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中央都市へ-眠りの森- 4

 

 木漏れ日がさざめく森にぽっかりと穴が開いたように明るい場所があった。

 濃い緑色の木々を背景に、その屋敷は木立の隙間から見えてきた。

 バングが指示を出したわけでもないのに、荷車を牽くサンザたちの足取りはゆっくり速度を落としていく。まるで彼らはそこが目的地だと理解しているように。


 大きな屋敷は、緑の木々に映える白い土壁が印象的だ。屋根は茅葺きのような色をしていて、そこに自生した草花が思い思いに咲き乱れている。その周りを小さな羽虫が数匹踊るように飛んでいた。

 まるで草花が咲き乱れる丘を、真っ直ぐ切り落として絶壁に窓をつけたような風情だ。

 物語で見るようなファンタジーの世界にある妖精が住んでいそうな家である。

 屋敷の入り口に木の門があった。簡素な門だ。侵入者を拒む門ではないのはその簡素さに現れている。むしろ、目印を思わせる開放的な作りだった。

 そこからゆっくりと敷地内に入っていく。午後の日差しを受けた森は、穏やかに優しい光を帯にして降り注いでいた。

 ここの風景は優しいぬくもりに満ち溢れていると、サキは思う。

「到着だよ」

 バングが先に荷車を降りるてサキに手を差し伸べた。映画でよく見る行動にサキは心が弾んだ。

「へぇ、ここは?」

 ディビが差し伸べられたバングの手を振り払って周りを見回す。

「ここにはいつもお世話になっているんだ」

 バングはサンザ達を木製の柵に繋ぎ、短く口笛を吹いた。

 その一番大きな窓からニョロリとひょろ長い顔の男が覗いた。

「久しぶりだね、バング」

 扉が開き、窓にいた長い顔の男と、老人が出てきた。どうやらこの老人とバングは顔なじみならしい。

「お久しぶりです長老」

 長老という言葉を聞いてサキはその老人の顔を見詰めた。

 なんていうのか、よくゲームで出てくるドワーフみたいに小柄でかわいらしい。顔もびっしりと白い髭に覆われているのが、まるでファンタジーな世界に入ってしまったような錯覚さえ思わせる風貌。 

 ふとサキは思った。

 手の込んドッキリなのか。イタズラなのか。嫌がらせなのか。

 そう思いながら辺りを見渡しても、照明もカメラもない。

 サキはふぅと、ため息をついた。そんな馬鹿げたことなどあるはずもない。

「お疲れのようですな、お嬢さん」

 老人はその髭に覆われた顔を豊かに歪ませて微笑んだ。その傍らでさっきの窓から顔を覗かせていた男が手際よくサンザ達を小屋に連れて行った。

「今晩はゆっくりしていって下され、ここでは皆、ゆるりと過ごされる」

 ありがとうございますと、バングは深々と頭を下げる。つられてサキもペコリと頭を下げた。

「ご飯はいつもの頃合いにお部屋に運びましょう」

 ひょろ長い顔の男が忙しそうに走っていった。バングは尚も彼の後姿に会釈し、ディビは警戒心を人一倍にしてあちらこちらを黙視していた。


 部屋は広かった。その室内には楕円形のテーブルと、三人掛けほどのソファーがあった。

 だがベッドは2つしかない。女性陣にベッドを受け渡すと自ら進み出てバングはそう言った。

「でも、わたしたちバングにお世話になりっぱなしだし」

 サキは少し後ろめたくバングを見上げた。

「女が有利なのはどこの世界もそうなんだな」

 ベッドの上で腕を組んでディビがほくそ笑んだ。

「でもぉ」

「後で寝具が一式届けられるから気にしなくていいよ」

 優しく微笑み返すバングにつられて、サキは思わず納得してしまう。そして心の奥が小さく疼いた気がした。

「ところで、そろそろ本題に入ってしまおうと思っていたところなんだがな」

 長い指を執拗に机に叩き付けながら、ディビは目の前にいるバングとサキを交互に見た。

「本題って?」

 バングは目をきょとんとさせた。

「ここはどういう場所だい」

 ディビの言葉と同時にドアがノックされた。バングが返事をすると、長い顔の男が器用に皿をテーブルの上に物言わず並べ始める。あっという間だった。あっという間に男は静かにお辞儀をして部屋を出て行った。

「随分早めの夕食なんだな」

 話の流れを切られて、舌打ちをしたディブは毒づいた。

 運ばれてきた料理が緩やかな湯気を昇らせていた。

「そして奴らは? 見るからにあんたとは風貌が違うんだが」

 ディビは料理など目もくれずバングに鋭い視線を投げかける。

「彼らはここの森に住む民族だよ。中央都市に抜ける為にこの森に道を作ってくれた。気前のいい人たちばかりだからこうやっておもてなしもしてくれる」 

 もちろんお金も払うけどね、とバングは付け足した。

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