運命
それは私が帰省していたときのことでした。
その日、私には何もすることがなく退屈だったので、昔のように書庫に閉じこもっていました。
この世界のことについてもっと深く知りたいと思っていた私は、とある一冊の本に出会いました。
その本には名前がありませんでした。
しかし、私にはそれがこの世界について書かれている本だとわかりました。
魔法とかそういう類のものではなく、ただの直感ですが。
その本を開くと、中には日本語が書かれていました。
一応言っときますと、ここはクリアランスです。
異世界という概念も日本という概念もない世界です
私はとても驚きました。
何故なら、それはこの世界に日本から来た異世界人がいたという証拠だからです。
私は私を知るためにその本を読むことに決めました。
そして、私は本を開きました。
すると、中から一枚の紙が落ちてきました。
不思議に思い、その紙を拾い上げるとそこには私宛にメッセージが書かれていました。
-あなたがこの手紙を読んでいるということは私の存在を知ったということだと思います
初めまして、クレア、久美です-
それは、なんと私の前世、久美からの手紙でした。
完全に思い出したと思っていた記憶にはまだ穴があったようです。
-あなたはさぞかし驚いていることでしょう
こんなの記憶にない、と
それもそのはず、あなたはこの記憶を一生思い出すことはありません
私がそう決めました
この本は、私が父から貰った本です
あなたがクリアランスにいる理由です
どうか、この世界を救って
あなたなら、それができるはず
この本の名前は-
「運命の書」
思わず、声にだしてしまいました。
私が前世においてどういう存在であったのか、まだまだ謎が多そうです。
そして、この本が私がここにいる理由とはどういうことでしょうか。
私はその謎を解くために本を開きました。
「ふーー」
「今日は何を読んでるの?」
「うわぁ!キリ!」
どうやら、思った以上に集中していたようです。
いつもは気づくはずのキリの気配にも気づけませんでした。
「で、何を読んでるの?」
そう言うと、キリは私の手の中にあった本をとって開きました。
そして、顔をしかめました。
「なんで、クレアは俺の国の古代語が読めるのさ」
「ちょっと待って!今なんて?」
「だから!なんで俺の国の古代語が読めるの!って!」
それはそれは、私に多大な衝撃を与えました。
つまり、この本は大昔キリの故郷、ハールーン国で作られた本だということ。
そして、ハールーン国は日本人が作った本だということだからです。
もしかしたら、キリは……
私は、キリに日本語である質問をしました。
それは、私とキリの人生を左右する質問でした。
私は日本語でこう尋ねました。
『あなたは反乱者ですか?』
『私は反乱者です』
思った通り、キリは答えてくれました。
やはり、キリはハールーン国の末裔でした。
ハールーン国はとても不思議な国で様々な伝説があります。
その中の一つにハールーン国の人々は生まれながらにハールーン国の言葉を話すことができるとあったのです。
「どうして黙っていたの?」
「話してもしょうがないだろ?
それより、なんでお前が運命について知っているんだ?
それはハールーン国、最大の秘密なのに……
理由によっては、俺はクレアを殺さないといけないんだけど?」
キリの言葉に私はぞっとしました。
私は未だかつてキリの本気を見たことがありません。
多分、キリは私を赤子を捻るように殺すことができるのでしょう。
私は、慎重に口を開きました。
「これは久美が久美の父からもらった運命の書
私はそんな反乱者の記憶を受け継いだ傍観者
反乱者という運命を持つもの
運命にさからうことを運命とされたもの
これでいいかな、キリ?」
「うん、正解だよ!クレア
予言通りだよ、全く!」
そう言うと、キリは腹を抱えて笑いはじめました。
「それでね、キリ」
「何?クレア」
「異世界人について調べて欲しいの」
「仰せのままに」
キリは軽やかに窓から外に出ていきました。
この日、私は、久美とは違う人間なのだと実感しました。
そして、クレアとして生きていいのだと初めて安心できたのでした。
 




