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【01】異世界の神様との邂逅〜異世界に転生したら、竜(ドラゴン)になりました。〜

ゆっくりと意識を取り戻した僕は、何も無い真っ白な空間に倒れていた。

身体を起こしてみると、意識を失う前に感じた激しい痛みが嘘の様になんともなかった。

その事を不思議に思いつつも、もう少し詳しく状況を把握しようと辺りを見渡していると…僕の周りには光の珠みたいなものが六つ程フヨフヨと漂っていて…確証があった訳ではないけど、僕はそれが賢太達の魂ではないかと思った。



──そんな風に考えていた僕の耳に突如、足音らしき音が聞こえてきた為…慌てて音がした方を向いた時、人間離れしたイケメン男性─見た目から多分、二十代後半〜三十代前半位かな?と僕は考えている─が立っていた。


「だ、誰…?」


僕の問い掛けに、男性は突然深々と頭を下げると…唐突に謝罪してきた。


『君の友人達には、本当にすまない事をした』


僕は、謎のイケメン男性の突然の謝罪に…思わず唖然としたまま、しばらく立ち尽くす事になった。







──謎のイケメン男性─この方は異世界の神様で、“アーク”という名前らしい─は、謝罪の理由と僕が此処にいる理由を説明する為に、まず世界と神様の関係から話し出した。


『君達の生きていた世界以外にも、我々の管理する世界を含む数多の世界が存在している。

我々“神”と呼ばれる存在は、世界を過剰に変化させない為に…余程の事や例外と呼べるものがない限り、直接世界に干渉しない様に“世界の理”に縛られている。

それには生き物達に祝福と加護を与える“神”だけでなく、生き物達に破滅と絶望を振り撒く“邪神”と呼ばれる存在も“世界の理”からは逃れられず…“世界の理の縛り”は、自分達の関わる世界以外の他の世界に対してでも例外なく適応されている』


アークさん(最初は様付けしようとしたら、自分の落ち度で死ななくていい人間まで死なせてしまったから…そう呼ばれる資格は無いと辞退されたので、こう呼ぶ事になった)の言葉を聞いて…僕は、「確かに」と納得した。



もし、神様が自由に世界に干渉出来るのだとしたら…その世界の生き物の多様性が失われたり、邪神によって滅亡したりといった最悪な未来や結末しか思い浮かばない様な運命を辿りかねない。



──そんな最悪の可能性を無くす為にも…“世界の理の縛り”は必要な事であり、世界の秩序を保つ意味でも大事な事なのだと…僕には充分理解出来た。



神様と世界の関係を語り終えたアークさんは、本題の僕達への謝罪の理由と此処にいる理由へと入った。


『さて、本題に入ろう。

先程語った通り、私は君達の世界に対して例外が無ければ直接干渉する事は不可能だ。

しかし、君達の世界の神々と一つの約定を交わす事で“ある条件下”でなら直接的に干渉する事を許されている』

「…それは?」


僕の問い掛けにアークさんは一呼吸置いて…“約定”についてのみを答えてくれた。


『我々の管理する世界を救う者─勇者となる者を…君達の世界の者で、一年以内に死ぬ人間か死期が近い人間からのみ選定する事。

その約定に従い、近々死ぬ運命だった“君”を勇者として選定する事に決めた。しかし…』


そこでアークさんは、一旦話を区切り…唐突にとても辛そうな表情に変わると、少し間を置いて話を再開した。


『その事をどの様にして知ったのか…我々の管理する世界の七人の邪神の内の二人が共謀し、君を本来の死ぬ時より前に消し去ろうと画策して…君達の世界へと無理矢理干渉を行い、あの事故を引き起こしたのだ。

その結果、君は本来の死期よりも早く死ぬ事になり…死ぬ定めでは無かった君の友人達を我々の世界の事情に巻き込んでしまい、死なせてしまう事になってしまった。……本当にすまない』


