表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クレアの独白  作者: こはぎ
第1章 クレアの独白
21/43

行方知れず

 


「バカじゃないの!?」



 私は、この言葉とともにスフィアに頬を思い切り叩かれました。





  ◇ ◇ ◇


 遡ること1時間



 私は、寮の部屋にきていました。

 スフィアと相部屋の、部屋にです。

 最近、スフィアとギクシャクしていたので私は、この部屋に全く来ていませんでした。

 しかし、今日は来なければならない理由がありました。



 私は、床に腰を下ろしてじっとスフィアを待っていました。

 30分くらいたった頃でしょうか、ドアが勢いよく開かれたのは。

 そこには、肩で息をしているスフィアがいました。



「はぁ、はぁ、クレアここにいたのね。」



 息を切らしたスフィアは、何故か私を探していました。

 ていうか、スフィアがこんなに取り乱すなんて珍しいのです。

 普段はとても気をつけているのに。



「どうしたの?スフィア。

 私に何か用事?」

「クリスから聞いたわよ!!

 あんた、何考えてんの!?

 好きでもないのに婚約者になるだなんて!!

 少しはクリスの気持ち考えたら!!」



 スフィアは半ば叫びながら、そう言いました。

 本当にスフィアは私のことを大切に思ってくれるのです。

 だけど………



「クリスが提案したことだよ?」

「は!?」

「いや、だからクリスが提案したことだよ?」

「は、はーーー!!」

「その提案に乗ってしまったことは謝るわ。

 本当にごめんなさい。

 私は、クリスが傷つくと知ってこの選択をしたの。

 罵るなら、満足いくまで罵ってくれない?お願い!!」

 そう、私がスフィアに会いたかった理由。

 それは、スフィアに叱ってもらうためでした。

 しかし、スフィアはそれどころじゃないようで………

「は!?何ですって!?

 え!?ちょっと待って!!

 話が急展開すぎてついてけない!!」



 どうやら、事情をクリスから少しだけ聞いていたようです。

 少しだけ聞いたから、食い違っているようなのです。

 スフィア、人の話はちゃんと最後まで聞くべきなのです。



「私はクリスに呼び出されて、このまま婚約者のままでいないかって、提案されたの。

 私はそれに乗っただけ。

 それだけだよ。」



 私は、ザクッと簡単に事情を説明しました。



「そう、そうなの。

 何でクレアは、その提案に乗ったの?

 クリスのことを好きなわけじゃないんでしょう?」



 スフィアは、まだ動揺しながらも私の核心をついてきました。

 いきなりそういうこと聞けるのって、尊敬するのです。



「この世界は、女が一人で生きていくには余りにも危険すぎる。

 だから、結婚はするべきだと思ったの。

 でも、私はリールとは結婚できない。

 それは、久美の意思であってクレアの意思ではないから。」

「でも………」



 何か言いたげなスフィアを遮って、私は少し大きな声で言いました。



「そ・れ・に!!

 身分差もあるからね。

 私は子爵。リールは大公様。

 仮に私達が結婚するといっても親が許してくれるわけがない。

 スフィアも理解してるでしょう?

 でも、クリスは久美もクレアもどちらとも惹かれていたし、身分としても問題ない。

 同じ子爵だからね。

 だから、私はクリスと結婚するの。

 それが私にとって、今考えうる最善の未来だから。」



 私は、言葉に出して初めて自分が思っていたことを認識しました。

 目の前にいるスフィアは、驚いた顔をして私を見つめていました。



「クレアはもう、誰も好きにならないの?

 成人するまでには、まだ時間があるわ。

 それまでに、他の誰かを好きになる可能性はないの?」



 スフィアは、案の定一つ抜けている選択肢について指摘をしました。

 本当に鋭いのです。

 でも、私にはそんな資格はないから。

 だから………



「私は、こんな私には誰かを好きになる資格なんてない!!

 どれだけの人を傷つけたと思っているの!!

 スフィアだって知ってるはずよ!!

 私は最低の女なの!!

 こんな私が、私が………」

「バカじゃないの!!」



 スフィアは私の頬を思い切り叩きました。

 そして、私の目をじっと見つめました。



「いい加減、目を覚ましなさい!!

 どうして、そんなに自分を責めるの!!

 しょうがないじゃない、いきなり記憶が戻ったら、混乱するのは当たり前でしょう?」

「でも、でも………」

「あぁ、もう!!

 ウジウジしないの!!

 クレアらしくない!!」



 そう言うと、スフィアは私を抱きしめました。

 その途端、私の目からは大量の涙が溢れ出しました。

 止めようとしても、溢れ出してくる涙に私は困惑しました。

 どうして、涙が出てくるのか、理由がわからないかったからです。

 スフィアは、私が泣き止むまで、ずっと背中をさすってくれました。



「迷ってるっていうのも一つの答えなんだよ、クレア。

 ね、そう思わない、クリス、リール?

 盗み聞きとは、悪趣味よね?」



 私が落ち着いたタイミングを見計らって、スフィアはそう言いました。

 すると、ドアが開いてクリスとリールが現れました。

 全く気づかなかったのです。



「ちょ、そう言うわけじゃないよ、スフィア!!」

「好きな人を心配するのは、当たり前のことでしょう。

 悪趣味だとは、人聞きの悪い。」



 どうやら、ドア越しにクリスとリールが聞き耳を立てていたようです。

 今までの会話、全部聞かれていたのでしょうか?

 そう思うと、顔に熱が集中しました。



「クレア、今思ってることを素直に伝えてみたら?

 二人なら、ちゃんと受け止めてくれるよ?」



 私は決意しました。

 クリスとリールに気持ちを伝える決心を。

 私がハッキリしないのが、一番二人を傷つけていたことに気づいたから。



「クリス、リール。

 私は、正直迷っています。

 これからどうしていいのか。

 クレアとしての私は、クリスが好きです。

 しかし、久美としての私は、リールが好きなのです。

 だから、少し時間をください。

 成人するまでの間、私に考える時間を。

 こんな私の我儘を聞いてくれますか?」



 私は、今素直に思っていることを二人に話しました。すると、二人は頷いて言ってくれました。



「「もちろん!!」」

「クレアが納得する決断ができるまで、ずっと待ってるよ。」



 クリスは、にっこりと笑って私の右手を握りました。



「やはり、久美とは少し違うのですね。

 でも、そんな貴女も大好きです。

 これから、沢山アプローチさせていただきますね。」



 と、リールは私の左手に口づけをしました。



「ちょっとリール!!

 邪魔しないでよ!!」

「クリスこそ、邪魔しないでいただけますか?」



 二人は、そう言って睨み合い、そのような言い合いを続けていました。

 私は、その様子を見てなんだか可笑しくなってしまいました。



「あははは!!

 本当に二人って仲良いよね?」

「「仲良くない!!」」




 そうして、私達三人の問題はとりあえず解決されることとなったのです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