魔女狩り
私が寮の一室でくつろいでいるといきなり窓からキリが入ってきました。
あれ?防犯魔法は?
と思いましたが、キリなのであえてスルーしました。
キリはさっと周りに魔法をかけました。
「クレア、異世界人を発見した
俺がみつけたのは一人だが、それらしい噂はそこら中にあった
そして、その人達は……」
「その人達は?」
キリは言いにくそうに下を向きました。
やがて、勇気を出したのか、さっと私をみました。
「その人達は、魔女狩りにあっている」
「魔女狩り……」
それは、私にも聞き馴染みのある言葉でした。
知識を持つものたちを人は昔から時には恐れ、時には崇め奉ってきました。
その一例が魔女狩り。
異様な知識をもつものたちを魔女だと言いはって、民衆が何人もいや何千人もを殺した忘れてはいけない記憶。
「やはり、クレアの前世でもあったのか?」
「大分、昔の話だけどね」
「それは、一体どうやって止まったんだ?」
「ごめんなさい、わからない……」
こういう時、もっと勉強していれば、もっと本を読んでいればと私は後悔していました。
後悔しても何も変わらないのに。
とその時、ガチャリと音をたててドアが開きました。
どうやら、スフィアが帰ってきたみたいです。
スフィアは今リチャード皇子との子供を妊娠中でだんだんお腹が大きくなっていました。
それに今はとっても健康に気を使っていて……
って、ん?確か妊婦さんは拒絶するような魔法に過剰に反応するはずじゃなかったっけ!?
「キリ!魔法!魔法!スフィアは妊婦さん!」
「あ、了解」
そう言うと、キリは指をパチンと一回鳴らしました。
でも、私には何も変わってないようにしか思えませんでした。
スフィアも同様に驚いているようでキリに詰め寄っていました。
妊婦さんなのに……
「キリ!今、あなたは何をなされたのですか?
詳しく説明してください!」
「私からも!」
そう言われると分かっていたのでしょう。
キリは渋々その原理を教えてくれました。
「えーっと、スフィア様、クレア様
妊婦さんによくないのは拒絶系の魔法です
なので、魔法を承認制にしてしまえばよいのです
それだけです」
それは、魔法界に新たな風が吹くであろう、素晴らしい発想でした。
スフィアもそう思ったらしく、すぐに色んなところに手紙を出していました。
その光景を見て、私はあることを思いつきました。
それは、一石二鳥どころか一石三鳥にもなりうるアイデアでした。
「スフィア、あなたに相談したいことがあるの」
「え!?話すんですか?スフィア様に?」
「キリは黙ってて!」
私とキリの会話を聞いて、スフィアは真面目な話だと悟ったのか、すっと背筋を伸ばしました。
そして、真剣な眼差しで私を見つめました。
「私のような異世界人がこの世界にはあふれています
そして、その人達は民衆から魔女と恐れられ酷い仕打ちを受けています
同じ異世界人として私は!私は!この問題を見逃すわけにはいきません!
どうか、スフィア、私に力を貸してください!お願いします!」
私はそう言って、頭を下げました。
そんな私の頭をスフィアはそっとあげると、穏やかに微笑んで言いました。
その目がどこか虚ろに見えたのは、きっと私の気のせいでしょう。
「わかりました、クレア
至急、リチャードと話をしましょう」
そう、スフィアが告げた瞬間、ドアがノックされ、リチャード皇子が入ってきました。
それは、少し異様な出来事でしたがリチャード皇子ならばありえるかもしれないと私は思いました。
だって、リチャード皇子なのですから。
リチャード皇子はそんな私を見て、笑みを深めました。
そのことに私は気づきませんでした。
「お話は大体聞かせていただきました
世界中の異世界人を助けたいということでよろしいですよね、クレア?」
「はい、リチャード皇子」
「わかりました
でしたら、ここで私から一つ提案があります
私からの特命を受けたとして世界に飛び出してはいかがでしょう?
これなら、誰にも怪しまれずに行動することができます」
「いい案ですね、リチャード皇子」
「では、私は忙しいので
スフィア、王宮に戻ろう」
そう言って、リチャード皇子は嵐のように去っていきました。
我に返った私とキリは恐ろしい現実と向き合っていました。
今のリチャード皇子との会話の間、私の思考は完全に停止され、まるでそう運命に従わされているような、そんな……
それは、とてつもない恐怖でした。
自分の思考が外部から強制的に停止させられるのがあんなに恐ろしいことだったとは。
私とキリは顔を見合わせました。
『『統治者』』
統治者、それは運命の書をもつもの、この世でたった一人の存在、運命をつくるもの、創造者。
色々な説明をされていますが、唯一言えるのは統治者はリチャード皇子は絶対的な支配者。
その事実がこれから私たちにどのような影響をもたらすのか。
私にはまだわかりませんでした。