そう言って、アークさんは再び頭を下げて謝罪した。


僕は軽く首を横に振ると、アークさんにこう言葉を掛けた。


「いえ…。もう起きてしまった事をあれこれ言っても仕方がないです。

それに…。アークさんは、きちんと正規の手順を踏もうとしていた。けど、邪神の二人がそれを邪魔してきた訳ですよね?なら、アークさんのせいじゃないと思います」

『理不尽に罵られると覚悟していましたが…君は、優しくて聡明なのですね』


穏やかに微笑むアークさんのその言葉に…少し照れくさい気持ちになった僕は、軽く頬を掻く仕草をして、それを誤魔化したんだ。







「それよりも……。本来は、僕を勇者として召喚する予定だったんですよね?なら、賢太達は何故一緒に此処にいるんですか?」


僕は、周りを漂う六つの光の珠─賢太達の魂が此処にある理由を知る為、アークさんに率直な疑問をぶつけてみる事にした。


『半分は、君の為だ。

今まで召喚した勇者達は、我々の管理する世界の生き物達と長い時間を掛けて絆を育み、頼もしき仲間として共に戦っていた。

不測の事態で死ななくて良い彼らを死なせてしまったとはいえ…こうなってしまった以上、この機会を活かさない手はない。

それに…。見知った者達と共に戦えるという事は、これから向き合わなければならない辛くて苦しい…長く険しい道程では、大きな心の支えになるだろう』


アークさんのその言葉には世界を管理する神様としての少し非情な一面も垣間見えたが…それでも、これからの僕に対しての少しばかりの慈悲を掛けてくれている事が理解出来た。


