私の名は?
目を開けて飛び込んできたのは、見覚えのない白い天井だった。
ここは何処だろう?
私の部屋ではないはずだ。
何処か、病院に似ているような………
あぁ、そうだ。
私は、今クレアとしてこの世界にやってきた、いわゆる転生者。
そして、私の最愛の人は………
ワタシノセイデリュウタハシンダ
そうだ、忘れてはいけない。
私の生きる目的は「琉太」
それ以外ありえない、あってはいけない。
【私はクレアなのです】
違う 私は久美だ
【私の最愛の人はクリスなのです】
違う そんなことはあってはいけない
私の最愛の人は琉太だけだ
【貴女は私、私は貴女なのです】
それはそうだ、そうだけど………
だからって、他の人を好きになっていいわけじゃない
あれは、私の業だ
一生背負うべき業だ
【何故、貴女の業を私が背負わなければいけないのです】
貴女と私は、同じだから
同じ魂なのだから
魂が背負った業を背負うことは、さして変わったことではないはずだ
【しかし、貴女の魂は、私はもう前に進んでいるのです
だって、私はクリスが好きなのです
この想いは嘘ではないのです】
クレアにはクレアの言い分があって、私には私の言い分がある
同じ魂なのだから、同じ人のはずなのにこんなにも違うなんて
本当はクレアみたいに生きたかったのかもしれない
才能を持って、頭も良くて、暖かい家庭があって、唯一無二の親友がいて、そして大切な恋人もいる
仮に神さまがクレアという存在を私の魂に与えたのだとしても
私は、最愛の人だけは諦めたくない
でも、それはクレアも一緒だから
私は、もう一度誰が私の最愛の人なのか見極める必要がある
それに、この世界には琉太、いえリールがいる
私は久美としてクレアとしての結論を出さなければならない
【私は後悔はしたくないのです】
そう、後悔はもうしたくないのだから
◇ ◇ ◇
ふと隣に人の気配を感じた私は、ベットから起き上がり隣を見ました。
そこには、こちらを向いているリールがおり、目があってしまいました。
私はリールを知らない
だけど、私は琉太を知っている
彼は一体どちらなのでしょうか?
彼も私と同じように悩んでいるのでしょうか?
私が何を言うか決めあぐねていると、リールが言いました。
「久美、久しぶり」
リールは昔のように私に笑いかけました。
それは完全に琉太の表情でした。
私は昔のようにリールを抱きしめたかった。
だけど、私はそんな私を認めてはいけない。
私は、久美であり、クレアなのだから。
私はもう後悔したくないのだから。
だから、だから私は………
「琉太、久しぶりだね!!
確かに私は久美だよ、正解!!
でもね、残念なことに私はクレアでもあるの。」
とはっきり告げた。
リールは、全く動揺せずに私を見続けた。
そんな琉太を思い出すような反応に思わず、泣きそうだった。
あれだけ、恋い焦がれた琉太が目の前にいるなんて!!
でも、私はクレアでもある、クレアでもある。
そうやって、暗示をかけて涙をこらえると私は思っていることをありのままに話した。
「地球で私は琉太のためだけに生きてきた。
私の世界は、琉太を中心にして回っていた。」
そうだ。
私は、いついかなる時も琉太のことを考えて生きていた。
琉太がいなくなった後だって………
「でもね、琉太、この世界では違う。
私は琉太とは別に恋人が婚約者ができてしまった。
琉太と同じくらい大切な人ができてしまった。
私は、いえクレアはその人のことが大好きなの。
気持ちの整理がつくまで私はリールと昔のように接することはない。
これ以上近寄ったら、クレアという人格がなくなってしまう。」
私は懇願した。
こんなことが許されるべきではないと知っていながら。
「そっか、わかったよ久美。
いや、今はクレアかな?
いつまでも待ってる、待ってるから。
焦らないでゆっくり決めな、ね?」
そう告げた私をやっぱり琉太は非難しなかった。
ワタシノセイデリュウタハシンダ
やはり、琉太は優しい。
信じられないくらい、優しい。
そうだ、私はまだお礼をしていない。
あの時、命を失ってまで私を助けてくれたことを。
私が地球でしてきたことは、所詮は自己満足にすぎない。
琉太のやりたいことをやったって、琉太の夢が叶ったわけではないのだから。
私は、琉太を選べなかった。
昔のように振る舞うことができなくなってしまった。
今の私にできることは琉太に感謝を伝えることしかない。
だから、私は大きく深呼吸をしてリールに告げた。
「琉太、あの時助けてくれてありがとう。
私、凄い嬉しかった。
でも、それと同じくらいに悲しかった。
私にとって、久美にとって琉太はかけがえのない存在だったの!!
それだけは、それだけは覚えていて!!
決して、琉太を愛していなかった訳じゃないから!!」
すると、リールは私に微笑んで言った。
「クレア、確かに琉太としての自分が貴女のことを好きなのは事実です。
しかし、リールとしての自分が貴女のことを好きなのも、また事実なのです。
不覚にも、私は久美にもクレアにも惚れてしまったようです。」
リールは私にありのままの気持ちを教えてくれた。
そして、リールは彼らしくない表情で私に向かって言った。
その表情に私は不覚にもドキッとしてしまったのです。
「はじめまして、クレア。
これから、私は全力で貴女を口説きにかかりますので
覚悟していてください。」