナさんとローランさんに教わった剣術と魔法の鍛練と勉強を今日も続ける。
──いつか旅立つその日に向けて…僕は、自分自身の実力を磨く日々を過ごしていく。
──尚、〈竜の渓谷ドラグレスト〉の新たな管理者にはアルベルトさんの三男であるカインさんが任命されたそうだ。
カインさんは、父親であるアルベルトさんと同じ様に気さくで優しい気質の人で…族長のお眼鏡にも叶う人物だ。
彼が管理者するなら、〈竜の渓谷ドラグレスト〉の平穏は安泰だろう。
◇
──聖竜の勇者シリウス。
雛竜期を終え、幼竜期を迎えた彼が…〈竜の渓谷ドラグレスト〉を旅立つ日は、刻一刻と迫ろうとしていた……