「もう半分は?」


気になったもう半分の理由を尋ねてみると、アークさんはきちんと答えてくれた。


『それは、邪神にその魂を利用されない為です。

先程、“神や邪神は、余程の事や例外と呼べるものがない限り、直接世界に干渉しない様に“世界の理”に縛られている”と話しましたね?』

「はい」

『邪神達が直接世界に干渉する為の“例外”…それは“依り代”と呼べる存在です。

彼の者達は、世界に破滅と絶望を振り撒く為に自らの象徴とする“欲望”や“罪科”を強く持つ者を自らの“依り代”として選び、世界に“災いの種”を撒き散らそうとします』


そこまで聞けば、僕にもいい加減理解出来る。



──つまり、賢太達が邪神達の“依り代”として利用されない様にする為にも…アークさんは本来予定に無かった賢太達の魂を一緒に連れて来てくれたのだ。



『……とはいえ、邪神の企みの全てを阻止出来た訳ではありません。

あの意図して引き起こされた事故で亡くなったのは君達だけではありません。

そして…私が保護出来た魂は、君と死ぬ瞬間に一緒にいた君の友人達のみです。

君達の世界の神々も、亡くなった魂達を保護していましたが……幾つか漏れた魂を邪神達が手にした気配がありました。

おそらく…将来、君達は同郷の者と戦う可能性もあるかもしれません……』


そう告げると、神として力及ばなかった事を悔いているのか…アークさんは、とても悲しげな表情を浮かべていた。



──けど、僕としてはアークさんに本当に感謝したい。



少なくとも、僕は“勇者”として賢太達の内の誰かと戦うという最悪の未来だけは回避してくれたのだから。



その事を心の中で感謝しつつ、僕は声を掛けた。


「おおよその事情や理由は理解出来ました。

つまり、僕は“勇者”としてアークさん達の管理する世界を救わなければならないのですね?」

『ええ、その通りです。引き受けてくれますか?』


そうアークさんに言われた言葉に対する返事は決まっている。



──本来なら、保護するのは僕の魂だけで良かった筈なのに…わざわざ賢太達の魂も一緒に保護してくれたその慈悲の心



──神様という立場でありながら…僕達の死は、自らの不手際だと僕達にわざわざ謝罪してくれる誠実さ



──それらのアークさんの態度と言動を踏まえて、僕が返す返事はたった一つ。



「どれだけの事が出来るかは分かりませんが…僕の出来る限りの力を尽くすと約束します」


僕のその返事に、アークさんは微笑みながら軽く頭を下げた。


『ありがとうございます。君の決意は、我々の世界にとって大いなる救いとなる事でしょう』


そう感謝の言葉を述べるアークさんの様子に、僕は再び照れくさくなり軽く頬を掻く事になった。







──アークさんが突然右手を軽く掲げると…僕の周りを漂っていた六つの光の珠─賢太達の魂が強烈な閃光を発し、僕は眩しさのあまり、少しの間目を閉じてしまった。



しばらくして閃光が収まり、僕が目をゆっくりと開けると…僕の目の前には賢太達の姿があった。


「遠夜!」


賢太が僕に声を掛けてくる。


「賢太!明日香!士郎!陽菜!琴音!遥斗さん!」


僕は嬉しさの余り、皆の元へと駆け寄る。


けど、僕の足は賢太達の一歩手前で止まった。



──思い出したんだ。僕がアークさんによって異世界を救う“勇者”として選ばれたばかりに…賢太達が巻き込まれて死ぬ事になった事を……



急に立ち止まった僕に対して不思議そうな表情を浮かべる賢太達に…僕は謝る為の言葉を述べた。


「……ごめん、皆。僕のせいで、皆を巻き込んでしまって……」


そう言って謝罪する僕に賢太は近付くと、軽く頭を叩いた。


「ばーか。お前のせいじゃねぇーよ」

「そうそう。ボク達が死んだのは、邪神のせいなんだろう?」


賢太と士郎から掛けられた言葉に僕は驚き、思わずアークさんを見た。


『先程の魂魄こんぱくの状態でも、彼らには私と君の会話の内容は全て聞こえていました。

……彼らにも、自分達の身に起きた事を知る権利はありますからね』


そうアークさんが答え、改めて賢太達を見てみると全員が頷いた。


「会話には参加出来なかったけど、ボクはアークさんの話にしっかりと耳を傾けていたんだ。

その話を聞いた上での…ボク達の気持ちは決まっているよ」

「遠夜が“勇者”になるって言うんだったら、絶対俺も一緒に戦うぜ!」

「アタシだって一緒に戦うわ!!

……ついでに、アタシ達をこんな目に遭わせた邪神に一泡吹かせたいしね!」

「ワタシも一緒に戦うよ。それに、困っている人達がいるのなら放っておけないし…」

「私も一緒に戦うわ。だって、私達はいつも仲良しの親友でしょ?」

「私も一緒に戦いましょう。まだ子供だった遠夜君に、全ての責任を押し付けるなんて事…大人である自分自身の気持ちが許しません。

それに、遠夜君には『子供のちょっとした我が儘を聞いたり、付き合ったりするのは大人として当然』と言いましたから…共に戦う仲間としても、是非頼って下さい」


士郎、賢太、琴音、陽菜、明日香、遥斗さんの順に皆が自分達の気持ちを伝えてくる。

僕は、そんな皆の気持ちがとても嬉しくて…思わず涙ぐんでしまった。


そんな僕の頭を遥斗さんが優しく撫でてくれる。


賢太達は、代わる代わる僕の背中を叩いていく。



──しばらくして…僕の気持ちが落ち着いた頃合いを見計らって、アークさんは真剣な表情で話を始めた。



『さて、お互いの気持ちを確かめ合い…お互いに話すべき話は終わった頃でしょう。そろそろ、君達の今後の話をしましょうか』


アークさんのその言葉に、僕達は気を引き締める様に耳を傾けて始めた。


『まず、君達の持つ記憶から読み取った情報から聞き慣れた単語を使わせてもらいますね。

君達には、我々の管理する世界に転生してもらいます。これは、君達を邪神の目から逃れさせる意味もあります』


アークさんのその説明に、僕も皆も「成程」と納得する。


『転生する際には、我々の中のいずれかの神々が君達に加護を与えます。これも、君達の魂を邪神から護る意味合いがあります。

しかし君達の行い次第では、この加護は強くなったり弱くなったりします』

「具体的には?」

『そうですね…。具体的には、善行を行えば神の加護が強くなり、悪行を行えば神の加護は弱くなります。但し…この善行と悪行の判断基準は私達、神々視点だという事を理解して下さい。

具体例を挙げるとしたら…もし、悪行を行ったとします。

それはある人物の為を思って行った悪行で…将来的にその人物の為になるのならばそれは“善行”であり、“悪行”ではありません。

逆に、たとえ善行を行ったとしても…それが将来、その人物を堕落させたり破滅に追い込むものであれば、“善行”ではなく“悪行”になります』


遥斗さんが、気になった事をアークさんに質問している。


これは、僕達は全然気にしていなかった。



──流石は大人。僕達の持っていない独自の視点から、気になる事を色々と聞いてくれるので…僕達も、聞いておかなければならない重要事項を聞き漏らさないで済んでいる。



『……話を続けます。

それから、君達には共通の“スキル”を与えます。

共通で得るスキルは…“自動翻訳”、“能力補正”、“共闘補正”、“パーティーチャット”の四つです。

自動翻訳は、自分達とは異なる種族の言語でも聞き慣れた言葉に自動的に翻訳する能力です。

能力補正は、全パラメーターを各20%アップさせます。

共闘補正は、君達の内の誰かと共闘する際には物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、魔法防御力を各10%アップさせます。

