番外編 キリの独白
-俺はいつだって孤独だった、そう、いつだってー
故郷よりも数倍明るいのではないかと思うくらい太陽が僕を照りつける。
そんな場所に僕は一人でいた。
何をしているかと問われればその答えは単純明快。
ただの仕事だ。用心棒の。
今回は、僕の故郷、通称雨の国、ハールーン国から、通称光の国、聖クレリエント帝国への密輸の用心棒をすることになっていた。
いつもと変わらない汚い仕事だ。
警官を殺す仕事なんてもう慣れていた。
それにしても、この暑さには流石に耐える。
暑すぎるんだ、あまりにも。
まるで溶けてしまいそう。
俺ら用心棒は、馬車に乗ることは許されない。
今度から、聖クレリエント帝国に行く仕事はやめようかな、そう思っていた瞬間だった。
俺らの馬車を軍が襲ったのは。
「おーい、そこのお前ら!!ちょっと荷物見せてもらう、ぜ!!」
そう言いながら、軍の隊長であろう大男は俺の身長をはるかに超える剣を馬車に向かって振りかぶった。
危ない、と思う前に勝手に体は動いていた。
俺は、腰につけていた鞭を引き抜き、剣に向かって投げた。
俺の鞭は、大男の剣に絡まった、はずだった。
絡まる直前、ほんの刹那。
彼は、剣を自分の方に引いていた。
その結果、俺の鞭は見事に空ぶってしまった。
「おい、おい、おい!!こーんなチビッコがこんなとこにいちゃダメだろ!!誰だ連れてきたやつ!!ほら、お前も今のうちに逃げろ、な!!」
俺は、カチンときた。
今、こいつ俺をチビッコって言ったよな?
瞬間、体が動いた。
彼の死角をとって、急所にめがけて短剣を投げる。
そして、彼に短剣がささって出血多量で倒れるはずだ。
もう逃げられない。
そう確信したのに。
大男は短剣をやすやすと避け、目にも留まらぬ速さで俺を持ち上げた。
今、こいつどうやって動いた?
余りにも速い動作に驚いた俺は、抵抗することも忘れていた。
そして、気がついたらかなりいいベットの上で寝ていた。
こんな上等な部屋、俺の身分では入ることができないはず。
なんたって俺は、下等生物だからな。
ということは、これは俺じゃない誰かの部屋ってことになる。
俺らの主がそんなことするわけないと考えると、この部屋はもしかして………
「おー、坊主!!起きたか!!」
俺は、反射的に腰に手を伸ばした。
しかし、そこにあるはずのものはなかった。
「はははっ!!坊主が探しているのはこの鞭だろ?おうおう!!そんな目で睨むな!!今、返すとまともに話もできなさそうだからな。まぁ、ちょっくら話を聞いてくれや」
どうやら、この大男の話を聞くしかない道はないようだ。
この大男に敵うわけがないし、こんな強い男が隙を作るわけもない。
しょうがない、そう腹をくくった。
「わかった、話を聞こう」
俺がそう言うと、大男はニカッと笑って俺にある提案をした。
そう、これからの俺の人生を変える、ある提案を。
◇ ◇ ◇
あれから十数年が経って、俺は君の側にいる。
あの頃とは違って、俺も大分落ち着いている。
たまにその時のことをあの人にからかわれるけど、それもまたご愛嬌。
あの時、あの人に会った瞬間から俺の世界は変わり始めた。
そして、君に出会ったのはもはや運命としか言いようがなくて。
君という主ができて、初めて俺は生きていてよかったって思えたんだ。
君のためなら、俺はなんだってしよう。
嘘を吐くことだって、盗みだって、そして殺しだって。
でも、多分君は俺にそんなこと頼みはしないのだろう。
優しい君は、俺のことを僕ではなく友としてみているから。
そんな君の優しさも強さも全てを守るために、俺はもっと強く………
ーあんな孤独な世界から俺を救ってくれたのはこの国で燦々と輝く太陽のような君だったー
 




