クレアの想い
朝日が昇っていくのを見ながら、私は1人ため息をついていた。
今日は、文化祭当日。
本番だ。
隣では、スヤスヤとスフィアが寝ていた。
よくこんな日にゆっくり寝られるなと思う。
私は、緊張して一睡もできなかった。
寝る前にホットミルクを飲んで、リラックスする音楽を聴いて、布団に潜っても寝られなかった。
夜中の三時をまわったあたりで、私は今日は寝ないと腹をくくり、1人空を見ていた。
異世界の空も地球の空もあまり変わりはない。
同じだ。
この空が地球につながっていたら、どんなにいいか。
考えても仕方がないことを、空を見上げていると考えてしまう、願ってしまう。
どうしようもないんだ。
私は、今ここにいる、元にはもう戻ることができないのだから。
一時期、前世の世界に戻れないかと考えたことがあった。
しかし、色々と壁にぶつかった。
まず、世界を移動できるほどのエネルギーを作り出すには、成人男性一億人分の魔力量が必要だということ。
また、人から全ての魔力を引き出すためには、その人の肉を食べる必要があった、全て。
そんな無残なことは、私にはできなかった。
そして、リールにもやらせたくなかった。
記憶が戻ってすぐにリールはこう言った。
「俺、久美のためなら何だってするよ。
久美が前世に戻りたいと思うのなら、その願いも叶えてあげる。
方法がないってわけじゃないからね。」
つまり、私のために人を殺すと言ったのだ。
私は、このお誘いを断った。
そりゃ、もちろん。
リールを傷つけたくなかったから。
リールを殺人者にさせたくなかったから、私のために。
文化祭が終わると、4ヶ月で一学年が終わる。
つまり、私は後4ヶ月で
「婚約者を決定しなくてはならない」
どちらが好きなのか
私は未だに結論を出せていない。
どちらも私のことを真剣に思ってくれている。
中途半端な気持ちでは、選んではいけない。
もっと、相手のことをよく知らなきゃ。
私は、再び決意した。
◇ ◇ ◇
「あぁー、よく寝たー!!」
スフィアの大きい声で私は、目を覚ました。
いつの間にか、寝ていたらしい。
「クレア、おはよう!!」
「おはよう、スフィア。」
「ようやく本番だね。」
「そうだね、本番………」
私は、緊張で手が震えていることに気づいた。
もし、失敗したらどうしよう。
もし、セリフを間違えたら………
もし、動き方を間違えたら………
私が、この劇を台無しにしてしまったら………
「クレア!!こっちを向いて!!」
スフィアの言う通りに顔を向けると、いきなり頬を叩かれた。
「今まで、あんなに練習してきたじゃない!!
大丈夫よ!!
貴女には、私達がいる。
一人じゃない!!
だから、安心して思いっきりかましてきなさい!!」
「ありがとう、スフィア。
そうだね、いっちょ、かましてきますか!!」
スフィアの言葉で何かが振り切れた。
思いっきりやればいいじゃないか。
もし、失敗したらその時に考えよう。
そうして、激動の一日が幕を開けた。
前に劇をやる条件の中に、庶民は主役をやらないという項目があったことを覚えているだろうか?
私は、今の今まで忘れていた。
確かに、動きを練習したりするときには、全く見ていなかったような………
私の眼の前には、豪華絢爛の衣装。
そして、まるでプロの人が使うような舞台のセットがあった。
「凄い、綺麗………」
「そうだろ!!
俺たちの自信作だ!!」
「頑張ったんだからね!!」
「手がもう傷だらけになっちゃった!!」
口々に庶民派の子達が声をかけてくれる。
どうやら、庶民派と貴族派の壁は、劇の準備をしているうちになくなってしまったみたいだ。
全ての準備が終わって、私達の番がまわってくる。
しかし、私は一切緊張をしていなかった。
だって、私には一緒に頑張ってきたみんながいるから。
私は、一人じゃない。
「次は、1-Aで『囚われの姫を救い出せ』です。
1-Aの皆さん、よろしくお願いします。」
私は、舞台に向かって、一歩を踏み出した。