パーティーチャットは、君達七人の間だけで出来るテレパシーの様なものです。

そして…これは私からの贈り物で、君達のみの特殊能力として“ステータスを見る能力”を与えます。ステータス表示は、意識すれば簡単に出したり消したりが出来ます。

以上が、君達に与えられる能力ですが…これらの能力は、神の加護を失うと失われる事を理解して下さい』


アークさんの言葉に、僕も皆も真剣に頷く。


『最後に、これは最重要事項ですが…我々の管理する世界では、君達が“異世界からの転生者”である事を君達以外の者には決して話さないで下さい。

邪神は様々な方法で、世界中に自分達の手足となる者達を送り込んでいます。

その者達に見つからない様に注意する意味でも、我々の管理する世界に生きる者達には決して話さないで下さい』


アークさんの忠告(と言うか警告)を聞いて僕達は、思わず息を飲んだ。


『後…これは可能ならばなので、記憶の片隅にでも留めておいて下さい。

もし、邪神によって呼び寄せられ…転生した君達の同郷者に出会い、その者達が邪神の“依り代”や“手足となる者”になっていない場合は保護して下さい。そして、いずれかの神を奉る神殿へと連れて来て下さい。

そうすれば、いずれかの神の加護を受けられ…君達と同様の能力を授ける様に取り計らいます。

しかし、あくまでも“邪神の祝福”を受けていない事が大前提ですし…無理な場合は、無理をしなくていいですから』



──アークさんの“出来れば”といった感じの頼み事を聞いていた時に…僕も、出来れば邪神に無理矢理連れてこられ、同じ転生者になるであろう人達の何人かは助けられるなら助けたいと思った。



「しかし、もし出会えたとしても…見分ける術が無いと保護は難しいと思います」


遥斗さんは、至極もっともな質問をした。

確かに、パッと見で“異世界からの転生者”かそうでないかを見分けるのは無理だと思う。


『確かに。見ただけでは、同郷からの転生者かどうかは判りませんね。

……なので、これを君達に渡しておきます』


そうしてアークさんが渡してきたのはシンプルな親指サイズの球状の石が付いただけのペンダントだった。


「これは?」

『“魂鳴石こんめいせき”と呼ばれる霊石です。

この霊石は、魂の波長を記憶させる事でその波長の持ち主を装備者のみに澄んだ鈴の音で知らせます。この霊石に、君達の世界の人だけが持つ共通の魂の波長を記憶させれば…対面するだけで判ります』



──これは便利だ。



これを使えば、転生した後の賢太達をすぐに見つけられるし…他の同郷の転生者を見分ける事も可能だ。


「こんな便利な物もあるのですね。しかし…これを悪用して、邪神達が私達を見つけたりしないでしょうか……」


また、遥斗さんは独自の視点で気になった事をアークさんに質問をする。


『それは大丈夫です。

この霊石は、私の神力しんりきで創られた物。

私が許可した者以外には、まず使用出来ませんし…装備者以外が手にする事も持ち去る事も不可能です。

君達の場合は、“神々の加護を失わない限り”という制限を掛けてありますから…悪用は不可能です。

逆に、君達が似たような力を持つ物で発見されない為の保護魔法も掛けてありますから…そちらもご安心を』

「お答え…ありがとうございます。それなら、安心して使用出来ますね」


アークさんの答えに、ホッと一安心する。



──どうやらこの霊石は、万が一の悪用や盗難の心配は不要みたい。


それに…僕達が邪神やその手の者に見つからない為の対策も同時に施してくれていたみたいだし。



──神として、本来ならここまで手助けをしてはいけない立場の筈のアークさんは…自らの不手際で、より困難になるであろう僕達の旅路に─おそらく神として出来る範囲内で─手助けをしてくれている……本当に、頭の下がる思いだ。



『最後に…転生に際して、もう一つだけ言っておく事があります。

それは、君達が“前世の記憶”─“異世界人としての記憶”を持ったまま転生する事になります。

これは意図的にそうしている訳ではなく、“異世界からの転生者”の魂が強すぎて…我々の管理する世界の“理の中”に完全に収まりきらないが故です。

その為、君達の持つ力は元々その世界に生きる数多の種族達より強力である事を…充分に理解した上で、行動する際はその様に心掛けて下さい』


アークさんの恐ろしい程に重みのあるその言葉に…僕達は思わず息を飲み、身震いを覚えた。



──つまり…僕達の力は使い方を間違えれば、世界に厄災をもたらす恐れのある程に強力である。それ故に強力な力に溺れず、驕らず、慢心せずに、心を強く持って注意して扱え…という事だろう。



