私達には似合わない!!
「キリ、やっと地獄の日々が終わるわよ」
今日は、リチャード皇子とスフィアの結婚式当日。
私達は、控え室で式が始まるのを待っていました。
「そうだね。
クレアの所為で本当に巻き添えくらったよ」
「しょうがないじゃん!!
エスコート頼めるのキリしかいなかったんだから!!」
今回の結婚式は、普通と少し変わっていて、何故かエスコート役を必ずつけるという条件がついていました。
これ、絶対スフィアが作ったのです!!
多分、私のために。
期待を見事に裏切ってやるのです!!
「クリスとかリールとか他にもいただろ?」
「いや、それは………頼めない理由、キリも知ってるでしょう。
私は、もう………」
「少し意地悪しただけ。
もうすぐ入場だって、ほら」
そう言うと、キリは私に手を差し伸べました。
私は、その手をとって立ち上がりました。
「キリ、私は後悔してないよ、全然」
「それは良かったです、お嬢様。
私は、何処へでもついていきましょう。
貴女がいるところなら、何処へでも」
キリは、そう言って私の前に跪きました。
そして、私の手をとり、言いました。
「我ここに誓う。
汝を主とし、汝のために全てを捧げることを。
この手もこの足もこの命も全ては汝のために」
その瞬間、私達の足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから漏れ出る光が私達を包みました。
それは、私の祖国に伝わる「従者の儀式」。
この儀式をすると、キリは私を裏切った瞬間に死ぬことになる、そんな残酷な代物なのです。
そんな、誓いのような呪いのような儀式をキリは私にしてくれました。
私は、こみ上げてくる涙をこらえて、笑顔で言いました。
「ありがとう、ありがとうキリ。
貴女がいてくれたおかげで私は今ここに立てているわ」
「勿体無いお言葉ですね。
では、参りましょう」
そうして私達は、会場へ一歩踏み出しました。
◇ ◇ ◇
私は、私に挨拶をしようとして押しかけてくる貴族達に飽き飽きしていました。
私がスフィア&リチャード皇子と仲がいいからってそんなに挨拶しなくてもいいと思うのです。
その中には、婚約の申し込みもあって本当に嫌になるのです。
私は、そんなもの当分やる気が無いというのに。
貴族達に飽き飽きしているのが、分かったのか、キリは私にというか周りに向かってこう言いました。
「お嬢様、少し外の空気を吸いにいきましょう。
顔色が優れませんので」
「そうね、キリ。
皆さん、ごめんなさい。
少し外の空気を吸ってきますわ。
それでは」
私は、キリにエスコートされてバルコニーに出ました。
そして、さっきから気になっていたことをキリに尋ねました。
「キリ、もう2時間も経つのにクリスやリールに会ってないのは何故?
何かした?」
そうなんです!!
いつもは、すぐ駆け寄ってくるあの二人にまだ会ってないのです。
少しおかしいですよね!?
あんなにしつこい人たちに見つからないなんて!!
「ごめん、クレア。
ちょっとあの二人には、認識障害の魔法をかけて、クレアの姿をみえないようにしてる。
何にも言わずにごめん」
それは、とてもありがたいのです。
例の決断をした私があの二人に会ってしまったら、思わず泣いてしまいそうだから。
それよりも、その魔法面白そうなのです!!
「いや、むしろ感謝したいくらいよ。
ありがとう。
でも、今度からは一言ちょうだいね!!
ていうか、その魔法、後で教えて!!
お願い、キリ!!」
「こうなるから、前もって言わなかったんだよ。
徹夜で魔法を教えるのは、もう嫌なんだけど………」
「あはは、ごめんごめん!!」
あー、心当たりがありすぎるのです。
やっぱり小さい頃にしょっちゅう、ていうか毎日魔法を教えさせたのが嫌だったんでしょう。
キリ、徹夜苦手だもんね。
まぁ、これからも付き合ってもらうけど!!
よろしくね、これからも。
私達がバルコニーを出て向かった先は、スフィアとリチャード皇子のところでした。
この二人への面会は、決められた人にしかできず、また時間も決まっていました。
本当に楽なのです。
羨ましいのです。
私は、二人の前に立ってわざとらしく挨拶をしました。
「この度は結婚おめでとうございます。
こころよりお祝い申し上げます」
そう言って、お辞儀をすると目の前にいるスフィアが口パクで魔法と言っていました。
どうやら、素で話したいから魔法で何とかしてほしいようです。
「キリ、あれお願い」
「かしこまりました、お嬢様」
そう言うと、キリはドーム状に認識障害の魔法をかけました。
これで、周りからは普通に話しているとしか思われないのです。
「スフィア、普通にしても大丈夫よ」
「あぁー、疲れた!!
ありがとう、クレア!!
ていうか、何でエスコート役がキリなのよ!!
わざわざこの条件を作ったのに!!」
「え?スフィアの期待を裏切るためだよ、もちろん!!」
私がそう言うと、スフィアは肩を下ろしました。
そして、私をキッと睨んで言いました。
「最後なんだよ、クレア!!
もうあの二人とは、当分会えないんだよ!!
最後の最後、思い出は作らなくていいの!!」
スフィアは、私のことを思ってエスコート役の人数の上限を外してくれました。
本当は、一人までなのですけどね。
でも、でも私にはそういうのは似合わないのです。
「いいの、スフィア!!
私は後悔してない!!
最後の最後にあの二人にしてあげたいことはね、驚かせることなの!!
だから、いいんだよスフィア!!
心配してくれて、ありがとう!!」
すると、隣で黙っていたリチャード皇子が言いました。
「明日は早い。
今日はもう帰って、いろいろ準備しろ。
いいな?」
「ありがとう、リチャード皇子。
二人のことをよろしくお願いします!!」
「よろしくされなくても、ちゃんと面倒はみるさ。
じゃあな、達者で」
私は、早めに結婚式の会場を出ました。
涙が溢れて、止まりませんでした。