アークさんの言葉をしっかりと噛み締め、転生した後はきちんと自分を律しようと…僕は密かに心の中で誓った。







『さて、転生する際に知っておくべき必要な事はあらかた話しました。

本来ならば、ここで我々の世界に関する基本的な知識も与えるところですが…どうやら、その必要はなさそうですね』

「「「「「「「???」」」」」」」


アークさんの意味深な言葉に…僕達は─おそらく、漫画的展開なら頭上に大量の疑問符が発生している状況だろう─全く理解出来ず、困惑せざろう得なかった。


「すみませんが…言っている意味が理解出来ません」


たまらず、遥斗さんが質問するが……


『それは、転生すればおのずと分かります』


そう言って、それ以上答えてはくれなかった。


『これで話す事は終わりました。

最後に…転生する君達の希望を聞きたいと思いますが、今回の勇者となる者の転生先─種族だけは私に指定させていただきました』

「何で、遠夜だけ転生する種族が決まってるんだ?」


僕が希望する種族に転生出来ない事を、不公平と感じた賢太がアークさんに抗議する。

それに対して、アークさんは冷静に返した。


『今回、君達が対峙する事になる邪神が二人以上になる可能性が高いからです。

それに対抗する為にも、転生する種族をこちらで指定せざろう得ないのです』


アークさんからの返答には、ちゃんとした根拠があったので…賢太は、それ以上抗議する事は無かった。


『では、無理の無い範囲内で希望を述べて下さい。

遠夜君。君の希望も種族以外の事なら聞きますよ』


アークさんの言葉に、僕は遠慮なく希望を述べた。


「じゃあ…、転生した時の面差しを今と同じにして下さい」


僕の希望を聞いて、賢太達は驚いた表情をしていた。

アークさんは、微笑みながら答えた。


『それは、わざわざ希望しなくても大丈夫ですよ。

まあ、それに関連するスキルを転生する時に追加で与えておきますね。私の答えの意味は…転生した時に理解出来ます』


アークさんの答えの意味は、今の僕には理解出来なかったけど…僕には、転生した際に僕だけの固有スキルを得る事になりそうだ。


僕の希望が叶えられたのを皮切りに…皆も次々に希望を述べ始めた。


「俺は、転生する種族を人間で自由に動き回れる様な地位で頼む。

MMORPGでも、重い大剣を振るう人間だったし…大抵の場合での人間って、汎用性…?ってのがあるんだろ?」


賢太の希望は『種族を人間で、自由に動き回れる地位─多分、旅人か冒険者的な立場─にしてくれ』って事かな?


「ボクは是非、魔法の扱いに長けた種族でお願いします。実は、魔法を使う事に少し憧れてたんだ」


士郎の希望は、魔法の扱いに長けた種族─多分、お約束としてエルフになる可能性は高いと思う─になりたいみたいだ。



──まあ、まだ転生する世界にどんな魔法があるのかが全く分からないから…具体的にどんな魔法を使う魔法使いになるつもりなのかは、転生した後に考える予定なんだろうけどね。



「なら私は、士郎と同じ種族で血の繋がった兄弟の…出来れば、攻撃の方に適性を持たせて欲しいです」


遥斗さんの希望は、士郎と同じ種族の上に血の繋がった兄弟であり…けど、魔法向きの士郎とは正反対の攻撃向きにして欲しいって事だった。

多分、もし二人で旅をする事があるなら物理的な攻撃が出来る人がいた方が良いって判断なんだろうね。


「私は、もし武器として“刀”があるなら…それを扱う様な職業に就きたいな。種族も、それに向いた種族があるなら…その種族でお願いします」


明日香の希望は、刀使いの職業がある場合はその職業になりたいというものだった。種族に関しても、それに向いた種族を希望している。

明日香の家は、古くから続く古武術の居合い術を継承する家だから…慣れ親しんだ“刀”を扱いたいんだろうね。


「アタシは、素早く動き回れて攻撃に特化した種族にして欲しいわ」


琴音の希望は、戦いに向いた種族になりたいという感じだ。

多分、MMORPGでも攻撃手アタッカーとして活躍していたから…同じ様に攻撃手として僕達と一緒に戦いたいって事かな?


「ワタシは、癒し…治癒と回復に向いた種族と職業になれる様に希望します」


陽菜の希望は、僕達の中での唯一の回復役ヒーラーになる事を決めて…それに向いた種族と職業になる様にしたみたいだ。



僕達全員が希望を言い終わり…アークさんが、再び口を開いた。


『君達の希望は分かりました。その希望に沿う転生がなされる様に取り計らいます』



──アークさんは皆の希望を聞き入れてくれるみたいで…転生した後の皆がどの様な感じになっているのかが、少し楽しみに思えた。



アークさんはさらに話を続ける。


『君達の希望を聞き入れた上で…君達を種族別の寿命に合わせて転生時期を操作させていだだきます』

「どういう意味ですか?」

『私の神としての象徴は、“森羅万象を統べる者”。

属性としては、次元と時空を操れる空間属性です。

その力を使って…君達を別々の時間軸に転生させる事になります。

しかし、それは君達が邪神と戦う時にもっとも力を発揮出来る全盛期を合わせる為なのです』


アークさんの説明で、僕達が邪神と戦う時期に全盛期が来る様に計算した上で、僕達の転生時期をずらす事にしたのだと理解出来た。







──転生する前の全ての準備が終わり…いよいよ、僕達はアークさんの管理する世界へと転生する時がやって来た。



僕は、皆の顔を見回しながら話し始めた。


「皆、しばしばの別れだけど…いつか必ず、誰一人欠ける事が無く、また会おうね」

「おう!」

「勿論!」

「当然よ!」

「必ずね!」

「また会いましょう」

「皆との再会を楽しみにしているよ」


僕の掛けた言葉に…賢太、士郎、琴音、明日香、陽菜、遥斗さんの順に返事を返してくる。


そんな皆の返事に、僕は感極まって涙目になりながら…転生するギリギリまで皆の顔を見渡す。


皆もまた、涙目になりながらお互いの顔を見渡している。



──アークさんが右手を掲げると、突然辺り一帯が眩しい光に包まれる。




それと同時に、僕の意識は唐突に失われた。




──こうして、僕は異世界へと転生した。







次に目を覚ますと、僕はとても狭い場所に閉じ込められていた。


(えっ!?嘘っ!?)


一瞬パニックになりかけ、なんでこんな状況に陥っているのかを必死に考える。



──そこで、僕は転生したのだという事を唐突に理解した。


そして、僕は肝心な事を聞いていなかった事も思い出した。


僕が転生する種族が(・・・・・・・・・)何であるのか(・・・・・・)を……



(ちょっ!?嘘っ!?何だよ!これ!!)


どんな種族に生まれ変わったのかが分からない以上、僕は自分の置かれている状況─羊水に包まれた状態じゃないから、今世の母親の胎内説は除外して─を把握する事が出来ずに…身体は動けず、真っ暗闇の中で軽くパニック状態になる。


(出して!出してよ!!)


何とか必死に動こうと身動ぎするけど…何か硬い壁の様なモノ(・・・・・・)に邪魔されて身動ぎが全く取れない。


「出してよ!!!」


無意識のまま、種族としての本能に従って口から何か(・・)を吐き出した。


吐き出した何か(・・)によって、僕を覆う様にあった壁の様なモノ(・・・・・・)の一部が壊れ…少し遅れて爆発音が聞こえてきた。


エコーする爆発音を聞きながら…唖然としたままの状態の僕の頭の中では、あの時のアークさんの言葉が再生されていた。



──『君達の持つ力は元々その世界に生きる多種族達より強力である事を…充分に理解した上で、行動する際はその様に心掛けて下さい』



アークさんに言われていたのに…軽くパニックに陥っていた僕は、盛大にやらかしてしまいました。



──僕の身体を覆っていた壁の様なモノ(・・・・・・)は、硬い卵の殻。



──僕が口から吐き出した何か(・・)は、ブレス攻撃。



──そして…僕を囲みながら唖然とする蜥蜴トカゲに近い見た目の大きな生き物は、おそらく僕の転生した種族と同じであるドラゴン











──僕、藤浪遠夜ふじなみとおやは……異世界に転生したら、ドラゴンになりました。

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